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2017.01.09

垣根涼介『室町無頼』 誰に頼ること無く、時代に風穴を開けた男たち!

 自分以外の人間による作品評価というものにはかなり無頓着な私ですが、やはり賞を取る作品は素晴らしいなあ……と今更ながら再確認させられたのが本作。今年の『本屋が選ぶ時代小説大賞』を受賞した室町ものの大快作であります。

 舞台となるのは寛正2年から3年(1462-63)にかけて、応仁の乱のわずか5年前……とくれば将軍は政治をそっちのけにして遊びと金儲けにうつつを抜かし、幕府の権威も失墜の一途を辿る時代。
 神社仏閣も自分たちの武力財力を集めることに余念がなく、その一方で一般の民衆たちは飢えと貧しさに苦しみ、貧富の格差は広がるばかり――

 そんな一般人には未来への希望も描けぬ時代に、ただその日を生きるのだけに夢中になっていた少年・才蔵が、本作の主人公とも言うべき存在。
 自己流で修めた棒術を頼りに土倉の用心棒をしていた彼は、ある日店を襲ってきた連中相手に無我夢中で立ち向かっていったことがきっかけで、思わぬ運命の変転を迎えることになります。

 実は店を襲ってきたのは、印地(傭兵)の頭目・骨皮道賢の一党。その武力と裏社会での顔の広さによって、幕府から京の治安維持を任せられていたにも関わらず、裏では強盗としても振る舞っている悪党どもであります。
 必死に立ち向かっていったことがきっかけで道賢に気に入られ命を救われた才蔵は、道賢一党と共に暮らしたのもつかの間、やがて道賢以上に食わせ物の浪人・蓮田兵衛のもとに預けられるのでした。

 恐るべき腕を持つ兵法者でありながら、農民や商人、遊芸の民たちとの間にも極めて広いネットワークを持つ兵衛は、しかし関所を破って番兵を殺し、金銭を奪って平然としている上に、その金銭にも恬淡としているという謎また謎の男。
 その兵衛に伴われてとある老武芸者の元に預けられた才蔵は、命がけの修行を課せられることになります。

 そしてそこには兵衛の秘めたある大望が関わっていました。それは幕府の根幹を揺るがし、この硬直した時代に風穴を開けること。
 その大望に、兵衛の片腕として参加することとなった才蔵。兵衛を誰よりも認め、共感しつつも、その立場故に対立する道賢。三人の対峙は、京に巨大な戦いの炎を招くことに――


 作者がインタビューで明言しているように、明らかに現代の世相を反映して描かれる本作の室町時代。本作はそんな時代を、その時代に真っ向から立ち向かっていった三人の男(そして彼らに関わる一人の女)の姿を通じて描き出します。

 彼らは決して善人ではありません。(もちろん誰彼構わずではないものの)自分の前に立ち塞がる敵は容赦なく命を奪い、財貨を奪うことに躊躇いを持たない連中――まさしくアウトローと言うべき連中であります。
 しかし同時に、彼らは単純に無法者というだけではありません。彼らの心の中にあるのは、誰に頼ること無く己の道を、そして時代の壁を貫いて生きることなのであります。

 だからこそ、本作はどれだけ多数の血が流されようと、容赦ない死と暴力が描かれようと、どこまでも爽快な魅力に溢れています。
 こんな風に生きてみたい、こんな連中に会ってみたい、そう思わせるような――

 私個人のやり方として、ある作家を、ある作品を評価する際に、他の作者を、他の作品を持ち出すのは好きではありません。
 しかし本作で描かれる「無頼」像――己の道を貫く自立した個人としての内的規範としての「無頼」は、かつて柴田錬三郎が描いたそれを、この時代、この社会において見事にアップデートさせてみせたものだと、強く強く感じます。


 作品としての時代性、批評性の確かさ、登場人物たちの魅力だけでなく、もちろん一個の小説としてのエンターテイメント性も非常に高い本作(特に才蔵の修行シーンの、理に適った、しかしスリリング極まりない内容は必見!)。
 昨年の歴史小説・時代小説を代表する作品の一つと呼ぶべき作品であると感じた次第です。


『室町無頼』(垣根涼介 新潮社) Amazon
室町無頼

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