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2016.12.01

鳴海丈『廻り地蔵 あやかし小町大江戸怪異事件帳』 怪異に負けぬ捕物帖を目指して

 「おえんちゃん」こと妖怪・煙羅に守られたあやかし小町・お光と、北町奉行所の熱血同心・和泉京之介のカップルが怪奇の事件に挑む連作シリーズも本書で第三弾。謎解きありあやかしとの対決ありと、三つの事件が描かれることになります。

 と、いきなりあとがきの話で恐縮ですが、本シリーズは(というより作者の作品の多くは)文庫書き下ろし時代小説には珍しく、あとがきが収録されています。
 本シリーズでは企画の原点やモチーフになっている作品など、興味深い内容が多いのですが、本書はそこで「変身人間三部作」に言及されているのに驚かされます。

 変身人間三部作とは、60年ほど前に東宝が製作したSF映画……『美女と液体人間』『電送人間』『ガス人間第一号』の三作品。
 この三作の特徴とは、いずれも科学技術によって超常的な能力を得た存在を描きつつも、あくまでもそこで展開されるのは「人間」の犯罪ドラマであり、それ自体に魅力があること……というのは作者の言ですが、確かに三部作で描かれるのは、麻薬密売・連続殺人・銀行強盗と、ある意味実に人間的な犯罪の数々でした。

 そしてこの三部作、特に『液体人間』のように、それ自体が一級の犯罪ドラマとして成立している……この「あやかし小町」シリーズも、そのような作品でありたいと、作者は宣言しているのであります。
 実際のところ、本作の第1話であり、表題作である『廻り地蔵』は、その狙いを体現した作品と感じます。


 ある晩発見された、厨子を背負った男の死体。探索に当たることとなった京之介は、その場から立ち去った男を押さえたものの、殺人犯は別にいることを知ります。
 一方、ある小間物屋で、店の人間全員が食事の際に何らかの毒に当たり、特に主人が人事不省の重体に陥るという事件が発生。さらに、別の店では主人の孫が誘拐されるという事件までもが起きるのでした。

 お光の目撃から、誘拐事件を起こしたのが最初の殺人の下手人と同じ男であることが判明するのですが、果たして連続する3つの事件に共通点はあるのか。最初の事件の厨子に手がかりがあると睨む京之介ですが――

 と、入り組んだ内容の本作ですが、事件の展開といい描かれる人間模様といい、そして明かされる真相の意外性といい、捕物帖としてかなりの水準にあると感じさせられます。
 バイオレンスやエロスという印象の強い作者ですが、しかし決してそれだけではなく、時に極めて王道の、ミステリ色の強い作品を手がけていることは作者のファンであればご存じかと思いますが、本作はまさにそれと言えるでしょう。

 そしてまた、本作はいわゆる「あやかし」色がかなり薄い作品でもあります。お光も要所要所で活躍するものの、あくまでも中心となるのは京之介であり、そして描かれるのは人間の、人間による事件……作者の狙いを体現した作品と呼んだ所以であります。

 もっとも、このあやかし色の薄さも難しいところで、あまり薄いと本シリーズで描く必然性が……となってしまいます。正直なところ本作にもその印象はあり、さじ加減の難しさを感じさせられるところですが、まずはその意気やよし、と言いたいのです。


 そして第2話『紅蝙蝠』では、行き止まりに追い込まれても煙のように消えてしまう怪盗・紅蝙蝠の謎を京之介たちが追うという(どこか『怪奇大作戦』味もある)内容。
 続く第3話『死神娘』は、周囲で常識では考えられないような頻度で人々が死んでいくことから死神娘と噂される豪商の娘にまつわる意外な真実が描かれることとなります。

 どちらの作品も、第三の主人公と言うべき男装の娘陰陽師・長谷部透流が登場、第1話とは逆にあやかし度高めの内容ですが、しかしその根底にあるのは、あくまでも「人間」が起こした事件という点において、変わるところはありません。
(特に第3話のある意味豪快すぎる真相は、人間とあやかしが入り乱れる本作ならではの意外性で必見)


 もっとも、第1話のところで述べたように、まだバランスが難しい点はあります。また、タイトルロールたるお光の存在感が、本書では少々軽い――人間相手では京之介が、あやかし相手では透流が前面に出てしまうため――きらいはあります。

 そうした点はあるものの、作者の志は確かに感じられる本書。その志が目指すようにシリーズの車の両輪たる人間とあやかし、二つの要素がいつか完璧に噛み合えば――そこには素晴らしい傑作が生まれることでしょう。


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