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2016.12.11

和月伸宏『明日郎前科アリ るろうに剣心・異聞』後編 少年たちが前に進むために

 『るろうに剣心』の物語から五年後の世界で、少年たちが繰り広げる新たな冒険の物語の後編であります。ようやく明日に踏み出そうという二人の少年――長谷川悪太郎と井上阿爛の前に現れるのは、しかし過去からの悪因縁。果たして二人は自分自身の道を切り開くことができるのか?

 集治監から同じ時に出所したのをきっかけに行動を共にするようになった悪太郎と阿爛。どちらも行く当てもなければ金もない、そんなないない尽くしの二人にとって唯一の希望は、悪太郎が五年前に拾ったある刀でした。
 実はその刀こそは、悪太郎もかつて属していた賊の首魁……その陰謀のあまりの大きさから、今ではその存在すらが抹消された言禁の首魁が手にしていた刀だったのです。

 再起の、そして力の象徴として、今は亡きその首魁の刀を求める賊の残党たちの手から辛くも逃れた二人は、手にした刀を早く売ってしまおうと、阿爛の知人がいる商会を訪れるのですが――
 と、言うまでもなくその首魁こそは剣心と死闘を繰り広げた末に炎に消えた志々雄真実。そして共に消えたと思われた彼の愛刀こそは異形の殺人刀・無限刃……というわけで、思わぬところで剣心本編との繋がりを見せた本作ですが、この後編においてはいよいよ本格的にリンクしていくこととなります。

 何しろ、二人が刀を持ち込んだのが塚山商会……とくれば、そこに現れるのは剣心や弥彦とも深い縁のある塚山由太郎なのがまず嬉しいところであります。

 しかし阿爛が適当に(意外とそうでもないのですが)並べた刀の来歴が嘘とすぐに見ぬいた由太郎に、嘘は必ず他人と自分に取り返しのつかない傷を負わせると、彼の過去を考えればえらく重い説教を受ける二人。
 しかしそれに対して阿爛を庇い、由太郎の言葉に反論してみせる悪太郎の姿がいい。前回の悪太郎の拾い食いを止めた阿爛の言葉といい、この辺りの少年描写は作者ならではの明朗さと感じさせられます。

 何はともあれ、結局刀は売れず、それどころか賊の残党に追われた末に(よりによって由太郎のかつての師に潰された道場の跡地に)追い詰められた二人。
 中空の内部に油を仕込み、打撃力を倍加させる賊長の面白武器(このあたりのギミックもまた作者らしい)に苦戦する悪太郎を助けるために飛び込んだ阿爛ですが、そのために彼は思わぬ姿を晒すことになるのでした。

 かつて志々雄に拾われた際、強くならなければ一生惨めなままだ、という言葉をかけられた悪太郎。その言葉が示すように、前編とこの後編で描かれたのは、決して格好良くない悪太郎と阿爛の姿でした。
 悪太郎が前編で阿爛に止められても気づかなかったその「惨めさ」を自覚し、そしてそれを乗り越えるための「強さ」として、ついに無限刃を抜き放つのですが――


 しかしここで物語は急展開、由太郎の急報でかけつけた剣心が悪太郎を止め、代わって久々の飛天御剣流龍槌閃で賊長を粉砕。……異聞であったはずが、そのまま本編の一部に変わってしまったようなこの展開、正直なことを言えば、大いに面食らいました。

 後で作者へのインタビューを拝見したところでは、今回の異聞は来春スタートする『るろうに剣心』の続編である北海道編に先立ち、新キャラクターである悪太郎たちを紹介する物語、いわばプロローグであったということで、その意味ではこの展開は納得できます。
 しかし、自分自身の「惨めさ」(個人的には阿爛のそれをこの名で呼ぶのには抵抗があるのですが)を知り、そこから抜け出すためについに一歩を踏み出した悪太郎が、あっさりと剣心によって止められてしまったのは、少々残念ではあります。

 もちろん、その目的・理由の差こそあれ、明確な殺意を以って無限刃を抜くというのであれば、前の持ち主である志々雄と変わらないわけで、それを剣心が止めるというのはむしろ当然ではあります。
 しかし少年たちが前に進むための選択は、彼ら自身で為されるべきではないか、せめてこの物語においては、それを彼らに全うさせて欲しかった……という気持ちはあります。

 もちろんその選択に当たっては、少年たちを導く存在が必要であることもまた、大いに理解できるのですが――


 いずれにせよ、全ては新章で描かれるものなのでしょう。もちろん私も『るろうに剣心』の大ファンとして、新章は大歓迎です。
 そしてそこにおいて、剣心が切り開いてきた新時代を、「明日」を歩むべき者たちの物語もまた描かれるのであれば言うことはありません。今はただ本編に、そしてこの異聞に続く物語を楽しみに待つのみです。


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