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2017.01.11

畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味

 『しゃばけ』シリーズも昨年末で15周年、そして本作で15作目……その記念すべき作品であります。「兄や達の心配も絶好調」という公式サイトの言葉はちょっとどうかと思いますが、しかし今回もやっぱり病弱な若だんなを中心に、そ今回は様々な「大当たり」をテーマに、5つの物語が描かれるます。

 今日も今日とて病弱の若だんな。しかし何とか自分の父の、店の仕事を手伝うべく頑張ろうとするものの、兄や達は若だんなを心配して過保護にするばかり。
 そんな中、若だんなの周囲でおかしな事件、妖絡みの事件が起きて……

 というのが本シリーズの大まかなシチュエーションですが、本作も基本的には同様の展開。しかしここしばらくの作品に通じるスタイルとして、一冊を貫くモチーフ、テーマが設定されています。
 それがタイトルともなっている「大当たり」なのですが……もちろん、その意味するところは様々であり、それが収録作品のバラエティに繋がっていることも言うまでもありません。

 第一話『おおあたり』で描かれるのは、若だんなの親友・栄吉の大当たりであります。
 菓子屋の跡取りとして生まれながら、菓子作りの腕は壊滅的な栄吉。そんな彼にも許嫁ができ、店を継ぐために他の店で修行中だったのですが、甘味ではなくあられを作ってみたらこれが美味いと大当たり。しかしこれがきっかけで、色々と面倒な出来事が――

 作る菓子のあまりの不味さが、最近ではほとんどネタ的な扱いをされていた(実は本作のラストでそれは最高潮に達するのですが)栄吉。その彼が、目指すところとは少々ずれているとはいえ、ようやく大当たりを掴んだとくれば、これは喜ぶべきことでしょう。
 しかし、それが喜びだけではなく――いやそれどころかむしろ逆のものを――連れてくるという展開に表れているのは、決して甘いばかりではない本シリーズの一つの側面。冒頭からガツンと重い一発を食らわされた印象であります。


 以降、第二話以降も、様々な形の、決して嬉しいばかりではない「大当たり」が描かれていくことになります。

 獏が化けた落語家・場久が高座で語った大当たりの悪夢――何者かに追われる男の夢が現実を侵食するように、彼や日限の親分が何者かに追われる『長崎屋の怪談』
 貧乏神の金次が偶然手に入れた富くじの引札が三百両の大当たり、それに周囲の人々が群がってきた上に、実はその引札に偽物疑惑までもが持ち上がる『はてはて』
 幼い若だんなの守役として子供姿で遣わされた仁吉と佐助が、ギクシャクしながらも事件に巻き込まれた若だんなを救うため協力する過去の物語『あいしょう』
 長崎屋の客人を接待するため、猫股が持ってきた怪しげな秘薬を飲んで頑張ろうとする若だんなと、その供に誰がついていくかで妖たちが大騒動を引き起こす『暁を覚えず』

 正直なところ、「あいしょう」のみはどの辺りが「大当たり」かわかりづらく、本書の中では異彩を放っているのですが、ここは若だんなと兄やたち、兄やたちと長崎屋の妖たちの出会いを描くエピソード0的性格の番外編と考えるべきでしょうか。

 それはさておき、本作で様々な形で現れる「大当たり」――一見めでたいものと感じられる言葉が、様々な意味をもって物語に現れ、人と妖を振り回していく様に満ちている賑やかさ・楽しさ、そして皮肉さ・苦さは、このシリーズの味わい、魅力をこれ以上なく浮かび上がらせていると感じます。


 15周年を迎えても作中時間の流れ方は緩やかである本シリーズ。それでも着実に時が流れていることは、シリーズに登場する若者たち――若だんな、栄吉、松之助の三人を見ればわかります。
 本作においてはそれぞれの形で時間の流れを経験し、体現した若だんなたちですが、この先彼らがどのようにこの先の時を過ごしていくのか。

 変わらないのが良いのか、変わっていくのが良いのか……そんなことを感じさせる本作の内容は、一つの節目の年、節目の作品に、あるいはふさわしいものと言うべきかもしれません。


『おおあたり』(畠中恵 新潮社) Amazon
おおあたり


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