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2017.01.28

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第2巻 二人の成すべき仕事の意味

 左右の手が逆についた逆手の青年、実は飛騨望月衆の忍びである皆焼と、ある事件から彼と知り合った医師志望の少女・おこたの冒険を描くユニークな忍者ものの続巻であります。望月衆に加わることとなったおこたは皆焼と珍妙な任務に就くのですが、それが思わぬ事件を引き起こすことに……

 医師になることを夢見て中山道を旅する途中のおこたが、悪辣な賊に襲われた際に出会った皆焼。彼は、周囲の人間たちが「もののて」と呼んで一様に嫌悪し、疎外する逆手の持ち主でありました。
 しかし彼の逆手を恐れぬどころか、それに惹かれたおこたが助けを求めたことがきっかけで、(貸しを背負わされた)おこたは彼と旅することになります。

 そして二人が辿り着いた望月衆の里では、皆それぞれに泰平の世の忍びとしてのお仕事(金儲け)に勤しむ毎日。そしてその一員となることを望んだおこたですが――


 というわけでおこたの初仕事となるわけですが、その内容がとんでもない。
 錠前屋からの依頼を受けて、とある町で錠前を売ることとなったおこたは、周囲から引き離されないように互いを手鎖で結んで駆け落ちをする夫婦という触れ込みで、その錠前の頑丈さを宣伝(ステマ)することになったのであります。

 そしてもちろん(?)その相手役は皆焼。かくて四六時中手鎖に繋がれた二人の共同生活が始まることに――
 とくれば、何と言いますか、未成年向けの『剣鬼喇嘛仏』的なエロコメ展開になりそうですが(そして実際のところ結構そういう感じでもあるのですが)、しかし物語は思わぬ方向に転がっていくことになります。

 実は二人が夫婦生活を始めた大田の町は、かつておこたが暮らしていた場所。針子として幽閉同然の暮らしを送っていた彼女は、しかし名門の若君・長雄に見初められ、輿入れすることとなっていたのであります。
 しかし医者になるという夢を諦められなかったおこた。その後の彼女はこれまで描かれたとおりですが、ここで長雄に見つけ出され連れ戻されることになってしまったのです。

 剣の達人である長雄によって手鎖を斬られ、連れ戻されるおこた。彼女の夢に全く理解を示さぬ長雄に、おこたは大切にしていた医学書を燃やされ、そして皆焼も己の忍びとしての役目を嘲られ、ついに剣を以って長雄に対峙することに――


 いやはや、前半である意味いかにも本作らしい、可笑しくも世知辛い「仕事」を巡るコミカルな騒動が展開されていたと思えば、後半で意外にもシリアスかつ重い方向へ展開していったこの巻。
 しかしこの前半と後半には、「仕事」――己のなすべきことに対する、皆焼とおこたの矜持が描かれるという共通点があります。

 大きな戦闘力を持ちつつも、その能力はほとんど必要とされず、事務や営業といった能力を持った面々に比べて低く見られている皆焼。皆焼への借金を返すため、そして自分自身の手で金を稼ぎ、未来の夢である医者を目指すおこた。

 その来し方、そして目指すところは全く異なりますが、しかし二人に共通するのは、それでも己の任せられた任務を最後までやり遂げようとする心であります。
 それは様々な重荷を背負ってきた二人にとって、自分自身の足で立ち、生きていくことと同義なのですから――

 そして二人の前に立ちふさがる長雄は、そんな二人が仕事に向ける想いを理解しない、できない存在として描かれます。
 織田信長の孫(しかも実在の人物)という立場にある長雄にとって、忍びなどは顧みる価値もない存在。そして彼がおこたに向ける想いは本物ではあるものの、しかしそれはあくまでも一方的なもの……彼女の夢もまた、彼にとっては無価値なものでしかないのです。

 もっとも、彼もまた、一族の名が一人歩きする中で、己の居場所と価値を求めてあがく人間であります。(その中で自分を一個の人間として見てくれたおこたを見初めたという設定がまたうまい)
 そこには同情の余地があるのですが、しかし、二人にとっては、物語設定以上に、乗り越えるべき相手として描かれていることは間違いありません。


 脳天気でアバウトなようでいて、その実、意外と骨っぽく、しっかりとしたものを内包している……そんな、主人公たる皆焼同様のものを持つ本作の在り方が見えてきた今、続きが気になる作品です(この巻がまた、イイところで引いていて……)


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