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2016.12.29

朝日曼耀『戦国新撰組』第1巻 歴史は奴らになにをさせようとしているのか

 今年も色々な作品を紹介してきましたが、その締めくくりが本作。あの幕末の武闘派集団・新撰組が、こともあろうに戦国時代にタイムスリップ、桶狭間の戦に乱入することになるという物語であります。

 池田屋事件で一躍その名を挙げた新撰組。数々の剣士たちを抱え、剣を取っての戦闘力でいえば幕末屈指とも言うべき彼らですが――しかし屯所にいたはずの彼らが突如飛ばされてしまったのは、何時とも知れぬ時、何処とも知れぬ戦場。
 そこで怪物のような戦闘力と体力を持つ野武士一人に隊士たちが蹴散らされ、残された土方、島田と「あと一人」も、更に怪物めいた男・蜂須賀小六と、彼と行動を共にする切れ者めいた男・木下藤吉郎に捕らえられて――

 という第1話の展開については連載開始時にも紹介しましたが、この単行本第1巻に収録されているその後の展開は、さらにとんでもない事態の連続であります。

 実は時は永禄3年、所は尾張――彼ら新撰組が飛ばされたのは、実に桶狭間の戦直前。そんなところに紛れ込んでしまった土方たちは、今川の間者と勘違いされ、捕らえられてしまったのでした。
 一方、別にこの時代に現れたらしい近藤・山南・斎藤・山崎らの面々は、土方たちを奪還すべく中島砦の織田信長率いる軍を奇襲することに……!

 中島砦といえば、信長が桶狭間に今川義元を奇襲する際に出陣した砦。その信長を逆に奇襲してしまったのですから痛快といえば痛快ですが、しかし冒頭で描かれたように、戦に明け暮れたこの時代の武士は、幕末の武士とはひと味もふた味も違う猛者揃い、そんな中で新撰組サイドは苦戦を強いられることなります。

 しかしその中で、半ば死んだふりをして独自の行動をする男が一人。
 それこそが先に触れた「あと一人」、本作の主人公である三浦啓之助……かの佐久間象山の遺児にして、暗殺された父の仇討ちのために新撰組に入隊した、そして超やる気のない現代っ子(?)気質の若者であります。

 新撰組ファンの間では悪名高いこの男が何をやらかすのか、藤吉郎ならずとも「何してくれてんだ!」と叫びたくなるようなこの第1巻のラストの展開は必見であります。


 ……というわけで、戦国+新撰組というキャッチーなタイトルどおりの内容でガンガン突き進む本作ですが、しかし原作者・富沢義彦の名を見れば、単純に面白半分に歴史をかき回す物語になるとも思えません。
 現在、黒人ボクサーが戦国時代にタイムスリップ、晩年の信長に仕えるという『クロボーズ』を連載中の原作者。この作品も、そしてこれまでの作品も、一見無茶苦茶をやっているようでいて、しかし押さえるべき根っ子は押さえた上で、どこまで踏み出すか、どこまで壊すかを計算している作品揃いなのです。

 本作においては、例えば戦国武士と幕末武士の戦力差であり、あるいは戦国史の知識をほとんど持たない土方であったり……それがどこまで史実どおりであるかは(たぶん誰にも)わかりませんが、しかし「成る程「らしい」わい」と思わせる仕掛けの数々が、荒唐無稽なシチュエーションを支えていることは間違いありません。

 そしてその中でさらに本作ならではの一ひねりを加えてみせたのが、主人公たる啓之助の存在であります。
 これ以上ない大義名分を持って入隊したものの、隊士として、いや武士として「らしからぬ」言動が多く、後世に悪名を残した彼を、本作はその部分を押さえつつ、どこか鬱屈した、そして父譲りと言うべきか、怜悧な知性・知識を持った青年として描き出すのです。

 いわば新撰組とも、もちろん戦国武士たちとも異なる視点を持つ啓之助。その彼が何を思い、何を為すか……その一端は上記に述べたとおり早くも描かれたことになりますが、本作の主人公であるだけでなく、トリックスター的存在としての活躍が期待できそうであります。


 「戦国+○○○」といえば、真っ先に思い浮かぶ元祖の(そして今に至るまでアップデートされ続けている)作品といえば、もちろん半村良の『戦国自衛隊』。
 あの作品においては、主人公たる自衛隊員たちは、ある人物の代役として歴史のうねりに巻き込まれることになりましたが、さて本作においてはどうなるのか。

 歴史は奴らになにをさせようとしているのか――根っ子を守りつつも、行き着くところまで行って欲しい作品であります。
(うっかり忘れかけていましたが、よく見るととんでもない格好をしている今川義元の運命にも期待)


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