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2016.12.02

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第1巻 開幕、逆手の忍びの一大アクション

 「もののけ」ならぬ「もののて」の噂が飛び交う江戸時代の中山道街道筋を皮切りに展開する、何ともユニークな忍者漫画の第1巻であります。旅の少女が出会った長袖の青年の正体とは……(物語の展開に触れることになりますのでご注意下さい)

 襲われた者の身に、巨大な爪の跡を残すと恐れられる「もののて」。医者を目指して諸国を見聞中の少女・おこたは、中山道を旅する中でその怪物の噂を耳にします。
 その彼女がある宿場で目にしたのは、土地の悪党どもに雇われ、容赦なく借金の取り立てを行う長袖の青年・皆焼。その態度に反感を抱いたおこたですが、そこで長袖に隠されていた彼の手を目にすることになります。何とその手は右と左が逆……右腕に左手が、左腕に右手が、それぞれ外側を向いてついていたのであります。

 そしてその晩泊まっていた宿が悪党たちに襲われ、囚われの身となったおこたは、彼らの根城で皆焼に再会することとなります。
 周囲の人間からは異形と忌避され、恐れられる皆焼の逆手。しかしその手を恐れるどころか好きだと言うおこたに心を動かされた皆焼は――


 という第1話の本作、核心に触れてしまえば皆焼の正体こそは「もののて」……正確にはもののてと恐れられる人間。その逆手に幾本もの刃を手にした彼は、通常の剣術の理法などは一切無視した、五体すべてを用いた攻撃を操る忍だったのであります。
(その何本もの刃の攻撃の跡が、獣の爪のように見えるというのが面白い)

 街道沿いの賊を内偵するという任務を受けていた皆焼はおこたの依頼に応えて賊を鎮圧、依頼の費用返済のために彼と行動を共にする羽目になった彼女とともに、街道の行く先々で騒動を引き起こす……というのが、この第1巻の主な物語であります。


 そんな本作の最大の特徴は、言うまでもなく、本作のタイトルでもある皆焼の逆手。その異形が行く先々で人々から差別され、嫌悪されるというのは、いささか危険球で、なかなかに思い切った設定だとは思いますが……それはともかく、ビジュアル的なインパクトは満点。
 見慣れたものが逆についているというのはそれだけで強烈な印象を与えるものだ、ということを今更ながらに知りましたが(作画もかなり大変なのでは……)、もちろんインパクトだけではありません。

 上に述べたとおり、常識離れした剣術(と果たして呼んでよいものか?)を操る皆焼。なるほど、通常の剣術使いが左利きの相手と対峙するだけでも相当苦労すると聞いたことがありますが、これはその比ではありません。
 そしてそんな腕から繰り出される常識外れのアクションが実に面白い。剣を剣とも思わぬその技は、その逆手によるものだけでなく、忍のそれとしてある種の説得力と意外性を持っていますし、何よりも絵として漫画として、実に映えるのであります。

 また、そんな皆焼の逆手をおこたのみが美しいと感じ、それが二人を結ぶ絆となるというのは、これはお約束かもしれませんが、やはり美しい設定でしょう。
 第三話のラスト、戦いを終えて疲れ果てた皆焼に膝枕をしたおこたが、そっと皆焼の手と指を絡め合う場面は、本作ならではの無上の美しさがある……というのはいささか大げさかもしれませんが、この第1巻で一番こちらの胸を打ったことは間違いありません。


 もちろん、これはある程度意図的なものかと思いますし、野暮を承知で申し上げれば、考証的には非常にアバウトであります。また、現代の用語が色々と使われていることには(考証云々よりも純粋に滑っている感があって)やはり違和感はあります。
 こうした点はあるものの、むしろ本作の場合は、上に述べたような長所を伸ばしていくうことこそが重要な作品でしょう。

 第1巻で描かれた物語はおそらく序章、終盤で登場した皆焼の職場、彼の仲間たちがこれからどのように彼に、おこたに絡んでいくことになるのか。忍者アクションとしてはこれからが本番なのでしょうから――


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