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2016.11.29

松尾清貴『真田十勇士 4 信州戦争』 激闘上田城、そしてもう一つの決戦

 真田幸村と猿飛佐助ら勇士たちの戦いを「天下」と「人間」の関係を背景に描く本シリーズは、この巻から第二期がスタート。上田城に依って徳川軍を迎え撃つ真田家の戦いが描かれることとなりますが――しかし、その一方、物語の背後で暗躍してきたあの男の真の狙いがついに明らかになるのです。

 天下人秀吉の死をきっかけに表面化した、諸大名の勢力争い。それに乗じて次の天下人たらんとする家康に対し、真田昌幸・幸村親子は、天下ではなく上田の地――すなわち真田の「一所」を守るために、西軍につくことを選びます。
 関東と近江を結ぶ要衝である上田を目がけ押し寄せるのは、秀忠率いる約4万の徳川本隊。それを迎え撃つのは、わずか数千の真田軍……というわけで、いわゆる第二次上田合戦が、本作の一つのクライマックスとして展開することになります。

 幸村を支えるのは、猿飛佐助・霧隠才蔵をはじめとして、望月六郎、筧十蔵、穴山小助、根津甚八、そして新たに加わった三好清海・伊三兄弟。幸村の指揮の下、彼らが次々と奇策で大軍を翻弄していくのは痛快の一言、真田ものの楽しさの一つがここには間違いなくあります。

 もちろん、関ヶ原の戦の結果は史実と変わるところではないのですが、そこにこの上田城の戦が及ぼした影響を、本作ならではの「天下」という概念を踏まえて示してみせるのが実に面白い。
 史実の上では本隊が参加できなかったとはいえ大勝利を収めた家康ですが、しかし実は……という観点はあまりこれまで見たことのないもので、歴史ものとしての本作の独自性に改めて唸らされた次第です。


 しかしそれ以上に印象に残るのは、この戦の前後にそれぞれ描かれる佐助と才蔵の物語であります。その部分こそは本シリーズの独自性の最たるもの、奇怪な術策でもって「天下」を窺う怪人・百地三太夫にまつわる物語なのです。

 伊賀の乱で焼け出された才蔵を忍び狩りの走狗として操り、おぞましい荼枳尼天の法による奇怪な実験を行っていた三太夫。彼はさらには遙かな時の彼方から淀城に干渉して天下人として転生を目論み、佐助や海野六郎と死闘を繰り広げた、勇士たちにとってまさしく宿敵というべき存在です。

 本作の冒頭で語られるのは、その淀城での戦いで深手を負った後、上田城の戦で二人の入道とともに佐助が姿を現すまでの物語。戦の二年前、蓼科山で神隠しが相次いでいることを知った佐助は、真田忍びたちとともにその探索に向かうのですが……そこで彼が迷い込んだのは、空間が歪み、外に出ることが不可能となった結界の中でありました。

 長い間その結界の中で暮らしてきたという三好兄弟と出会い、この結界がかつて淀城で遭遇した、異界と現世を重ね合わせた世界だと気付く佐助。それほどのとてつもない術を操ることができるのは三太夫のみですが、しかし三太夫は何のためにこの結界を築き、そして人々を引きずり込んでいたのか――

 一方、本作のラストで描かれるのは、上田城の戦が終結した直後に行われたもう一つの決戦……戦の最中に姿を消した才蔵を追う幸村と勇士たちは、才蔵らを前に奇怪な儀式を行う三太夫を目の当たりにすることになります。そして空を無数の管狐が覆い尽くす中、いよいよ三太夫の真の狙いが明かされることになるのであります。

 その狙いとは……もちろんここでは詳細は伏せさせていただきますが、そのあまりのとんでもないスケールと内容にはただただ仰天、最近では珍しいくらいの直球の大伝奇には感動すら覚えるほどです。
 が、そのとんでもない内容が、しかし同時に、家康とは別の意味で――しかしその根底で密接に絡み合い、重なり合う形で――「天下」という本シリーズのキーワードと重なってくるのを何と評すべきか。

 これまで物語の随所で描かれてきたピースの一つ一つ(それにはもちろん上に述べた本作冒頭の佐助の物語も含まれるのですが)の意味が解き明かされ、次々と嵌まっていき、一つの巨大な絵、すなわち三太夫の「天下」という名の野望を描き出していくのはただただ圧巻、本作で幾度か使われたフレーズが、もう一度より恐るべき形で使われるのにも、痺れるほかないのであります。


 真田と天下の戦が終結した後に、もう一つ繰り広げられる真田と天下の戦――絶望的な状況の先に待つものは何か、今一番面白い時代伝奇小説といっても過言ではありません。


『真田十勇士 4 信州戦争』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈4〉信州戦争


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