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2017.01.16

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第11巻 残酷な史実とその影の「真実」

 もう表紙を見た時点で「やめてくれよ……」と呟きたくなってしまう(正直なところ、気後れして発売から紹介まで間が空いてしまいました)絶望しかない物語、『PEACE MAKER鐡』の第11巻であります。甲州勝沼の戦いに敗れ、江戸に戻った新撰組の面々を待つ運命は――

 新撰組から甲陽鎮撫隊と名を改めつつも、なおも戦いを止めない男たち。しかし甲府城を目指した彼らが見たものは、既に新政府軍に占領された城の姿でありました。援兵を請うべく江戸城に向かった鉄之助ですが、勝海舟は彼を軟禁して――

 という意外な展開で終わった前巻ですが、この巻の冒頭で描かれるのは、鉄之助に対する勝の意外な言葉。
 鉄之助の父がピースメーカー――調停者として活動していたことを語った勝は、鉄之助にまつわる秘密、それも二つもの秘密の存在をほのめかし、それと引き替えに新撰組を抜けるように求めるのであります。

 果たして勝の真意は、そして二つの秘密とは……いきなり引き込まれる展開ですが、しかしそれが運命というべきか、鉄之助がそれを受け入れようとした瞬間、近藤たちが江戸に帰還したことで、勝の言葉は聞けず仕舞いに――


 というところで物語は史実に戻り(?)この巻では慶応4年3月の出来事が語られることとなります。新撰組ファンであればよくご存じであろう、新撰組の一つの終わりを告げる事件を中心に。
 その事件とは、永倉新八と原田左之助の新撰組離脱……これまでも近藤のやり方に折に触れて反発してきた永倉ですが、ここにきて完全に決裂し、ついに袂を分かつことになったのであります。

 多摩時代、試衛館時代からの同志であった永倉と原田の離脱――それも死別ではなく意見の衝突、記録では近藤の無礼な態度が原因になったという――は、新撰組ファンにとっては泣き面に蜂と言うべき出来事でしょう。
 特に本作においては賑やかなムードメーカーであり、鉄之助のよき兄貴分であった彼らの離脱は、ただでさえ暗くなる雰囲気に駄目押しするような展開ですが……しかし、本作におけるその「真実」がまた泣かせます。

 この辺りの展開は、他の作品でも同様の趣向を読んだ記憶がありますが、しかしそれはファンにとっても一つの願望と言うべきでしょうか。そうあって欲しいという想いがにじみ出るその「真実」は、暗く重い展開が続く本作において、一筋の光と感じられます。
 ……その直後に描かれる、「新撰組」の絆とともに。


 そして4月初め、再起を期して流山へ向かう一行。それぞれ大久保大和、内藤隼人と変名を使って新政府軍の目を欺いたかに見えた近藤と土方ですが、しかし運命の時は容赦なくせまります。

 彼らが元・新撰組と睨んだ薩摩の猛将・伊地知正治(ここで出てきたか、という印象であります)に包囲を受け、絶体絶命の窮地に陥った一行。
 ここで伊地知に武士の情け、すなわち切腹の時間を与えられた近藤と、それを知った土方が、それぞれどのような行動を取ったか……それはもう、史実が示すとおりなのですが、しかし本作はそれをこれでもか! とエモーショナルに活写いたします。

 近藤を救う一縷の望みに賭ける土方と、その土方をある言葉とともに送り出す近藤……土方あっての近藤、土方あっての新撰組とはよく言われることではありますが、しかし同時に近藤あっての土方であったことを、そんな二人の絆を何よりも強く描き出すこのくだりは、ファンの紅涙をしぼる名シーンと評するしかありません。

 だからこそ、その先の残酷すぎる史実と、それを受けて本作が何を描き出すのかを考えるだけで、胸が塞がるのですが……それはもう少し先に取っておきましょう。

 近藤除名の条件として勝が出した、旧幕軍の江戸周辺からの退去を達成するため、国府台の伝習隊を訪れる土方。そこで彼を待っていたのは、またとんでもない姿にアレンジされたあの人物で――
 と、またもや気になる展開で引きとなった本作。本当に先を読むのが辛い、しかし読まないわけにはいかない……何とも恐ろしい作品であります。


 しかし鈴はもういいんじゃないかなあ……と、悲劇の連続に疲れた身としては思ったり思わなかったり。


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