« 垣根涼介『室町無頼』 誰に頼ること無く、時代に風穴を開けた男たち! | トップページ | 畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味 »

2017.01.10

楠木誠一郎『馬琴先生、妖怪です! お江戸怪談捕物帳』 馬琴と座敷童、そして子供たちの大騒動

 『タイムスリップ探偵団』シリーズのように、歴史もの+少年少女探偵団ものを得意とする作者による本作、やはり同様の趣向ではありますが、しかし物語の中心となるのが、かの曲亭馬琴と彼の家に住み着いた座敷童というのが極めてユニークな作品であります。

 時は1820年、56歳となった曲亭(滝沢)馬琴は、飯田町の家で長女のお幸と二人暮らし。何かと偏屈な馬琴先生のもとにはお手伝いも居着かず、身の回りの世話は口うるさいお幸が取り仕切っている状況であります。
 そんなほとんど引きこもり同然の暮らしを送っていた馬琴の前に突然現れたのは、長年この家に住み着いているという童女姿の座敷童。「わらし」と名付けた彼女にはさしもの馬琴も調子を狂わされっぱなしであります。

 そんなある日、彼の家にやってきたのは『南総里見八犬伝』の大ファンだという美しい女性・真琴。この女性、はじめのうちは熱心なファンレターを持ってくるだけだったのですが、やがて自分が書いたという八犬伝の続き(それも途中で異常な内容に変わっていくという代物)を送りつけ、そしてついには家の前に小動物の死骸を置いていくようになっていきます。
 どんどんとエスカレートしていく行動に馬琴がさすがに危険を感じ始めた時、近所に住むお紺、原市、平吉は、「馬琴先生を守り隊」を結成、わらしとともに馬琴を守ろうとするのですが――


 舞台となる1820年は、約10年前には『椿説弓張月』が完結し、6年前には『南総里見八犬伝』がスタートした、戯作者・馬琴にとって脂の乗り切った頃。
 息子の宗伯も柳川藩主の侍医となったばかりで健在、自分もそろそろ体に衰えが出てきたとはいえまだまだ元気と、まず彼にとっては幸せな時期と言えるでしょう。

 そんな馬琴の偏屈ぶりについてはその日記等でよく知られたところですが、本作ではそこに天真爛漫な座敷童が絡んでくるのがなかなか楽しい。
 本来であれば子供にしか見えないはずの座敷童を見ることができるのは、馬琴にも子供じみたところがあるから……というのはなかなか愉快ですし、どこか二人の関係が、祖父と孫めいたものに見えてくるというのも、微笑ましいところであります。

 しかしそんな暖かいムードをぶち壊すように馬琴たちに迫る謎の女・真琴は、今で言えばストーカーそのもの。
 熱狂的な手紙を送りつけたと思えばそれが嫌がらせに発展し、ついにはいつの間にか土足で家に上がり込んでいるという、馬琴ならずとも危機を感じてしまそうな相手なのですが……もちろん、それだけで終わるはずがありません。

 段々と相手の行動が生々しくエスカレートしていった末に、これってどう考えても(物理現象として)普通じゃない……という状況になっていくのですが、この辺りの呼吸は、ホラーとしてなかなかよくできていると言えるでしょう。
(途中、送られてくる手紙が常軌を逸していく描写が、シンプルながら結構こわい)

 もっとも、その脅威に挑むのが近所の子供たちで、その対抗手段もなかなか微笑ましいので、一気に話の重さが霧消するのですが、それは本作が児童書であることを考えれば仕方のないところでしょうか。
 クライマックスの決着の手段など、呆気に取られそうな内容なのですが、ここまで来ると一種民話めいたすっとぼけ方とすら感じます。


 馬琴個人に関する描写がきちんと史実を踏まえたものであり、かつまた実に「らしい」ものである点、そしてその彼とはある意味対極にあるような座敷童の存在など、大人の目で見ても面白い部分があるだけに、こうしたいかにも子供向けの部分との差の大きさに戸惑いはしますが……それはまあ、対象外の読者の我が儘というものでしょう。

 先に述べたようにまだまだ馬琴も元気であり、そして飯田町の家にもまだしばらく住んでいたことを思えば……この先も馬琴とわらし、そして子供たちの騒動も楽しめるのではないでしょうか。


『馬琴先生、妖怪です! お江戸怪談捕物帳』(楠木誠一郎 静山社) Amazon
馬琴先生、妖怪です! (お江戸怪談捕物帳)

|

« 垣根涼介『室町無頼』 誰に頼ること無く、時代に風穴を開けた男たち! | トップページ | 畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/64743752

この記事へのトラックバック一覧です: 楠木誠一郎『馬琴先生、妖怪です! お江戸怪談捕物帳』 馬琴と座敷童、そして子供たちの大騒動:

« 垣根涼介『室町無頼』 誰に頼ること無く、時代に風穴を開けた男たち! | トップページ | 畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味 »