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2017.01.05

鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第5巻 急展開、人と仏の物語

 鎌倉時代初期を舞台に、互いの半身を共有する少年仏師・想運と明星菩薩とが繰り広げる平家の残党との戦いを描いてきた本作も、早いものでもう5巻目。基本的にちょっとゆるいムードで展開してきた本作ですが、しかしここに来てぐっとシリアスに、物語の根幹に当たる謎と秘密が描かれることになります。

 地神ミズチを操り鎌倉幕府を転覆せんとする平教経一味を追い、京にやってきた想運一行。そこで待ち受けていたのは、鞍馬の地神である鳥型のミズチを操り、偽りの仏を見せることで人々を次々と死に追いやる(招く)という恐るべき教経の作戦でありました。
 ミズチを封印するには、鞍馬を護る仏たちの手助けが必要ですが、そのための来迎術を使おうにも、その憑坐となる仏像はミズチによって破壊された状態。とはいえこちらには仏師たちが……と思いきや、ある事情で体の主導権が明星側に切り替わってしまった想運は思うように仏を彫れず――


 と、前の巻からのピンチを引き継いでのこの巻ですが、それをいかにも本作らしい、ユルい中にも熱く暖かい、人と人、人と仏の絆でクリア。……が、ここからが核心と言うべきか、その先に待つのは驚くべき展開であります。
 想運たちと行動を共にしてきた伎楽アイドルにして僧兵の少女・茶経。その彼女の父親であり、鞍馬とは因縁浅からぬ源義経のメッセージが、この地には残されていたのです。

 仏師が彫り上げた仏像と仏界との間に霊道を繋げ、来迎した仏を仏像に降ろして操る来迎術。
 本作の中核となるユニークなアイディアであり、想運たち人間が神たるミズチに対抗できる唯一の手段であるこの術に、この術に、この術を生み出した高僧・重源に、義経は恐るべき秘密の存在を感じていたのであります。

 果たして重源が平泉で進める幻想仏界計画とは何か。そしてその計画の鍵と言われる想運とは何者なのか。
 謎と不信が交錯する中、さらに事態はあまりにも意外な方向に転がり、大波乱の中で物語は第二部とも言うべき展開へ――


 いやはや、この辺りの展開で何が起きるのか、それは是非実際にご覧いただきたいのでのでここでは伏せておきますが、主人公がこんなことに!? えっ、これだと歴史が……と驚きの連続であるとは申し上げるべきでしょう。
 義経のメッセージから幾多の謎が提示された直後という、狙い澄ましたタイミングで繰り出される急展開には、ただ唸らされるばかりであります。

 その謎のほとんどは、まだこの巻の時点では今後に積み残されている状態ですが……しかしその中でも最も気になるのは、想運の正体であります。

 物語のテンポの良さの前に、すっかり「そういうもの」と認識していましたが、冷静に考えれば、半身が人間、半身が仏――いや仏像という極めて異常な状態で存在している想運。
 何故そんな状態を保つことができるのか、そしてこれまでの物語の中で幾度か描かれてきた想運の過去の姿――今の彼とは異なる人格を持つと思しき姿は何を意味するのか。そしてさらに、彼と同様の体を持つ教経に仕える小姓・菊との関係は――

 この巻の展開を見れば、あるいは現在の想運と明星の姿こそが、重源が目論む計画の中核なのではないか……などとも想像してしまうのですが、それは次の巻でのお楽しみでしょう。


 内容的にはクライマックス突入と思える本作。始まりの地である平泉に向かう想運と明星の前に何が待つのか……それが何であれ、人と仏の善き関係をもたらすものとなることを祈りたい気分であります。


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