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2016.11.15

塩島れい『ぶっこん 明治不可視議モノ語り』 時代の流れの中の物の価値、人の価値

 時は明治初期、剣術道場の一人娘・あやりは、父が死に、叔父に家財を奪われて途方に暮れていたところに、修繕屋の少年・天助と出会う。物に宿る魂=物魂と語り、その物の傷を治す能力を持つ天助に、あやりは折られてしまった父の刀の修復を依頼するのだが――

 これが作者のデビュー作となる本作、明治時代を舞台に、人と物の関わりをユニークな形で描くファンタジーの快作です。

 タイトルの「ぶっこん」とは「物魂」――すなわち物に宿る魂の意。
 物に魂が宿るといえば、付喪神が連想されますが、本作の物魂は、一般的な付喪神とは違って年古りた物が別のものに変化するのではなく、あくまでも宿る魂の方が主体なのが面白いところです。

 そして主人公の少年・天助は、生まれつきこの物魂を見て、言葉を交わすことができる能力の持ち主。いやそれだけでなく、本体が傷ついて同様に傷ついた物魂を癒やすことにより、本体の傷を癒やすことまでもが出来るという能力を持つ彼は、東京の片隅で修繕屋として一人暮らしているのであります。

 そんな彼がある日出会ったのは、ほとんど行き倒れ同然の少女・あやり。剣術の名門の出でありながら、叔父に道場を奪われ、父の形見の刀のみを手に飛び出した彼女を取りあえず店に連れ帰り、自らの力を見せた天助は、あやりから叔父を討つために手助けして欲しいと訴えかけられるのですが――


 そんな第1話に始まり、全4話構成の本作は、いずれも天助とあやりを中心に、物魂の宿った物と、人の交流が描かれることとなります。
 「LaLa」という掲載誌ゆえか(?)二人で様々な事件に挑む中、あやりは徐々に天助を意識するようになって(その一方で天助の方はまったく鈍感で)……というのも楽しく、微笑ましくもちょっとイイ話、という読後感も非常に良い作品でした。
(ただ、悪役の描写が類型的に感じられたのは少々残念ではありますが、これはデビュー作ということで)

 特に印象に残ったのは、もちろん物魂の存在。その設定のユニークさについては既に述べたとおりですが、設定的にもドラマ的にも感心させられるのは、この物魂のビジュアルが、それを持っていた人間の姿を写したものとなる点であります。
 人間が物に愛着を持ったが故に生まれた魂であれば、それは当然のことかもしれませんが、しかし絵的に、かつての持ち主――ある意味必然的に、既にこの世にいない人物なのですが――が、その物の魂として現れるのは実に美しい。

 そしてさらに面白いのは、それはあくまでも姿だけであって、パーソナリティーはまた別な点。これを活かし、ある青年の許嫁が使っていた簪の物魂が起こす騒動を描いた第3話は、そのややこしさと美しさを巧みに生かした好編でした。


 さらにまた、個人的に嬉しいのは、本作が明治時代という舞台設定をきっちりと活かし、必然性を持たせている点であります。
 明治時代、それも初期は、政治・社会・文化とあらゆる面で巨大なパラダイムシフトが発生した時期。当然それは、そこに生きる人々が手にしてきた物にも、大きな影響を与えることになります。

 あやりの手から形見の刀を奪いかけた廃刀令しかり、人々に敬愛された仏像が一転ただの木の塊として打ち捨てられた廃仏毀釈しかり。時代の流れは、人と物の関係すら、容赦なく変え、そしてその中で取り残された物は、その魂を顧みられることなく、ガラクタとして処分されていく――
 それは歴史の中では、ある意味当然の流れであるかもしれません。しかし本作は、本作の主人公二人は、そんな流れにはっきりと異を唱え、ガラクタの存在を肯定し、それを直し、守ろうとします。

 それはもちろん、彼らが物魂の存在を知る故であるかもしれませんが……同時にそこにあるのは、巨大な時代の流れの中では同様に無視されてしまいかねない、人が一人の人間であることの価値、人間性の力強い肯定に繋がることは間違いありません。
 それが何とも嬉しく、そして好ましいのであります。


 作者は元々歴史ファンの様子、次回作も大正時代を舞台としているようですが、これからも本作のように、舞台となる時代の姿を踏まえた物語を描いてくれるのではないかと期待します。
 今後が楽しみな作家がまた一人増えました。


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