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2017.02.27

木原敏江『白妖の娘』第2巻 復讐という「意思」、それぞれの「意思」

 塚に封印されていた白い妖狐を巡り、復讐のために妖狐にその身を差し出した少女・十鴇と、妖狐を倒すために陰陽師となった青年・葛城直を中心に描かれる時代ロマンの続巻であります。妖狐の力で貴族たちの間に食い込んでいく十鴇がついに見つけた憎き仇。それは姉を弄んだ貴族で――

 都の貴族に捨てられた姉が首を吊り、父も悲憤のうちに亡くなった少女・十鴇。生きる気力を無くした彼女を救うため、直はかつて先祖が禁足地の塚に封じた妖狐「お塚様」の封印を解き、お塚様は十鴇の身に宿ることになります。

 妖狐に身を差し出す代わりにその力を借りて復讐を誓う十鴇と、妖狐を復活させたことを悔い、封印するために術道の修行に励む直。
 ともに惹かれ合い、想い合いながらも、敵対することとなった二人は、それぞれ京に向かうことになって――

 と、美しき復讐鬼として男たちを手玉に取っていく十鴇と、陰陽師として内に眠る力に目覚めていく直と、二人の主人公がそれぞれ京で本格的に動き出したこの第2巻。

 第1巻の紹介でも触れましたが、妖狐に憑かれた少女と陰陽師の若者を中心とする本作の物語のベースにあるのは、岡本綺堂の『玉藻の前』だと思われます。
 しかし本作は、この第2巻から決定的にそちらと異なる要素の存在を前面にしていくこととなります。その要素とは復讐――姉を奪った貴族と、そんな貴族たちによる社会に対する十鴇の復讐であります。


 お塚様の手引きで京に出るや、名門の御曹司である五葉織草を魅了し、貴族の世界への第一歩を歩み出した十鴇。宮中に出仕することとなった彼女が出会ったのは、憎き姉の仇・雲居小路内麿でありました。

 名門の出身であることを鼻にかけた放蕩三昧、咎められれば自慢の美しい涙でごまかしてしまう内麿(あの悪左府・頼長すら煙に巻いてしまうのだからすごい)。
 しかし、姉が養っていた少女・螢から、内麿の涙の秘密を知った十鴇は素性を隠して内麿に接近。織草、螢の力を借りて、恐るべき復讐を遂行することに――

 宮中での出世物語&復讐譚というのは、古今東西のエンターテイメントで枚挙がありません。その意味ではこの第2巻での展開も(そのあまりに鮮やかな復讐は、痛快ですらあるほど見事なものなのですが)、こうした物語の系譜に属する物語ではあります。

 しかし、ここで注目すべきは、十鴇の復讐という強烈な「意志」であります。そう、彼女はお塚様に憑かれながらも、あくまでも自分の意志を持って復讐しようとしているのです。

 実は、先に挙げた『玉藻の前』においては、ヒロインの意志は妖狐に奪われ(あるいは乗っ取られ)、ほとんど消滅した状態にありました。
 しかし本作の十鴇とお塚様は、明確に別の人格として存在し、互いを利用する関係にあります。すなわち、十鴇は単純に妖狐の哀れな犠牲者というわけではないのです。

 そしてその明確な「意志」の存在は、ひとり十鴇だけのことではありません。十鴇=妖狐を知りつつも彼女に寄り添い続ける織草、彼女に仕える螢――彼らもみな、自分たちの意思を持って、妖狐と接しているのです。
 彼女たちの意志の存在が、本作において希望なのか絶望なのか……それはまだわかりませんが、物語の方向性を左右する要素となるだろう、と言うことはできるでしょう。

 そして、彼女たちに意志があるということは、彼女たちが様々な過去を背負い、そこから生まれた想いを抱いた、「生きた」存在であることをも意味します。
 それはまた、彼女たち妖狐サイドの登場人物に限るものではありません。直はもちろんのこと、彼の後ろ盾であり織草の友人でもある藤原玄雪、そして内麿にすら、それぞれの人生の存在が浮かび上がるのです。

 それが本作の物語に、一層の陰影と魅力を与えていることは言うまでもありません。


 内麿への復讐を果たした十鴇。しかしそれは実はまだ始まりにすぎません。彼女の復讐の対象は、彼のような貴族の横暴を許す貴族社会そのものなのですから。
 己の意志でもってそれを為そうとする十鴇と、それを止めようとする直、そしてそれを見つめるお塚様……三者の物語はどこに向かうのでしょうか。

 「妖狐の物語」ではなく、「妖狐と人間の物語」としての姿をはっきりと見せた本作からは、もう目が離せません。


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