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2016.11.03

杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第9巻 清十郎の初めての恋!?

 明治初頭を舞台に、じゃじゃ馬女学生・菊乃と、現在無職の(?)元・伊賀忍び・清十郎のおかしな主従の姿を描くシリーズも、もう二桁の大台が見えるところまで来ました。前巻で不平士族の乱の中に巻き込まれ、それぞれに心中穏やかならざるものを抱えた二人の想いの行方は……

 それぞれの利害関係から、偽装結婚という形で結びついてきた菊乃と清十郎ですが、様々な事件を経て、嘘から出た誠というわけかその想いは本物に。
 しかしそれぞれに面倒くさい二人が躊躇っている間にも時代は動き続け、不平士族の乱が各地で勃発することになります。その中で、長州の不平士族のリーダー・桐生と、それぞれの立場から関わった末に、二人は互いにわだかまりと秘密を抱えることになるのでした。

 さらに、「清十郎」の真の顔を知る彼の師匠/上司が登場、彼を縛る軛の存在も描かれましたが……この巻ではその辺りの「大きな物語」は小休止。菊乃と清十郎の関係性に絞った物語が展開していくのですが、これはこれで実にややこしく、面白い。

 この巻に収められたエピソードは以下の四話――
 菊乃に想いを寄せるランスがプラントハンターに強請られた一件解決のため、二人がある博打を打つ「ブルージャパン」
 迷い鳩を助け、密かに女学校で買うようになった菊乃が、それがきっかけで思わぬ事件に巻き込まれる「一陽来復」
 軍での地図紛失事件と西洋画家志望の青年、浮世絵マニアの外国人少女が絡んで二人の関係がこじれていく「芸術は永く時は短し」
 菊乃へのキスを巡ってランスと清十郎が思わぬ合戦に臨む「沈黙こそが神の御言葉」

 正直に申しあげて、後先考えずに面倒事に頭から突っ込んでも碌なことにならないと君はもう少し学習しなさい、と菊乃には言いたくなるのですが、それはさておき、今回も時代性とミステリ味、そして何よりもラブコメ色が見事に絡み合って、実に楽しい。

 今回、どのエピソードも完成度が高いのですが、その中でも上の三つの要素の絡み合いという点では、「芸術は永く時は短し」が屈指の完成度であります。

 これまでも幾度となく二人を振り回してきた曲者の土佐軍人・楡大尉に依頼され、それぞれ紛失した九州の地図と、楡の友人が出会ったという外国人画家を探すこととなった清十郎と菊乃。
 しかし互いに互いの目的を隠していた上に、おかしな浮世絵マニアの美少女が絡んできたおかげで、二人の間はギクシャクすることに……さらに二人の追っていたものが交錯し、意外なクライマックスを迎えるのですが、なるほど、この時代にはこういうこともあったかも、と思わせる題材の妙に、今回も唸らされた次第です。

 そして楽しいのは、このエピソードに限らず、この巻での清十郎の菊乃への態度であります。
 その素性は未だ不明ながら、忍びとしての技量は凄腕としか言いようがない清十郎。これまで幾度か描かれてきたように、その手腕は女性に対しても遺憾なく発揮されてきたのですが……しかしそれはあくまでも任務の上だけだったことが明るみに出ることになります。

 要するに彼は任務以外で女性を抱いたことがない、何と申しますか精神的DT、というよりこれがほとんど初恋状態。その相手も、威勢はいいものの根は純情な菊乃なわけで、ああもう本当に今回もめんどくさい二人の姿が、実に愛おしいのであります。
(特に今回清十郎はストレスのあまり……)


 もちろんそれでも少しずつ、少しずつ距離を縮めていく二人。この調子であれば、近いうちに……という感じではありますが、しかしそうそううまくいくかはわかりません。
 冒頭で触れたように、今回はほとんど語られなかった「清十郎」の物語。それがこの先、どのように二人の行く末に絡んでいくのか――

 無情の忍びから有情の青年へと変わりつつある清十郎の、そしてもちろん菊乃の将来に幸あれと、いまは祈るしかないのであります。


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