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2017.02.28

一色美雨季『浄天眼謎とき異聞録 明治つれづれ推理』下巻 日常の謎、日常を破壊する謎

 人に、物に込められた記憶を覗く「浄天眼」の力を持つ戯作者・燕石と、その世話役の由之助が巻き込まれる事件を描く「第2回お仕事小説コン」グランプリ受賞作の下巻であります。非道な強盗殺人犯・辻の桐生を追うことになった二人が知った真実とは……

 まだ若いにもかかわらず、女中の千代と二人、ほとんど世捨て人のような暮らしを送る戯作者・魚目亭燕石。故あって彼の世話役となった由之助は、燕石が浄天眼の力を持つこと、それ故に人を避けて暮らしていることを知ります。

 しかしその力ゆえに、様々な騒動に巻き込まれ、騒々しい毎日を送る羽目になる燕石と由之助。そんな二人の前にある日持ち込まれたのは、かつて連続強盗殺人で帝都を騒がせた凶悪犯・辻の桐生の遺留品でした。
 実は桐生は、由之助の実家である劇場・大北座の花形女優と素性を隠して通じた過去を持ち、その忘れ形見が由之助の許嫁・小梅だったのです。

 そして燕石の家族とも悍ましい因縁を持つ桐生。幾重にも因縁重なる相手に挑むことになった二人の運命は――


 と、上巻の展開を引き継いで、最大の山場から始まることとなったこの下巻。浄天眼により、桐生の狙いが実の娘である小梅の命であることを知った燕石と警察は、大北座の舞台に小梅を立たせ、桐生をおびき寄せるという一世一代の賭けに出ることになります。
 小梅ともども舞台に上がる羽目になった由之助は、彼女を守りきることができるのか。そして自分の子を狙うという桐生の真意はどこにあるのか――

 と、この辺りの展開は、文字通りの舞台の派手さもさることながら、明らかに正気を失っているようにしか見えなかった桐生の中にあった真実が、なるほど! と思わず納得させられたのが嬉しい。
 燕石の手になる演目――愛する小紫との逢瀬のために辻斬りとなった白井権八を描く、異形の権八小紫の物語と重なり、不覚にもグッと来るものがありました。


 が、下巻の冒頭でこれほど物語を盛り上げて大丈夫かしら、というこちらの懸念はかなりの部分で当たり、物語はここから小粒なエピソードが続くこととなります。
 燕石の昔なじみが持ち込んできた謎の記号、福を招く雄の三毛猫を巡る争奪戦など、それなりに面白くはあるのですが、ここに配置するかな……という印象は否めません。

 特に、燕石自身の物語……燕石と千代を巡る物語が、割合あっさりと解決した感があるのは、彼らの過去の真実の意外な軽さ(まあ、真実は得てしてこういうものかもしれませんが)も相まって、かなり勿体ないという気がいたします。

 さて、これで如何にして物語を締めるのか……と思ってしまったのですが、しかしここで思わぬ爆弾が飛び出すことになります。

 大北座の頭取であり、かつては熱狂的な女性ファンも多かったという由之助の兄・由右衛門。由之助は、その由右衛門の大ファンだったという中年の婦人に、町で偶然出会うことになります。そして由之助が由右衛門の弟だと知り、過剰なまでの執着を見せる婦人。果たしてその婦人の真意は……


 上で述べた辻の桐生を巡るエピソードは実は例外で、描かれるエピソード、そして燕石と由之助が挑む事件の内容自体は、むしろ「日常の謎」とも言うべきものがほとんどであった本作。

 このラストの展開も、ある意味日常の謎ではありますが、しかしそれは、由之助の日常を根底から破壊しかねない謎であります。
 これも本作の一つの特徴である、男女の関係性の生々しさが、一気に頂点に達した感のあるその真相には、思わず言葉を失いました。

 もちろん、それが悲劇では終わることはなく、あくまでも後味は爽やかなのですが――


 上巻の紹介でも述べたとおり、本作をお仕事小説と呼ぶのは違和感が残りますし、やはり下巻の構成にも難はあると感じます。
 こうした不満はあるものの、それでも上下巻という結構なボリュームを最後まで一気に読んでしまったのは、やはりそれなりの力がある作品と言うべきでしょうか。

 少なくとも、作者の今後の作品をチェックしておきたい、それが本作の続編であれば嬉しいなあ、という気持ちになったことは確かであります。


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