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2016.11.08

樹なつみ『一の食卓』第4巻 明の奮闘、そして一の過去へ

 築地の外国人居留地のベーカリー・フェリパン舎でパン職人を目指す少女・西塔明の奮闘と、明のいる店にやってきた謎の男・藤田五郎(=斎藤一)の活躍を描く本作も、気がつけばもう第4巻。原田や永倉まで現れてずいぶんと賑やかになったフェリパン舎に最大のピンチが……

 新政府の密偵として活動する中、その足掛かりとしてフェリパン舎に潜入した斎藤。彼は、不平士族が起こす事件に対処していく一方、明との交流の中で、無愛想な中にもこれまでにない人間臭さを見せていくようになっていきます。
 そんな中、上京してきた永倉新八と再会した斎藤。彼は東京で行方不明となった義理の弟を探しに来たというのですが、その一件は斎藤の追っていた事件とも絡むことになります。

 しかし同じ事件を追っていた弾正台の人間たちが斎藤を追ってフェリパン舎に現れ、当時では極めて貴重だったパン種の壷を壊したことで、明は思わぬピンチに陥ることになります。
 折悪しく店の主人・フェリックス氏が不在としている中、パンを絶やすまいと奮闘する明。しかしそんな時に限って大口の注文が入ってしまい……


 と、斎藤の追う事件と明のパン作りと、本作を構成する二つの要素が絡み合い、一つのクライマックスを迎えることとなるこの巻。
 正直なところ、斎藤の方はあっさりと解決してしまった感があっていささか拍子抜けなのですが、明の方はなかなかの盛り上がりであります。

 材料や手段が限定的な中で何とか料理を作らなければならない状況に、工夫と根性で挑むというのは料理漫画の王道パターンの一つですが、この巻での明はまさにそれ。
 物がパンなのでビジュアル的に今ひとつ派手さはないのですが(特に作るものがパン種ということもあって)、斎藤を感じ入らせるほどの明の希薄は本物であります。

 また、これまで明や斎藤たちに押されて影の薄かった佐助青年も、思わぬ材料を使ってのデザート製作で維持と根性を見せるのも楽しいところです。
(そして明と佐助の決意を後押しする原田の台詞が、いかにも「らしい」ものなのが実にいいのです)


 しかし、一件落着しても気が済まないのは斎藤。今回の明の窮地は、自分がフェリパン舎にいるゆえ、とある決意を固めるのですが……ここに登場するある人物が美味しいところを全部かっさらっていくというのが、歴史ものとしても面白い。
 そしてキレ者として知られるこの人物を、斎藤にとって、そしてもちろん原田や永倉にとっても忘れられぬ人物である土方と比して語るという視点も実にユニークかつ妙な説得力があるのですが――


 このエピソードが終わった後に始まるのは、何とこの土方と斎藤、いや斎藤と新選組の出会いの物語。そう、本編の前日譚である江戸編であります。

 貧乏御家人の次男坊に生まれ、幼い頃から両親や実の兄と折り合いの悪かった斎藤。典型的な無頼の部屋住みという体の彼が、町で出会った妙な優男、そして故あって乗り込んだ町道場で出会った生意気な少年とは――
 斎藤の父の思わぬ出自(ある意味血は争えないというか……)も描かれ、なかなかに気になる物語が始まることとなります。

 時期的に(子供時代であっても)明の登場はなさそうで、その意味では本作の魅力の片翼がない状態での物語となるのは気になるところではありますが、しかし新選組(の面々)の描写が、これまで実にツボを心得たものばかりであった本作。
 やはり気になる新展開なのであります。


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