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2016.12.26

畠中恵『まことの華姫』 真実の先の明日

 毎回ユニークな設定とキャラクター、そしてミステリ味を効かせた物語で楽しませてくれる作者による本作は、これまでにない主人公(?)像が印象に残る物語であります。何しろ両国の見世物小屋で、声色使いの芸人が操る美少女人形なのですから。

 両国といえば江戸時代の一大歓楽街、様々な娯楽が集まり、日夜を問わず賑やかな場所ですが、そこで近頃評判なのが、元人形師の芸人・月草。
 故あって人形師を辞めた彼は、自分の作品である華姫とともに流れ流れて両国にたどり着き、そこで姫様人形のお華を操りながら一人二役の話芸を売り物にしていたのであります。

 しかし人気を集めていたのはむしろお華そのもの。「お華追い」なぞというおっかけ連中まで登場するほどのその美しさと、それと裏腹の毒舌ぶりもさることながら、彼女は「真実」を見通すという評判があったのです。
 かつて両国にあったという、有徳の僧が掘ったという井戸。水面に姿を映した者に真実を見せるという伝説のあったその井戸の水の凝ったものが、お華の両の瞳だというのです。

 と、それは実は月草の売り口上、お華はあくまでも人形に過ぎないのですが、しかしいつの世も迷える人は尽きないもの。そんな人々がお華の語るという真実を求めてやってきた挙句、月草とお華は様々な事件に巻き込まれ、探偵役を務めることに……というのが、本作の基本スタイルであります。

 その物語の冒頭に登場するのは、両国一帯を縄張りとする(つまりは月草が世話になっている)地回りの娘・お夏。
 川に身投げした姉の死は父が原因でないかと疑う彼女は、お華に真実を問うのですが、いつの間にやらお華と月草は、お夏に振り回されるまま、お夏の姉の死の真相を追うことに――

 という第一話「まことの華姫」に始まる本作は全五話で構成されています。
 七年前の火事で行方不明となった二人の子供を探す古着屋の元締め夫婦の前に十人もの子供が名乗りを上げる「十人いた」
 自分が店を継いだために家を飛び出した親友にして義兄を探して西国からやってきた若旦那の問いが思わぬ騒動を生む「西国からの客」
 お華が密かに高額で真を語るという噂が立ったことをきっかけに、旗本の側室にまつわる騒動に巻き込まれる「夢買い」
 人形師時代の元許嫁が夫殺しの嫌疑をかけられたという知らせに、月草が必死に遠国で起きた事件の真相を追う「昔から来た死」

 どの作品も、コミカルなキャラクターと、日常の謎的な不可思議な事件、そして楽しいばかりではない後味の残る展開と、いかにも作者らしい味わいの物語揃いであります。


 さて、そんな本作の最大の特長がお華の存在にあることは言うまでもありませんが、しかしお華は作者の他の作品のように、妖などではなく、あくまでも月草が操り声色で喋らせる人形――その謳い文句に言うような真を見通す力を持つ不可思議な存在ではありません。
(作中のお客さん同様、その路線を望む方が多いのもわかりますが……)

 しかしここで描かれるのは、そんな人形でしかないお華にすがってでも真実を知りたいと切望する――仮にお華が真に神通力を持っていたとしても、人形に真実を尋ねるという行為自体おかしなものであるわけで――人々の姿であります。
 そして彼らは結局、物語の中で真実を掴むのですが……しかしそれは同時に、その向こうにある苦い現実に直面することを意味します。

 こう見ると本作はひどく味気ない作品にもなりかねません。しかしもちろんそうはならないのは、上で触れたキャラや物語運びの巧みさはもちろんのこと、その苦味の中に、一抹の希望が織り交ぜられているからであります。

 真実は、もしかすると望んだとおりのものではないかもしれない。しかしそれを知って初めて、人は明日に足を進めることができる――
 そう、お華の語りから人々が得るものは真実だけではありません。真実の向こうの明日こそを、人々は真に得ているのであります。


 そしてそれは、お華を操る月草も例外ではありません。本作の結末で明日を手にした月草が、お華とともに何を語るのか。その先の物語もぜひ読みたいものです。


『まことの華姫』(畠中恵 KADOKAWA) Amazon
まことの華姫

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