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2016.12.28

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 3 妖たちの四季』 大き過ぎる想いが生み出すもの

 ふとしたことから妖怪たちの子供の預かり屋となってしまった人間の少年・弥助を描くシリーズも、好評を反映してかかなりのペースで刊行され、もう第3弾。この巻では弥助はちょっと脇に回り、彼を取り巻く妖怪や人間たちを主役とした短編集といったスタイルで物語は展開します。

 妖怪たちの子を預る妖怪・うぶめの住処を壊したため、罰としてうぶめの代わりに子預かり屋となり、その努力が認められて正式に子預かり屋となった弥助。
 引っ込み思案だった性格も妖怪相手にはだいぶ改善され、前作ではあまりにも哀しく辛い事件もあったものの、養い親である元大妖怪の千弥に見守られ(というか溺愛され)、元気に暮らしております。

 と、そんな弥助と千弥が、夏も近い時期に花見に誘われて……というのが第一話「桜の森に花惑う」。前作で登場した、人間の魂大好きの妖猫姫・王蜜の君の持つ異界の山に咲き乱れる桜見物に行くことになった二人ですが、そんな彼らの後を人間の若者・久蔵がついてきてしまって――

 と、第一話の主人公の一人は、弥助たちに何かとちょっかいを出してくる脳天気な久蔵が主人公。どうしようもないドラ息子で弥助からは毛嫌いされながらも、根は善人の久蔵が、どんなおっかない目に遭わされるのかと思いきや……なんとそこで彼を待っていたのは思わぬロマンス。
 あまりに意外な組み合わせに(特に久蔵の身の上が)心配になりつつも、何とも微笑ましく、思わずニヤニヤしてしまいたくなるような甘い甘い展開が楽しい物語です。

 この第一話と、弥助大好きの子供妖怪・津弓と梅吉の他愛ない意地の張り合いが妖怪奉行・月夜公の屋敷で大騒動を引き起こす第二話「真夏の夜に子妖集う」と、コミカルなエピソードが続き、本作はこの方向性で行くのかな、と思いきや、正反対のベクトルなのが第三話「紅葉の下に風解かれ」であります。

 弥助のことを母のように姉のように何くれとなく気遣う兎の妖・玉雪。小妖ながら彼女が立派な栗林がある山を持っているのは何故か、彼女の過去とともに語られるのですが――ここで描かれるのは、ある意味実に作者らしい、悍ましくも恐ろしく、しかし切なくも暖かい物語なのであります。

 凶悪な妖に襲われた子供を捜して彷徨う玉雪が山で出会った少年。たった一人孤独に暮らす彼には、周囲の人間を次々と不幸にしていく力があったのです。
 果たしてその力の源は何なのか。少年を救うべく奔走する玉雪が見たものは、凄まじくも哀しい因縁と愛の姿でありました。

 時に容赦なくこの世界の、そこに生きる者の負の側面をえぐり出し、読者の前に突きつけてみせる作者の作品。
 しかしそこにあるのは、悪趣味に、面白半分に恐怖を扱うのではなく、その中にどうにもならぬ人の業と、大き過ぎる想いが生み出した悲しみを見つめ、そしてその中に小さな希望を見出そうという姿勢であります。

 この第三話も、もちろんその系譜に属するもの。玉雪の物語がより大きな物語に重なる結末も美しく、個人的には本作の中で最も好きな物語です。

 そして大きすぎる想いのすれ違いが生み出した悲劇といえば、第四話「冬の空に月は欠け」を忘れるわけにはいきません。このエピソードで描かれるのは、千弥と月夜公の過去――かつては無二の親友であった二人の出会いと決別を描く物語なのですから。

 共に妖の世界で屈指の力と美しさを持ち、それ故に他者を拒絶し孤独に生きてきた二人。そんなある意味似たもの同士であった二人が如何にして互いを認め合い、己にとって欠くべからざる存在として想い合うようになったのか。
 そしてその二人が何故激しく憎み合い、その果てに千弥は己の力の源たる眼を捨て、月夜公は癒えぬ傷を負うことになったのか――

 ここで描かれるのは、他者が決して及ばぬほどの力を持ちながらも、それ故に大きすぎる哀しみを背負う者たちの姿であり、そしてそこに秘められた美しい真情の姿であります。
 人とはかけ離れた妖の妖たる存在にも、人にも負けぬ想いがある……それは哀しくも、一つの救いでもあるように感じられるのです。


 そんな千弥の唯一の救いである弥助が、こともあろうに彼のことを忘れてしまうという大変な物語であるラストの「忘れじの花菓子」が、ちょっとあっさりしすぎた内容なのが少々勿体ないのですが、本作がシリーズの、そして作者の魅力が一杯に詰まった作品集であることは間違いありません。
 まだまだシリーズは続くとのこと、この先も大いに期待できそうです。


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妖たちの四季 (妖怪の子預かります3) (創元推理文庫)


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