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2017.01.31

上田秀人『御広敷用人大奥記録 11 呪詛の文』 ただ一人の少女のために!

 将軍吉宗と大奥のいつ終わるとも知れぬ暗闘に巻き込まれた御広敷用人・水城聡四郎の戦いも11巻目であります。再び江戸に舞台を移しての物語はいよいよヒートアップ、吉宗の周囲に次々と迫る天英院の魔の手に、ついに吉宗が反撃を開始することに――

 前作、前々作での危険だらけの京・尾張への旅から何とか帰着した聡四郎。しかしその間にも大奥を巡る情勢は変化し、没落の兆しが見え始めた天英院は、ついに恐るべき暴挙に出ることになります。

 ある日突然、西の丸で倒れた吉宗の世子・長福丸(後の家重)。医師の診察により、毒が盛られた可能性があることが判明したことから、怒りに燃える吉宗は聡四郎を西の丸大奥差配に任命、大鉈を振るうことを命じます。

 一方、長福丸の安否を気遣い、病の平癒祈願で、自ら寺社に参詣することを望む竹姫。しかし、天英院一派が竹姫追い落としを狙う中、江戸市中に竹姫が出るということは刺客に襲えというようなものであります。
 それは承知の上で、竹姫の吉宗への想いを受け止め、そして何よりも竹姫に外の世界を見せるため、総力を挙げて竹姫の警護に臨むことを決意する聡四郎。

 しかし天英院の陰湿な魔手はなおも姫に迫り、ついに怒りを爆発させた吉宗は、ある切り札を手に、聡四郎とともに天英院と直接対決に臨むことに――


 巻数も二桁となり、いよいよクライマックスも近いと思われる本シリーズ。これまで比較的ゆっくりと展開してきた印象のあるシリーズですが、この巻にきてググッとペースアップしてきました。
 そのためか、尾張に関する因縁など、いささかあっさりすぎる結末を迎えた印象は否めません。しかしそれが気にならないほど、この巻の盛り上がりは凄まじく、そして素晴らしいものがあります。

 天英院のの命で動く(といっても一枚岩ではないのがまた面白いのですが)伊賀の郷忍、さらには伊賀者を捨て刺客人となった宿敵・藤川など、並み居る敵が次から次へと仕掛ける罠もスリリングながら、それを防ぎ、打ち砕いてみせる聡四郎たちの活躍は、これまで溜めがあった分、爽快ですらあります。

 そして溜めがあったといえば吉宗であります。これまで改革の大鉈を振るいながらも、それは聡四郎の手を通してのものでした。
 当たり前といえば当たり前ですが、我が子を、そして愛する女性を幾度も襲う奸計に自ら出陣……と、この辺りの展開(というか吉宗の行動)は乱暴といえば乱暴ではありますが、思わず「待ってました!」と言いたくなるほどであります。


 しかし個人的に本作で最も印象に残った部分、本作ならではの魅力と感じさせられたのは、江戸の町に出ようとする竹姫を守る聡四郎の、仲間たちの想いであります。

 将軍の正室、大奥の主となることも目前となった竹姫。それはこの時代の女性にあっては頂点であり、そして本シリーズはその座を巡る暗闘であったとも言えます。
 しかしそれと引き換えに失われるものもあります。それは自由――彼女はもはや、城の外に出ることは能わなくなるのです。

 その竹姫の、一人の少女の一時の自由を守るために戦う……それ以上に尊く、ヒロイズムを感じさせるものがあるでしょうか。
 聡四郎が、玄馬が、無手斎が、袖が――いわば「チーム水城」と言うべき面々が命を賭ける姿は、こちらの胸を否応なしに熱くしてくれるのです。(そしてその想いを語る無手斎の言葉がまたイイ!)


 そして終盤、天英院が一顧だにしなかった、彼女が虫けら同然に扱ってきた存在によって彼女の地位が覆される展開にも唸らされるのですが、しかし真に驚かされるのはラスト数行であります。

 本作のタイトルの意味が明らかになるそこで描かれたものが、この先どのような意味を持つのか……そしてこの物語と如何に結んでみせるのか。
 いささか気が早いかもしれませんが、本作を読めば、その先を期待したくもなるというものです。


『御広敷用人大奥記録 11 呪詛の文』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
呪詛の文: 御広敷用人 大奥記録(十一)    *12月31日(土)発売 (光文社時代小説文庫)


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 「茶会の乱 御広敷用人大奥記録」 女の城の女たちの合戦
 『操の護り 御広敷用人大奥記録』 走狗の身から抜け出す鍵は
 上田秀人『柳眉の角 御広敷用人大奥記録』 聡四郎、第三の存在に挑むか
 上田秀人『御広敷用人大奥記録 9 典雅の闇』 雲の上と地の底と、二つの闇
 上田秀人『御広敷用人大奥記録 10 情愛の奸』 新たなる秘事と聡四郎の「次」

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2017.01.30

入門者向け時代伝奇小説百選 古典(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、古典の紹介その二であります。
6.『ごろつき船』
7.『美男狩』
8.『髑髏銭』
9.『髑髏検校』
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』

6.『ごろつき船』(大佛次郎)【江戸】 Amazon
 大佛次郎といえば『鞍馬天狗』の生みの親ですが、その作者の伝奇ものの名作が本作――松前藩を牛耳る悪徳商人に家を滅ぼされた大商人の遺児と、彼を守って決死の戦いを繰り広げる人々の姿を描く物語であります。

 本作の魅力の一つは、何よりも松前に始まり、舞台は江戸に、西国に、そして遙か遠く異国まで広がっていくスケールの大きさ。しかしそれ以上に心に残るのは、主人公側の登場人物を次から次へと襲う苦難の運命と、それにも負けぬ善き心の存在であります。
 運命の悪意に翻弄され、世の枠組みからつまはじきにされようとも、善意と希望を捨てず戦い抜く……そんな「ごろつき」たちの勇姿には、心を熱くせずにはいられません。

(その他おすすめ)
『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(大佛次郎) Amazon


7.『美男狩』(野村胡堂)【幕末-明治】 Amazon
 密貿易の咎で獄死した銭屋五兵衛が残した莫大な財宝を巡り、架空・実在の様々な人々の運命が入り乱れ、やがて伊皿子の怪屋敷に習練していく――銭形平次の生みの親である作者が初めて手掛けた時代小説である本作には、時代伝奇の楽しさが横溢しています。

 しかし印象に残るのは何とも不穏なタイトル。実は本作で大活躍するのは不倶戴天の宿敵である二人の美剣士。そしてそこに魔手を伸ばすのが、大の美男好き、それも美男同士の死闘を観るのを愛するという怪屋敷の女主人なのであります。
 そのドキドキするような要素を、「ですます」調の爽やかな文体で、節度を守りつつ描き出し、波瀾万丈の物語として成立させてみせた本作。作者ならではの逸品です。


8.『髑髏銭』(角田喜久雄)【江戸】 Amazon
 今では知名度こそ高くないものの、紛れもなく時代伝奇小説界の巨人と呼ぶべき作者の代表作がこの作品。莫大な財宝の在処を示す八枚の「髑髏銭」を巡り、青年剣士・怪人・大盗・悪女・奸商入り乱れての争奪戦が繰り広げられる本作は、まさに時代伝奇の教科書ともいうべき先品です。
 特に印象的なのは、髑髏銭を求めて跳梁する覆面の怪人・銭酸漿。冷酷で陰惨な殺人鬼のようでありながら、実は悲しい宿命を背負い、人間的な側面を覗かせる彼には、現代においても全く古びない存在感があります。

 推理小説家として知られるだけに、ミステリ的趣向が濃厚なのも作者の時代伝奇の特徴ですが、それは本作も同様。ミステリファンにも読んでいただきたい作品です。

(その他おすすめ)
『妖棋伝』(角田喜久雄) Amazon
『風雲将棋谷』(角田喜久雄) Amazon


9.『髑髏検校』(横溝正史)【怪奇・妖怪】【江戸】 Amazon
 たとえ異国の存在であっても貪欲に取り込んでしまうのが時代伝奇というジャンルですが、異国の妖魔の代表格である吸血鬼が江戸を脅かすのが本作。

 『吸血鬼ドラキュラ』の翻案と言うべき本作は、異境の吸血鬼に囚われた若者の手記に始まり、都で若者の恋人を狙う吸血鬼の跳梁、これに挑む老碩学たちの死闘――と、基本的に原典の展開をなぞっているのですが、それでいて要素の一つ一つが見事に日本のものとして翻案されているのが素晴らしい。

 何よりも、唸らされるのは、ラストで明かされる吸血鬼・不知火検校の正体。終盤の展開がやや駆け足ではありますが、時代伝奇ホラーの名作であることは間違いありません。

(その他おすすめ)
『天動説』(山田正紀) Amazon
『神変稲妻車』(横溝正史) Amazon


10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)【剣豪】【江戸】 Amazon
 古典ジャンルの中で唯一戦後の作品であります。古くは市川雷蔵や田村正和が、近年はGACKTが演じた孤高のヒーローの活躍を描く短編集です。

 異国の転び伴天連と武士の娘の間に生まれたという出生の秘密を背負い、立ち塞がる相手は円月殺法で斬り捨てる異貌の剣士。そんな狂四郎の人物像は今なおインパクトがありますが、しかし本シリーズは、今現在は最終作を除いて絶版という状況。その一方で容易に手に取ることができるのが本書です。

 張り巡らされた陰謀と謎、強敵を斬り払う狂四郎の一刀、むせび泣く女体……眠狂四郎ものの王道を行く表題作をはじめとしてバラエティに飛んだ短編が集められた本書は、眠狂四郎に初めて触れるにも適した一冊でしょう。


(その他おすすめ)
『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎) Amazon
『運命峠』(柴田錬三郎) Amazon


今回紹介した本
ごろつき船 上 (小学館文庫)美男狩(上) 文庫コレクション (大衆文学館)髑髏銭 (春陽文庫)髑髏検校 (角川文庫)新篇 眠狂四郎京洛勝負帖 (集英社文庫)


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 入門者向け時代伝奇小説百選

 大佛次郎『ごろつき船』上巻 悪事を捨て置けぬ男たちの苦闘!
 大佛次郎『ごろつき船』下巻 今立ち上がる一個人(ごろつき)たち!
 「美男狩」 時代伝奇小説の魅力をぎゅっと凝縮
 「髑髏検校」 不死身の不知火、ここに復活
 「眠狂四郎京洛勝負帖」 狂四郎という男を知る入り口として

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2017.01.29

一色美雨季『浄天眼謎とき異聞録 明治つれづれ推理』上巻 彼の孤独感、彼自身の事件

 最近ライト文芸レーベルで非常に多く見かける「○○屋さん」もの。それをまとめてどう呼んだものかと思っていましたが、「お仕事小説」という呼び名があるようです。本作はその「第2回お仕事小説コン」グランプリ受賞作――明治時代を舞台に「浄天眼」の力を持つ青年を中心に描かれる物語であります。

 ある日、知人の警官・相良から、魚目亭燕石なる戯作者の身の回りの世話役となることを頼まれた少年・由之助。
 浅草で人気の芝居小屋・大北座の跡取り息子であるものの、外の世界にも興味を惹かれる年頃の由之助は、好奇心もあってそれを引き受けることになるのですが――

 実は名家の出ながらも実家を飛び出し、女中の千代と静かに暮らすこの燕石、戯作者ではあるものの大変な気分屋で面倒くさがり、そして何よりも引きこもり。
 そんな燕石に手を焼きつつも、何だかんだで楽しく日々を送る由之助ですが、しかし燕石には大変な秘密があったのです。

 それは、彼が「浄天眼」なる能力を持つこと……彼は、人の体を含む物体に触れることでその物が持つ「記憶」を見ることができるという、いわゆるサイコメトリー能力の持ち主だったのです。
 周囲からは厭われ、非常な負担を伴うその力を嫌い、引きこもり生活を送っていた燕石。しかし相良をはじめとして周囲の人間が持ち込んできた事件に巻き込まれ、その力を使うことに――


 という本作、まずこの上巻の時点での正直なところを述べさせていただければ、これはお仕事小説とは違うのでは……という印象は否めません。
 冒頭で述べたお仕事小説コンの開催概要(第1回のものですが)によれば、お仕事小説とは「1.ストーリーの中に何らかの「お仕事」が出てくる作品 2.主人公が何らかの「職業」についている作品」であり、本作をこれに当てはめるのは厳しいと感じます。

 またミステリとして見ても本作は苦しい。何しろ燕石の能力が強力すぎて(過去の映像だけでなく感情なども全て感じてしまう)、真相がほぼダイレクトに判明してしまい、見えたものから何かを推理するという要素がほとんどないのですから。

 こうした点のみを見れば、なかなか苦しいものがある本作ですが……しかしそれだけにとどまるものではありません。
 何よりもまず目を引くのは、登場キャラクターたちの描写でしょう。

 もちろん、その中心となるのは燕石であります。普段は戯作者として飄々と暮らし、年の離れた弟のような由之助をからかっている燕石ですが、しかし彼が背負うのはその浄天眼の力による大いなる孤独感であります。

 常人にはない力を持って生まれたが故に疎外され、孤独を味わう、というのはある意味定番の設定ではありますが、本作はその疎外感、孤独感の描写が面白いと申しましょうか――燕石自身の感情のみならず、いやそれ以上に周囲の人々、それも彼にとっては近しい人々との関係性を以てそれを浮き彫りにしてみせるのはなかなか巧みなところであります。

 そして由之助が、千代が、相良が――それぞれの形で燕石と接する中で、自分自身が抱えたものを浮かび上がらせるのもまたいい。特に、美貌の持ち主にして超有能な女中という千代が抱えた屈託、複雑な想いなどは、実に切なく、胸に残ります。

 しかし個人的にそれ以上に印象に残ったのは、本作のある種の舞台設定と描写の巧みさであります。
 先に述べたとおり、由之助の実家は評判の芝居小屋・大北座。芝居小屋というより、今でいう劇場・劇団のような存在である大北座は数多くの女優を抱えるのですが……本作で折に触れて描かれるのは、その女優とパトロンの「関係」であります。

 今の目で見ると些か感心できぬその「関係」は、どちらかと言えばライトな味わいの本作に生臭さを漂わせる形になっており、読みながら違和感を感じていたのですが……それがまさか物語で大きな意味を持つとは。
 しかもそれが燕石の、由之助の運命に大きく関わり、これまで描かれる事件にはどこか他人事だった彼ら自身の事件として浮かび上がらせる終盤の展開には大いに唸らされた次第です。

 果たして燕石の浄天眼はこの悪因縁を絶つことができるのか、そして彼の孤独は、周囲の人々の屈託は癒されることがあるのか……俄然、下巻も読まねば、という気持ちになっているところです。


『浄天眼謎とき異聞録 明治つれづれ推理』上巻(一色美雨季 マイナビ出版ファン文庫) Amazon
浄天眼謎とき異聞録 上 ~明治つれづれ推理(ミステリー)~ (マイナビ出版ファン文庫)

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2017.01.28

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第2巻 二人の成すべき仕事の意味

 左右の手が逆についた逆手の青年、実は飛騨望月衆の忍びである皆焼と、ある事件から彼と知り合った医師志望の少女・おこたの冒険を描くユニークな忍者ものの続巻であります。望月衆に加わることとなったおこたは皆焼と珍妙な任務に就くのですが、それが思わぬ事件を引き起こすことに……

 医師になることを夢見て中山道を旅する途中のおこたが、悪辣な賊に襲われた際に出会った皆焼。彼は、周囲の人間たちが「もののて」と呼んで一様に嫌悪し、疎外する逆手の持ち主でありました。
 しかし彼の逆手を恐れぬどころか、それに惹かれたおこたが助けを求めたことがきっかけで、(貸しを背負わされた)おこたは彼と旅することになります。

 そして二人が辿り着いた望月衆の里では、皆それぞれに泰平の世の忍びとしてのお仕事(金儲け)に勤しむ毎日。そしてその一員となることを望んだおこたですが――


 というわけでおこたの初仕事となるわけですが、その内容がとんでもない。
 錠前屋からの依頼を受けて、とある町で錠前を売ることとなったおこたは、周囲から引き離されないように互いを手鎖で結んで駆け落ちをする夫婦という触れ込みで、その錠前の頑丈さを宣伝(ステマ)することになったのであります。

 そしてもちろん(?)その相手役は皆焼。かくて四六時中手鎖に繋がれた二人の共同生活が始まることに――
 とくれば、何と言いますか、未成年向けの『剣鬼喇嘛仏』的なエロコメ展開になりそうですが(そして実際のところ結構そういう感じでもあるのですが)、しかし物語は思わぬ方向に転がっていくことになります。

 実は二人が夫婦生活を始めた大田の町は、かつておこたが暮らしていた場所。針子として幽閉同然の暮らしを送っていた彼女は、しかし名門の若君・長雄に見初められ、輿入れすることとなっていたのであります。
 しかし医者になるという夢を諦められなかったおこた。その後の彼女はこれまで描かれたとおりですが、ここで長雄に見つけ出され連れ戻されることになってしまったのです。

 剣の達人である長雄によって手鎖を斬られ、連れ戻されるおこた。彼女の夢に全く理解を示さぬ長雄に、おこたは大切にしていた医学書を燃やされ、そして皆焼も己の忍びとしての役目を嘲られ、ついに剣を以って長雄に対峙することに――


 いやはや、前半である意味いかにも本作らしい、可笑しくも世知辛い「仕事」を巡るコミカルな騒動が展開されていたと思えば、後半で意外にもシリアスかつ重い方向へ展開していったこの巻。
 しかしこの前半と後半には、「仕事」――己のなすべきことに対する、皆焼とおこたの矜持が描かれるという共通点があります。

 大きな戦闘力を持ちつつも、その能力はほとんど必要とされず、事務や営業といった能力を持った面々に比べて低く見られている皆焼。皆焼への借金を返すため、そして自分自身の手で金を稼ぎ、未来の夢である医者を目指すおこた。

 その来し方、そして目指すところは全く異なりますが、しかし二人に共通するのは、それでも己の任せられた任務を最後までやり遂げようとする心であります。
 それは様々な重荷を背負ってきた二人にとって、自分自身の足で立ち、生きていくことと同義なのですから――

 そして二人の前に立ちふさがる長雄は、そんな二人が仕事に向ける想いを理解しない、できない存在として描かれます。
 織田信長の孫(しかも実在の人物)という立場にある長雄にとって、忍びなどは顧みる価値もない存在。そして彼がおこたに向ける想いは本物ではあるものの、しかしそれはあくまでも一方的なもの……彼女の夢もまた、彼にとっては無価値なものでしかないのです。

 もっとも、彼もまた、一族の名が一人歩きする中で、己の居場所と価値を求めてあがく人間であります。(その中で自分を一個の人間として見てくれたおこたを見初めたという設定がまたうまい)
 そこには同情の余地があるのですが、しかし、二人にとっては、物語設定以上に、乗り越えるべき相手として描かれていることは間違いありません。


 脳天気でアバウトなようでいて、その実、意外と骨っぽく、しっかりとしたものを内包している……そんな、主人公たる皆焼同様のものを持つ本作の在り方が見えてきた今、続きが気になる作品です(この巻がまた、イイところで引いていて……)


『もののて 江戸忍稼業』第2巻(宮島礼吏 週刊マガジンKC) Amazon
もののて(2) (講談社コミックス)


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2017.01.27

『風雲ライオン丸』第3話 「火を吹く亀甲車」

 里見城下で蔓延する疫病の特効薬であるモチナシ草を、十五里離れた小沼村から運ぶことになった志乃と三吉。しかしモチナシ草はマントル怪人ドカゲに狙われていた。馬車を走らせる二人に幾度となく襲いかかるドカゲ。二人は豹馬の、獅子丸の助けを借りて先を急ぐが、その前に奇怪な車が――

 馬車(ビックリ号)で旅を続ける志乃と三吉が、途中の小沼村で引き受けることになったのは、村でしか生えないモチナシ草という薬草の輸送。疫病に苦しむ里見城下の人々のため、この薬草を運ぶことになったのですが……しかしそれを奪うべく命を受けたドカゲと配下の地虫忍者が二人を追います。
 途中、草むらに怪しげな岩を見かけた三吉が訝しむ一方で、突然車輪が止まってしまった馬車。志乃が下を覗き込んでみれば、地中から突き出た何本もの腕が車輪を捕らえているではありませんか。

 もちろん地虫の仕業ですが、ホラー的な演出の間に志乃が慌てて馬車を走らせたために置いて行かれることに。と、怒ったドカゲはマントルの掟と称して地虫を一列に並べると、先頭の一人以外が刀を掲げて……と、その後ろの地虫が前の者を斬り、次はその後ろが前を、と繰り返して最後はドカゲが最後の地虫を斬るという、狂気の総括であります。

 そんな間も馬車を走らせる志乃ですが、そこに待ち構えていた地虫の群れが再び襲撃。と、そこに駆けつけた獅子丸が地虫を蹴散らす間に逃れた二人は、敵を撒くために街道を外れ、川沿いの道を行くことになります。しかし、普通の道ですら危なっかしい馬車ですから、岩だらけの河原を走るのは危険極まりない。案の定、大切なモチナシ草の包みが幾つも川に流され、うち一つは手の届かないところに……元気な三吉もさすがに落ち込んで涙がポロリ。それでも志乃の優しい励ましを受けて立ち上がった三吉ですが――

 そんな間に馬車を奪って駆け抜けていくドカゲ。慌てて追いかける二人ですが、再び駆けつけた獅子丸は地虫を倒すと、ドカゲを引きつけて去って行きます。
 しかしなおも追いすがる地虫。密かに三吉が作っていた竹製のランチャーで目潰し弾を打って地虫を撃退していくものの、多勢に無勢、二人とも馬車から引きずり出されて……というところに響き渡る朗らかな若い声。偶然居合わせた豹馬が、退屈しのぎと二人の救援に駆けつけたのです。前回とは違う変身フォーム(しかし途中の微妙なメイクは変わらず)でブラックジャガーに変身し、地虫を蹴散らす豹馬。と、積み荷がモチナシ草と知った彼は金儲けのチャンスを目を輝かせますが、二人が人助けのために働いていると知り、つまらんと去っていくのでした。ちゃっかり今回のことは貸しにしておくと言い残して。

 さて、ようやく里見城下まであとわずかまで来たところで、再び現れた謎の岩。あからさまに周囲から浮いたその姿を怪しむ三吉の前で現れたその正体は――マントル一族の秘密兵器・亀甲車、いわば装甲車であります。そのデザインは亀というよりネズミとアルマジロとカタツムリを足してどうにかしたような不思議な外観ですが、しかし突き出した砲台から次々と放たれる爆裂弾は、この時代特有の本気の爆発連打で馬車を追い詰めます。
 そこに三度駆けつけたのは獅子丸! 二人をかばった獅子丸は、放たれた爆裂弾を拾い上げると爆発前に投げつけ、亀甲車を沈黙させると、残るドカゲと地虫に対し、ライオン丸に変身して立ち向かいます。

 しかし何故かドカゲが額につけている鏡に、殺気マンマンのライオン丸の顔が映る演出はいいのですがドカゲの実力はいまいち。剣を跳ね飛ばされ、ライオン丸が拾えと言っている隙に、左腕につけていた鈍器状の装甲を取り外して投げつけるのですが……爆弾となっている先端も効かず、下の部分を輪投げの要領で投げてライオン丸の刀を封じようとしても投げ返され……ライオン風返しで爆破されるのでした。
 そして志乃と三吉は無事に里見城下に到着し、獅子丸は二人と別れ、相変わらずの硬い表情で再びマントルを探す旅に――


 本作の特徴であるウェスタン風味が全面に押し出された今回、馬車という時代劇では実は珍しい乗り物を使ったチェイスというのはなかなか面白いアイディアだと思います(豹馬のキャラが出ているのも楽しい)
 ただ、志乃は基本的に猪突猛進(迂回路は使いましたが……)なので攻防戦としての楽しさに乏しかったのがちと残念。タイトルに登場する亀甲車も、もう少しケレン味を持たせればいいのに……とは思います。


今回のマントル怪人
ドカゲ

 モチナシ草を狙って志乃と三吉を追うトカゲの怪人。片腕を覆う防具は取り外し可能で、先端は爆弾になっている。亀甲車と連携して二人を襲うがライオン丸に一蹴される。長い尻尾を持つが特に意味はなかった。


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2017.01.26

北方謙三『岳飛伝 一 三霊の章』 国を壊し、国を造り、そして国を……

 ついに北方謙三の大水滸伝の第三部『岳飛伝』の文庫化がスタートしました。実に1999年から始まったこの大河ロマンもついに完結編に突入であります。楊令を失った梁山泊は再び立ち上がれるのか、そしてそれぞれに激流の最中にある金は、南宋の運命は――

 兀朮の奇襲を跳ね返し、岳飛を圧倒的な力で追い詰めつつも、思わぬ刺客の刃に斃れた楊令。楊令が心血を注いだ自由市場も大洪水により多大な被害を受け、梁山泊は計り知れないほど大きな打撃を受けることに――

 物語はそんな『楊令伝』の結末から半年後の時点から始まります。

 呉用の策により水は引き、少しずつ復興を続ける梁山泊。しかし楊令という指導者を喪った梁山泊では指示を出す者がおらず、梁山泊軍もその力を保ちつつも、誰と戦うべきかを決めることができず、宙に浮いたような状態に置かれることに。

 一方、楊令の不意の死により辛うじて命を拾い、敗北感に苛まれながらも軍を再編し、金の来襲に備える岳飛。そしてやはり楊令に大敗を喫した兀朮も、長き苦しみの末にようやくそれを乗り越え、金軍を掌握して南宋を窺います。

 さらにかつては青蓮寺の李富と結んだ秦檜も、南宋を再興し、再び中華に統一国家を打ち立てるために活動を始め……と、四者四様にこれまで受けた打撃からようやく立ち直り、明日に向けて動き出す姿が、この巻では描かれることとなります。

 しかし、その中でも中心に描かれ、そしてその動向が最も気になるのは、梁山泊であることは言うまでもありません。

 前作ラストであれほどの大打撃を受け、それでもその地力自体は決して失われたわけではない梁山泊。しかし新たに頭領に選ばれた呉用は統一した戦略を打ち出すことなく、構成員一人一人が、自分の考えで動くことを求めるのであります。
(その結果、それぞれの軍が統一的に動かぬまま金軍と戦う梁山泊軍、というなかなか珍しいものが描かれることに……)

 それは、楊令という偉大なリーダーに全てを背負わせ、結果として彼を追い詰めてしまったという反省によるものではあるでしょう。
 しかし同時に、梁山泊が国として……あるいはもっと別の運動体として立ち上がるために、これまでにない存在として動き出すために必要な産みの苦しみであると言うべきなのかもしれません。

 だとすれば、その中で――この巻ではまだその萌芽ではあるものの――新しい動きを始めたのが、最初の梁山泊が誕生した頃にはまだこの世に生も受けていなかった二世世代の若者たちであったのは、むしろ必然だというべきでしょう。
 その一方で、その彼らの姿を見つめる老いた者たち、この巻においては李俊などの姿にも、胸を打たれるのです


 そしてそれは「物語の裾野」とでも言うべきものがさらに広がっていくということですが……しかしその一方でその裾野が広がりすぎている、という印象があるのも事実です。

 今後、梁山泊・岳家軍・金・南宋と、単純に考えても四つの大きな勢力が登場する中で、タイトルロールたる岳飛がどこまで存在感を示すことができるのか……少なくともこの巻においては、完全に梁山泊に押されている印象であります。
 あるいは彼がそれを覆した時こそが、真に楊令の影から抜けだしたということなのではないか……というのは、いささか文学的に考えすぎかもしれませんが。


 何はともあれ、最後の物語は始まりました。『水滸伝』が「国を壊す物語」、『楊令伝』が「国を造る物語」であったとすれば、本作は何を描くことになるのか――
 「盡忠報国」を背負った岳飛がタイトルロールであることを考えれば、それは「国を守る物語」であるのかもしれませんが、いずれにせよ念頭に置くべきは、彼にとっての「国」は、「民」であるということでしょう。

 そしてその「国」という概念は、先に挙げた四つの勢力、いやそれを構成するそれぞれによっても異なるものでしょう。
 だとすれば、本作で描かれるのはより根源的なもの、「国(とは何か)を問う物語」になるのではないか……そう感じます。

 その第一印象が合っているか否かも含め、この物語で何が描かれることになるのか、物語の始まりに胸が高鳴ります。


『岳飛伝 一 三霊の章』(北方謙三 集英社文庫) Amazon
岳飛伝 1 三霊の章 (集英社文庫)


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2017.01.25

芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 拾遺 追憶の翰』 この世の理不尽に足掻く者たち

 江戸を、各地を騒がす怪異との戦いの果てに、浅間山大噴火の百鬼夜行の中で姿を消した素浪人・榊半四郎と聊異斎、捨吉。果たして彼らはどこに消えたのか……本シリーズもこれで最終巻ですが、本作はここに少々意外な形で結末を迎えることとなります。

 配下の妖忍たちを操って浅間山大噴火を目論む松平定信、それを阻もうと手勢を繰り出す田沼意次一派――様々な勢力が入り乱れる中に奔走した半四郎、聊異斎、捨吉の戦いの甲斐あってか大噴火は多大な被害を与えたものの、致命的な結果とはならず終わったのですが……しかし三人はその混乱の中で姿を消すことになります。
 そしてその後の彼ら三人の運命は……誰もが気になるその問いに、本作はいささか変わった形で答えを示すのです。

 シリーズ第4巻での出来事において火盗改に目をつけられ、江戸を離れて各地を巡ることとなった半四郎ら三人。その模様は軽く第5巻において触れられました。
 本作に収録された全四話のうち、掌編ともいうべき第三話を除く三つの物語で描かれるのは、その旅の中で彼らが遭遇した怪異の物語なのです。

 房総に向かった三人が、ある特定の網元の舟のみが嵐に襲われ遭難していくという怪事の影に、不幸な運命に見舞われた網子の存在を知る第一話「海霊」。
 土地の神に生け贄の娘を捧げて山中深くの平家の落人部落で、暴走を始めた奇怪な神の猛威に半四郎が孤剣を以て挑む第二話「異神」。
 山中で行方不明となり、三年の間異界で暮らしていたという座敷牢の中の若者と半四郎たちが出会う第四話「桃源郷」。

 この三話で描かれるのは、これまでシリーズで描かれてきたものと同様、由来も姿形も力も、それぞれ全く異なる、そして何よりも本作ならではの個性的な怪異の数々。
 その前において、半四郎たちが時に怪異に抗する者となり、時に傍観者となるのもまた、これまでと同様であります。

 そして残る第三話において、我々が最も気になっていたその後の江戸の姿が語られることになります。ただ一人江戸に残された愛崎同心が、噴火後に発生した大飢饉の余波による一揆の中で見たもの、それは――


 このような最終巻のエピソードの配置に、疑問を感じる方も少なくないかもしれません。本来であれば時系列的に一番後となる第三話、このエピソードこそが本作の最後に配置されるべきではないか……と。
 そして同時に、ここで描かれたその後の物語に、すっきりしないものを感じる方も多いのではないでしょうか。さらに言えば、本作に収められた他のエピソードが、過去の語られざる物語であることにも。

 この点については、あくまでも想像するしかないのですが、これも一つの結末の形である……ということは間違いなく言えるでしょう。
 大噴火の百鬼夜行の果てに、半四郎たちがどこに消えたのか。いかなる運命を辿ったのか。真実がいかなるものであれ、世界のその後の運命は第三話のとおりであり、そして半四郎たちのその後の運命は、第四話の結末に暗示されたとおりなのだと。

 そして本作の前半の二つの物語に、最終巻としての意義を見出すとすれば、それはその怪異の背後に、ある種の「理不尽」の存在を描いたことではないでしょうか。
 あるいは人の世の悪意がもたらしたもの、あるいは人知を超えた怪異がもたらしたものという違いはありますが、これらの物語で人々を苦しめるのは、まさしく理不尽としか言いようのない運命なのであります。

 思えば本シリーズにおいて描かれてきた物語の数々に通底するのは、この「理不尽」の存在でした。
 様々な超自然の怪異に苦しめられる人々だけではありません。悪政に、災害に、そして人の悪意に苦しめられる人々――本作に登場する人々の多くは、自身に責任のない理不尽な出来事に苦しめられてきたのです。

 しかし同時に本シリーズは、その理不尽を描くだけのものではありません。運命の悪意に負けることなく必死に「足掻く」者、そしてそれを助け、見守る者をまた、本作は描いてきました。そしてその代表が、自身も理不尽な運命に翻弄され続けてきた半四郎であることは言うまでもありません。

 本作で描かれたとおり、過去にも、現在にも、未来にも理不尽は存在します。しかしそれだけではない、それに挑む者が、それを助ける者が必ずいる……本シリーズはその姿を描くものではなかったでしょうか。
 本作は、それを我々に改めて提示してみせたように感じるのです。


『素浪人半四郎百鬼夜行 拾遺 追憶の翰』(芝村凉也 講談社文庫) Amazon
素浪人半四郎百鬼夜行(拾遺) 追憶の翰 (講談社文庫)


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 『蛇変化の淫 素浪人半四郎百鬼夜行』 繋がる蛇と龍の怪異譚の陰にあるもの
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 零 狐嫁の列』 怪異と共に歩む青春記
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 四 怨鬼の執』 人の想いが生む怪異に挑む剣
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 五 夢告の訣れ』 新たなる魔の出現、そして次章へ
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 六 孤闘の寂』 新章突入、巨大な魔の胎動
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 七 邂逅の紅蓮』 嵐の前の静けさからの大爆発
 芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 八 終焉の百鬼行』 そして苦闘の旅路の果てに待つもの

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2017.01.24

入門者向け時代伝奇小説百選 古典(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、古典でチョイスしたのは、基本的に戦前の作品を中心とした十作品。70年以上前の作品だからと言っても古臭さとは無縁の作品の数々、これぞ時代伝奇、と呼ぶべき定番の名作群です。
1.『神州纐纈城』
2.『鳴門秘帖』
3.『青蛙堂鬼談』
4.『丹下左膳』
5.『砂絵呪縛』

【古典】
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)【戦国】 Amazon
 記念すべき第一作目は、鬼才・国枝史郎の代表作にして時代伝奇小説史上に燦然と輝く作品であります。

 捕らえた人間の生き血を絞って美しい真紅の布を染めるという纐纈城。富士山麓に潜むその伝説の城を巡り、業病に犯された仮面の城主、若侍、殺人鬼、面作りの美女、薬師、剣聖、聖者……
 様々な人々が織りなす物語は、血腥く恐ろしいものではありますが、しかしその中で描かれる人間の業は、不思議な荘厳さ、美しさを持ちます。

 実は未完ではありますが、それが瑕疵になるどころかむしろ魅力にすらなる本作。今なお語り継がれ、消えては復活する、まさしく不滅の名作であります。

(その他おすすめ)
『八ヶ嶽の魔神』(国枝史郎) Amazon


2.『鳴門秘帖』(吉川英治)【江戸】 Amazon
 国民的作家・吉川英治は、その作家活動の初期に幾つもの優れた伝奇小説を残しています。その中でも代表作と言うべきは、外界と隔絶された阿波国を舞台に、阿波蜂須賀家の謀叛の秘密を巡る冒険が繰り広げられる本作であります。

 水際だった美青年ぶりを見せる主人公・法月弦之丞をはじめとして、怪剣士・お十夜孫兵衛、海千山千の女掏摸・見返りお綱など、個性的で魅力的な面々が入り乱れての大活劇は、まさしく伝奇ものの醍醐味を結集したというべき物語。
 そして、波瀾万丈の活劇に留まらず、その中で登場人物たちの情を細やかに描き出してみせるのは、さすがは、と言うべきでしょう。

(その他おすすめ)
『神州天馬侠』(吉川英治) Amazon
『江戸城心中』(吉川英治) Amazon


3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)【怪奇・妖怪】【江戸】【幕末・明治】 Amazon
 捕物帳第一号たる『半七捕物帳』の作者である岡本綺堂は、同時に稀代の怪談の名手でもあります。本作はその綺堂怪談の代表作――ある雪の夜に好事家たちが集まっての怪談会というスタイルで語られる、十二の怪談が収められた怪談集なのです。

 利根の河岸に立つ座頭の復讐、夜ごと目を光らせる猿の面、男を狂わせる吸血の美少女……「第○の男(女)は語る」という形で語り起こされる怪談の数々は、舞台も時代も内容もそれぞれ全く異なりつつも、どれも興趣に富んだ名品揃い。
 背後の因縁全てを語らず、怪異という現象そのものを取り出して並べてみせるその語り口は、全く古びることのないものとして、今なおこちらの心を捕らえ、震わせるのです。

(その他おすすめ)
『三浦老人昔話』(岡本綺堂) Amazon
『影を踏まれた女』(岡本綺堂) Amazon


4.『丹下左膳』(林不忘)【剣豪】【江戸】 Amazon
 隻眼隻腕の怪剣士、丹下左膳。元々は「新版大岡政談」(現『丹下左膳 乾雲坤竜の巻』)に敵役として登場した彼は、しかしそのキャラクターが大受けして続編ではヒーローとなった変わり種であります。

 ここでオススメするのは、その続編たる『こけ猿の巻』『日光の巻』。その特異な風貌はそのままに、より人間臭い存在となった左膳は、莫大な財宝の在処を秘めたこけ猿の壷争奪戦や柳生家の御家騒動という物語を、カラリと明るい陽性のものに変えてしまうパワーを持っています。
 何よりもスラップスティック・コメディ調の味付けが、到底戦前の作品とは思えぬモダンな空気を漂わせていて、これはもう他の作者・他の作品では味わえぬ妙味なのです。


5.『砂絵呪縛』(土師清二) Amazon
 第六代将軍擁立を巡り、柳沢吉保の配下・柳影組と、水戸光圀を後ろ盾とする間部詮房の組織する天目党の暗闘を描く本作は、典型的な時代活劇のようでいて、ある一点でもってそこから大きく踏み出してみせた作品であります。

 その一点とは、この二つの勢力の争いに割って入る浪人・森尾重四郎の存在。
 時代小説には決して珍しくはないニヒルな人斬り剣士である彼は、しかし、そのニヒルである理由……行動原理や主義主張というものが全く見えない(それでいて決して木偶人形でもない)、極めてユニークな存在なのです。

 オールドファッションな物語を描きつつ、真に虚無的な存在を織り交ぜることで、今なお「新しい」作品であります。



今回紹介した本
神州纐纈城 (大衆文学館)鳴門秘帖(一) (吉川英治歴史時代文庫)青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)丹下左膳(一)(新潮文庫)砂絵呪縛(上) 文庫コレクション (大衆文学館)


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 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について

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2017.01.23

入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『曽呂利!』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『大江戸剣聖一心斎』(高橋三千綱)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
87.『警視庁草紙』(山田風太郎)
88.『西郷盗撮』(風野真知雄)
89.『明治剣狼伝』(新美健)
90.『箱館売ります』(富樫倫太郎)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『源平の風』(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と運命の書』(渡辺仙州)



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2017.01.23

殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第1 若者たちを繋ぐ剣と食

 新撰組を描いた漫画はこれまで枚挙に暇がありませんが、そこにまた一作が、それも非常にユニークな作品が加わりました。山口一(斎藤一)と沖田宗次郎(沖田総司)の視点から、「食」を通じて新撰組を描く、一味も二味も違う物語であります。

 物語の始まりは、山口一が江戸の貧乏道場・試衛館に出入りしていた頃。年が近いせいか何かと絡んでくるものの、性格も食べ物の好みも正反対の宗次郎と何となく日々を過ごしている一は、落ち込んでいるという近藤勇のために一肌脱ぐことになります。

 念願であった幕府の武術指南所である講武所の教授方に内定した勇。しかし出身が農民であったことから内定を取り消された彼は、今でいうノイローゼのような状態で、食も細ってしまったというのです。
 勇の力になりたいという宗次郎に付き合って、勇でも食べられる料理を探す一は「玉子ふわふわ」という料理を見つけるのですが――


 という第1話から始まり、本作の各話のタイトルとなっているのは「とろ飯と納豆汁」「にら粥」「桜もち」「おにぎり」と、作中に登場する食べ物の名前。
 この食べ物に、良くも悪くも高級感がないのは、この時代の彼らのステータスを表しているようで何とも微笑ましく、そして物語の方も、どこかほのぼのしたムードが漂うのですが……しかし本作は決してそれだけで終わるものではありません。

 上で触れたとおり、第1話で描かれているのは、身分に翻弄される近藤勇の姿。そしてそれ以降のエピソードで陰に陽に描かれるのも、まだ何者にもなれない一や宗次郎、試衛館の若者たちの悩める姿なのです。

 その代表となるのが、本作の主人公たる一と宗次郎であることは言うまでもありません。
 彼ら二人は、どちらも歴とした武士の出身ですが、しかしどちらも家督を継げるわけでもなく、片や家の厄介者、片や外に養子を出され……と、ままならぬ日常を抱えているのであります。

 己がこの家に、この世に不要な人間なのではないか? 若き日々にそんな想いを抱えるほど哀しく辛いことはないでしょう。
 そんな若者たちが繋がり合う糸の一つが「剣」……というのは普通の新撰組ものですが、しかし本作においてはもう一つの糸として「食」が描かれるのが、何よりの特徴であり、魅力なのです。

 これは一見突飛なようですが、しかしまさしく「同じ釜の飯を食う」仲だったのが試衛館の仲間たち――といっても一はそこから少し外れているわけですが、しかしその関係も物語の中に取り込まれているのがまた何ともうまい――であります。

 そんな彼らが食べるものが物語の軸となるのは、実は理にかなっているように感じられます。
 少なくとも、その剣を――己の生を守るために――振るったことがきっかけで全てを失いかけた一に対し、彼を仲間たちと繋ぎ止めたか細い糸が食であったことを考えれば――

 この先、食と剣が如何に孤独な若者たちを繋げ、そして新撰組を生み出すのか……温かい中に、時々ドキリとする苦い隠し味を忍ばせた、何とも味わい深い物語の始まりであります。


 ちなみに本作のタイトルの一部となっており、そして第5話の前半部分の初出時のサブタイトルとなっていたのが「だんだら」。
 新撰組で「だんだら」と言えば、言うまでもなく連想されるのはあの隊服ですが、ここでは当時下級な魚の扱いであった、そして今ではそれとは正反対の扱いである、マグロの大トロのことを指します。

 この辺りも、この第1巻の時点の姿と、後の彼らの姿との違いを感じさせて心憎いところではありませんか。


『だんだらごはん』第1巻(殿ヶ谷美由記 講談社KCxARIA) Amazon
だんだらごはん(1) (KCx)

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2017.01.22

東村アキコ『雪花の虎』第4巻 去りゆく兄と、ライバルとの(とんでもない)出会いと

 今年の大河ドラマは女城主の物語ですが、それは本作の方が先んじている……というのは大げさではありますが、しかし着実に面白い女謙信物語、早くも第4巻に突入であります。互いを支え合い、想い合っているにも関わらず、周囲の思惑から対峙することとなった景虎と晴景の運命は――

 武将として初陣以来圧倒的な力を振るい、長尾家の当主たる兄・晴景を支えるために奮闘してきた景虎。しかし皮肉にもその強さが柔弱な晴景に不満を抱く国人衆を惹きつけ、越後は晴景派と景虎派に二分されることとなります。
 かくて描かれるのは、この戦国時代には無数に存在した、血を分けた者同士が国を、家を巡って争う騒動――

 ということには簡単にはならないのが本作。これが男同士であればわかりませんが、本作の晴景と景虎は、互いを害する気などない兄妹なのですから。
 とはいえ、時に主君の思惑などは無視して突き進むのが(戦国時代の)家臣というもの。下の者が暴発して暗殺などの手段に走らぬよう、晴景は形だけの挙兵をすることになります。

 そんな二人の計らいにより、すべてが丸く収まるかに見えたこの対立ですが、しかし思わぬ悲劇が――


 景虎を主人公として中心に置きつつも、同時に彼女が属する、彼女を支え、彼女が支える家族という存在をこれまで陰に日に描いてきた本作。この巻の前半においては、その構図に一つの結末が描かれることになります。
 そしてそこで、ある意味景虎以上に存在感を以て描かれるのが晴景であります。

 謙信を描く従来の物語では、暗君として描かれてきた印象のある晴景ですが、本作の晴景は、冒頭から一貫して、それとはひと味違う描かれ方をされてきました。

 武将としては力不足であり、景虎には様々な点で遠く及ばぬものの、それでも血の通った一個の人間として、時に景虎以上に親しみのある存在であった晴景。
 その彼がついに表舞台を退く姿には、何ともやるせなく、「現実」の苦さを感じさせるのですが……しかし同時に、一つの小さな希望、赦しという名のそれをさらりと描いてみせるのが、また心憎いところであります。

(それにしても、傷は最小限となったとはいえ、辛い選択を強いられた景虎に対して、特大のフラグを立てる宗謙よう……!)


 さて、何はともあれ新たなステージに入った物語ですが、この巻の後半で描かれるのは、景虎の終生のライバルというべき武田晴信の存在であります。

 彼女とは異なる形とはいえ、骨肉の争いを経て当主となった晴信。この時点では村上義清を相手に、生涯初の敗北(戸石崩れ)を喫した彼ではありますが、それでも景虎にとっては最も警戒すべき存在であることは言うまでもありません。
 かくて、北信濃にしばらく残り、戦の傷を癒しているという晴信という男を探るため、ごくわずかの手勢を連れ、「女装」して偵察に向かう景虎ですが――

 というわけで、かなり重く、またそれなりに史実に沿った形であった前半部分に対し、後半の物語は思わぬハジけ方をすることになります。
 ある意味、本作が始まった時から最も気になっていた、景虎と晴信の対峙。それが全く思わぬ形で――いや、もしかしてこれやるのかな、本当にやるのかな……やっぱりやった! 的な展開で描いてみせるのですから、やはり本作は面白い。

 この辺りを、えいやっとやってしまうのは、本作の、本作の作者の良い意味での軽さというべきでしょう。真面目な方は眉を顰めるかもしれませんが、本作の設定であればこれはアリ、というよりやるべき展開でしょう。
 もっとも、これがこの先どう物語に、歴史に絡んでくるのか、さっぱりわからないのも事実ですが……


 何はともあれ、いよいよ戦うべき外敵としての武田晴信が現れた本作。
 景虎の影武者(候補の青年)・シロとその妹・麦という新キャラの存在も楽しく、特にほとんど景虎のファン……というより信者な麦のキャラクターなど、本作ならではのもので、この先の展開も楽しみになるというものです。


『雪花の虎』第4巻(東村アキコ 小学館ビッグコミックススペシャル) Amazon
雪花の虎 4 (ビッグコミックススペシャル)


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2017.01.21

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第3巻 吸血鬼を狩る者、その名は……

 タイムスリップした女子高生が織田信長と出会って……まではよくある話。しかしその信長が吸血鬼になってしまってさあ大変、色々と奇想天外な物語も早くも第3巻であります。この巻では信長を吸血鬼とした三好長慶の子供たちが次々と何者かに暗殺されていくのですが、その犯人は――

 戦国時代にタイムスリップしたところを、吸血鬼の王たる三好長慶に庇護された女子高生・ひさき。そのひさきと出会ったことがきっかけで、刺客に襲われて瀕死となった信長が、長慶の手で吸血鬼として復活することになります。
 吸血鬼として手にした瞬間移動能力により、桶狭間で今川義元を討った信長ですが、藤吉郎が吸血鬼の宿敵の人狼に襲われて人狼化、利家も深手を負って信長によって吸血鬼化という混沌とした状態に。

 さらにひさきは長慶により行方不明中の松永久秀の名を与えられ(!)、そして彼女の幼なじみであり、一緒にタイムスリップしてしまった歴史オタクの少年・はじめは、暗殺された松平元康と瓜二つだったことからその替え玉となって――

 と、こうしてまとめてみると本当に大変な状況ですが、この巻ではさらに混沌とした状況になっていくことになります。

 長慶の子、実は長慶を三好一族に迎え入れた元長の子である義興、三好実休、安宅冬康、十河一存ら(この辺り、史実を知っていると本当にややこしい……)を何者かが襲撃。やはり吸血鬼である一存、実休が次々と討たれてしまうのです。

 その刺客、無精髭がダンディな謎の男の正体は、分かる人には一目瞭然ですが真の松永久秀。
 魔物ハンターの一族(!)の出身ながら、弟の長頼ともども長慶に惹かれ、仕えてきたはずの男が一体何故……ということで、にわかに血なまぐさい状況となるひさきの周囲なのですが――

 しかしそんな状況下で男どもがやらかすのがひさき争奪戦というのがある意味すごい。信長が、長頼が、元康(はじめ)が、彼女(久秀と書くとさらに大変)を巡って争うのには、君たち中学生か! と突っ込みたくなりますが、ひさき自身がそんな彼らをと一喝するのが妙におかしい。
 「すぐ好きとか嫌いとか今そういう時代じゃない!! 戦国時代ですよ!」という彼女のセリフは、全くもってごもっとも! と頷くしかないのであります。

 この辺りに見られるように、ある意味一番腹が据わっているのは彼女というのがなんとも面白い本作。
 この三好三兄弟が次々と討たれ、長慶が、義興が姿を消す(本作においては死んではおらず、また別の名で現れることがほのめかされているのがまた興味深いのですが)中、せめて三好家を支えるために久秀としてできることをしようとする彼女の姿には、それなりに好感が持てます。
(そしてそれをはじめが歴史オタの知識でバックアップするというのも楽しい)

 ただし、三好家が中心となっているこの物語展開に、信長たちを絡ませるのが史実云々以前にかなり苦しくなっていると感じられるのもまた事実。
 もう信長は置いておいて、三好家と松永久秀・長頼を中心にした物語の方が面白いのではないかな、という印象も、正直なところありますあります(この巻の三分の一近くを、彼らの過去を中心とした番外編が占めているのもまたそれを強めます)。

 この辺りは色々と盛り沢山という本作の特徴が、ちょっとネガティブな方向に転んでしまったという印象は否めないのですが……しかし史実においても、久秀と信長の運命が交わる時は遠くはありません。
 そこに至るまでにひさきが何を見ることになるのか、信長がどのような道を歩むことになるのか。

 物語が奇想天外であればあるほど、史実をこう料理してきたか、とニヤニヤさせられる……いささかひねくれた見方ではありますが、そんな楽しさがある作品であります。

(しかし、この巻の時点で史実ではすでに桶狭間から4,5年経っているわけで、すでに女子高生と呼ぶには苦しくなっているのには……目を瞑りましょう)


『戦国ヴァンプ』第3巻(ほおのきソラ 講談社KCx(ARIA)) Amazon
戦国ヴァンプ(3) (KCx)


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2017.01.20

『風雲ライオン丸』 第2話「荒野を走る黒豹」

 バラチの卑劣な罠にはまった獅子丸を助ける謎の青年剣士・黒影豹馬。一方、父の友人であったという百草寺の住職を訪ねる志乃と三吉だが、バラチは住職が対マントル一族のために蓄えていた軍資金を狙っていた。捕らえられ、窮地に陥った三人のもとに、豹馬が、獅子丸が駆けつける。

 冒頭、川辺で馬に水を飲ませながら自分は鶏もも肉にかぶりつく謎の深編笠。そこに現れた三人の破落戸は、大胆に深編笠の馬を奪おうとするのですが……散々挑発してきた相手を一瞬のうちに倒したその素顔は、総髪白面の青年でありました。

 一方、厳しい表情で旅を続ける獅子丸は、路傍に転がされたバラの花が突き刺さった死体に顔色一つ変えることなく、マントル一族の存在を感じ取ります。そしてその前に現れたのは、バラ+イタチという意表をついたモチーフの怪人・バラチ……いかにも強者めいた口調ですが、獅子丸にライフルをつきつけ、「飛び道具には敵うまい」とそのまま射殺しようとするかなりの卑怯者であります。
 しかし獅子丸はそのバラの花を打ち出す攻撃をマントで受け止め、バラチと対決するのですが……しかしどこまでも卑怯なのか、崖の上に地虫忍者を伏せていたバラチ。上から転がす岩に撹乱され、腕に矢を受けた獅子丸は、それでもライオン丸に変身、今度こそバラチと対決……と思ったらまだ上には伏兵が!

 ここまで来るとむしろ獅子丸が迂闊すぎる気もしますが、しかし彼が気づかぬ間に、地虫は導火線式のバズーカというとんでもない火器で彼に狙いを……と思いきや、その邪魔をしたのは先ほどの青年剣士。地虫を一掃され、形勢不利と見たかバラチが去った後、剣士は黒影豹馬と名乗り、獅子丸の腕が治ったら決闘しようと一方的に語って去るのでした。
 そして一人旅を続ける獅子丸は志乃と三吉に再会。行方不明の父の知り合いだという百草寺の住職を訪ねるという二人と野宿する獅子丸ですが、翌朝早くには別れも告げず、さっさと近くにあるマントル一族の陣地を求めて去ってしまいます。
(ここで志乃がギターっぽい楽器をかき鳴らしながら歌う「志乃の数え唄」が結構イイ)

 さて、百草寺を尋ねた二人ですが、住職は父の行方は知らないとのこと。一方、獅子丸に興味を示した住職は、マントル一族の脅威から人類を守るためには彼のような人間を集めて軍団を作ることが必要と、仏門の人間とは思えぬ発言をいたします。しかもそのための軍資金まで溜め込んでいるというのですが……そこに現れたのはバラチ。
 慌ててすっとぼける住職ですが、バラチの目的はその軍資金。住職を捕らえて鐘の中に立たせ、そのまま鐘をゴンゴン突くという、絵的には間が抜けているものの実際にやられたらかなりキツそうな拷問で痛めつけます。それには毅然と耐えた住職ですが、三吉が鞭打たれ、さらに志乃までも……となっては堪えられず、軍資金の場所に案内することを誓うのでした(ここで住職が見せる打ちひしがれた眼差しがイイというかイヤというか)。

 そしてついに掘り出されてしまった軍資金の櫃ですが……そこに突如踊り込んできたのは豹馬。抜いた刀をブンブンと回転させるポーズから微妙なメイクを経て、その名の通りのブラックジャガーに変身! さらに地虫を痛めつけてバラチの行き先を聞き出した獅子丸も駆けつけてロケット変身、ライオン&ジャガーとバラチ一味の決戦が始まります。
 自分の体を巨大な火の玉に変えて体当たりする火炎変化を繰り出すバラチ。しかし大してダメージを受けないライオン丸は、(今回もちょっと微妙な吊りの)空中戦の末、バラチを斬って落とすのですが……バラチが落ちたのは軍資金の櫃の上であります。あ、もしかして……とこちらの嫌な予感は当たり、そのままライオン風返しでバラチを爆破する獅子丸。その後軍資金のことは全く話が出なかったことを思うと――

 そして戦い終わり、獅子丸との決闘を望む豹馬。遊びじゃないと言われて真剣だ! と刀を抜くのはギャグかと思いましたが、相手にせず、馬に飛び乗ると去っていく獅子丸。そして志乃も、こんな連中と関わっていると命がいくつあっても足りないと言って別に去り、どこまでもドライな幕切れであります。


 ブラックジャガーの初登場以上に、バラチの卑怯っぷりが印象に残った今回。もう一つ印象に残ったのは、モブかと思いきや結構大きなことを考えていた(しかしその後活かされることはなかった)住職ですが……その後語られる志乃たちの父の素性を考えれば、なかなかドラマが感じられます。


今回のマントル怪人
バラチ

 バラを打ち出す銃と、斧に変化する槍を武器とする怪人。自らを巨大な火の玉に変えるバラチ火炎変化も使う。百草寺の住職が蓄えた軍資金を狙うが、獅子丸にあっさり倒される。大物めいた口調だがやることは卑怯。


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 『風雲ライオン丸』 第1話「飛び出せ弾丸変身!」

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2017.01.19

2月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 楽しかった冬休みもあっという間に終わってしまった……と思うと悲しくなりますが、それでも時は流れて2月は目の前。2月は日数が少ないだけに色々と慌ただしいところですが、せめて楽しい本を読んで過ごしたい、というわけで2月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 さて、日数が少ないから、というわけではないと思いますが、残念ながら気になるアイテムの数はかなり少ない2月。
 文庫小説の方では、新作は上田秀人『表御番医師診療禄 9 秘薬』のみという状況であります。

 また、文庫化も、与謝蕪村を主人公とした連作を中心とした折口真喜子『踊る猫』と北方謙三『岳飛伝 4 日暈の章』くらい。
 細谷正充編のアンソロジー『井伊の赤備え』は気になるところですが……


 一方、漫画の方はそれなりの点数。新登場はコーエーテクモのゲームの漫画化である片山陽介『仁王 金色の侍』第1巻くらいですが、荻野真『孔雀王 戦国転生』第4巻、せがわまさき『十 忍法魔界転生』第10巻、武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第8巻、戸土野正内郎『どらくま』第5巻、重野なおき『信長の忍び』第11巻、木原敏江白妖の娘』第2巻と、かなり充実のラインナップであります。

 また、長谷川明『戦国外道伝 ローカ=アローカ』第3巻と横山仁『幕末ゾンビ』第3巻は、残念ながらともにこれで完結。特に後者は、あの状況からどうやってあと1巻で終わらせるのか大いに気になるところ。
 その他、沙村広明の新装版『無限の住人』は来月発売の第14巻・第15巻で完結となるほか、ずいぶん久しぶりな気もする大羽快『殿といっしょ』第11巻なども要チェックです。


 ……が、やはり発行点数が少ない2月。新作のチェックももちろんですが、これまで積んだ作品の消化も考えた方がよいかもしれません。



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2017.01.18

菊地秀行『宿場鬼』 超伝奇抜きの「純粋な」時代小説が描くもの

 中山道の霧深き宿場町に飄然と現れた美貌の男。彼は恐るべき剣技を持ちながら、全ての記憶と、人としての感情を失っていた。元用心棒・清源の家に預けられて「無名」と名付けられ、清源や娘の小夜との触れ合いの中で徐々に人間味を取り戻していく男。しかし彼を追う刺客たちの影が――

 「エンターテインメント界の巨匠が挑む初の本格時代活劇!」という本作の謳い文句に、若干驚きと違和感を覚えた作者のファンは少なくないでしょう。
 作者のルーツの一つに時代劇があることは、最初期の『魔界都市〈新宿〉』『吸血鬼ハンターD』の両主人公がいずれも剣術使いであることにも明らかですし、何よりも十指に余る時代小説を発表しているのですから。

 しかしこの謳い文句に誤りはありません。何しろ本作は(ほとんど)「超伝奇」抜きの時代小説。ほぼ純粋な時代小説とも言うべき作品なのですから――


 本作の主人公となるのは、「無名」と呼ばれる記憶喪失の男。何処かも知らぬ地から現れた美貌の男にして、無敵な剣技の持ち主……とくれば、菊地ヒーローの素質十分であります。

 しかし本作ではほとんど唯一の伝奇的な要素である彼の強さの由来を除けば、どこまでも地に足のついた物語が展開していくこととなります。
 妖魔も幽霊も無ければ、妖術も超科学もない。登場するのは全て血の通った人間たちであり、繰り出される技も「超人的」ではあれど、あくまでもこの世の則に従ったものである……そんな物語を。

 もちろん、これだけで「本格的」と呼ぶのはいささか即物的に過ぎるかもしれません。しかし本作は、無名と謎の敵たちの戦いを描きつつも同時に、いやそれ以上に、彼を取り巻く宿場の人々、宿場を訪れる人々の人間模様を丹念に描き出すのです。
 引退した用心棒と男勝りのその娘、切れ者だがどこか人の良い宿場町の顔役、用心棒となりながらも武芸者としての魂を失わぬ剣客、落命した用心棒に連れられてきた江戸の女、兄を斬り義姉を連れて駆け落ち中の武士等々……

 そんな「普通の人々」だけではありません。無明に対して放たれる刺客たち、彼に負けず劣らずの腕を持つ「人間兵器」たちもまた、どこか不思議な人間臭さを持っているのです。

 そう、本作は、ただ一人超人的な存在である無明の存在を通じて描かれる、一種の人間絵巻と呼ぶべき物語。
 それだからこそ、物語の中心となる彼は名も記憶も、感情も持たぬ、一種無色透明な存在として設定されるのではないか……そう感じるのです。


 そうはいっても、超伝奇もホラーもなしの菊地作品が面白いのだろうか、と思われる方もいるかもしません。
 しかし、作者の愛読者であれば、菊地作品が決してそれだけではない――もちろんその要素は大きく、そして魅力的であることは間違いありませんが――ことを良く知っています。

 作者の作品に通底するもの……どれほど無情で殺伐とした、暴力と悪意が支配する世界においても決して喪われぬ心。人間性の善き部分とも言うべきもの。
 これまでも作者の作品において陰に日に描かれたそれ――本作においては戦う者たちが持つ一種の「矜持」とも言うべき形で最も良く表れるその姿は、超伝奇といったデコレーションを省かれたことにより、よりストレートな形でこちらの胸に響くのであります。

 このようなブログを主催する人間の言葉としては問題かとは思いますが、しかし長年の作者のファン、そして時代小説ファンとして申し上げれば、こんな作者の時代小説を読みたかった……そんな気持ちが間違いなくあるのです。


 本作においてその正体の一端が明かされ、そしてその記憶と人間性にも回復の兆しも現れた無名。しかしまだまだ周囲の人間たちにとって、彼は得体の知れぬ超人的な存在であり続けます。
 その彼の前で、人々はいかなる想いを抱き、いかに振る舞うのか……そんな人間たちの物語が、この先も紡がれていくことを期待しているところです。


『宿場鬼』(菊地秀行 角川文庫) Amazon
宿場鬼 (角川文庫)

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2017.01.17

『コミック乱ツインズ』 2017年2月号

 リイド社の『コミック乱ツインズ』誌の2月号は、新連載が池田邦彦『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』、連続企画の池波正太郎時代劇スペシャルは原秀則『恋文』という、なかなか意外性のある内容。今回も、印象に残った作品を一作品ずつ紹介していきたいと思います。

池波正太郎 時代劇スペシャル『恋文』(原秀則&篁千夏&池波正太郎)
 というわけで毎回作品と、それ以上に作画者のチョイスに驚かされる企画ですが、今回はその中でも最大クラスの驚きでしょう。ラブコメ・恋愛ものを得意としてきた原秀則が初めて時代漫画を描くのですから。

 ある日、想いを寄せていた足袋問屋の娘・おそのから付け文を受け取った丁子屋奉公人の音松。親の縁談を嫌がり、自分を連れて逃げて欲しいという内容に、待ち合わせ場所に向かった音松ですが、しかしいつまでも彼女はこない。
 それもそのはず、その付け文は、店の同僚とその仲間が音松をからかうために書いた偽物。しかし、真に受けた音松が店の掛取り金を持ち逃げしていたことから、思わぬ惨劇が……

 という前半から、後半のおそのの復讐劇と大きく動いていく物語を、作画者はこれが初時代漫画とは思えぬ達者な筆致で描写。特にキャラクター一人ひとりのデザイン、そして浮かべる表情が実に「らしい」のに感心させられます。
 特に絶品なのは、後半の主人公となるおそのの描写。思わぬ運命の変転に巻き込まれた彼女、無口な箱入り娘に過ぎなかった彼女が見せる思わぬ強さ、怖さ、逞しさを、浮かべる表情一つ一つの変化で浮かび上がらせるのには、お見事としか言いようがありません。


『エイトドッグス  忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 トーナメントバトルの華ともいうべき敵味方のリスト(死亡者に×印がつく)が表紙でいよいよテンションがあがる忍法合戦。そのリストから里見方・服部方二名づつが消え、八玉も二つまでが村雨姫の手に戻ったものの、まだまだ圧倒的に不利な状況。
 追い詰められた村雨姫の前に現れたのは、胡散臭い香具師の男と、娘姿の美青年で――

 というわけで登場した当代の犬山道節と犬塚信乃ですが、他の八犬士同様、この二人もお家に対する忠義心は薬にしたくともない奴らですが……いや、彼らにないのはあくまでも「お家に対する」忠義心。再び村雨姫を追い詰める服部忍軍の外縛陣に対し、道節が立ち上がることとなります。

 ここで驚かされるのは原作では無名だった道節の忍法に名前が付いた点で……というのはさておき、これは原作どおりの名セリフとともに道節が必死の働きを見せるシーンは、彼がなんともすっとぼけた表情だけに、大いにインパクトがあったところです。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 武士として仇討をするため、不破刀と別れを告げた末、ついに怨敵・多々羅玄地の潜む巌鬼山神社に到着した怨ノ介。その前に現れたのは、不破刀とは瓜二つの少女――当代の玄地の娘でありました。
 父に代わり仇討ちを受けて立つという娘とは戦うことができず逃げ出した怨ノ介の前に現れたのは、以前出会った無頼漢・倦雲で……

 というわけでクライマックスも目前となった本作、前回描かれた日本刀そもそもの由来にまつわる物語……伝説の刀鍛冶・鬼王丸の物語が再び思わぬ形でクローズアップされ、怨ノ介と多々羅玄地の因縁に繋がっていくのには驚かされますが、しかし真に驚かされるのはその先にある、玄地の真実。
 何故彼が怨ノ介の家を滅ぼしたのか……一見通俗的な時代劇めいた御家騒動に見えたその背後にあった真実の無常さ、異常さを何と評すべきでしょうか。

 というわけでここに来て一気に物語の構図が逆転したのにはただただ絶句させられますが、それだけに最後に描かれる当代玄地の姿はちょっと残念なところ。……いや、それもこの異常な「機関」が生み出したものというべきでしょうか。この永久継続の地獄にいかに怨ノ介が挑むのか。結末が楽しみです。
(そして今回もさらりと深いことを呟く倦雲がまたイイのです)

 その他、新連載の『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)は、鉄道黎明期の私鉄という非常にユニークな題材の物語ですが、個人的にはちょっと登場人物の思考についていけないものがあった……という印象。
 また『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治)は、原作の「後は知らない」の漫画化。依頼の金額の大きさから標的の強さを悟り、闘志を燃やす梅安というのは、この作画者ならではのビジュアルだなあ……と感心いたしました。


『コミック乱ツインズ』2017年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 02 月号 [雑誌]


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2017.01.16

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第11巻 残酷な史実とその影の「真実」

 もう表紙を見た時点で「やめてくれよ……」と呟きたくなってしまう(正直なところ、気後れして発売から紹介まで間が空いてしまいました)絶望しかない物語、『PEACE MAKER鐡』の第11巻であります。甲州勝沼の戦いに敗れ、江戸に戻った新撰組の面々を待つ運命は――

 新撰組から甲陽鎮撫隊と名を改めつつも、なおも戦いを止めない男たち。しかし甲府城を目指した彼らが見たものは、既に新政府軍に占領された城の姿でありました。援兵を請うべく江戸城に向かった鉄之助ですが、勝海舟は彼を軟禁して――

 という意外な展開で終わった前巻ですが、この巻の冒頭で描かれるのは、鉄之助に対する勝の意外な言葉。
 鉄之助の父がピースメーカー――調停者として活動していたことを語った勝は、鉄之助にまつわる秘密、それも二つもの秘密の存在をほのめかし、それと引き替えに新撰組を抜けるように求めるのであります。

 果たして勝の真意は、そして二つの秘密とは……いきなり引き込まれる展開ですが、しかしそれが運命というべきか、鉄之助がそれを受け入れようとした瞬間、近藤たちが江戸に帰還したことで、勝の言葉は聞けず仕舞いに――


 というところで物語は史実に戻り(?)この巻では慶応4年3月の出来事が語られることとなります。新撰組ファンであればよくご存じであろう、新撰組の一つの終わりを告げる事件を中心に。
 その事件とは、永倉新八と原田左之助の新撰組離脱……これまでも近藤のやり方に折に触れて反発してきた永倉ですが、ここにきて完全に決裂し、ついに袂を分かつことになったのであります。

 多摩時代、試衛館時代からの同志であった永倉と原田の離脱――それも死別ではなく意見の衝突、記録では近藤の無礼な態度が原因になったという――は、新撰組ファンにとっては泣き面に蜂と言うべき出来事でしょう。
 特に本作においては賑やかなムードメーカーであり、鉄之助のよき兄貴分であった彼らの離脱は、ただでさえ暗くなる雰囲気に駄目押しするような展開ですが……しかし、本作におけるその「真実」がまた泣かせます。

 この辺りの展開は、他の作品でも同様の趣向を読んだ記憶がありますが、しかしそれはファンにとっても一つの願望と言うべきでしょうか。そうあって欲しいという想いがにじみ出るその「真実」は、暗く重い展開が続く本作において、一筋の光と感じられます。
 ……その直後に描かれる、「新撰組」の絆とともに。


 そして4月初め、再起を期して流山へ向かう一行。それぞれ大久保大和、内藤隼人と変名を使って新政府軍の目を欺いたかに見えた近藤と土方ですが、しかし運命の時は容赦なくせまります。

 彼らが元・新撰組と睨んだ薩摩の猛将・伊地知正治(ここで出てきたか、という印象であります)に包囲を受け、絶体絶命の窮地に陥った一行。
 ここで伊地知に武士の情け、すなわち切腹の時間を与えられた近藤と、それを知った土方が、それぞれどのような行動を取ったか……それはもう、史実が示すとおりなのですが、しかし本作はそれをこれでもか! とエモーショナルに活写いたします。

 近藤を救う一縷の望みに賭ける土方と、その土方をある言葉とともに送り出す近藤……土方あっての近藤、土方あっての新撰組とはよく言われることではありますが、しかし同時に近藤あっての土方であったことを、そんな二人の絆を何よりも強く描き出すこのくだりは、ファンの紅涙をしぼる名シーンと評するしかありません。

 だからこそ、その先の残酷すぎる史実と、それを受けて本作が何を描き出すのかを考えるだけで、胸が塞がるのですが……それはもう少し先に取っておきましょう。

 近藤除名の条件として勝が出した、旧幕軍の江戸周辺からの退去を達成するため、国府台の伝習隊を訪れる土方。そこで彼を待っていたのは、またとんでもない姿にアレンジされたあの人物で――
 と、またもや気になる展開で引きとなった本作。本当に先を読むのが辛い、しかし読まないわけにはいかない……何とも恐ろしい作品であります。


 しかし鈴はもういいんじゃないかなあ……と、悲劇の連続に疲れた身としては思ったり思わなかったり。


『PEACE MAKER鐵』第11巻(黒乃奈々絵 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
PEACE MAKER 鐵 11 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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2017.01.15

物集高音『大東京三十五区 冥都七事件』 縁側探偵が解く「過去」と「現在」

 日本の首都である東京都区部=二十三区。その二十三区が現状とほぼ同じ範囲となったのは、昭和7年……当時は三十五区という形でした。本作はその前年から始まる連作短編集、下宿の大家と不良書生という異色のコンビが、「過去」と「現在」に渡り東京を騒がせる怪事件に挑むユニークなミステリです。

 本作の主人公の一人は、早稲田大学の学生・阿閉万。学生とは名ばかりで、落語や探偵小説など、様々なことにちょろっと手をつけてはすぐに投げ出すことからついたあだ名が「ちょろ万」という、まずうだつのあがらない青年であります。
 その阿閉青年が目下血道を上げているのは、明治時代の奇談の蒐集。明治の新聞記事から奇妙な事件を取り上げて一冊にまとめようという目論見なのです。

 そんな彼が今回見つけたのは、明治13年に起きたという品川東海寺での怪事件を記した記事。東海寺の七不思議の一つ、切れば血が出るという血出の松が台風で倒れて暫く経ったある晩、警邏の巡査が、按摩がその松を何かに憑かれたように揉み療治していたのを見つけたというのであります。

 さて、阿閉青年がこの記事のことを語って聞かせた相手というのが、彼の下宿「玄虚館」の大家・玄翁先生こと間直瀬玄蕃老人。
 真っ白い総髪に長い山羊髭と仙人めいた風体で博覧強記、こうした奇聞珍聞も大好物の玄翁先生は、阿閉青年を相手にこの事件の謎解きを始めるのですが――

 というのが第一話「老松ヲ揉ムル按摩」の物語。阿閉青年が仕入れてきた様々な奇談怪談に対し、玄翁先生が屋敷の縁側に座り、青年をこき使って手に入れた情報を元に真相を推理してみせる……という、安楽椅子探偵ならぬ縁側探偵というべきスタイルであります。

 しかしこの縁側探偵、単純に空間的な距離のみならず、物語の時点から数十年前という時間的な距離まであるという状況からの推理なのが実に面白い。
 しかもこの第一話の題材となっているのが(本作においてはアレンジした形で描かれていますが)吉村昭や葉室麟の作品の題材ともなったあの事件というのにも唸らされるところであります(しかも……)。


 本作はそんな二人が挑む全七話を収録。
 荏原郡の医師の家にバラバラと石が降り、窓を破って中にまで飛び込んできたという「天狗礫、雨リ来ル」
 三ノ輪で産婆の家の前の夜泣き石が咽び泣いたことを探る中で思わぬ事件が露呈する「暗夜ニ咽ブ祟リ石」
 明治34年、花見で賑やかな向島に作られた迷路の中から二人の花魁が忽然と消えた「花ノ堤ノ迷途ニテ」
 根岸の小川で、見知らぬ子供が橋が落ちると騒いだ直後、川の水が増量し橋が流された「橋ヲ墜セル小サ子」
 明治末、開業したばかりの王子電車が飛鳥山近くで花電車の幽霊電車に幾度も目撃された「偽電車、イザ参ル」
 東京三十五区の誕生記念式典の最中、天に「凶」の字が浮かんだ騒動の背後に、思わぬ犯人の姿が浮かぶ「天ニ凶、寿グベシ」

 第一話のように明治時代の事件もあれば、物語の時点でリアルタイムともいえる昭和初期の事件もありと様々ですが、共通するのは、超常現象としか思えないような事件の数々に対し、きっちりと合理的な解決がつけてみせるミステリとしての面白さであります。

 特に「花ノ堤ノ迷途ニテ」は、人体消失トリックをフェアな形で解き明かす同時に、背後にその時代ならではの事情を織り交ぜるのが見事で、本作で個人的に最も好きな一編。
 また「橋ヲ墜セル小サ子」も、到底人間の手では不可能としか思えない怪事に対して鮮やかな解決が提示されつつも、しかし……と不気味な後味が残るのも面白く、こちらも本作を代表する作品と言えるでしょう。

 もっとも中には少々強引と思えるものもあるのですが、衒学趣味の強い玄翁先生と「現代っ子」の阿閉青年という全く毛色の違う主人公二人のやり取りの面白さと、地の文の講談風の独特の語りによって、それも物語の一部として何となく受け入れられる……
 というのは少々強引かもしれませんが、本作ならではの魅力というものが、確かにあることは間違いありません。


 そして……本作にはもう一つの仕掛けがあります。その内容をここで語ること自体がルール違反となりかねませんが、ここで描かれるのは、「過去」と「現在」が入り乱れる本作だからこそできる、意味がある大仕掛と言うことは許されるでしょう。個人的には直球ストライクの趣向であります。

 しかし気になるのは結末のその先ですが……本作はあと二冊続編が刊行されているのでご安心を。そちらも近々紹介の予定です。


『大東京三十五区 冥都七事件』(物集高音 祥伝社文庫) Amazon
大東京三十五区 冥都七事件 (祥伝社文庫)

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2017.01.14

輪渡颯介『溝猫長屋 祠之怪』 四人の子供、幽霊を「感じる」!?

 『古道具屋皆塵堂』シリーズも完結し、寂しい気持ちでいた輪渡ファンに嬉しいプレゼント……言うまでもなくユニークな新たの怪談が登場しました。長屋を舞台に、おかしな習いのおかげで幽霊と出くわすようになってしまった四人の子供たちが引き起こす騒動を描く快作であります。

 その名のとおり、何匹もの猫たちが溝の中までゴロゴロしている溝猫長屋。一見、どこにでもあるようなこの長屋ですが、一つだけ余所とは違う点があります。
 それは長屋の奥にある祠を、長屋に住んでいる男の子でその年に一番の年長が毎朝お参りすること――

 何年にも渡り行われてきたこの行事(?)に今年当たったのは、十二歳の忠次、銀太、新七、留吉の四人。何やら曰くありげな周囲の大人たちの態度に不審を抱きつつ、毎日を過ごす四人ですが、やがて彼らの周囲で奇怪な、いや怪奇な事件が起きます。
 人死にがあったという近所の空き家から、新七は鼻の曲がるような悪臭を嗅ぎ、留吉は子供の声を聞いたことから、家の中に忍び込んだ四人。そこで忠次は、見るも無惨な姿の子供の幽霊と出くわしてしまったのです。

 実はかつてある事件で殺されたお多恵という女の子を祀る長屋の祠は、拝んだ子供たちが、皆「幽霊がわかる」ようになってしまうという曰くつきのものだったのです。それも「嗅ぐ」「聞く」「見る」と一人ひとり別々の形で。
 かくて、次々と妙な形で幽霊に遭遇することになってしまった四人ですが、その幽霊たちには奇妙な共通点が――


 というわけで、本作においても、かなり怖い怪談と、ユーモラスで人情味が効いたちょっとイイ話、そして隠し味のミステリ趣向という輪渡ワールドの魅力は健在……というより絶好調であります。

 思わぬことから幽霊騒動に巻き込まれるようになってしまった個性豊かな四人の子供――主人公格の忠次、悪ガキ……というよりア○の銀太、優等生の新七に弟妹の世話に追われる留吉――を中心に、子供目線で展開する物語は、何とも賑やかで微笑ましく、それでいて容赦なくコワい展開の連続で、まさに「これこれ」とニンマリしたくなるほど。

 何よりも怖楽しいのは、彼らが幽霊を感じるのが、毎回視覚・嗅覚・聴覚と一人ずつバラバラであることであります。
 それもある感覚で経験すれば、同じ感覚には連続で当たらず、次は別の感覚で幽霊を感じるというルール(?)が何ともユニークで、幽霊の出現にバリエーションを付ける面白さはもちろんのこと、それを知った子供たちのリアクションもまた愉快なのです。

 しかし、感覚は三つ、子供は四人……ということは毎回一人余ることになるのですが、その辺りがどうなるかがまた非常に楽しい。
 この辺り、作者の別の作品を連想させるところもありますが、奇妙な設定が生む悲喜こもごものシチュエーションが、また一層可笑しさを生むのが、いかにも作者らしいところでしょう。

 そして作者が得意とするといえばデビュー作から一貫する、怪談の中のミステリ味。
 本作の最初のエピソードで語られるのは、かつて押し込み強盗に殺された子供の存在なのですが、以降、様々な形でその悲劇は後を引き、実は……という形で、大きな物語に繋がっていくのも、実に好みの趣向です。


 そして本作には、もう一つ魅力があります。それは、元気な子供たちを見守る周囲の大人たちの存在であります。

 口うるさく説教ばかりながら、子供たちを深く愛する大家さん。長屋のOBで元は相当やんちゃをしながら、今は「泣く子も黙る」弥之助親分。子供たちにナメられがちな寺子屋の師匠にして、とんでもないもう一つの顔を持つ蓮十郎先生。
 これまた個性的な面子ですが、共通するのは、子供たちに振り回されつつも、時に厳しく、しかし暖かく彼らを見守ること――

 どれだけ幽霊が、悪人が恐ろしくとも、どれだけ子供たちが騒動を起こそうとも……それを受け止め、子供たちを守り導く大人たちの存在が、大人がきちんと「大人」していることが、幽霊が跋扈する本作において、地に足の着いた安定感を与えているのです。


 こうした長屋の面々に、大店の娘でトラブルメーカーの美少女・お紺も加わって、まさに役者は揃ったというこの溝猫長屋の物語、この一作で終わるということはまさかありますまい。
 コワくておかしくて、そして優しい……そんな物語がこの先も描かれていくことを期待しております。


『溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介 講談社) Amazon
溝猫長屋 祠之怪

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2017.01.13

『風雲ライオン丸』 第1話「飛び出せ弾丸変身!」

 マントル一族の日本侵略が始まった。村祭りを襲撃する怪人ネズマと地虫忍者たちに立ち向かう弾影之進と仲間たちだが、歯が立たず全滅。兄の末期の言葉に戦いを決意した影之進の弟・獅子丸は、ネズマたちに襲われた旅の姉弟、志乃と三吉を守りつつ、ネズマに戦いを挑む。

 特撮時代劇全話紹介シリーズ、今回からはハードな作風が語り草となった『風雲ライオン丸』であります。

 その冒頭に登場するのは、兄・影之進と激しい武術の鍛錬を行う青年・弾獅子丸。演じるは前作『快傑ライオン丸』で獅子丸を演じた潮哲也氏ですが、本作では別人の設定。しかしその甘いマスクに浮かぶ明るい笑みは、同じものを感じさせますが……この先、彼は笑顔を忘れるほどの苛烈な運命を歩むこととなります。

 西日本の地底深く潜み、直径1,000m(!)という巨大な顔を持つ謎の存在・マントルゴッドに率いられるマントル一族。その彼らが日本全土を手中に収めるべく活動を開始したのであります。その東部戦線の指揮官となるのは、万能車両・六能陣車に乗った異形の男・アグダー。そして尖兵となるのは、マントル怪人近衛師団十三人衆(その後使われない設定)の一人・ネズマ――

 大仏の前で村祭りを楽しむ人々の前で突如ひび割れ、崩れていく大仏の内部から現れ、手当たり次第に人々に襲いかかっていくネズマと戦闘員の地虫忍者たち。異変を予見して集合していた影之進と仲間たちも敵の前に歯が立たず、仲間たちに逃された影之進を除き全滅し、影之進は、最期の力で獅子丸にマントル一族の侵略の開始を告げるのでした。
 虐殺の現場に向かい、その場に残っていた地虫忍者を手裏剣の連打で皆殺しにする獅子丸。しかしネズマの姿はそこにはなく――

 と、その頃ネズマたちが襲っていたのは、幌馬車で旅する志乃と三吉の姉弟であります。仕掛け一つで両輪から何本もの槍が飛び出す剣呑な馬車で地虫忍者を蹴散らしていこうとする二人ですが、しかしネズマの鞭に車輪を取られ、馬車は横転。絶体絶命のピンチに登場したのはもちろん獅子丸であります。
 が、彼とても二人を守って多勢と戦うのは容易ではなく、近くにあった小屋に避難、夜を明かすのでした(ここで色々と話しかけてくる志乃に、ぶっきらぼうな態度で接する獅子丸が、「本作の獅子丸」としての個性を出していて印象的)。

 夜のうちに小屋に仕掛けておいた罠にネズマが引っかかっている間に先を急ぐ三人。しかし復仇に燃えるネズマたちが追いつき、ついに絶体絶命となったその時――獅子丸は背中に隠していたロケットに点火、忍法ロケット変身の炎とともに天空高く舞い上がり、戻ってきたその姿は兜を被った黄金の(?)獅子、風雲ライオン丸!
 地虫忍者を蹴散らしたライオン丸はネズマと対決、一度はネズマの放った四頭の鎌によって地面に縫い止められ窮地に陥るも、奪ったネズマの鞭でネズマを捕らえ形勢逆転。降伏は死に値すると拒んだネズマと最後の対決に望みます。

 宙高く舞い上がっての剣戟の末、ネズマを斬ったライオン丸。その彼に、マントル一族とは何者か、誰に率いられているか問われたのにも答えず、マントルゴッドの名を讃えて(えっ)倒れるネズマに、ライオン丸はライオン風返しで止めを刺すのでした。
 そして志乃や三吉たちの声を背に、一人獅子丸は戦いの旅路へ――


 というわけで、マントル一族の登場と、それに孤独な戦いを挑む獅子丸の姿に焦点を絞ったこの第一話。そのためか、ネズマの行動が侵略の尖兵らしからぬ小規模なものだったり、影之進たちが結局何者かわからなかったり(どこかの家中に仕える侍たちのようでしたが)、何よりも獅子丸がロケット変身できる理由もわからず……と、正直なところ唐突な印象は残ります。
 しかし最後の点は、その辺りを伏せておいたがためにクライマックスでの変身→逆転が実に印象的なものとなり、その変身ヒーロー史上に残るであろう変身シーンのインパクトも含め、ヒーローものの第一話としてはなかなかの滑り出しではないでしょうか。

 ネズマとの地に転がり、宙を舞うバトルも、なかなかの見応えでありました(ちょっとクレーンによる吊りチャンバラは不安定感が強かったですが……)


今回のマントル怪人
ネズマ

 マントル一族の東部戦線侵略の一番手となったマントル怪人近衛師団十三人衆の一人。平刃の槍と革鞭、四頭の鎌を武器とし、鎌からは火の玉も放つ。地虫忍者とともに村祭りの人々や影之進たちを殺害したが、ライオン丸との死闘の末に倒される。


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2017.01.12

京極夏彦『書楼弔堂 炎昼』 新たな時代を歩む者たちの悩み

 第一弾『破暁』が文庫化されるのとほぼ同時に刊行された『書楼弔堂』シリーズの第二弾であります。その内部には無数の本が所蔵され、人が人生の一冊と言うべき本に出会う書店・弔堂。その書店を、これまで一冊の小説も読んだことのない少女と、己の行くべき道に悩む青年詩人が訪れることになります。

 東京の郊外にひっそりと立つ、一見灯台とも見紛うばかりの巨大な書店・弔堂。元僧侶だという博覧強記の主人が客に選ぶ一冊は、一生に一冊の本として、その人物の悩みを解き、蒙を開くことになります。
 本シリーズは、その弔堂を訪れる客(実は歴史上の著名人)が主人との対話の末にその一冊を渡される様を、無名の語り手の視点から描く連作集であります。

 そして本作の舞台となるのは明治30年――日本が初の国を挙げての対外戦争である日清戦争をくぐり抜けて数年後。そして語り手となるのは、元薩摩藩士である厳格かつ固陋な祖父にしつけられ、これまで一冊の小説も手にしたことがなかった娘・塔子であります。

 取り立て将来の希望や展望もなく、さりとて祖父や親が進めてくる良妻賢母となることも肯んずることができない塔子。鬱々とした毎日を送る彼女があてどなく歩く途中で出会ったのは、幻の書店を探しているという二人組の青年、松岡と田山でありました。

 その書店――言うまでもなく弔堂へ二人を案内した塔子は成り行きから自分も中に足を踏み入れ、二人が主人と言葉を交わし、そして己が描くべき新しい文学・文体を求める田山が己の一冊を手にするのに立ち会うことに――

 というエピソード「事件」に始まる本作は、塔子と、未だ己の一冊を求め続ける松岡の目から、様々な人々と、本の出会いを語っていくこととなります。
 壮士に憧れ、歌で思想を伝えようとしつつも、その手段と目的の乖離に悩む演歌師:「普遍」
 自然科学としての心理学に、人の心を解明する新たな可能性があると信じる学生:「隠秘」
 女性を軽んじ、自由を奪おうとする社会のあり方に強く反発する少女:「変節」
 向いていないことを自覚しながらも、流されるまま出世を重ねてきた軍人:「無常」
 そして愛する人を喪い、己の来し方行く末に踏み惑う松岡:「常世」

 本作で描かれる六人の物語は、いかにも作者らしいペダントリーに彩られた問答とも言うべき会話の積み重ねにより、彼ら六人の姿を、そして彼らの、塔子の生きる時代の姿を、浮き彫りにしていくのであります。

 その点において、本作は前作の内容を踏襲したものと言えるかと思いますが――前作で感じられた意外性や、客の正体(将来)を巡る一種ミステリ的興味は、やや抑え気味という印象が、個人的にはあります。(また、京極堂ユニバースとも言うべきガジェットが、今回は抑えめであったためもあるでしょう)

 もちろんそれは作品の面白さを減じるものではないのですが、あるいは、そうした前作との印象の違いの原因の一つは、舞台となる時代(前作冒頭と本作の間では5年の時が流れています)において弔堂を訪れる人々の直面しているもの、求めるものとの違いにあるのかもしれません。
 非常に単純化した表現となりますが、前作の登場人物たちが、「江戸」という古い時代と「明治」という新しい時代の狭間で迷い、悩んでいたのに対し、本作においては、「明治」という新しい時代で如何に生きていくかという悩みを抱えているのですから――

 その点が非常によく現れているのが、「変節」と「無常」でしょう。前者で描かれるのは婦人運動、そして後者で描かれるのは戦争……どちらも明治も後半に差し掛かったこの時代において初めて生まれたと言うべき、新しい時代ならではの概念であり、事件なのであります。

 その両者は、我々の暮らす現代においても、全く色褪せることなく存在している問題。すなわち、それに悩む人々への弔堂主人の言葉が、我々に対しても響くものであることもあり、本作の中でも一際強く印象に残るのとなっています。
(作中に主義主張を交えることが少ない作者のそれが、珍しく色濃く見えるように感じられることもその一因でしょう)


 本シリーズの次回作は、本作のさらに五年後を舞台に、老人を狂言回しとして描かれる予定とのこと。
 明治も終わりに向かう時代に、(失礼な言い方ではありますが)人生も終わりに向かう者が何を見るのか、何を読むのか。そしてそこに我々は何を見出すのか――興味は尽きません。


『書楼弔堂 炎昼』(京極夏彦 集英社) Amazon
書楼弔堂 炎昼


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 「書楼弔堂 破暁」(その一) 書楼を訪れる者たちと彼らの一冊
 「書楼弔堂 破暁」(その二) 新しい時代の前に惑う者たちに

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2017.01.11

畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味

 『しゃばけ』シリーズも昨年末で15周年、そして本作で15作目……その記念すべき作品であります。「兄や達の心配も絶好調」という公式サイトの言葉はちょっとどうかと思いますが、しかし今回もやっぱり病弱な若だんなを中心に、そ今回は様々な「大当たり」をテーマに、5つの物語が描かれるます。

 今日も今日とて病弱の若だんな。しかし何とか自分の父の、店の仕事を手伝うべく頑張ろうとするものの、兄や達は若だんなを心配して過保護にするばかり。
 そんな中、若だんなの周囲でおかしな事件、妖絡みの事件が起きて……

 というのが本シリーズの大まかなシチュエーションですが、本作も基本的には同様の展開。しかしここしばらくの作品に通じるスタイルとして、一冊を貫くモチーフ、テーマが設定されています。
 それがタイトルともなっている「大当たり」なのですが……もちろん、その意味するところは様々であり、それが収録作品のバラエティに繋がっていることも言うまでもありません。

 第一話『おおあたり』で描かれるのは、若だんなの親友・栄吉の大当たりであります。
 菓子屋の跡取りとして生まれながら、菓子作りの腕は壊滅的な栄吉。そんな彼にも許嫁ができ、店を継ぐために他の店で修行中だったのですが、甘味ではなくあられを作ってみたらこれが美味いと大当たり。しかしこれがきっかけで、色々と面倒な出来事が――

 作る菓子のあまりの不味さが、最近ではほとんどネタ的な扱いをされていた(実は本作のラストでそれは最高潮に達するのですが)栄吉。その彼が、目指すところとは少々ずれているとはいえ、ようやく大当たりを掴んだとくれば、これは喜ぶべきことでしょう。
 しかし、それが喜びだけではなく――いやそれどころかむしろ逆のものを――連れてくるという展開に表れているのは、決して甘いばかりではない本シリーズの一つの側面。冒頭からガツンと重い一発を食らわされた印象であります。


 以降、第二話以降も、様々な形の、決して嬉しいばかりではない「大当たり」が描かれていくことになります。

 獏が化けた落語家・場久が高座で語った大当たりの悪夢――何者かに追われる男の夢が現実を侵食するように、彼や日限の親分が何者かに追われる『長崎屋の怪談』
 貧乏神の金次が偶然手に入れた富くじの引札が三百両の大当たり、それに周囲の人々が群がってきた上に、実はその引札に偽物疑惑までもが持ち上がる『はてはて』
 幼い若だんなの守役として子供姿で遣わされた仁吉と佐助が、ギクシャクしながらも事件に巻き込まれた若だんなを救うため協力する過去の物語『あいしょう』
 長崎屋の客人を接待するため、猫股が持ってきた怪しげな秘薬を飲んで頑張ろうとする若だんなと、その供に誰がついていくかで妖たちが大騒動を引き起こす『暁を覚えず』

 正直なところ、「あいしょう」のみはどの辺りが「大当たり」かわかりづらく、本書の中では異彩を放っているのですが、ここは若だんなと兄やたち、兄やたちと長崎屋の妖たちの出会いを描くエピソード0的性格の番外編と考えるべきでしょうか。

 それはさておき、本作で様々な形で現れる「大当たり」――一見めでたいものと感じられる言葉が、様々な意味をもって物語に現れ、人と妖を振り回していく様に満ちている賑やかさ・楽しさ、そして皮肉さ・苦さは、このシリーズの味わい、魅力をこれ以上なく浮かび上がらせていると感じます。


 15周年を迎えても作中時間の流れ方は緩やかである本シリーズ。それでも着実に時が流れていることは、シリーズに登場する若者たち――若だんな、栄吉、松之助の三人を見ればわかります。
 本作においてはそれぞれの形で時間の流れを経験し、体現した若だんなたちですが、この先彼らがどのようにこの先の時を過ごしていくのか。

 変わらないのが良いのか、変わっていくのが良いのか……そんなことを感じさせる本作の内容は、一つの節目の年、節目の作品に、あるいはふさわしいものと言うべきかもしれません。


『おおあたり』(畠中恵 新潮社) Amazon
おおあたり


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 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
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 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束
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 畠中恵『なりたい』 今の自分ではない何かへ、という願い

 『えどさがし』(その一) 旅の果てに彼が見出したもの
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2017.01.10

楠木誠一郎『馬琴先生、妖怪です! お江戸怪談捕物帳』 馬琴と座敷童、そして子供たちの大騒動

 『タイムスリップ探偵団』シリーズのように、歴史もの+少年少女探偵団ものを得意とする作者による本作、やはり同様の趣向ではありますが、しかし物語の中心となるのが、かの曲亭馬琴と彼の家に住み着いた座敷童というのが極めてユニークな作品であります。

 時は1820年、56歳となった曲亭(滝沢)馬琴は、飯田町の家で長女のお幸と二人暮らし。何かと偏屈な馬琴先生のもとにはお手伝いも居着かず、身の回りの世話は口うるさいお幸が取り仕切っている状況であります。
 そんなほとんど引きこもり同然の暮らしを送っていた馬琴の前に突然現れたのは、長年この家に住み着いているという童女姿の座敷童。「わらし」と名付けた彼女にはさしもの馬琴も調子を狂わされっぱなしであります。

 そんなある日、彼の家にやってきたのは『南総里見八犬伝』の大ファンだという美しい女性・真琴。この女性、はじめのうちは熱心なファンレターを持ってくるだけだったのですが、やがて自分が書いたという八犬伝の続き(それも途中で異常な内容に変わっていくという代物)を送りつけ、そしてついには家の前に小動物の死骸を置いていくようになっていきます。
 どんどんとエスカレートしていく行動に馬琴がさすがに危険を感じ始めた時、近所に住むお紺、原市、平吉は、「馬琴先生を守り隊」を結成、わらしとともに馬琴を守ろうとするのですが――


 舞台となる1820年は、約10年前には『椿説弓張月』が完結し、6年前には『南総里見八犬伝』がスタートした、戯作者・馬琴にとって脂の乗り切った頃。
 息子の宗伯も柳川藩主の侍医となったばかりで健在、自分もそろそろ体に衰えが出てきたとはいえまだまだ元気と、まず彼にとっては幸せな時期と言えるでしょう。

 そんな馬琴の偏屈ぶりについてはその日記等でよく知られたところですが、本作ではそこに天真爛漫な座敷童が絡んでくるのがなかなか楽しい。
 本来であれば子供にしか見えないはずの座敷童を見ることができるのは、馬琴にも子供じみたところがあるから……というのはなかなか愉快ですし、どこか二人の関係が、祖父と孫めいたものに見えてくるというのも、微笑ましいところであります。

 しかしそんな暖かいムードをぶち壊すように馬琴たちに迫る謎の女・真琴は、今で言えばストーカーそのもの。
 熱狂的な手紙を送りつけたと思えばそれが嫌がらせに発展し、ついにはいつの間にか土足で家に上がり込んでいるという、馬琴ならずとも危機を感じてしまそうな相手なのですが……もちろん、それだけで終わるはずがありません。

 段々と相手の行動が生々しくエスカレートしていった末に、これってどう考えても(物理現象として)普通じゃない……という状況になっていくのですが、この辺りの呼吸は、ホラーとしてなかなかよくできていると言えるでしょう。
(途中、送られてくる手紙が常軌を逸していく描写が、シンプルながら結構こわい)

 もっとも、その脅威に挑むのが近所の子供たちで、その対抗手段もなかなか微笑ましいので、一気に話の重さが霧消するのですが、それは本作が児童書であることを考えれば仕方のないところでしょうか。
 クライマックスの決着の手段など、呆気に取られそうな内容なのですが、ここまで来ると一種民話めいたすっとぼけ方とすら感じます。


 馬琴個人に関する描写がきちんと史実を踏まえたものであり、かつまた実に「らしい」ものである点、そしてその彼とはある意味対極にあるような座敷童の存在など、大人の目で見ても面白い部分があるだけに、こうしたいかにも子供向けの部分との差の大きさに戸惑いはしますが……それはまあ、対象外の読者の我が儘というものでしょう。

 先に述べたようにまだまだ馬琴も元気であり、そして飯田町の家にもまだしばらく住んでいたことを思えば……この先も馬琴とわらし、そして子供たちの騒動も楽しめるのではないでしょうか。


『馬琴先生、妖怪です! お江戸怪談捕物帳』(楠木誠一郎 静山社) Amazon
馬琴先生、妖怪です! (お江戸怪談捕物帳)

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2017.01.09

垣根涼介『室町無頼』 誰に頼ること無く、時代に風穴を開けた男たち!

 自分以外の人間による作品評価というものにはかなり無頓着な私ですが、やはり賞を取る作品は素晴らしいなあ……と今更ながら再確認させられたのが本作。今年の『本屋が選ぶ時代小説大賞』を受賞した室町ものの大快作であります。

 舞台となるのは寛正2年から3年(1462-63)にかけて、応仁の乱のわずか5年前……とくれば将軍は政治をそっちのけにして遊びと金儲けにうつつを抜かし、幕府の権威も失墜の一途を辿る時代。
 神社仏閣も自分たちの武力財力を集めることに余念がなく、その一方で一般の民衆たちは飢えと貧しさに苦しみ、貧富の格差は広がるばかり――

 そんな一般人には未来への希望も描けぬ時代に、ただその日を生きるのだけに夢中になっていた少年・才蔵が、本作の主人公とも言うべき存在。
 自己流で修めた棒術を頼りに土倉の用心棒をしていた彼は、ある日店を襲ってきた連中相手に無我夢中で立ち向かっていったことがきっかけで、思わぬ運命の変転を迎えることになります。

 実は店を襲ってきたのは、印地(傭兵)の頭目・骨皮道賢の一党。その武力と裏社会での顔の広さによって、幕府から京の治安維持を任せられていたにも関わらず、裏では強盗としても振る舞っている悪党どもであります。
 必死に立ち向かっていったことがきっかけで道賢に気に入られ命を救われた才蔵は、道賢一党と共に暮らしたのもつかの間、やがて道賢以上に食わせ物の浪人・蓮田兵衛のもとに預けられるのでした。

 恐るべき腕を持つ兵法者でありながら、農民や商人、遊芸の民たちとの間にも極めて広いネットワークを持つ兵衛は、しかし関所を破って番兵を殺し、金銭を奪って平然としている上に、その金銭にも恬淡としているという謎また謎の男。
 その兵衛に伴われてとある老武芸者の元に預けられた才蔵は、命がけの修行を課せられることになります。

 そしてそこには兵衛の秘めたある大望が関わっていました。それは幕府の根幹を揺るがし、この硬直した時代に風穴を開けること。
 その大望に、兵衛の片腕として参加することとなった才蔵。兵衛を誰よりも認め、共感しつつも、その立場故に対立する道賢。三人の対峙は、京に巨大な戦いの炎を招くことに――


 作者がインタビューで明言しているように、明らかに現代の世相を反映して描かれる本作の室町時代。本作はそんな時代を、その時代に真っ向から立ち向かっていった三人の男(そして彼らに関わる一人の女)の姿を通じて描き出します。

 彼らは決して善人ではありません。(もちろん誰彼構わずではないものの)自分の前に立ち塞がる敵は容赦なく命を奪い、財貨を奪うことに躊躇いを持たない連中――まさしくアウトローと言うべき連中であります。
 しかし同時に、彼らは単純に無法者というだけではありません。彼らの心の中にあるのは、誰に頼ること無く己の道を、そして時代の壁を貫いて生きることなのであります。

 だからこそ、本作はどれだけ多数の血が流されようと、容赦ない死と暴力が描かれようと、どこまでも爽快な魅力に溢れています。
 こんな風に生きてみたい、こんな連中に会ってみたい、そう思わせるような――

 私個人のやり方として、ある作家を、ある作品を評価する際に、他の作者を、他の作品を持ち出すのは好きではありません。
 しかし本作で描かれる「無頼」像――己の道を貫く自立した個人としての内的規範としての「無頼」は、かつて柴田錬三郎が描いたそれを、この時代、この社会において見事にアップデートさせてみせたものだと、強く強く感じます。


 作品としての時代性、批評性の確かさ、登場人物たちの魅力だけでなく、もちろん一個の小説としてのエンターテイメント性も非常に高い本作(特に才蔵の修行シーンの、理に適った、しかしスリリング極まりない内容は必見!)。
 昨年の歴史小説・時代小説を代表する作品の一つと呼ぶべき作品であると感じた次第です。


『室町無頼』(垣根涼介 新潮社) Amazon
室町無頼

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2017.01.08

『怪談おくのほそ道 現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』 イメージとしての、アイコンとしての「芭蕉」

 「俳聖」として後世に名を残し、「おくのほそ道」の旅によって、旅に生きた漂泊の人という印象が強い松尾芭蕉。その芭蕉と弟子たちが諸国で出会った不思議な出来事を描く奇談集を現代語訳したものに、詳細極まりない解説を付した、実にユニークな一冊であります。

 ……と申し上げれば、なるほど、芭蕉や弟子たちの随筆や日記から、怪談奇談を抜き出して集めたものなのかな? と思われる方も多いと思いますが(かく言う私もその一人)、さにあらず。

 本作のベースとなった『芭蕉翁行脚怪談袋』は、江戸時代後期に成立したと考えられる書物ですが、内容はほぼ完全にフィクション。
 タイトルに「行脚」とあるように、芭蕉らが旅先で出会った出来事を中心とした内容ですが、史実では足を運んだのがせいぜいが京阪周辺までだった芭蕉が、中国地方から四国、九州まで足を運んでいるのですから、豪快といえば豪快であります。

 そんな『怪談袋』は、基本的に芭蕉その人と弟子たち、それぞれが主人公となるエピソードを交互に配置し(底本によってこの辺りは異動があるとのこと)、冒頭に彼らの句を掲げ、それにまつわる逸話を語っていくスタイルのエピソードがで、本書では全24話収録されています。

 上で述べたとおり、舞台となるのは実際には芭蕉が足を運んでいない地を含めて日本各地に渡ります。
 その土地土地で怪異や面倒事などに巻き込まれた芭蕉たちが、時に俳句の霊威や当意即妙の知恵でもってそれを切り抜け、あるいはその様を俳句として残すというスタイル自体は、なかなかユニークで楽しめるものではあります。

 が、その内容自体は、実はあまり大したことはない、というのが正直なところ。
 どこかで聞いたような内容であったり、そもそも怪談奇談としては物足りないものであったり、元々の記載の不備故か話が繋がらないものであったり――単純に怪談奇談集としてのみ読めばかなり苦しい内容であることは間違いありません。

 ……が、しかし本書は、それでも実に面白い一冊なのです。


 先に述べたとおり内容的にはほぼ完全にフィクションであり、「説話」というべきものであるこの『怪談袋』。
 それであれば、わざわざ芭蕉や弟子たちが主人公でなくとも……と思いたくもなりますが、しかし、その説話の主人公が芭蕉たちでなければならなかったという、その点にこそ注目することで、『怪談袋』は、本書は俄然興味深いものとなるのです。

 冒頭に述べたとおり、おくのほそ道の旅によって、そして辞世の「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」の句によって、「旅」の印象が強い芭蕉。
 そしてそのおくのほそ道では僧形で旅をした芭蕉は、世俗から離れ、漂泊の旅の中で数々の歌を残していった西行らのイメージ上の後継者とも言うべき存在として受け止められている……そう本書の編著者である伊藤龍平は語ります。

 すなわち、史実か否かに関わらず、江戸時代において旅をして歌を読み(その句も、必ずしも芭蕉や弟子たちのものではなく、別人の句であったりするのですが)、怪異に対するのは、芭蕉でなければならなかった。彼だからこそ、そのような出来事に出会い、そして解決することができた――

 そんな「俳諧説話」の主人公として、一種の文化的なアイコンとして芭蕉が存在していた……それを、芭蕉イメージの一種の集大成である『怪談袋』を通じて、本書は教えてくれるのです。


 本書のタイトルに使われている「おくのほそ道」。そこで描かれる芭蕉と曽良の旅自体は言うまでもなく史実ですが、しかし「おくのほそ道」に記された内容自体は、必ずしも史実に即したものではないこともまた、知られているところです。
 そこには芭蕉自身の手によって、史実のイメージ化、説話化が行われているのであり、そこに『怪談袋』の源泉があると言うこともできるでしょう。

 実は『怪談袋』には東北のエピソードはほとんど収録されていないのですが、にもかかわらず本書が「おくのほそ道」を冠しているのは、この点を鑑みればむしろ適切と言えるでしょう。
 このタイトルにも見られるように、編著者が『怪談袋』を読み解く態度、語る内容は実に当を得たものであり、各話の解説及び解題を含めて一つの作品であると言っても良い一冊であります。


『怪談おくのほそ道 現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』』(伊藤龍平 訳・解説 国書刊行会) Amazon
怪談おくのほそ道  現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』

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2017.01.07

『飛び出す冒険映画 赤影』

 昨年は『仮面の忍者赤影』を全話紹介いたしましたが、TVシリーズに加えてもう一本、赤影は存在しています。それが本編終了後に東映まんがまつりで上映された本作。TV本編と同様、Amazonプライムで観ることができるようになりましたので、ここに紹介いたします。

 本作はいわゆる総集編、第一部金目教篇から第1・2・5・6話を編集し、50分強の作品にまとめたもの。しかし単純な総集編ではなく、新撮部分を追加し、その部分が立体映画(それゆえ「飛び出す」)となっているのがミソであります。

 今でこそ3D映画は珍しくありませんが、本作は赤と青のセロファンのついた専用のメガネを用いるタイプ。このメガネ、赤影の仮面型をしていたとのことで、なかなかニクい趣向であります。
 もっとも本作、新撮部分のみが立体のため、その部分になると仮面をつけなくてはいけないのですが、その直前に赤影や白影が仮面をつけるよう、画面のこちら側に呼びかけるのが何とも楽しいのです。
(オープニングの時点で、カラフルな光を背景に赤影のシルエットが語りかけてくるのもイイ)

 もっとも、今回観たAmazonプライムビデオ版では、この立体部分は白黒で、他のシーンがカラーなのに対して逆に見劣りしてしまうのが皮肉ですが――


 さて、内容の方は上で述べたとおり、4話分の再編集。簡単に挙げれば以下のようなシーンから構成されております。

・金目教の暗躍と赤影・青影の派遣
・赤影vs鬼念坊(新撮)
・赤影vsガマ法師の大ガマ(一部新撮)
・捕らわれの青影を襲う悪童子。白影vs悪童子
・赤影vs傀儡甚内、樹上の戦い
・幻妖斎の罠に捕らえられた青影を救う赤影
・敵の罠にかかった白影。白影vs朧一貫(新撮)
・金目像大暴れ。赤影vs幻妖斎(新撮)。金目像vs三人

 バトルシーン中心の編集(そのため数分おきに流れる印象の忍者マーチ)でかなり駆け足ではあります。また、いきなり霞谷近くの寺の住職と娘が登場するなど一部繋がらない部分もあります。
 しかし全体としてみれば、夢堂一ッ目を除く七人衆を全員登場させており(闇姫はほとんど顔見せ程度ですが)、なかなかよくできた編集であるかと思います。


 そして上でも挙げていますが新撮場面は以下の4シーンであります。

(1) 赤影と鬼念坊との対決。鬼念坊の振り回す金棒がかなりオーバーに大きく見えます。これを躱した赤影が一刀を浴びせると、鬼念坊の写真がビリリと破けるという豪快な演出にひっくり返りました。

(2) 赤影と大ガマの対決の一部。おそらく大ガマの吐く炎が飛び出すのだと思いますがシーンとしては短め。

(3) 単独行動の白影を襲う朧一貫。下忍を蹴散らされた一貫、白影を置いて崖の上に登ったと思ったら、そこから下駄を手に飛び降り、飛び出した文字通りの下駄の刃で襲いかかる忍法はげたかを披露します(一度攻撃した後、バタバタ羽ばたいて上に登っていくのが愉快)。しかし見切られて破られ、ペラペラの紙に――

(4) 金目像から楓を救い出した赤影の前に現れた幻妖斎、忍法風水雷で猛烈な嵐を起こし、赤影たちを圧倒。さらに崖まで崩れ絶体絶命の赤影……が、仮面の宝石が輝けば重力反転(フィルム巻き戻し)、驚く幻妖斎は岩に潰され息耐えた(?)のでした。


 というわけでなかなか見応えのある新撮シーンですが、これが実質最後となった出演者たちの熱演が嬉しい。
 特に新撮部分の幻妖斎は、もんのすごいオーバーアクト(特にアップはほとんど顔芸レベル)が実に楽しそうで、やはり幻妖斎は行者姿がイイなあ……と再確認したところです(あと、妙にもみあげがワイルドな赤影)。


 そしてラストは赤影がこちらに向かっていきなり拳を突き出し、これに驚かなかった人は忍者の素質があるよ、ハハハと笑っておしまい。
 これが最後の赤影かと思うとかなり寂しいのですが、しかし最後まで赤影は笑っていたと思えば、それはそれで素敵なことだと思うべきでしょうか。


『仮面の忍者赤影 THE MOVIE』(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
仮面の忍者 赤影 THE MOVIE [DVD]

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2017.01.06

魅月乱『鵺天妖四十八景』第1巻 トリックスターが語る残酷なおとぎ話

 人間と妖が共存する時代を舞台に、とある村で畏れ崇められる正体不明の存在「鵺天」を狂言回しに展開する和風ダークファンタジーであります。この第1巻は連作短編スタイルの全4話から構成されております。

 とある村の外れの祠で祀られる存在・鵺天。鳥の仮面をつけた男の姿で現れ、人の肉を、魂を食らうと畏怖される鵺天は、同時に彼の求めるものを与えれば、望みを叶えてくれるという存在でもありました。
 しかしその求めるものとは、人々にとってはかけがえのないもので――

 第1話「暗澹たる眇 全き光彩」で描かれるのは、そんな鵺天の祟りを受け、顔が醜く変わった少年と、眼病を患った少女の物語であります。
 顔の醜さとその由来から、他の村人たちに忌避される少年。そんな中、村外れで一人暮らす少女だけは、眼がほとんど見えないが故に少年の優しい心を知り、二人は交流を深めていくのでした。

 しかし少女の眼がますます悪くなっていき、まもなく失明すると知った少年は、唯一の友から、人骨が薬となると聞かされます。
 やがて村の墓が何者かに暴かれ、その犯人として捕らえられる少年。村人たちに吊し上げられた少年が、鵺天に望んだものとその代償とは――

 醜い外見と美しい心を持つ者が、その外見を見ることができず、それ故に正しい判断を下すことができる相手と巡り会う……という物語は、古今東西を問わず存在します。

 この第1話もその一つではありますが、もちろん類話と大きく異なるのは鵺天の存在。少年と少女が不幸な運命にどんどん追いつめられた末に、鵺天が二人に、周囲の者たちに何をもたらすのか――
 あまりに容赦ない展開の末に、思わぬ光が描かれるラストは、「残酷なおとぎ話」とも言うべき本作の、一つの典型を提示していると言えます。


 そして続く物語も、なかなかに容赦のない設定と展開の連続であります。
 親を人間に殺され、鵺天に村の人間の皆殺しを願う狸の娘と、狸のために親が亡くなったと怨む人間の男が思わぬ関係を築く「長閑ろかな橋」
 夫を亡くし女手一つで幼子を育てる中、正体不明の化物の子を孕み、生んだ女性の恐怖と悩みを描く「無用の嬰児」
 制外の民を集め妖のための家畜としている美貌の妖に嫁として望まれた大食らいの娘が、鵺天の力を借りてその運命から逃れようとする前後編「件百鬼の射干」

 あらすじを見れば、どれも皆、なかなかにどぎつい内容ですが……しかし、それが実際に読んでみれば、悪趣味に過ぎることなく、独特の、それも悪くない味わいのものとして読むことができるのは、やはり鵺天という大きな捻りがあるからにほかなりません。

 強大な神通力を持ち、人間を容赦なく食らう鵺天。その姿は一種の祟り神であり、一見、人間と、他者とわかりあえぬ怪物に見えるかもしれません。
 しかし作中で描かれるその姿は、決して人の、他者の情理を理解しない存在ではなく、むしろそれに皮肉な態度で接し、周囲を振り回す一種のトリックスターともいうべきものなのです。

 悲劇惨劇以外の結末が考えられない物語の中に、その皮肉な妖が紛れ込んだとき、何が起きるか……その意外さこそが本作の魅力と言ってもよいでしょう。

 物語の結末がイイ話方向に振れすぎているきらいはありますが、これはまあ、悲惨な物語を意外な方向に持っていけば、そうした結末となるのはむしろ当然と言うべきかもしれません。


 タイトルでは「妖」と書いて「およずれ」と読ませる本作。
 その「およずれ」本来の意味は、「他を惑わすことば、妖言」――周囲を惑わし、思わぬ結末をもたらす鵺天は、なるほどその言葉に相応しい存在かもしれません。

 彼自身の過去にも何やら因縁があるようですが、その辺りも含め、この先もトリックスターとして、大いに物語を、読者を惑わして欲しいものです。


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2017.01.05

鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第5巻 急展開、人と仏の物語

 鎌倉時代初期を舞台に、互いの半身を共有する少年仏師・想運と明星菩薩とが繰り広げる平家の残党との戦いを描いてきた本作も、早いものでもう5巻目。基本的にちょっとゆるいムードで展開してきた本作ですが、しかしここに来てぐっとシリアスに、物語の根幹に当たる謎と秘密が描かれることになります。

 地神ミズチを操り鎌倉幕府を転覆せんとする平教経一味を追い、京にやってきた想運一行。そこで待ち受けていたのは、鞍馬の地神である鳥型のミズチを操り、偽りの仏を見せることで人々を次々と死に追いやる(招く)という恐るべき教経の作戦でありました。
 ミズチを封印するには、鞍馬を護る仏たちの手助けが必要ですが、そのための来迎術を使おうにも、その憑坐となる仏像はミズチによって破壊された状態。とはいえこちらには仏師たちが……と思いきや、ある事情で体の主導権が明星側に切り替わってしまった想運は思うように仏を彫れず――


 と、前の巻からのピンチを引き継いでのこの巻ですが、それをいかにも本作らしい、ユルい中にも熱く暖かい、人と人、人と仏の絆でクリア。……が、ここからが核心と言うべきか、その先に待つのは驚くべき展開であります。
 想運たちと行動を共にしてきた伎楽アイドルにして僧兵の少女・茶経。その彼女の父親であり、鞍馬とは因縁浅からぬ源義経のメッセージが、この地には残されていたのです。

 仏師が彫り上げた仏像と仏界との間に霊道を繋げ、来迎した仏を仏像に降ろして操る来迎術。
 本作の中核となるユニークなアイディアであり、想運たち人間が神たるミズチに対抗できる唯一の手段であるこの術に、この術に、この術を生み出した高僧・重源に、義経は恐るべき秘密の存在を感じていたのであります。

 果たして重源が平泉で進める幻想仏界計画とは何か。そしてその計画の鍵と言われる想運とは何者なのか。
 謎と不信が交錯する中、さらに事態はあまりにも意外な方向に転がり、大波乱の中で物語は第二部とも言うべき展開へ――


 いやはや、この辺りの展開で何が起きるのか、それは是非実際にご覧いただきたいのでのでここでは伏せておきますが、主人公がこんなことに!? えっ、これだと歴史が……と驚きの連続であるとは申し上げるべきでしょう。
 義経のメッセージから幾多の謎が提示された直後という、狙い澄ましたタイミングで繰り出される急展開には、ただ唸らされるばかりであります。

 その謎のほとんどは、まだこの巻の時点では今後に積み残されている状態ですが……しかしその中でも最も気になるのは、想運の正体であります。

 物語のテンポの良さの前に、すっかり「そういうもの」と認識していましたが、冷静に考えれば、半身が人間、半身が仏――いや仏像という極めて異常な状態で存在している想運。
 何故そんな状態を保つことができるのか、そしてこれまでの物語の中で幾度か描かれてきた想運の過去の姿――今の彼とは異なる人格を持つと思しき姿は何を意味するのか。そしてさらに、彼と同様の体を持つ教経に仕える小姓・菊との関係は――

 この巻の展開を見れば、あるいは現在の想運と明星の姿こそが、重源が目論む計画の中核なのではないか……などとも想像してしまうのですが、それは次の巻でのお楽しみでしょう。


 内容的にはクライマックス突入と思える本作。始まりの地である平泉に向かう想運と明星の前に何が待つのか……それが何であれ、人と仏の善き関係をもたらすものとなることを祈りたい気分であります。


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2017.01.04

『決戦! 桶狭間』(その二)

 「決戦!」シリーズ第5弾、織田信長と今川義元の決戦に関わった人々を通して戦の前後を描く『決戦! 桶狭間』の紹介の後編であります。

『義元の首』(木下昌輝)
 戦国時代の大事件直前の24時間を描く『戦国24時 さいごの刻』において、義元の最期にまつわる奇譚を描いた作者。その作者による本作は、義元の死に大混乱となった今川家中でほとんど唯一その威を見せた男・岡部五郎兵衛元信を主人公とする作品です。

 桶狭間の戦いをテーマとした本書ですが、本作の始まりはその約四半世紀前の花倉の乱……今川家の家督相続を巡り、梅岳承芳(後の義元)と玄広恵探が戦い、後者が討たれた御家騒動であります。
 義父に逆らい、一度は玄広恵探の側についた五郎兵衛。しかし時既に遅く玄広恵探は敗死寸前、彼の忠義心を気に入ったという一人の老忍者に誘われた五郎兵衛は、玄広恵探から末期の頼みとして、今川家を滅ぼさぬため、梅岳承芳に仕えるよう告げられて――

 というのが本作の前半部、そして後半部において、描かれるのが、桶狭間の戦いとその後の五郎兵衛の活躍。
 五郎兵衛が後世に名を残した最大の所以は、義元が討たれた後にも織田方を相手に鳴海城で奮闘を続け、ついに開城と引き換えに義元の首を取り返したという事績であります。本作はその五郎兵衛の原動力に、前半で描かれた玄広恵探の遺命の存在を描き出すのです。

 クライマックスの五郎兵衛の決断のきっかけに、義元と信長の隠れた共通点を絡めてみせるのも心憎く、また老忍者の正体と彼の語る来歴など、一つの物語以上の広がりが感じられるのも巧みなところで、まずは本書において最も印象に残った作品です。
(桶狭間の戦いの背後に、尾張の熱田神宮の神人と三河の一向宗門徒の対決を見る視点も、これだけで一作品描けそうなほどであります)


『漸く、見えた。』(花村萬月)
 そしてラストに収録されたのは、極めつけの問題作にして怪作であります。
 本作は、主人公たる今川義元の一人称で綴られる物語なのですが……しかし本作で描かれる義元の姿は、桶狭間で討たれた首、なのです。

 毛利新助に討たれて首を取られ、信長の前に引き据えられた義元の首。その首は自分を睨めつける信長を仔細に観察し、そして自分が討たれる直前を回想してその情景を述懐するのであります。

 その中で浮かび上がるのは、彼が領土拡張に明け暮れ、ついには天下を目指すまでとなった原動力、いや動機であるところの彼のコンプレックス。
 極めて切実で、そして(失礼ながら)誠に滑稽なコンプレックス……そこから思わぬ形で解放されることとなった義元の目に漸く見えたものの美しさと解放感は、グロテスクな物語の結末に不思議な感動をもたらしてくれます。

 ちなみに本作、冒頭から結末に至るまで、読点はあれど句点は一度もない、すなわち一文で成り立っているというユニークな構成。少々強引なところもありますが、本作の特異な内容にマッチした文章ではあると言えるでしょう。


 残る二作品の一つ、『覇舞謡』(冲方丁)は信長を主人公とした作品ですが、「決戦!」シリーズでのこの作者の作品に共通する、主人公の内面描写で展開していくスタイルによる一種の体温の低さが、いささか逆効果となっている印象。
 もう一つの毛利新介が主人公の『首ひとつ』(矢野隆)は、義元の首を取った男が我武者羅に死闘を繰り広げる姿を描いた、実に作者らしい作品ではありますが、それだけで終わってしまったのが勿体ないところであります(義元像があまりにも旧来のものであったのも残念)。


 以上、今回も駆け足の紹介となりましたが、桶狭間の戦い自体、後世に与えた影響は計り知れないものがあるものの、一つの戦としてはある意味局地戦レベルであった故か、このシリーズのスタイルとはちょっと相性が良くなかったかもしれない、という印象があります。
 もちろん、それと個々の作品の個性と完成度はまた別の話であり、これまで縷々述べてきたように、大いに楽しませていただいたのですが――

 次回は『決戦! 関ヶ原2』とのこと、シリーズの原点に返った舞台で何が描かれるか、こちらにも期待したいと思います。


『決戦! 桶狭間』(冲方丁、花村萬月ほか 講談社) Amazon
決戦!桶狭間


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2017.01.03

『決戦! 桶狭間』(その一)

 一つの合戦をテーマに、その合戦に関わった人々一人一人を主人公として様々な作家が競作するアンソロジー「決戦!」シリーズ。私も毎回楽しませていただいていますが、今回のテーマは「桶狭間の戦い」。今回も直球ど真ん中から思いもよらぬ変化球まで、バラエティ豊かな作品が並んでおります。

 今回もまた、特に印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『いのちがけ』(砂原浩太朗)
 前回の「決戦!」から開始された公募制度「決戦! 小説大賞」を今回受賞したのはこの作品。テーマは前田利家ですが、しかし物語の中心となるのは、その利家の家臣・村井長頼というユニークな作品です。

 信長の腹心、あるいはそれ以上の存在として知られる利家ですが、本書のテーマである桶狭間の戦いの際には、信長の同朋衆を斬ったことを咎められて浪人……出仕停止となっていたのもよく知られた話でしょう。
 そしてある意味そのとばっちりを受けたのが利家付きの長頼。利家とともに浪々の暮らしを送る彼は、かつての主家に危急存亡の秋が迫っていることを知るのですが――

 あえて利家という有名人ではなく、その家臣という視点から、利家を、そして利家と信長の家臣の絆を描く……それもその中で利家浪人の真実をも描くのが心憎い本作。
 物語的にはかなり地味な内容なのですが、利家主従が寄宿する郷士の娘も絡めて皮肉な味わいを生み出しているのも面白く、これがデビュー作とは思えぬ達者な作品です。


『わが気をつがんや』(富樫倫太郎)
 桶狭間の時点では人質として今川家の下にいた松平元康。その彼が義元の敗死の混乱の最中に今川家の軛から脱し、後の徳川家康となったことを考えれば、この戦はその後の日本の歴史を変えたとも言えるでしょう。
 その元康、人質といっても義元の下で厚遇され、義元を支えた太原雪斎の弟子という説もありますが……本作はその説をベースとした物語です。

 幼い頃から俊英ぶりを顕した元康を見込み、学問を、軍略を教えこむ雪斎。彼は自分の、義元の亡き後、氏真の軍配者として元康を育て上げようとしていたのであります。
 そう、本作は作者の人気シリーズのタイトルをもじれば『義元の軍配者』なのです(幼い元康と雪斎のやり取りが、小太郎と早雲のそれと重なる形で描かれているのにニヤリ)。

 ……と言いたいところですが、本作はその軍配者にならなかった男の物語。そもそも本作で描かれる氏真は、これがまた無能というより実に厭な厭な奴(これがまた実に作者らしいキャラ)であり、主君と仰ぐに足りない人物なのですから。
 既に雪斎は亡く、義元は討たれた今、氏真の下で今川家を支えていくのか。それとも……雪斎が最期に遺した「我が気をつがんや」という言葉を元康が自分流に受け止める結末が印象に残ります。


『非足の人』(宮本昌孝)
 その元康に見限られた氏真を中心に、敗者たる今川家の人々を描く本作。氏真といえば、父が築いた今川氏の栄光を一代で潰し、無能の代名詞のように描かれることがほとんどの人物ですが、その彼がほとんど唯一得意としたのが蹴鞠というのは、よく知られた話でしょう。

 実は名目上とはいえ、桶狭間の時点では今川家の家督を相続していた氏。
 しかし織田家との決戦――いや、織田家を揉み潰して天下に乗り出そうという時期に、自分の立場を顧みず蹴鞠に耽溺する氏真に苛立ちを募らせる者が家中に少なくないのも無理はない話でしょう(その筆頭として登場するが井伊直盛なのがタイムリーで楽しい)。

 そこで本作において、氏真を出陣させ、周囲を納得させるために警護役を買って出るのがあの武田信虎というのが実に面白い。言うまでもなくこの時点では子の晴信に追放され、今川家の客分となっていた信虎ですが、なるほどその信虎をこう使うとは……と唸らさられるばかり。
 そして義元が討たれた後の大混乱の最中、信虎らは氏真を守り、本陣であった沓掛城から決死の撤退をするのですが――

 蹴鞠においては「上足」(名手)であった氏真が、決死の場において思わぬ力を示すラストには感動してよいのか呆れるべきなのか……氏真以外の登場人物が多いため焦点がぼやけたきらいもありますが、ドラマチックな展開は作者ならではでしょう。


 明日に続きます。


『決戦! 桶狭間』(冲方丁、花村萬月ほか 講談社) Amazon
決戦!桶狭間


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2017.01.02

「入門者向け時代伝奇小説百選」予告

 以前からやるやると言っていた「入門者向け時代伝奇小説百選」がようやくまとまりました。以前公開した五十選をアップデートし、さらに作品を追加しております。一作品毎の紹介は今後実施させていただきますが、本日はその予告として百作品のリストを掲載したいと思います。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品はサブジャンルに分けていますが、あくまでもサブジャンルは目安となっています。
 また、百作品のチョイスやサブジャンルの割当自体、今後加除修正等の変動があり得ますのでご勘弁を。

古典 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎京洛勝負帖』(柴田錬三郎)

剣豪もの 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『螢丸伝奇』(えとう乱星)

忍者もの 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

怪奇・妖怪 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『鬼溜まりの闇』(芝村涼也)
32.『妖草師』(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

SF 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

ミステリ 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

古代-平安 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』(瀬川貴次)
54.『風神秘帖』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

鎌倉-室町 5作品
56.『幻の神器』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

戦国 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『曽呂利!』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』(松尾清貴)

江戸 10作品
71.『吉原御免状』(隆慶一郎)
72.『かげろう絵図』(松本清張)
73.『竜門の衛』(上田秀人)
74.『魔岩伝説』(荒山徹)
75.『花はさくら木』(辻原登)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『大江戸剣聖一心斎』(高橋三千綱)

幕末-明治 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
87.『警視庁草紙』(山田風太郎)
88.『西郷盗撮』(風野真知雄)
89.『明治剣狼伝』(新美健)
90.『箱館売ります』(富樫倫太郎)

児童文学 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『源平の風』(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『鈴狐騒動変化城』(田中哲弥)

中国もの 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『風の王国』(平谷美樹)


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2017.01.01

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 昨年は諸般の事情でおとなしく過ごしていましたが、今年は「自分の好きなものを好きなように好きだという」という原点に戻り、マイペースでやっていきたいと思います。
 そして何だか毎年同じようなことを言っている気がしますが、今年こそ、今年こそは「入門者向け時代伝奇小説百選」を公開いたしますので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 三田主水 拝



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