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2017.02.14

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第10巻 原作から一歩踏み出した最期の姿

 まだまだ続く十兵衛と魔界転生衆の死闘旅、ついに巻数も二桁に突入です。和歌山城での死闘を経て、粉河寺に至った十兵衛。そこで彼を待つのは、クララお品を捕らえた天草四郎であります。ついに激突する二人の戦いの結果が更なる波乱をもたらし、そして意外すぎるゲストキャラの登場が――

 囚われの身となったお雛を追い、和歌山城に赴いた十兵衛。そこで天守閣で彼を待ち受ける同門の名剣士・柳生如雲斎との二度目の対決は、お品の助勢により十兵衛が辛くも勝利することになります。

 が、お雛が敵の手にあることは変わらず、そして密かに十兵衛を助けてきたお品も、西国三番札所・粉河寺で、ついに天草四郎に責め問われることに――
 そしてお品に対し落花狼藉に及ぶ天草四郎ですが、これは彼にとっては必勝の儀式でもあることは、これまでに描かれたとおり。彼の忍法髪切丸は、女人の髪を用いることで、鋼の刃をも砕く力を生むのですから。

 かくて、万全の体制でもって、遅れて駆けつけた十兵衛と対峙する四郎(背中に黒い羽根と無数の亡骸を背負ったようなエフェクトが格好良い)ですが、その結果は……
 はは、本作で初めて『魔界転生』に触れた、いや原作以外のバージョンに触れていた方の驚きが目に浮かぶようであります。

 この辺り、どこまでも原作に忠実な本作らしいところですが、しかしここで本作は、原作からわずかに踏み出してみせることになります。

 四郎の傍らで、命の火が耐えようとしているお品の心に去来するのは、今よりももっと前、まだ純粋な二人が初めて出会った時の姿。
 そして十兵衛に、涙ながらにこれまでの旅の楽しさを彼女が向かう旅路とは、そしてそれに伴うのは…――

 ここで僕が思い出したのは、『バジリスク 甲賀忍法帖』での初の(と言ってよいかと思いますが)オリジナル要素であったお胡夷の最期。
 原作にはない、作者独自の描写は、ごく短いものでありつつも大いにこちらの心を揺すぶってくれたのですが……それと同様に、強く印象に残る最期の姿でありました。


 が、その一方で四郎が十兵衛に語ったのは、十兵衛の知らなかった――いやよく知っているというべきか――転生衆の名。
 そしてそれが柳生家を滅ぼしかねぬものであったことから、十兵衛は次善の策として密書を託していた弥太郎を、逆に止めねばならぬこととなります。

 この辺りは、「ゲーム」としてのこの
戦いのややこしさ、面白さがよく表れた部分ではありますが、しかし、ここからの弥太郎を巡っての柳生十人衆と根来衆の追いかけっこは、個人的にはあまりノレない展開で――

 と思いきや、ここでまたもやオリジナル(?)要素が、それもせがわまさきの山風ものファンには驚愕のものが飛び出すことになります。

 ただ一人道を往く弥太郎が、途中の村で出会った少女。弥太郎に根来衆の追手が襲いかかった時、彼女が持ちだした刀の持ち主は……
 かなりの年齢に見えながらも、しかし強者の風格と、どこか飄々としたものを伺わせる男。少女の祖父であるその老人の名は与五郎、そして(直接には登場しないものの)祖母の名は登世……そう、「あの作品」の主人公カップルのその後だったのです!

 基本的に原作に忠実であるせがわまさきの山風ものの中では異数の、原作とは異なる結末を迎えた「あの作品」。山風作品にして山風作品ではないその結末のその先がここで描かれるというのは、何とも楽しいファンサービスであります。

 もちろん、正直に申し上げれば唐突感は否めません。しかし、与五郎と武蔵の因縁を考えれば、そしてその時彼が囚われていた妄執に、今は武蔵が囚われているとも言える状況を考えれば、何とも皮肉なシチュエーションと言えるのではないでしょうか。


 もちろんこれはあくまでもファンサービスのスペシャルゲスト、物語は何事もなかったかのように先に進んでいくのですが……さて、この鬼ごっこがいつまで続くのか。個人的には早めに終わらせてほしいのですが。


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