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2017.03.29

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第3巻 二人を命がけで立たせたもの

 左右の手が逆についた異形の青年忍者・皆焼と、医師志望の少女・おこたの冒険を描く物語の最終巻であります。思わぬ成り行きから、しかし己の誇りを賭けて名門の貴公子と決闘を繰り広げることとなった皆焼。そしてついに明かされる彼の過去、彼が忍びとなった理由とは……

 皆焼の属する飛騨望月衆に加わり、その初仕事として、皆焼と二人で駆け落ちの夫婦を装って錠前を売ることになったおこた。しかしその仕事場所は、かつておこたが暮らしていた町でありました。
 そこで素性がバレてしまったおこたは、彼女を嫁に望んでいた名門・織田家の八男・長雄のもとに連れ戻されることになります。

 しかし自分の、そしておこたの仕事をあざ笑った長雄に対し、刀を手に対峙する皆焼ですが……相手は武芸の修練を積んだ侍、そして手にした得物も名刀・圧し切りとくれば相手が悪すぎる。
 正面から打ち合った皆焼のなまくら刀はへし折れ、自身も無数の傷を負う皆焼。しかしそれでも決して倒れず、なおも刀を交える彼の姿を見かねたおこたも、一つの決意を固めるのですが――


 第2巻の紹介では、皆焼とおこたが長雄を前に屈せず立つ理由を、己の仕事に対する「矜持」ゆえと述べましたが、しかしここで描かれたものは、それ以上に深く、重いものでありました。

 この巻の冒頭で挿入されるおこたの過去話は、彼女があれほど旅に憧れ、そして皆焼に惹かれる理由として、深く頷けるもの。
 長く孤独に生きてきた者にとって、自分以外の他者の存在が、自分をとりまく世界の存在が、どれほど暖かく、嬉しいものであるか……そしてそれを他者が力ずくで奪うことが、どれだけ腹立たしいことであるか。

 当たり前といえば当たり前のその想いのために、そしてそんな自分自身を貫くために、そんな相手を守るために、二人は命を賭けて立つのであります。


 そしてその想いは、皆焼の壮絶な過去を目の当たりにすることにより、より一層こちらの心に強く焼き付くことになります。

 幼いころからその腕のために、差別され、好奇の目に晒され、石もて逐われてきた皆焼。傷つき飢え、瀕死の彼がたどり着いたのは、目も見えず耳も聞こえない老人と、病で瀕死の少年が暮らす小屋でした。
 老人が気づかぬのをよいことに少年の食事を奪い、そして少年が死んでいくのを見殺しにした皆焼。そして少年になり代わって老人の下で、彼は一時の平和を得ることになります。

 しかしその彼を追って山賊が老人の小屋を襲ったことで、再び彼の運命は激しく動くことになります。そして老人を守るためについに刀を手にした皆焼に、老人はある真実を語るのですが――


 いやはや、皆焼の手とそれに対する周囲の反応という基本設定の部分だけでも驚かされた本作ですが、しかしこの過去編でのあまりの容赦のなさには、これまで以上に驚かされました。
 何もここまで描かなくとも……と言いたくなるほど、皆焼を追い詰め苦しめる描写と展開の連続は、ほとんど連載漫画ということを考慮に入れていないようにも感じられる構成も相まって、強烈なインパクトを残します。
(どうやらこの過去編は雑誌連載ではなく、web連載のようですが……)

 しかしそれだけに、その先にあった真実はそれまでの苦さに倍する感動を我々に与えてくれます。。
 そしてその真実が生み出したものこそが、その後の皆焼の生涯を、この巻の冒頭での彼の行動を決めることになるのであります。


 冒頭で触れたように、残念ながら本作はこの第3巻で完結となります。本作の最大の特徴であり、そして最大の謎であった皆焼の手の正体は明かされぬまま、物語は一つの結末を迎えることとなります。
(柳生十兵衛もまた……という描写があっただけにこの辺りは実にもったいない)

 それは本当に残念でならないのですが、しかし皆焼の過去とおこたの過去が描かれ、そしてそこから生まれた二人の願いが、二人の想いが結びつき、一つとなったことは、それはそれで一つの美しい結末であったと感じます。

 もちろん、その先の物語が描かれることがあれば、それに勝る喜びはないのですが――


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