« 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二) | トップページ | 梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻 天王寺の戦いに交錯する現代人たちの想い »

2016.12.21

立花水馬『世直し! 河童大明神』 父と子と河童を繋ぐ世直し

 虫封じを題材としたユニークな連作『虫封じマス』で登場した作者の新作は、人間の若者と河童――そう、あの頭に皿があってキュウリが好きなあの河童――が組んで、世の為人の為に奮闘する活劇であります。

 ある理由から父と喧嘩をして江戸を飛び出し、大坂で暮らしていた青年・喜助。ふと思い立って久々に江戸に帰ってみれば父・喜八は危篤、駆けつけた彼の目の前で喜八は完爾と微笑んで逝くのでした。
 しかし生前、掘割の整備に私財を投じ――そしてそれこそが喜助が父と仲違いした理由だったのですが――極貧の中で暮らしていた喜八には弔いを出す金もなく、途方に暮れていた喜助の前に、奇妙な男が現れます。

 生前喜八に世話になったという男の手配で無事に弔いを終えた喜助ですが、何とその男の正体は河童! 世の為人の為に働いた喜八の姿に感動した彼ら河童たちは、喜八を助けて働いたというのであります。
 生前は軽蔑していた父の意外な姿に関心を持った喜助は、喜八の名を継ぎ合羽職人として江戸で暮らし始めるのでした。

 と、その江戸では子供の拐かしが続発。さらに美女の誘拐殺人、米価の吊り上げ、強引な冥加金の取り立てなどが相次ぎ、庶民の暮らしはどんどん苦しくなっていきます。
 その一連の出来事の背後に、今太閤を名乗る大商人・茂十郎の存在を知った喜八は、河童のぎーちゃん、謎解き坊主の春雪とチームを組んで世直し大明神を名乗ると、世の為人の為、巨大な悪に戦いを挑むことに――


 現在もその名が残る浅草の合羽橋。江戸時代に合羽屋喜八が私財を投じて堀割整備を行い、そしてその喜八のために河童が力を貸していた、という二重の意味で「カッパ」にまつわる伝承が残される地ですが、言うまでもなく本作の題材はこの合羽橋であります。
 なるほど、大抵の伝承では人に迷惑をかける河童が、人間を助けて働く(しかも強制されたわけでもなく)というのがなかなか興味深いのですが、本作はそこにさらに一ひねりを加え、喜八の息子が主人公というのが工夫でしょう。

 私財を投げ出し、家族を顧みなかった父に反発してきた主人公が、その父が最期の刻に極めて満足したかのような笑みを浮かべるのを見る……という冒頭部分だけでぐっと来るのですが、その後の展開がまたいい。
 一文の得もしなかった父の生き方が理解できない中、川で溺れる子供を見て前後を考えず助けに飛び込み、それが父同様、河童の心を大きく揺り動かすというのは、本作のテーマである「世の為人の為」を体現するものと言えるでしょう。

 思わぬ絆で結ばれた喜八とぎーちゃんの姿は、一種のバディもの――すなわち、全く異なる生まれや育ちの二人が、一緒に行動する中で互いを(特に読み手に近い側を)認め、その価値を再確認していく物語として受け止めることもできます。


 そしてそんな彼らが繰り広げる世直しはなかなかに痛快、特に米の買い占めに対する逆襲など、なるほどこの手があったか、と感心させられるほどなのですが……しかし、終盤に来てその印象は個人的に少々違ったものとなりました。

 これまで幾度もその陰謀を潰してきた茂十郎が、追い詰められた末に暴走し、さらに人々を苦しめていることを知った喜八。全面対決を決意する喜八ですが、しかし奉行所までも抱き込んだ敵はあまりにも強大であります。
 これまでは人間の知恵と河童の力で難題を解決してきた喜八たちが、この最後の戦いで取った手段とは……いやいやこれはアリなのか、と言いたくなるような乱暴なもの。

 あるいは普通の(?)時代劇ではアリなのかもしれませんし、これ以外の手段はないのもわかりますが、しかしここまで来ると思いつめた喜八の姿に、一種の痛ましさまでも感じさせるのです。

 ここで改めて考えさせられるのは「世の為人の為」というキーワード。確かに大事で美しい想いではありますが、それが生み出す犠牲はどこまで許容されるのか、そして他人の思う「世の為人の為」と衝突することがあるのではないか……本作の終盤からは、そんなことを考えさせられました
(本作では茂十郎も「世の為人の為」を口にするのですが、明らかに口先だけのものなのでこれとは異なります)

 ヴィジランティズムの矛盾とも言うべきこの疑問にまで踏み込むことができれば、さらに素晴らしい作品になったと思うのですが……それはちょっと難しく考えすぎでしょうか。


『世直し! 河童大明神』(立花水馬 徳間文庫) Amazon
世直し! 河童大明神 (徳間時代小説文庫)


関連記事
 立花水馬『虫封じます』 人情と謎解きと伝説の医学書と

|

« 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二) | トップページ | 梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻 天王寺の戦いに交錯する現代人たちの想い »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/64643011

この記事へのトラックバック一覧です: 立花水馬『世直し! 河童大明神』 父と子と河童を繋ぐ世直し:

« 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二) | トップページ | 梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻 天王寺の戦いに交錯する現代人たちの想い »