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2016.12.05

風野真知雄『女が、さむらい 置きざり国広』 大混迷の村正争奪戦

 北辰一刀流の筆頭の女剣士・秋月七緒と、毒で足の自由を失い刀鑑定屋となった御庭番・猫神創四郎が、村正をはじめとする刀剣にまつわる怪事件に挑む連作シリーズの第3弾であります。村正を巡る幕府の不穏な動きが高まる中、天空に巨大な星が……ってどこまで行くのかこのシリーズ!?

 江戸に散らばり、様々な者の手を転々として事件を引き起こす三本の村正――月光村正、ねずみ村正、淫ら村正。
 任務で各藩で秘蔵されている村正の調査する中で、月光村正を手に入れた創四郎は、何者かに毒を盛られ、瀕死となったところを偶然七緒に救われ、市井に身を隠して刀の鑑定屋・猫神堂を開くことになります。

 しかしそこに持ち込まれるのは曰くありげな……というよりよくわからない不思議な事件がつきまとう刀剣ばかり。創四郎に惹かれるようになった七緒は、彼を助け、共に事件探索に乗り出して――


 という基本スタイルが前作までで完成した本作ですが、今回も「あの世の長光」「穴の開いた名刀」「置きざり国広」「鈍刀の風格」「微笑み宗近」と全5話、作者お得意のライトなミステリタッチで物語が展開していきます。

 時折あの世に消えるという剣士、刀身に穴が空けられた刀、下駄屋の店先に置き去りにされた名刀……などなど、ある意味「日常の謎」的な形で展開される謎の数々は、どれも個性的。
 もっとも、正直なところ今回もエピソードごとの完成度は大きく差があるのですが、「穴の開いた名刀」の真相など、いかにも作者らしい軽みと暖かみ、人間心理の襞が描かれて味わい深いものがあります。


 そしてその一方で大きく展開したのが、本シリーズの縦糸ともいうべき村正にまつわる事件であります。

 数ある村正の中でも特別な意味を持つと思われる三本の村正を巡って集ったのは、七緒と創四郎だけでなく、尾張徳川家の若さまとその剣の師、悪党狩りに憑かれた女剣士、武器マニアのイケメン音曲師、四十七人斬りの過去を持つ尼姫……と個性的過ぎる面子。
 しかも前作ではそこになんとなんと、時の将軍・徳川家慶が参戦、「そうせい様」と揶揄されたほどの無気力人間であったはずが、突然剣の達人に変貌し、御庭番の体制を一新して村正狩りを始めるのですから驚かされるどころではありません。

 果たして家慶の変貌は何を意味するのか……それと繋がりがありそうなのは、今回のクライマックスに登場する彗星の存在。天空を不気味な色に染め、江戸湾に落下したその彗星を家慶が求めるのは何故か? そして物語開始から遡ること十数年前にももう一つの彗星が――

 と、男よりも女の方が強くなりつつある時代、という本作独自の設定にまで繋がってくるのか、いやむしろこれは『死霊大名』では……と、意表を突いた物語世界の広がりに驚いたり歓喜したりなのであります。


 文庫書き下ろし時代小説のフォーマットをきっちりと守りつつ、伝奇精神に溢れた作品を(もちろん全てではないものの)発表してきた作者だけに、この作品がどこに行き着くのか、何を描き出すのかに期待は膨らむ一方なのです。


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