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2016.12.15

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第17巻 変わらぬ二人と少しずつ変わっていく人々と

 単行本が二桁になったのはつい最近のような気もしていましたが、あっという間に巻を重ねて『猫絵十兵衛』ももう17巻目であります。今回艶やかに表紙を飾るのは、下総猫神の娘・真葛。彼女をはじめとして、この巻ではこれまで登場した懐かしい顔ぶれが幾人も登場しております。

 もちろん今回も健在の猫絵師の十兵衛と元猫仙人のニタの名コンビ。彼らを通じて、江戸の人と猫と妖の姿と情を描くスタイルも、もちろん変わることはありません。
 そんなこの巻に収録されているのは以下の全7話であります。

 蘭学を学ぶ二人の少年・源之助と悦二郎が、肺病病みの女性を助けようとしたことで起きた騒動「烏猫」
 本物の狩りと勘違いしていた百代と真葛のために、十兵衛とニタが猫又たちを潮干狩りに連れて行く「磯遊び猫」
 やんちゃが過ぎる猫のやん助に翻弄される幟職人のために十兵衛と西浦さんが一肌脱ぐ「幟猫」
 大事な人(猫)を探しているという真葛と、そんな彼女に内心穏やかでない権蔵の姿を微笑ましく描く「偲はく猫」
 農家の一員として可愛がられている猫に頼まれ、雨乞いをすることとなった十兵衛が奮闘する「よもぎ猫」
 盆猫踊りに置いて行かれた三匹の仔猫たちが、不思議な人物(猫物)に導かれて……という「猫地蔵」
 子供時代の十兵衛と師匠夫婦が、付近を騒がす盗人騒動に巻き込まれた顛末「かきつむ猫」

 時に猫又や妖絡みの不思議な事件を、時に純粋な(?)猫と人間の交流の物語を――その両方を分け隔てることなく、全く同じ世界の物語として描く作者の筆は今回も見事で、どの世界にも共通する「情」の姿が実に気持ちが良いエピソード揃いであります。

 そんな本作ですが、今回特に印象に残ったのは、実に7篇中の4篇に再登場する、過去のエピソードに登場したゲストキャラクターたちであります。
 あれ、誰だったかな、と思う方もいらっしゃるかもしれませんので、以下に簡単に紹介しておきましょう。(カッコ内は初登場回)

・源之助と悦二郎(第12巻「猫のオランダ正月」)
 共に蘭学を学ぶ親友同士の少年コンビ。普段から周囲の事物をオランダ語で呼んでおり、猫のことをいちいち「カット」と呼ぶのが微笑ましいのであります。
・百代(第11巻「百代猫三番勝負」)
 かつてニタに育てられた雌猫又。誰に似たのかいちいち言動がやかましく、十兵衛のことをニタを奪った泥棒猫扱いして挑戦してくるという初登場は異常に印象に残ります。
・真葛と権蔵(第12巻「鈍牛と猫」)
 下総の猫神の八番目の娘で生真面目な真葛と、薬問屋のおもとの付き人で寡黙な大男の権蔵。なかなかのお似合いのこの二人、何よりも真葛の正体を知っても変わらぬ想いを抱く権蔵のおかげで実に微笑ましいリア充ぶりであります。
・やん助(第14巻「やんちゃん猫」)
 生まれてばかりの頃に十玄師匠の家に預けられた仔猫。とんでもない暴れっぷりで周囲の人間を振り回した末に先輩猫たちに説教され、少しはマシになったと思えば――


 というわけで17巻にもなればずいぶんとキャラクターも増えますが、ほとんど一人として、一匹としてかぶることはない個性的なキャラのオンパレードなのには感心させられますし、お気に入りのキャラに再会できるのは嬉しいものであります。
(個人的には真葛と権蔵は大いに応援したいカップルであることもあり――)

 そしてまた、短編連作形式ということもあり、十兵衛とニタは基本的に変わらない(キャラクター像が動かない)本作において、彼らの代わりのように、ゲストたちの方は少しずつ成長し、関係性を変えていくのには、なかなか印象深いものがあります。

 基本的なスタイルは変わることなくとも、少しずつ動いていくものがある、変わっていくことがある……居心地の良い世界の中で、それは時に寂しいような気がすることもありますが、それもまたこの世界の姿であると言うべきなのでしょう。


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