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2017.03.06

横山仁『幕末ゾンビ』第3巻 死闘決着! 人のみが持つ力

 突如現れたゾンビにより大混乱となった戊辰戦争の最中、将軍・慶喜を守り北へ向かう永倉新八らの死闘もクライマックス。ゾンビの襲撃に、そして薩摩の追撃の前に次々と味方が倒れる中、なおも闘志を失わない新八は、真の敵の存在を知ることに……

 慶喜を守ってからくも大坂を脱出し、幕府逆転の秘策が眠る蝦夷地へ向かう永倉・原田・大石・市村ら新選組を中心とするメンバー。
 しかし無限に進化を続け、次々と仲間を増やすゾンビたちの前に原田は半ゾンビと化し、さらに薩摩が放った刺客・村田経芳により大石が討たれることに……


 と、地を駆け空を飛び、雨からも感染するゾンビのみならず、同じ人間をも敵に回すこととなった永倉。
 いや、元々敵は人間だったところにゾンビが乱入してきたのですがそれはさておき、こんな非常時でも追跡を諦めぬだけに、相手もただ者ではありません。

 村田経芳といえば、薩摩一の射撃の名手として知られ、後に日本初の国産小銃を開発した銃の申し子。鳥羽・伏見から東北まで、戊辰戦争で活躍した人物ですので、ここで登場するのは史実にも適っているのですが……

 しかし本作の村田は、不気味な能面に顔を隠し、超人的な射撃スキルによって永倉を追いつめるスナイパーとして登場。いや、たとえ距離を詰めたとしても、短銃でも恐るべき戦闘力を発揮する一種の怪物であります。
 そんな相手に刀一丁で挑む永倉も永倉ですが、ゾンビまでもが乱入する中で繰り広げる二人の死闘(日本刀と小銃でメキシカン・スタンドオフをやるとは!)は、この巻前半の名場面といえるでしょう。


 しかし、二人の戦いが激しければ激しいほど、そして名勝負というべきものに昇華されていくほど、一つの想いが強くなっていくことになります。ここまでゾンビ禍が広がる中で、人間同士がこんな戦いを続ける必要があるのか……と。

 その想いを受けるかのように、この巻の後半では、物語は大きな転換を迎えることとなります。
 村田との死闘の末、この戦いを終えるために、ある選択を決意する永倉、そして慶喜。そんな彼らに合流した勝海舟は、このゾンビ禍の真実を語ることになります。ゾンビの跳梁を終わらせる手段と、そして何より、ゾンビが出現した理由を――

 この辺り、どう考えても絶望しかない戦いを終わらせるには(物語的には)なるほどこの手しかないかと思いますし、真の敵の存在も、これまで伏線が張られていたことを考えれば納得なのですが……しかし前半までに比べれば、急激に物語が進みすぎた印象はあります。
(あの老人の文字通り決死の決意も有耶無耶になった感がありますし、そういえば沖田と土方はどこへ……)

 この辺り、予定よりも早く物語を完結させる必要が生じたのだろうなあ……と邪推してしまうのですが、もう本当に八方塞がりな状況が続いていただけに、そしてそれでもブチ抜いて見せるであろう面子が揃っていただけに、勿体ないという印象は否めません。


 しかしそれでも、限られた時間の中で、本作は描くべきは描いてみせた、というのもまた正直な印象であります。

 ついに正体を現した真の敵の猛攻に始まり、それに対して「人間として」挑む永倉たちの大反撃、そしてゾンビとは異なる形で死後の生を生きてきたあの男との決着ときて、そして! という感じのラストまで――
 個人的には「悪いのは全部○○」という展開は好みではありませんが、ええい、ここまで来たからにはやってしまえ! という勢いには、愛すべきものを感じます。

 ゾンビとの死闘を通じ、人の果てなき底力を描いてみせた『戦国ゾンビ』。それに対し、本作はその先の、人のみが持つ心が生む、一つの可能性を描いてみせた……と表すのは、綺麗すぎるでしょうか。


 それにしても……徳川幕府の影の守護者の活躍、見てみたかった。


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