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2016.12.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻 天王寺の戦いに交錯する現代人たちの想い

 長篠の戦の後、家督を長子・信忠に譲るとこととなった信長。その相続の場で、諸勢力への宣戦布告に等しい宣言を行った信長に対して動き出したのは本願寺であります。しかしその背後には、果心居士、すなわちケンやようこと同じ現代人である松田の暗躍が――

 信長の宣言を受けた諸勢力の中で、真っ先に信長との対決に向けて動き出した本願寺顕如。しかしその背後には松永久秀、そして果心の姿がありました。
 彼らの謀計を知ってしまったようこは、ケンの目に入ることを期待し、本願寺から織田に送られた自らの西洋菓子に警告のメッセージを託して送ることになります。

 そのメッセージを察知したケンですが、しかし詳細は不明のまま。そこでケンは織田と本願寺の宴席にかこつけ、ようこと対面して直に話を聞こうとします。
 しかしその間も、自らが使者となって毛利を動かし、さらに光秀に接近して彼の深層心理を操り……と果心の謀計は進行。ついに始まった本願寺攻めの中、逆に反撃で追い詰められた光秀は天王寺砦に入るのですが――


 というわけでこの巻で描かれるのは、石山合戦のうちの天王寺合戦の序曲。歴史を紐解けば、信長がわずか三千の兵でもって五倍もの本願寺勢に挑んだという、この時期の信長が直接軍の指揮を執った、非常に珍しい合戦であります。
 序曲と述べたように、この巻で描かれるのはその戦の始まり、光秀が砦に籠もり、信長が自ら援兵を率いて飛び出すまでで、物語の展開としては嵐の前の静けさといったところ。本作の最大の魅力である料理を用いた問題解決という展開も、かなり少なめであります。
(ケンが、自分の西洋料理が本願寺に封じられたことを逆手に取るくだりはなかなか面白いのですが)

 その意味ではかなり地味な巻ではありますが、しかし面白いのは、この戦の陰で、彼ら現代人たちの思惑が交錯する点であります。
 その中心となるのは、言うまでもなく果心こと松田。自分がこの時代(というか信長)に受け容れられないのであれば、歴史を変えてしまえばよいと、悪いタイムトラベラー精神(?)を発揮した彼は、ケンよりも深い歴史の知識を活かして、ある意味史実の果心以上に暗躍することになります。

 そしてそんな松田を放ってはおけないのがようこ。愛するケンが織田方にいることもありますが、それだけでなく彼女の心にあるのは、松田に対する一種の同胞意識でしょう。
 自分が松永をも動かしていると増長する松田のダメっぷりに呆れながらも、それでも彼女が松田を見捨てられないのは、共にタイムトラベルという奇禍に遭い、そしてそれぞれに辛酸を舐めてきたゆえ(そしてケンとようこの馴れ初めにも松田が関わっていたことが判明)。

 この辺り、記憶喪失で現代の記憶が限定的であり、何よりも早々に信長と出会うことができたケンとは異なる態度になるのは、自然な心の動きと納得できます。
 あまりにも小さく、人間的な松田とようこではありますが、一種超人的な存在となってきたケンの鏡像の役割を果たしていると言えるでしょうか。


 とはいえ、ケンが料理で大活躍する姿を見たいという気持ちもまた正直なところ。この巻のラストで、また信長から大変な無茶ぶりをされてしまったケンが、果たして如何にその難題を果たすのか。
 松田との間接的対決とも言えるその展開に期待であります。

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