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2016.12.24

ちさかあや『早雲の軍配者』第1巻 再び始まる新たな小太郎の物語

 戦国時代、関東の雄・北条家を支える若き軍配者・風摩小太郎の青春を描いた富樫倫太郎のベストセラーを、『豊饒のヒダルガミ』のちさかあやが描く漫画版『早雲の軍配者』の第1巻であります。

 本作の原作となる小説『早雲の軍配者』は、2010年の作品。様々なジャンルで作品を発表してきた作者が歴史小説で活躍する契機となったとも言うべき作品であり、以降『信玄の軍配者』『謙信の軍配者』と続く軍配者三部作の第一作です。

 タイトルに掲げられている「軍配者」は、軍師だけでなく、気象予測、易学や陰陽道、戦場での作法など、戦争全てを指図するブレーンを務める役目。
 本作は、主人公・小太郎がその軍配者として一歩踏み出す姿を瑞々しく描くこととなります。


 北条早雲に仕える忍び・風間一族の先代統領の子・小太郎。父亡き後、統領の座を継いだ叔父に冷遇されながらも、幼い妹と二人懸命に生きてきた小太郎に、ある日大きな転機が訪れることとなります。
 小太郎が働いている寺を訪れた僧形の老人・韮山様こと早雲庵宗瑞(北条早雲)。彼は小太郎の非凡な素質を見抜き、孫の千代丸(後の北条氏康)の軍配者として育成しようと考えたのであります。

 早雲直伝の合戦術の伝授をはじめ、武術・学問・観天望気と英才教育を受ける小太郎ですが、しかし小太郎が自らの地位を脅かすと考えた叔父の魔手が彼に迫ることに――


 この第1巻で描かれるのは、物語のまだプロローグとも言うべき部分。
 本作の中心は、この後小太郎が本格的な軍配者としての道を学び、そして終生の友にして好敵手となる二人の男と出会う足利学校での日々ですが、この巻では小太郎がこの足利学校に向かう途中までが描かれることとなります。

 その意味では、まだまだこれからの物語と言うべきかもしれませんが、しかしこの時点で小太郎のキャラクターはよく描き出されているように感じます。

 風摩(風魔)小太郎といえば、後世に伝わる姿は鬼のような大男で冷酷な忍者の頭領というのが一般的ですが、しかし本作の小太郎はそれとは全く異なる少年。
 端正な容姿に生真面目で温厚な性格、何よりも戦を嫌い平和を求めるキャラクター像は、従来の小太郎像を裏返してみせたかのように感じられます。

 このあたりの「良い子」ぶりはさじ加減を誤ると途端にリアリティがなくなりかねませんが、本作においてはその小太郎の良き部分を、どこか親しみやすさに転化している印象があり、漫画の主人公として素直に好感が持てるキャラクターとして成立していると感じます。

 もちろん、登場人物は好感が持てる者だけではありません。小太郎を苦しめる叔父の厭らしさや、終盤に登場する謎の男・四郎左の得体の知れなさなど、小太郎とは反対側に属しているようなキャラの描写も印象的なのは、これはむしろ作画者の前作からすればなるほどと頷ける……というのは言い過ぎでしょうか。


 何はともあれ、先に述べたとおりこの物語はまだ始まったばかりであります。「山本勘助」やその連れの四郎左らと旅することとなった小太郎たちは無事に足利学校にたどり着くことができるのか。そしてそこで彼を待っているものは何か――
 再び始まる小太郎の新たなる物語である本作。小太郎だけでなく、残る二人の軍配者が如何に描かれるかも含めて、なかなか気になる作品なのであります。


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