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2017.02.05

吉川景都『鬼を飼う』第2巻 異形の人情譚と骨太の伝奇物語と

 昭和初期の薄暗い時代を舞台に、この世のものならざる「奇獣」の存在を巡り、帝大生・鷹名をはじめとする様々な人々の運命が交錯するユニークな物語の第2巻であります。奇獣商・四王天と、彼と行動を共にする美少女アリスの正体は、鷹名との因縁は……その一端がここで明かされることとなります。

 不思議な美少女・アリスに誘われ、本郷の「四王天鳥獣商」なる店に足を踏み入れた鷹名と友人の司。そこで扱われているのは、通常の鳥獣とは異なる存在――神話や伝説に登場するような妖怪・精霊・神獣の類である「奇獣」でありました。
 鷹名は、そこで主の四王天から「鬼」を飼うのを勧められたのをきっかけに、司とともに奇獣を巡る様々な事件に巻き込まれていくことになります。

 その一方で、東京で頻発する奇獣絡みの事件の頻発に新聞記者が興味を持ち、さらにその背後では奇獣の対処に当たる特高の特殊部隊の暗躍が――


 という基本設定を見れば、なかなかにハードな伝奇物語を想像させられますが、そうした色彩は持ちつつも、それだけに留まらず、本作は同時に様々な顔を見せることになります。
 現在のところ、本作では短編連作的スタイルで奇獣にまつわるエピソードが展開していくのですが、そこで描かれるのは、時に恐ろしく、時に哀しく、そして時に微笑ましく、時にすっとぼけた、バラエティに富んだ物語なのです。

 そもそも、「奇獣」自体がバラエティに富んだ存在。一口に奇獣とまとめられていても、実体を持たぬ存在もいれば、生物としての生態を持つものもおり、自分の意思を持つかも怪しい存在もいれば、あたかも人間のように考え行動する者もいるのですから。
 それだけに奇獣たちにまつわる物語は千差万別。特にこの巻に収録された、間の抜けた化け狐・葛の枝のエピソードなど、むしろ作者が得意としてきた猫や動物もののコメディに通じる楽しさがあります。

 しかしその中で共通するのは、奇獣と人間の関わりであることは間違いありません。その意味で本作は一種の人情もの的側面を持つのですが、その人間たちも、また千差万別であります。
 そして鷹名たちが登場せず、全く別個の登場人物たちが奇獣とか関わるエピソードも少なくなく、彼らと奇獣の関わりもまた本作の魅力であります(特に、大人の粋な女を気取りながらもお人好しさが抜けない女給さんのキャラクターなど実にイイ)。


 そうした物語を描きつつも、本作は次第にそれらを貫く背骨の存在を明らかにしていくこととなります。
 上で述べたように、あまりにも千差万別の存在である「奇獣」。しかし、その奇獣たちに一つの共通点があるとすれば……この巻で描かれる、鷹名の里帰りのエピソードでは、思わぬ形でその秘密が明らかにされることとなります。

 裏世界に通じ、未だに得体の知れぬ存在である四王天。しかしそんな彼と常に行動を共にするアリスもまた、あどけない美少女であるだけに、より一層、得体の知れぬ存在でもあります。
 そんなアリスに懐かれている鷹名が背負った思いもよらぬ過去と因縁……その中身は読んでのお楽しみですが、ここに来て本作のタイトルに、全く別の新たな意味が与えられたことには興奮を隠せません。


 そしてそんな秘密が明かされる一方で、静かに進行していく何者かの思惑。奇獣を狙い、奇獣を用いるその何者かに引き寄せられるように、鷹名と司が、四王天とアリスが、そして特高が新聞記者が、それぞれに動き、そして近づいていく――
 この巻の時点ではまだ決定的なものは見られないものの、いずれ彼らの運命が大きく交錯していくことは必定。その時にこの奇獣を巡る物語がどのような全貌を現すのか?

 奇獣にまつわる、バラエティに富んだ異形の人情譚と、謎と秘密に彩られた骨太の伝奇物語と……そのどちらの顔も魅力的で、どちらの顔も気になる物語であります。


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