« 『風雲ライオン丸』 第6話『黒豹よ三吉を助けろ!』 | トップページ | 篠綾子『紫式部の娘。 賢子がまいる!』 暴走ヒロインの活躍と母娘の和解 »

2017.02.17

滝沢聖峰『WHO FIGHTER』 その恐怖は空の高みから

 最近は江戸時代の出版界を舞台とした時代漫画『二兎物語』を発表しているものの、やはり滝沢聖峰といえば航空戦記漫画の第一人者という印象が強くあります。本作はそんな作者の作品の中でも異色中の異色作……太平洋戦争終戦間際の日本上空に現れた謎の発光体を巡る怪異譚であります。

 昭和19年11月、立川を飛び立ち機載レーダーのテストをしていた陸軍航空兵・北山中尉は、夜空に眩い光を放つ正体不明の物体と遭遇、機体の電子部品が全て焼き切れるという奇怪な状況に見舞われます。

 翌日、北山の前に現れたのは、秘密の研究を行っていると噂される登戸研究所からやってきた軍属の男・尾崎。
 発光体について北山の知らぬ情報を握っているらしい尾崎とともに発光体の墜落地点を北山は訪れるのですが、それ以降、彼の周囲では奇怪な現象が相次ぎます。

 内臓を抜き取られた犬の死体、偶然立ち寄った先にかかってくる電話、無理矢理日本語を喋っているような黒衣の男の来訪……
 そして尾崎の案内で、自分以前に発光体と遭遇し、一ヶ月後に帰還した兵士と対面した北山は、その帰りに蛾を思わせる奇怪な生物と遭遇、直後の記憶を失うことになります。

 北山の身に何が起きたのか。空で何が起きているのか。登戸研究所の地下に隠されたモノの存在を知った北山は、尾崎が計画する発光体奪取作戦に志願するのですが――


 タイトルとなっているフー・ファイターとは、第二次大戦中に世界各地で目撃されたという、未確認飛行物体/発光体のこと。
 実際には戦場の緊張が生んだ錯覚によるものが大半だったのではないかという気もしますが、しかし記録を信じるならば、どう考えても後世に言うUFOのことを指していたのでは……というケースもあり、なかなかに不気味な存在であります。

 本作はそのフー・ファイターを題材に、いわゆるUFO都市伝説――キャトル・ミューティレーション、MIB、ミステリー・サークルなど――を取り込んで描いてみせた、異形の軍記漫画であります。
 これらの題材や、登場する発光体の搭乗者の姿など、多分に通俗的なスタイルではあるのですが、しかしその作中での投入の仕方は実に巧みで、特に先に述べた電話の怪のくだりなど、実にゾクゾクさせられます。

 また嬉しかったのは、個人的に最愛のUMAである――UFOやMIBとの関連も噂される――モスマンまで登場してくることで……というのはともかく、いずれにせよ登場する題材は、いずれも実にツボを心得たものであるのがたまらないのです。


 それにしても、UFO都市伝説に、他の都市伝説や実話怪談の類とは異なる不気味さがつきまとうのは、その「わけのわからなさ」に依るところが大ではないでしょうか。
 因果因縁や怨念といった、ある意味人間のロジックでは図りかねる行動原理で動く存在が蠢く物語……それは裏返せば、対処の手段がない、頼るべき存在がないということでもあります。怪異に晒されても救いの手はない……これほどの恐怖があるでしょうか。

 そしてその理不尽な怪異と、戦争というある意味究極の国家の活動――すなわち極めて論理的に実施される(理論上は、ですが)行為が激突した時、何が生まれるか……
 本作は、作者一流の筆致を以て、すなわちどこまでもリアリティを保ちながら、その異次元の世界を描き出すのであります。

 もちろん、壮大なホラ話として楽しむべきものではあるかもしれませんが……しかし出色の戦争ホラー、UFOホラーであることは間違いありません。


 ちなみに単行本は本作のほか、中編『HEARTS OF DARKNESS』を収録。
 こちらはビルマの密林の奥深くで軍の命を離れ、独立王国を築こうとする部隊を処理するため、装甲砲艇で河を遡上する特務機関の中尉を主人公とした物語であります。

 その部隊長の名が来留津大佐というのを見るまでもなく、『地獄の黙示録』の第二次大戦版……というより、その原作であるコンラッドの『闇の奥』を原作としてクレジットしている本作。
 もっとも展開的には『地獄の黙示録』の翻案の要素がやはり強いのですが、しかし大戦末期のビルマという舞台から生まれるどうしようもなさ、一種の虚無感は、本作を独自の作品として成立させていることは間違いありません。
(もっとも、もう少し王国側の人間に狂気が欲しかった気はしますが……)


『WHO FIGHTER With heart of darkness』(滝沢聖峰 大日本絵画MGコミック) Amazon
フー・ファイター―With heart of darkness (MGコミック)

|

« 『風雲ライオン丸』 第6話『黒豹よ三吉を助けろ!』 | トップページ | 篠綾子『紫式部の娘。 賢子がまいる!』 暴走ヒロインの活躍と母娘の和解 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/64890438

この記事へのトラックバック一覧です: 滝沢聖峰『WHO FIGHTER』 その恐怖は空の高みから:

« 『風雲ライオン丸』 第6話『黒豹よ三吉を助けろ!』 | トップページ | 篠綾子『紫式部の娘。 賢子がまいる!』 暴走ヒロインの活躍と母娘の和解 »