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2017.01.24

入門者向け時代伝奇小説百選 古典(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、古典でチョイスしたのは、基本的に戦前の作品を中心とした十作品。70年以上前の作品だからと言っても古臭さとは無縁の作品の数々、これぞ時代伝奇、と呼ぶべき定番の名作群です。
1.『神州纐纈城』
2.『鳴門秘帖』
3.『青蛙堂鬼談』
4.『丹下左膳』
5.『砂絵呪縛』

【古典】
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)【戦国】 Amazon
 記念すべき第一作目は、鬼才・国枝史郎の代表作にして時代伝奇小説史上に燦然と輝く作品であります。

 捕らえた人間の生き血を絞って美しい真紅の布を染めるという纐纈城。富士山麓に潜むその伝説の城を巡り、業病に犯された仮面の城主、若侍、殺人鬼、面作りの美女、薬師、剣聖、聖者……
 様々な人々が織りなす物語は、血腥く恐ろしいものではありますが、しかしその中で描かれる人間の業は、不思議な荘厳さ、美しさを持ちます。

 実は未完ではありますが、それが瑕疵になるどころかむしろ魅力にすらなる本作。今なお語り継がれ、消えては復活する、まさしく不滅の名作であります。

(その他おすすめ)
『八ヶ嶽の魔神』(国枝史郎) Amazon


2.『鳴門秘帖』(吉川英治)【江戸】 Amazon
 国民的作家・吉川英治は、その作家活動の初期に幾つもの優れた伝奇小説を残しています。その中でも代表作と言うべきは、外界と隔絶された阿波国を舞台に、阿波蜂須賀家の謀叛の秘密を巡る冒険が繰り広げられる本作であります。

 水際だった美青年ぶりを見せる主人公・法月弦之丞をはじめとして、怪剣士・お十夜孫兵衛、海千山千の女掏摸・見返りお綱など、個性的で魅力的な面々が入り乱れての大活劇は、まさしく伝奇ものの醍醐味を結集したというべき物語。
 そして、波瀾万丈の活劇に留まらず、その中で登場人物たちの情を細やかに描き出してみせるのは、さすがは、と言うべきでしょう。

(その他おすすめ)
『神州天馬侠』(吉川英治) Amazon
『江戸城心中』(吉川英治) Amazon


3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)【怪奇・妖怪】【江戸】【幕末・明治】 Amazon
 捕物帳第一号たる『半七捕物帳』の作者である岡本綺堂は、同時に稀代の怪談の名手でもあります。本作はその綺堂怪談の代表作――ある雪の夜に好事家たちが集まっての怪談会というスタイルで語られる、十二の怪談が収められた怪談集なのです。

 利根の河岸に立つ座頭の復讐、夜ごと目を光らせる猿の面、男を狂わせる吸血の美少女……「第○の男(女)は語る」という形で語り起こされる怪談の数々は、舞台も時代も内容もそれぞれ全く異なりつつも、どれも興趣に富んだ名品揃い。
 背後の因縁全てを語らず、怪異という現象そのものを取り出して並べてみせるその語り口は、全く古びることのないものとして、今なおこちらの心を捕らえ、震わせるのです。

(その他おすすめ)
『三浦老人昔話』(岡本綺堂) Amazon
『影を踏まれた女』(岡本綺堂) Amazon


4.『丹下左膳』(林不忘)【剣豪】【江戸】 Amazon
 隻眼隻腕の怪剣士、丹下左膳。元々は「新版大岡政談」(現『丹下左膳 乾雲坤竜の巻』)に敵役として登場した彼は、しかしそのキャラクターが大受けして続編ではヒーローとなった変わり種であります。

 ここでオススメするのは、その続編たる『こけ猿の巻』『日光の巻』。その特異な風貌はそのままに、より人間臭い存在となった左膳は、莫大な財宝の在処を秘めたこけ猿の壷争奪戦や柳生家の御家騒動という物語を、カラリと明るい陽性のものに変えてしまうパワーを持っています。
 何よりもスラップスティック・コメディ調の味付けが、到底戦前の作品とは思えぬモダンな空気を漂わせていて、これはもう他の作者・他の作品では味わえぬ妙味なのです。


5.『砂絵呪縛』(土師清二) Amazon
 第六代将軍擁立を巡り、柳沢吉保の配下・柳影組と、水戸光圀を後ろ盾とする間部詮房の組織する天目党の暗闘を描く本作は、典型的な時代活劇のようでいて、ある一点でもってそこから大きく踏み出してみせた作品であります。

 その一点とは、この二つの勢力の争いに割って入る浪人・森尾重四郎の存在。
 時代小説には決して珍しくはないニヒルな人斬り剣士である彼は、しかし、そのニヒルである理由……行動原理や主義主張というものが全く見えない(それでいて決して木偶人形でもない)、極めてユニークな存在なのです。

 オールドファッションな物語を描きつつ、真に虚無的な存在を織り交ぜることで、今なお「新しい」作品であります。



今回紹介した本
神州纐纈城 (大衆文学館)鳴門秘帖(一) (吉川英治歴史時代文庫)青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)丹下左膳(一)(新潮文庫)砂絵呪縛(上) 文庫コレクション (大衆文学館)


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