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2017.02.26

みなと菫『夜露姫』 自分らしくあるための戦い

 平安時代を舞台に、濡れ衣を着せられて亡くなった父の無念を晴らすため、盗賊団に加わった姫君の活躍を描く痛快な物語……講談社児童文学新人賞佳作を受賞した作者のデビュー作であります。

 後三条帝の御代、笛の名手として知られ、帝からも引き立てを受けた中納言。その娘で15歳の晶子姫は、帝と対立する左大臣の息子で色好みの蔵人の少将からの求婚を手ひどくはねのけるのですが、その直後に彼女の運命は大きく変転することになります。

 帝から預かっていた名笛・黒鵜……その名笛が屋敷から忽然と消え失せ、帝への叛意までも疑われてしまった中納言。心労から寝付いた彼は、たちまちのうちに儚くなってしまったのです。
 後ろ盾もなくなり、瞬く間に没落した晶子。この世に生きる望みを失った彼女は、ある晩出会った盗賊・狭霧丸の正体を知ったのがきっかけに、さらわれてしまうのでした。

 神出鬼没の盗賊として、鬼とも恐れられた大盗・狭霧丸。しかし彼の素顔を知り、そして彼を通じて外の世界で暮らす人々……貧富の差に苦しみながらも必死に生きる人々の存在を知った彼女は、自分も盗賊になることを望みます。
 晶子……昼の世界の水晶から、夜の闇に輝く夜露へと名を変えた彼女は、やがて狭霧丸一味にとって、そして狭霧丸にとってもなくてはならない存在となっていくのですが――


 没落の姫君が、苦難の末に奪われたものを取り戻し、そして優しく頼もしい伴侶を得る……そんな貴種流離譚は古今東西に数え切れぬほどそれこそ本作の舞台である平安時代においても語られています。
 本作もそんな典型的な作品に見えるかもしれません。しかし本作の主人公・晶子/夜露は、「普通の」姫君とは異なり、自ら盗賊となって活躍するという、いそうでいなかったタイプのヒロインとして描かれるのです。

 幼い頃から男の子に混じって遊び、姫君としては少々、いやかなりおてんばに育った晶子。そのパワフルさは、無理矢理言い寄ってきた少将に対して硯を振り上げる冒頭にもよく現れていますが……しかし彼女の魅力は、そして主人公たる所以は、彼女がおてんばで、活動的であるからだけではありません。

 それは彼女の心の中にあるもの、そして不幸な境遇に陥りながらも、いやそれだからこそ彼女を奮い立たせた想い――それは真に自由でありたいという想い、「自分は自分」でいたいという想いなのです。

 生まれながらに高い身分にあり、衣食住に悩むこともなく、いつか素敵な殿方と恋をして結ばれることを夢見る……いささかステロタイプではありますが、我々の頭のなかにある平安時代の姫君像は、だいたいこのようなものでしょう。

 それはもしかしたら一つの理想であるかもしれません。そう思う気持ちは決して否定しませんが……しかしそれは時代や社会が決めた一つの枠、もっときつい言い方をしてしまえば、檻であるとも言えます。

 もちろんそれは平安時代に特有のものではあります。しかし、人に嵌める枠、人を閉じこめる檻は、いつの時代も、どの世界にも存在します。もちろんこの時、この場所にも。
 そしてそれを良しとはせず、周囲からは道見られようとも、自分は自分らしくありたいと思う者もまた――


 本作にはファンタジー要素はほとんどありません(せいぜい、自在に姿を消す狭霧丸の術くらいでしょう)。しかしドキドキハラハラの冒険の末に、正義が勝ち悪が滅びる、そしてヒロインは幸せを手に入れるという内容は、やはりファンタジー――お伽話と言ってよいかもしれません。

 しかし、お伽話だからこそ描ける理想が、その理想の尊さがあります。それは一方で、時代によって様々に変化していくものでしょう。
 そして本作は、平安時代を舞台にしつつも、この時代だからこそ生まれ、そしてこの時代だからこそ読まれるべきお伽話であると感じます。

 平安の世に、悲運に負けることなく活躍する盗賊姫の物語は、現代の日本で、自分らしくありたいと願う女の子たちへのエールなのであります。

 まだまだ荒削りな部分もありますが、しかし作者のこの先の活躍が楽しみになる、素敵な児童文学であります。


『夜露姫』(みなと菫 講談社) Amazon
夜露姫

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