« 室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と | トップページ | 『仮面の忍者赤影』 第48話「こども忍者術くらべ」 »

2016.11.17

上田秀人『武士の職分 江戸役人物語』 「ある日の役人たち」の物語

 これまで、他の作家があまり取りあげなかったような、徳川幕府で様々な職分を担う人々――すなわち役人を主人公としたエンターテイメントを次々と発表してきた作者が、その職分そのものについて描いた、四話からなる短編集であります。

 このブログでもこれまでほとんど全ての作品を紹介してきた上田作品。しかし気付いてみれば、初期の作品と戦国ものを除けば、ほとんど全ての作品で、タイトルに役職名が冠されていることに気付きます。
 そう、作者の作品は、もちろんその物語そのものの面白さが最大の魅力であることは言うまでもありませんが、それと同時に、主人公の役職とその業務のユニークさもまた、大きな魅力でありました。

 本書はそんな作者が、四つの職分――御番医師、奥右筆、目付、小納戸を題材とした短編集。
 それぞれ、御番医師は『表御番医師診療禄』、奥右筆は言うまでもなく『奥右筆秘帳』、目付は『目付鷹垣隼人正裏録』、小納戸(月代御髪係)は『お髷番承り候』と、過去の作品で主人公が勤めた役職ばかりであります。

 上田作品は、主人公がこれらの役職を勤める中で幕閣の、そして将軍の権力を巡る暗闘に巻き込まれて……というスタイルが基本ですが、本書で描かれるのは、「ある日の○○」とでも言うべき、彼ら役人たちの本来業務の姿。
 もちろん物語としての起承転結はありますが、あくまでも彼ら役人が、本来の職分の中で出会う出来事とその対処、あるいは職分の心構え(年長者が教え諭すという定番のスタイル)といったものが主体であります。

 その意味では、派手な剣戟も、伝奇仕立ての大がかりな謎もありませんが、もちろん本作はそれが主体ではありません。
 主人公も、(同じ版元故か)『表御番医師診療禄』に登場する矢切良衛のほかは、本書のみの登場人物であり、あくまでも等身大の役人物語といった趣向であります(もっとも、小納戸の主人公は、柳沢保明という後の超大物ですが)。


 とはいえ、単純に教科書的な内容で終わらないのは作者ならではですし、その他にも御広敷用人や留守居役など他の作品でおなじみの役職が登場したり、江戸城天守閣の炎上に言及されたりと、上田ファンにとってはニヤリとできる趣向も多い本書。
 最終話のラストは『表御番医師診療録』のオープニングを飾ったあの事件が語られ、一種の円環構造となるのも心憎いところであります。

 上田作品の、江戸ものの時代小説の副読本として、肩が凝らずに楽しめる一冊です。

『武士の職分 江戸役人物語』(上田秀人 角川文庫) Amazon
武士の職分 江戸役人物語 (角川文庫)

|

« 室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と | トップページ | 『仮面の忍者赤影』 第48話「こども忍者術くらべ」 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/64499000

この記事へのトラックバック一覧です: 上田秀人『武士の職分 江戸役人物語』 「ある日の役人たち」の物語:

« 室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と | トップページ | 『仮面の忍者赤影』 第48話「こども忍者術くらべ」 »