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2016.11.02

かたやま和華 『大あくびして、猫の恋 猫の手屋繁盛記』 絶好調、妖怪もの+若様ものの快作

 猫股の祟りで人間大の猫……リアル猫侍になってしまった青年・宗太郎が、人間の姿に戻るために善行を積むべく、よろず請け負い屋として奔走する姿を描く『猫の手、貸します』シリーズも本作で第3弾。慣れぬ暮らしも板に付いてきた宗太郎ですが、今回請け負ったのはいささか厄介な出来事で……

 酔った帰りに猫股の長老を尻で踏んづけたことから、その祟りで巨大な猫にされてしまった遠……いや近山宗太郎。両親に迷惑をかけてはならんと自ら家を出た宗太郎は、百の善行を積めば願いが叶う――人間の姿に戻ることができると知り、困っている人に猫の手を貸すよろず請け負い業を始めます。

 とはいえ宗太郎は四角四面の石部金吉、しかもそれまで屋敷から出て暮らしたこともない彼にとって、市井暮らしそして猫暮らしは慣れないことばかり。
 周囲からは人間になりかけの化け猫・猫山猫太郎だと思いこまれ、おかしな役者の中村雁也や猫キチの絵師・国芳らにつきまとわれ、苦労続きの宗太郎ですが、最近はそれでもだいぶ丸くなって来た様子であります。

 そんなある日に宗太郎が同じ長屋の母娘から頼まれたのは、昼間姿を消している飼い猫・桃太郎の立ち回り先探し。早速跡を追った宗太郎は、桃太郎がさる旗本屋敷に我が物顔で入り込んでいるのを知ります。
 幸い相手も猫好き、屋敷の奥方に歓待された宗太郎は、逆に桃丸(=桃太郎)がどこの猫なのか探すように頼まれてしまうのですが、実は桃太郎の行動の陰には――


 そんなお話の第一話「にゃこうど」で描かれるのは、宗太郎から見れば忍者としか思えない桃太郎の活躍。
 なるほど、その身のこなしだけではなく、周囲の状況に合わせて別々の呼び名を使い分け、そのかわいい仕草で巧みに相手に接近してメロメロにしてしまうのは、確かに忍法、いやにゃんぽうかもしれません
(犬が武士なら猫は忍者だ、はけだし名言)

 しかしそんな桃太郎の行動の陰にあるのは、若い二人のある想いなのですが……この辺りに全く気付かない宗太郎のボケっぷりは、お約束とはいえ本当に楽しい。そうとわかった後のとんちんかんな言動も含め、シリーズも第3巻となればこの辺りの呼吸は見事なものであります。

 しかしこのエピソード、面白おかしいだけではありません。実は宗太郎に依頼してきた桃太郎の飼い主は、当時の天保の改革で表向きは禁じられた女髪結い。そんな稼業の自分が、桃太郎が縁とはいえ、旗本の奥方に近づいて良いはずがない……
 そんな彼女の悩みも解決すべく、宗太郎と桃太郎は奔走するのであります。

 これまでそれほど舞台となる時代背景をクローズアップしてこなかったという印象のある本シリーズですが、ここでこのような形で天保の改革の理不尽を描き出してきたのは、時代ものとして嬉しい目配り。
 何よりも、宗太郎の父親は、その役目の上でこの改革と密接に関わっているのですから――


 さて、好事家の奇談会の賑やかしに呼ばれた宗太郎が、ある晩出会ったおかしな老人と、彼を運ぶ猫の駕籠かきとともに経験した不思議な出来事を語る第二話「奇妙奇天烈な白猫姿の宗太郎が、語る」(これもまた奇妙な味わいの人情譚で素晴らしい)を経た第三話は「男坂女坂」。
 第一話では(もちろんそんなことで宗太郎が手を抜くはずもないのですが)他人事だったものが、宗太郎自身の身に降りかかってくることになります。

 宗太郎が人間であった頃、許嫁だった姫君・琴――彼女が、こともあろうに「剣術修行に出ると言ったきり姿を消した(しかし江戸にいるらしい)宗太郎を探して欲しい」と猫の手屋に依頼してきてしまったのであります。
 もちろん真実を告げるわけにはいかない、さりとて彼の性分として適当に誤魔化すこともできない……そんな中で描かれる宗太郎と琴姫の交流が、何ともこそばゆくも微笑ましく、このエピソードでは描かれることとなります。

 しかし考えてみれば、曲がりなりにもそんな交流ができたのは、宗太郎が猫になり、そして市井に暮らしたことで人間が丸く、大きくなったからにほかなりません。
 そう、非常にユニークなデコレーションがほどこされていますが、本作の基本は、一人の青年武士の成長物語なのであります。

 いわば「妖怪もの」と「若様もの」、二つの楽しさを兼ね備えた本作――体はもふもふ、心はもののふの宗太郎の今後が楽しみです。


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