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2017.02.04

上田秀人『織江緋之介見参 一 悲恋の太刀』(新装版) 若き日の剣士と美女の物語

 今や大人気作家となった上田秀人の2番目のシリーズ……それが吉原を舞台に青年剣士の愛と戦いを描いた『織江緋之介見参』であります。その第1弾である本作は以前取り上げていますが、少し前に新装版が刊行され、何よりも現在森田信吾が漫画版を連載中ということで、もう一度取り上げたいと思います。

 ある日ふらりと御免色里・吉原に現れ、おもむろに慶長大判を取り出して登楼を望んだかと思えば、名妓と同衾しても指一本触れず、そして恐るべき剣技を持つ青年剣士。
 名を問われれば、「織江緋之介」と明らかに偽名で答えるこの青年剣士が本作の主人公であります。

 吉原でも屈指の歴史を持つ遊女屋・いづやの主・総兵衛に気に入られて仮寓することになった緋之介ですが、しかし彼の周囲には常に剣難あり。
 幾度となく彼を襲撃する刺客の群れは、いづやにも襲いかかるのですが……しかし、刺客に狙われているのは彼だけではなく、いづやそのものも狙われていたのであります。

 何故緋之介は刺客に襲われるのか。彼の過去に何があり、何故吉原に現れたのか。そしてまた、いづやを狙うのは何者なのか……絡み合う二つの謎に、緋之介を巡る三人の美女、繰り広げられる幾多の死闘。その果てに物語は意外な結末を迎えることになります。


 私は本作の旧版を発表時に手に取り、このブログでも紹介しているのですが、今回再読したのはほぼその時以来――実に13年ぶりであります。そのため大筋はもちろん憶えていたものの、細かい部分は記憶が薄れていたところも多く、新鮮な気分で……いや、大いに楽しみ、テンションを上げながら読むことができました。

 何より、剣豪小説として実に本作は面白い。純粋に剣戟シーンの完成度もありますが、それ以上に、緋之介の正体と過去――そしてそれはそのまま彼が狙われる理由に繋がるわけですが――が、剣豪小説として、そして伝奇小説として実に盛り上がる内容なのであります。(何しろ、緋之介は、ライバルとして描かれることも少なくない○○○○流と○○○○流のハイブリッドであるわけで……)

 そこにさらに、吉原に関わる一大秘事が絡むのですから、面白くならないはずがありません。そしてその秘事だけでも十二分に伝奇的なところに、ラストにはあの大事件が……ときて、もう夢中でラストまで一気に読まされてしまったのです。


 そしてその一方で、逆にじっくりと味わうことができたのは、緋之介の成長を巡る物語……というより、緋之介を巡る三人の女性に関する物語であります。
 いづや、いや吉原きっての名妓である御影太夫、その妹女郎であり緋之介の世話係の桔梗、そして緋之介の許嫁である織江――いずれも極めつけの美女であることは間違いありませんが、しかし美しいだけでは終わらないのが本作であります。

 それぞれに複雑な過去を背負った三人、特に吉原という天国と地獄が隣り合った世界に暮らす御影太夫と桔梗が、緋之介に触れて何を想い、そしてどこが変わっていったのか……
 本作の陰の主人公とも言える彼女たちの想いの発露が描かれる場面は、時に剣戟シーン以上に、こちらの胸を打つのであります。そしてその想いに触れた緋之介の姿もまた。


 そしてもう一つ印象に残るのは――これは今だからこその感慨ですが――その後の、現在の作者の作品とのテンポの違いであります。

 シリーズ最終巻『終焉の太刀』新装版の作者あとがきによれば、この『悲恋の太刀』はまさしく背水の陣で描かれた作品、シリーズ化どころか発表できるかもギリギリの状況だったとのこと。
 そのような背景の作品と、長期シリーズ(が前提となっている)作品を並べるのはナンセンスかもしれませんが、しかしやはり、そこには自ずと違いが……それも想像以上に大きく現れるものだな、という印象があります。

 そしてこうした本作もまた、上で触れた『終焉の太刀』に至るまで、全7巻のシリーズに発展していくことになります。
 その中で本作にあったものが、どのように受け継がれ、どのように変わっていったのか……この先も、新装版で確認してみたいという気持ちが強くあります。


 もう一つ、森田信吾の漫画版が、展開は忠実ながら台詞回しは完全に森田節なのを確認したのも、まず収穫といえば収穫であります(こちらはこちらで単行本化を心待ちにしている次第)。

『織江緋之介見参 一 悲恋の太刀』(新装版)(上田秀人 徳間文庫) Amazon
悲恋の太刀: 織江緋之介見参 一 〈新装版〉 (徳間文庫)


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