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2017.03.31

天野行人『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』 前代未聞、平安相撲伝奇活劇!

 毎回個性的な作品を輩出している朝日時代小説大賞の第8回の最終選考候補作である本作は、安倍晴明や渡辺綱が活躍する平安ものですが……しかし中心となる題材はなんと相撲。内裏で行われる相撲節会を舞台に、異能の力士たちが激突するユニークな伝奇活劇であります。

 藤原道長が栄華の階段を登り始めた頃――彼と激しく対立する藤原顕光は、毎年七夕に行われる相撲節会において、自分と道長がそれぞれ選んだ最強の相撲人による決闘を提案、道長もそれに乗せられたことから、物語は始まります。

 顕光側の力士は、樹木を壊死させ、空を飛ぶ鳥を落とす怪しげな呪術を操る巨漢・獲麟。この怪人に対抗する力士探しを命じられた安倍晴明は、渡辺綱と二人、寧楽(奈良)は秋篠の里に向かいます。
 その秋篠の里こそは、遥か千年前、垂仁天皇の御前で行われた七夕相撲で勝利した野見宿禰の子孫が暮らす里。そこで地祇と会話する力を持ち、邪を祓う四股を踏む少年・出雲と出会った晴明は、出雲の陰守役である美少女・鹿毛葉らとともに、都に戻るのですが――


 相撲といえばどうしても江戸時代という印象が浮かびますが、その歴史は遥か過去にまで遡ることができるのは言うまでもない話。
 そしてその起源と言われ、そして伝奇ものでしばしば題材となっているのは、本作の中核ともなっている、野見宿禰と当麻蹴速の御前相撲であります。。

 『日本紀』の垂仁天皇7年の項に記されたこの試合は、激しい蹴りの応酬の末に、宿禰が蹴速の腰を踏み折るという、現代のイメージとは程遠い、凄惨な結末を迎えたと言われる一戦。
 本作はこの一戦を題材に、平安に至るまでの千年の因縁を巡る伝奇活劇として物語を構築しているのがユニークなところであります(ちなみに計算するとこの試合は紀元前の出来事なので、本作の時点から遡れば確かに千年前ではあります)。

 安倍晴明や渡辺綱らが妖魔や術者と戦う平安ものは枚挙に暇がありませんが、そこに相撲が絡んでくる物語は、ほとんど記憶にありません。この点は見事な題材選びと言えるでしょう。

 題材と言えば、個人的には、本作の悪役が藤原顕光であることにも感心させられました。
 芦屋道満による道長への呪詛を晴明が見破ったという有名な伝説は、この人物の依頼という話があるこの人物。死後にも数々の祟りを起こし、「悪霊左府」と呼ばれたというのですから穏やかではありません。

 さまで有名ではないものの、こうした逸話から考えれば本作でのキャラクターはまさにはまり役。先の野見宿禰と当麻蹴速の一戦やこの顕光の存在など、本作は既存の伝説を巧みに絡め合うことで、全く新たな物語を生み出しているのに感心させられます。


 とはいえ、残念な点がないわけではありません。晴明や綱、出雲をはじめとして様々なキャラクターが登場する本作ですが、その人物像はさまで掘り下げがなされているとは言い難いように思えます。
 好奇心旺盛な食えない性格の晴明、実直な武人の綱、天真爛漫な出雲、ツンデレの鹿毛葉……わかりやすいキャラクター設定は親しみが持てるのですが、そこから先に広がりが欲しかった、という印象はあります。

 悪役サイドが、わかりやすい悪役で終わってしまったことも含めて――

(これは全く別の話ですが、過去話としてさらっと邪馬台国と神武東征を絡めて物語を設定しているのにも疑問符が)


 とはいえ、達者な物語運びもあり、ラストまで一気に読むことができた本作。おそらくは本作が作者のデビュー作であることを考えれば、今後の活躍に期待してもよいのではないかと思います。
 本作の登場人物たちのその後の姿も描いて欲しい、という気持ちも確かに感じられるところであります。


『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』(天野行人 朝日新聞出版) Amazon
花天の力士 天下分け目の相撲合戦

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2017.03.30

『風雲ライオン丸』 第11話「生きていたタイガージョー!」

 通り魔を繰り返すザグロとの最初の対決でロケットを壊された獅子丸。血気に逸る豹馬は単身ザグロと対決、命を落としてしまう。嘆き悲しむ獅子丸だが、ザグロに兜を割られ敗退。その前に現れた謎の男・虎錠之進は獅子丸を挑発し、彼の弱点を指摘する。その言葉に兜を捨て、獅子丸は再びザグロに挑む。

 アバンタイトルで侍四人を一瞬のうちに殺す深編笠姿の怪人ザグロ。名前といい赤鬼めいたビジュアルといい、全く何がモチーフの怪人かわかりませんが、相当な強豪です。
 一方獅子丸は、豹馬、そして志乃と三吉と行動を共にし、すっかり周囲は賑やかになりました。通り魔の噂を聞いた彼は、前回改心した豹馬に二人を任せて見回りに出るのですが、そこでザグロと対面。ザグロの必殺技――大ジャンプから宙を舞い、脳天に斬りつけてくる兜割りを兜で受け止め、その刀を折るものの、自身もロケットを破壊されてしまうのでした(そして一旦撤退したザグロは、自分の口から吐く炎で刀を修理するという面白行動)。そしてその帰路、獅子丸は何者かの視線を感じるのでした。

 さて、獅子丸不在の間、テンションが上がりすぎて川の中で刀を振り回して、寝て三吉にウザがられたりしていた豹馬。翌日、三吉の町への買い物に付き合うことになった彼は、獅子丸が鍛冶屋を探しに離れた後に自分も単独行動を取り、ザグロに挑戦します。
 ブラックジャガーに変身してザグロと剣を交える豹馬(そしてライオン丸の正体を把握しておらず、豹馬が正体だと思い込んでいたザグロ)。しかし豹馬を一蹴、必殺の兜割りが豹馬を襲い――

 不吉な予感に駆け付けた獅子丸。しかし彼が見たものは、花畑の中に一人倒れた豹馬の姿でした。あまりにやりきれない仲間との別れに、珍しく悲しみの感情を露わにする獅子丸。その前に現れたのは、『快傑ライオン丸』のタイガージョーこと虎錠之介の弟を名乗る謎の男(クレジットは虎錠之進)でした。不敵な表情で挑発してくる彼に激怒した獅子丸は、生身の相手に変身した状態で斬りかかるのですが、錠之進はあっさりいなして姿を消します。

 そして据わった目でロケットを黙々と修理し、ライオン丸に変身してザグロに再戦を挑む獅子丸。しかし再び兜割りを兜で受け止めたものの、今度は兜を割られ、辛くも逃れるのでした。落ち込む彼の前に再び現れた錠之進は、ライオン丸の弱点は兜に頼りすぎることだと指摘。今までそうだったかは疑問ですが、確かに今回は頼っていたのは間違いありません。覚悟を決めて兜を捨てたライオン丸は、黄金の鬣を振り乱してザグロに最後の戦いを挑みます。

 それに同行した錠之進は「タイガージュニア!」の掛け声でタイガージョーJr.に変身、地虫を引き受けると獅子丸を行かせます。
 激しい剣戟の末、兜割りを躱してついにザグロを倒した獅子丸。しかし復仇の喜びに浸る間もなく、錠之進は怪人を倒してもキリがない、倒すならアグダーだと獅子丸に告げるのでした(獅子丸、初めてアグダーのことを知ったのでは……)


 豹馬の退場とタイガージョーJr.の登場と、冷静に考えれば結構珍しいライバル交代回となった今回。前回仲間になったばかりで退場という悲しいことになった豹馬は、マントル一族に対する敵意に逸るあまりに命を縮めましたが、前回までの銭ゲバぶりや理非判断のつかなさ等、その直情径行ぶりがなかなか魅力的だっただけに、早すぎる退場が悔やまれます。獅子丸がほとんど彼のことをライバルとして見ていなかったのが災いしたか……
 そして初登場のタイガージョーJr.は、「俺の兄貴は虎錠之介とか言っていたが、あいにく俺は名前を忘れてしまった」といきなり謎の発言、クレジットでは錠之進となっていたのが後に錠之介になったり錠之助になったり、本当に謎の男であります。キャストも前作と同じですし、前々回の快傑ライオン丸同様に獅子丸を見守りにやってきた本人、と考えた方が納得できたりして……

 ちなみに今回は物語がシンプルであっただけにアクションは充実、剣戟ではあっさり倒されることが多かったマントル怪人の中ではザグロは屈指の強豪(武器の豊富さといい、通り魔というシンプルすぎる任務といい、戦闘任務専用の怪人?)で、それだけに兜を捨てて必死に立ち向かうライオン丸の格好良さも引き立っておりました。


今回のマントル怪人
ザグロ

 次々と通り魔を繰り返していた剣豪怪人。刀だけでなく、縁に刃を仕込んだ編笠や爪先に取り付ける刃、口からの銃弾など、多彩な武器を持つ。必殺技の兜割りでブラックジャガーを殺し、ライオン丸の兜を割ったが、三度目の対決で兜を捨てた背水の陣のライオン丸に敗れた。


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2017.03.29

宮島礼吏『もののて 江戸忍稼業』第3巻 二人を命がけで立たせたもの

 左右の手が逆についた異形の青年忍者・皆焼と、医師志望の少女・おこたの冒険を描く物語の最終巻であります。思わぬ成り行きから、しかし己の誇りを賭けて名門の貴公子と決闘を繰り広げることとなった皆焼。そしてついに明かされる彼の過去、彼が忍びとなった理由とは……

 皆焼の属する飛騨望月衆に加わり、その初仕事として、皆焼と二人で駆け落ちの夫婦を装って錠前を売ることになったおこた。しかしその仕事場所は、かつておこたが暮らしていた町でありました。
 そこで素性がバレてしまったおこたは、彼女を嫁に望んでいた名門・織田家の八男・長雄のもとに連れ戻されることになります。

 しかし自分の、そしておこたの仕事をあざ笑った長雄に対し、刀を手に対峙する皆焼ですが……相手は武芸の修練を積んだ侍、そして手にした得物も名刀・圧し切りとくれば相手が悪すぎる。
 正面から打ち合った皆焼のなまくら刀はへし折れ、自身も無数の傷を負う皆焼。しかしそれでも決して倒れず、なおも刀を交える彼の姿を見かねたおこたも、一つの決意を固めるのですが――


 第2巻の紹介では、皆焼とおこたが長雄を前に屈せず立つ理由を、己の仕事に対する「矜持」ゆえと述べましたが、しかしここで描かれたものは、それ以上に深く、重いものでありました。

 この巻の冒頭で挿入されるおこたの過去話は、彼女があれほど旅に憧れ、そして皆焼に惹かれる理由として、深く頷けるもの。
 長く孤独に生きてきた者にとって、自分以外の他者の存在が、自分をとりまく世界の存在が、どれほど暖かく、嬉しいものであるか……そしてそれを他者が力ずくで奪うことが、どれだけ腹立たしいことであるか。

 当たり前といえば当たり前のその想いのために、そしてそんな自分自身を貫くために、そんな相手を守るために、二人は命を賭けて立つのであります。


 そしてその想いは、皆焼の壮絶な過去を目の当たりにすることにより、より一層こちらの心に強く焼き付くことになります。

 幼いころからその腕のために、差別され、好奇の目に晒され、石もて逐われてきた皆焼。傷つき飢え、瀕死の彼がたどり着いたのは、目も見えず耳も聞こえない老人と、病で瀕死の少年が暮らす小屋でした。
 老人が気づかぬのをよいことに少年の食事を奪い、そして少年が死んでいくのを見殺しにした皆焼。そして少年になり代わって老人の下で、彼は一時の平和を得ることになります。

 しかしその彼を追って山賊が老人の小屋を襲ったことで、再び彼の運命は激しく動くことになります。そして老人を守るためについに刀を手にした皆焼に、老人はある真実を語るのですが――


 いやはや、皆焼の手とそれに対する周囲の反応という基本設定の部分だけでも驚かされた本作ですが、しかしこの過去編でのあまりの容赦のなさには、これまで以上に驚かされました。
 何もここまで描かなくとも……と言いたくなるほど、皆焼を追い詰め苦しめる描写と展開の連続は、ほとんど連載漫画ということを考慮に入れていないようにも感じられる構成も相まって、強烈なインパクトを残します。
(どうやらこの過去編は雑誌連載ではなく、web連載のようですが……)

 しかしそれだけに、その先にあった真実はそれまでの苦さに倍する感動を我々に与えてくれます。。
 そしてその真実が生み出したものこそが、その後の皆焼の生涯を、この巻の冒頭での彼の行動を決めることになるのであります。


 冒頭で触れたように、残念ながら本作はこの第3巻で完結となります。本作の最大の特徴であり、そして最大の謎であった皆焼の手の正体は明かされぬまま、物語は一つの結末を迎えることとなります。
(柳生十兵衛もまた……という描写があっただけにこの辺りは実にもったいない)

 それは本当に残念でならないのですが、しかし皆焼の過去とおこたの過去が描かれ、そしてそこから生まれた二人の願いが、二人の想いが結びつき、一つとなったことは、それはそれで一つの美しい結末であったと感じます。

 もちろん、その先の物語が描かれることがあれば、それに勝る喜びはないのですが――


『もののて 江戸忍稼業』第3巻 (宮島礼吏 週刊マガジンKC) Amazon
もののて(3)<完> (講談社コミックス)


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2017.03.28

八犬伝特集その二十 越水利江子『南総里見八犬伝 運命に結ばれし美剣士』

 越水利江子といえば、『忍剣花百姫伝』『うばかわ姫』といったオリジナルの時代ものがまず浮かびますが、その一方で児童向けの偉人伝や古典リライトでも活躍している作家。本作もその系譜に属する作品ですが、なかなかに完成度の高い、単純なダイジェストに留まらぬ八犬伝として成立しています。

 この『ストーリーで楽しむ日本の古典』は、児童文学の老舗・岩崎書店が刊行しているヤングアダルト作家による古典リライトシリーズ。執筆陣には金原瑞人、那須田淳、令丈ヒロ子等々、錚々たる面々が並びますが、本書の越水利江子も、これまで『とりかえばや物語』『落窪物語』『東海道中膝栗毛』を刊行しています。

 そのシリーズの最新巻である本作は、言うまでもなく曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』をベースとしたもの。
 この八犬伝、大人よりもむしろ子供の間で人気なのではないか……と思ってしまうほど、児童文学の出版社それぞれからリライトが刊行されており、その幾つかはこのブログでも紹介させていただいております。

 もちろんそのアプローチは千差万別、可能な限り原典に忠実な作品もあれば、原典をベースにアレンジを加えたもの、あるいは題材のみを借りたほとんどオリジナルの作品すらありますが……本作は、相当に原典に忠実な部類と言えるでしょう。

 結城合戦に始まり、里見義実と伏姫の物語から、八犬士誕生と来て、信乃の登場と荘介との義兄弟の契り、浜路くどきから道節登場、芳流閣の決闘――いずれも八犬伝ならではの見せ場ですが、本作は原典の要素をほぼそのままに、それらを巧みに再構築してみせます。
 もちろん、必ずしも原典そのままではないものの(特に房八とぬいのくだりは相当にアレンジ)、本作は基本的に新しい要素は足さずに、原典の物語を再現してみせることに成功しているのです。
(玉梓が怨霊の出番がほとんどないというのも、実はリライトでは非常に珍しい)

 しかし、個人的に一番印象に残ったのは、その情景・心理描写の美しさであります。
 富山の自然の中での伏姫と八房の生活、信乃と浜路の出会い、芳流閣の上からの眺望など、原典の名場面の間にふと差し挟まれる描写の美しさは、本作ならではの魅力として、特筆すべきものでしょう。
 例えば、
「冬ごもりの雪雲はいつしか晴れ、春霞が立てば、朝鳥が友を呼んで鳴きかわす。(中略)
 夏の夜には、谷川の苔石は、昼間の陽のぬくみを残してやわらかく、苔石に腰かけ、見上げれば、三日月の青く冴えわたるのに、伏姫の胸はせまった。
 夏の夕立で洗い流した黒髪も、秋ともなればやや冷えて、織りなす谷の紅葉も散りつもり、松風が吹きこむ伏姫の寝床の岩窟は、いつしか錦の床となっていた。」
というように――


 このように、子供に限らず、我々が読んでも十分に面白い本作ですが、しかし一点本当に残念なのは、本作が荒芽山のくだり――一旦は集結した五人の犬士が、管領軍の襲撃に散り散りとなる場面で終わっていること。

 もちろん原典の分量を考えれば、一冊で全てを収めることは不可能であることは間違いありませんが、これだけの水準のものであるからこそ、勿体無いというほかありません。
 この後も数々の名場面が存在する『南総里見八犬伝』。いつかそれらの名場面を作者の筆で読むことができるよう、願う次第です。


『南総里見八犬伝 運命に結ばれし美剣士』(越水利江子 岩崎書店ストーリーで楽しむ日本の古典) Amazon
ストーリーで楽しむ日本の古典 (19) 南総里見八犬伝 運命に結ばれし美剣士


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2017.03.27

『変身忍者嵐』 第4話「怪人! 卍カマイタチ!!」

 武田家の隠し金山の在処が記された金の狛犬を狙う卍カマイタチ。その企てを知った太郎を助けたハヤテたちは、怪鳥峠の地蔵の下から狛犬と絵図面を見つける。太郎の両親を人質として狛犬を奪おうとする卍カマイタチ。敵の罠に嵌まったハヤテだが、嵐に変身して脱出、卍カマイタチと最後の対決に臨む。

 骸骨丸の秘法で、ツボの中の液体に漬けられた下忍が卍カマイタチ(劇中では終始「カマイタチ」呼ばわり)に化身するという珍しい描写から始まった今回。武田家の隠し金山の在処が隠されているという金の狛犬を探す作戦ですが、カマイタチの役割は邪魔な村人を片っ端から始末すること、という時点で嫌な予感がしますが……
 農作業中のお百姓さんの足を鎌で引っかけて転ばして襲いかかったり、農家に押し入って鶏を殺したり(ある意味イタチっぽい)とアバウトに任務を果たしている姿を、軒下に隠れていた太郎少年に見られ、後をつけられて下忍たちが地蔵の下を掘っているところを目撃されるカマイタチ。そして太郎を追いかけていたらタツマキ父子、そしてハヤテに見つかってしまうという、血車党の泥縄展開は健在であります。

 太郎の証言から、地蔵が既に三つも掘り起こされたことを知ったハヤテは、最後の地蔵が怪鳥峠にあることを知り、そこで金の狛犬を発見。そこに忍び凧に乗って空からやってきた骸骨丸(それを見上げるタツマキの目が物言いたげに見えるのはこちらのひが目か)の命で、血車忍法イタチ車(全身の関節を外し、体を縮め、鞠のようになって襲いかかる……と解説されるものの、単なる移動技)で転がってきたカマイタチや下忍たちと乱戦が始まります。
 ……と思ったらカマイタチは戦っている最中にカスミの鏡の反射で目をくらまされ、その直後にハヤテも下忍の鎖分銅で文字通り足をすくわれるというメタメタな戦いが展開しますが、カマイタチの起こしたなんかよくわからない爆発で崖下に転落したハヤテが嵐に変身したことで、カマイタチは黄色い毒煙をまき散らして逃走するのでした。

 その後も、ハヤテに偽の狛犬を掴まされるなど失策が続く骸骨丸は、カマイタチに太郎の両親襲撃を指示。なるほど、人質を取るのか……と思ったら、翌朝までに狛犬の隠し場所を教えろと凄むだけで引き上げるのは拍子抜けですが、案の定、父親に化けていたハヤテに待ち伏せされ、さらにそこにタツマキが駆けつけたくらいで逃げる体たらく。さすがにこれは魔神斎に同情します。
 しかし侍は信用できねえ、と時代劇の農民っぽさ全開で逃げ出した太郎の両親は途中カマイタチに捕まり、人質と狛犬の交換に応じたハヤテも、あっさり網を被せられて捕らえられ、カマイタチにボコボコにされるのでした(しかし含み針で反撃されるカマイタチ)。

 なぶり殺しにしてやると先にタツマキたちも落ちていた穴にハヤテを放り込み、何やら毒粉らしいものを撒く血車忍法しびれ殺しを仕掛けて去るカマイタチ。しかしその後、落とし穴の中で嵐に変身され、あっさりジャンプで脱出されるのは、本当にいかがなものかと言わざるを得ません。
 追いかけてきた嵐を、尻に仕掛けていた(?)銃で狙撃するもあっさり躱され、滝の上という滝の上といういいロケーションで対決するカマイタチ。しかし秘剣影うつしで目を眩まされて叩き斬られ、地図もどこかに喪われて一件落着となるのでした。


 初期の本作らしく、血車党の泥縄ぶりが目に付く今回(しかしハヤテもかなり迂闊なのですが)。しかしカマイタチの非対称な造形はなかなかよく出来ていて、二本の長い鎌を組み合わせると卍型になるというアイディアも面白く、この辺りのアンバランスさもまた嵐らしいといえばらしいところであります。(しかし、何ともシンプルなサブタイトル……)


今回の化身忍者
卍カマイタチ

 組み合わせると卍型になる鎌を持ち、逃走時の黄色い煙や口から吐き出す白煙、毒粉を撒くしびれ殺しなど、数々の毒煙を操る化身忍者。武田の隠し金山の在処が記された金の狛犬を狙い、村人を次々と殺したが、ハヤテに追い詰められ、秘剣影うつしに倒された。


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2017.03.26

山田秋太郎『墓場の七人』第2巻 出るも守るも続く地獄絵図

 七人の侍vsゾンビというコンセプトで度肝を抜いてくれた『墓場の七人』、待望の第2巻であります。生ける死者「屍人」から墓場村を守るために集められた七人の猛者。村に立て籠もった人々を守る七人ですが、しかし想像を絶する敵の能力と生態は彼らと村の人々を窮地に陥れることに――

 屍人に包囲された墓場村を救うため、用心棒を求めて各地に散った七人姉弟。末っ子の七平太も幾多の苦難を乗り越え、凄腕の剣士・一色を見つけて帰還、駆けつけた六人の用心棒とともに屍人の襲撃から村を救うことに成功します。

 集結した「墓場の七人」、その顔ぶれは――
 相手を百の肉片に挽くことからかつては百挽と呼ばれた男・一色
 この世の「腐れ」を好む剣呑極まりない体術使いの美女・邪魅羅
 僧侶にして医者でもある生真面目な青年・暮威
 華奢な美少年ながら、砂などの鉄分を自在に操る由利丸
 その由利丸とコンビを組む、大槍を持った寡黙な巨漢・百山
 金目の話に目がない商人にして、絡繰り使いの男・千両箱
 そして今なおその力を見せぬ壮漢・椿團十郎

 一色と邪魅羅以外は第1巻ラストが初登場というのは、集結過程をじっくり見せるのが定番の「○○の七人」ものからすれば異色ですが、しかし彼らの外連味の効きまくったビジュアルと能力を見れば、それも小さい拘りと思わされるほどの、堂々たる顔ぶれであります。


 さて、こうして集結した墓場の七人の任務は、十日のあいだ村を守ること。かつて行われた最大の合戦地(関ヶ原?)の死者を祀るために公儀によって作られたこの村を守るため、十日の後には公儀の援兵が到着するというのであります。
 しかしバリケードに隠れて守りを固めようとしてもそうもいかず……というのはゾンビものの定番。ほとんど休む間もなく村に襲撃を仕掛けてきた桁外れの巨体を持つ屍人「がしゃどくろ」の攻撃で防壁を破壊された村は、外敵に対して丸裸も同然。

 早くも総力戦を強いられることとなった墓場村ですが、しかし村人が手にする武器はありません(なるほど、時代背景を考えれば尤もな話ではあります)。
 ここで一色たちが藁をも掴む思いで頼ることとなったのは、物語の冒頭に登場した悪旗本が集めていた(のを邪魅羅がちょろまかして隠した)武器。そしてその中には、一色の家に代々伝わる退魔の刀が――

 かくて隠し場所に向かうのは、一色・邪魅羅・千両箱と七平太の二人の姉。しかし隠し場所は遠く、そこまでは無数の屍人が蠢く地を横断することになります。
 一方、村に残ることとなった七平太は、がしゃどくろの死体を調査した暮威から、屍人にまつわる恐るべき事実を知ることに――


 非力な人々が暮らす村を守るために戦うというのも「七人」ものの定番ですが、しかし守るだけの戦い、それも数もわからなければ文字通り不死身の体を持つ相手を向こうに回しての戦いは、一歩間違えれば単調になりかねぬものであります。
 本作はそこに十日間というタイムリミットを設けるとともに、一色たちが一度村を離れなければならない状況を設定することで、幾重にも捻った展開を用意してくれるのが嬉しいところです。

 しかしもちろん、村を出るも守るも、そこにあるのは屍人が蠢く地獄絵図。
 特に墓場村を襲った危機は、これまたゾンビものでは定番のものなのですが、しかし江戸時代の人間がそれを知るはずもないことから、惨劇が広がっていくというのが、なかなかいい。


 この先どれだけの惨劇が待つのか、そして素直に十日後に戦いは終わるのか……そして七人は生き残ることができるのか。
 まだまだ先の読めぬゾンビ時代劇のたどり着く先に期待であります。


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2017.03.25

野田サトル『ゴールデンカムイ』第10巻 白石脱走大作戦と彼女の言葉と

 ついに単行本も二桁の大台に突入した『ゴールデンカムイ』。思わぬ成り行きから手を組んだ杉元一味と土方一味ですが、脱獄王・白石が第七師団に囚われたことで、思わぬ道草を食うことに……

 鶴見一派がニセの刺青人皮を手に入れたことをきっかけに、一時休戦することとなった杉元と土方。贋作を見破る術を知る可能性がある贋作師・熊岸長庵と会うため、樺戸集治監に向かう一行は、チームをシャッフルして二手に分かれるのですが……もちろんその先でも騒動に巻き込まれることになります。

 アイヌになりすましていた脱獄囚一味と大乱戦を繰り広げた末、そのリーダーであり刺青人皮の持ち主である詐欺師・鈴川聖弘を捕らえた杉元チーム。
 一方、土方チームでは白石が第七師団と遭遇、捕らえられたことから、土方とキロランケという渋すぎるコンビが救出に向かうのですが……しかし白石のポンコツぶりと、彼自身が杉元に内通がバレることを恐れていたことから失敗に終わるのでした。

 合流した両チームは、鈴川の変装術を頼りに、大胆にも第七師団の本拠である軍都・旭川に潜入。首尾良く白石のところまでたどり着いた鈴川と杉元ですが、そこに鶴見中尉の懐刀の薩摩隼人・鯉登少尉が現れ――


 というわけで、白石救出作戦がメインとなったため、本筋はほとんど進まなかった今回。そのため……というわけではまさかないと思いますが、変態キャラの登場も少なく(登場しないとは言っていない)、比較的落ち着いた内容ではあります。

 しかしもちろん、それが面白くないということとイコールではないことは、言うまでもありません。
 相変わらずのテンションの高いギャグ(そして唐突に挿入される小ネタ)、アイヌグルメにアイヌ知識、陸海空(陸水空)に展開される派手なアクションetc.本作の魅力はここでもこれでもか、とばかりに詰め込まれているのですから。

 特に、白石救出作戦の中核として前巻で登場した鈴川の驚くべき変装スキル&詐欺師ならではの人心掌握術が展開されるくだりは、本作の隠れた(?)魅力であるサスペンス味が実に良く出た展開。
 それを迎え撃つ新キャラ・鯉登少尉も、まだまだ顔見せに近い出番ではありますが、精悍な見かけによらぬ一筋縄ではいかない面白キャラぶりを予感させ、今後の展開に期待を持たせます。

 そしてまた、主人公サイドだけでない数多くのキャラクターが入り乱れる本作の楽しさは、この巻でももちろん健在であります。

 今回は比較的動きが静かな鶴見中尉の前には、銃器開発の天才・有坂成蔵中将が登場。言うまでもなく有坂成章がモデルの人物かと思いますが、漫画版ゲッターロボの敷島博士の如きキャラ造形には――登場エピソードがこの巻屈指の異常なテンションであったことも相俟って――少ない出番が強烈に印象に残ります。

 さらに杉元たちを追う谷垣・インカラマッ・チカパシの前には、千里眼の超能力者・三船千鶴子が登場。
 こちらはもちろん御船千鶴子がモデルですが(ご丁寧に彼女のマネージャー的立場だった義兄・清原ならぬ青原というキャラも登場)、同じ千里眼持ちのインカラマッとの絡みは、思わぬ変化球で驚かせてくれます。
(それにしても有坂も御船も、モデルを容易に連想させつつも、あくまでも架空の人物という扱いなのは、色々と苦労が窺われます)


 しかしそんな中でもきっちりとラストを締めるのは、記念すべきこの巻の表紙・裏表紙を飾った杉元とアシリパであります。

 前の巻で、アシリパを守るためとはいえ、その彼女自身がドン引きするような大殺戮をやらかした杉元……その後も、いやそれ以前にも、普段の好青年ぶりとは裏腹の非情かつ狂気に満ちた表情を見せてきた彼に、アシリパがかけた言葉とは――

 杉元・鶴見・土方……彼らに共通するのは、戦争の狂気の中で己を輝かせ、そして戦争が終わった後もなお、その戦争に囚われ、己を見失ったことであります。
 だとすれば彼らは、杉元はもう戻ってくることはできないのか? その哀しい問いかけに対する一つの答えとして、アシリパの言葉は響きます。

 本作の最大の魅力……それは、どれほど極端な描写があろうとも、その奥に息づく人間性の存在と、それを描く筆の確かさであると、改めて確認させられた次第です。


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 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと

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2017.03.24

『風雲ライオン丸』 第10話「うなる大砲 怪人ズク」

 オランダ渡りの巨砲を奪い、途中で虐殺を繰り返しながら目標である堺に向かうズク。後を追う獅子丸は、対決を望んでマントル側についた豹馬を一蹴して先に進む。なおも獅子丸の後を追う途中、ズクの非道を目の当たりにした豹馬の心に去来したものは。そして巨砲の標的となった獅子丸の運命は……

 オランダ渡りの巨砲を家老と名乗る男に引き渡すため輸送してきた武士の一団。しかし家老は身の証を求めた武士の目に斬りつけ、残る武士たちも、地虫忍者の正体を現した配下に皆殺しにされるのでした。この家老に変身していたのは怪人ズク。アグダーに巨砲で堺の町を吹き飛ばすことを命じられたズクは、途中ライフル魔状態で人々を虐殺しながら堺に向かいます。

 一方、目を斬られた武士を助けた志乃と三吉に知らせを受けた獅子丸は早速ズクを追おうとするのですが……その前に現れたのは、相変わらず獅子丸との決闘を望む、空気が読めない豹馬。自分を相手にせず先に進む獅子丸に歯がみする豹馬ですが――
 やがてズクの一行に追いついた獅子丸。迎え撃つ地虫を蹴散らしていく彼の前に最後に残った地虫の仮面の下から現れた顔は……豹馬! 獅子丸と対決するためであればマントルにも付く豹馬にさすがの獅子丸も怒り爆発、ついに変身して対決するのですが……獅子丸の腕を傷つけ、満を持して豹馬が繰り出した必殺のジャガーつばめ落としはあっさり躱され、峰打ちで胴を抜かれるのでした。

 傷の手当てもそこそこにズクの後を追う獅子丸。なおもその後を追う豹馬ですが、その彼が出会ったのはズクによる虐殺の後で、「豹馬」の名を呼ぶ女性。骸となった自分の息子「豹馬」を見つけ、悲痛な声で嘆き悲しむ女性の姿を目の当たりにした豹馬は――
 死地が待っていることを知りつつ、巨砲を追ってきた獅子丸に対し、爆薬を仕掛けた谷に巨砲を撃ち込もうとするズク。しかし豹馬は巨砲を守っていた地虫を倒し、獅子丸を救います。

 ついに獅子丸と肩を並べ、巨砲による爆発を躱しながら駆ける豹馬。地虫を蹴散らしながらズクに迫る二人ですが、ライフル銃の連射に身動きが取れなくなります。あと五発玉が残っていると勝ち誇るズクですが、その場に現れたのは冒頭でズクに斬られた武士。自らを盾にして五発を消費させ息絶えた武士の想いに応えるように変身した獅子丸は、豹馬が地虫を相手にしている間、ズクと最後の戦いを繰り広げます。
 空からの攻撃を仕掛けるズクですが、獅子丸はこれを撥ね除け、逆にズクの目を斬ると、ライオン風返しで巨砲もろともズクを吹き飛ばすのでした。


 ここ数回出番のなかった豹馬が、ようやく獅子丸の味方として立ち上がる今回。金に汚かったり、功名心から獅子丸に戦いを挑んでも相手にされなかったりと今ひとつ小者感があった彼は、獅子丸と戦うためにマントルに与するところまで堕ちるのですが――
 しかし、自分と同じ名の子供の死を嘆く母親の叫びをきっかけに改心するというのは、なかなかグッとくる展開であります。

 ただ、この展開だったらラストで活躍するのは豹馬のはずが、乱戦の中で彼はフェードアウト、代わって獅子丸を身を挺して助けたのが、巨砲を奪われた武士というのは、話としての平仄は合うものの、ちょっとどうなのかしら……という気はいたします。

 それにしてもローク車や亀甲車などのオーバーテクノロジーを保有するマントル帝国でも、大砲の技術はオランダには及ばないのか……


今回のマントル怪人
ズク

 ライフルと刀を武器とするミミズクの怪人。オランダ渡りの巨砲を奪い、堺の街を狙った。残忍な性格で、相手の目だけを斬ったり、無関係の人々をライフルで射殺していくなどの凶行を働いたが、ライオン丸には敵わず、逆に目を斬られた末に巨砲もろとも吹き飛んだ。


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2017.03.23

唐々煙『曇天に笑う 外伝』下巻 完結、三兄弟の物語 しかし……

 アニメ化、舞台化、実写映画化と、本編終了から時間が経ってなおも盛り上がる『曇天に笑う』。その外伝である本作もアニメ化が決定とのことですが、物語はこの巻でいよいよ完結となります。。大蛇(オロチ)が滅んでもなおその力を弄ぶ人間たちに対して、曇三兄弟が最後の戦いを挑むことになります。

 かつて政府によって極秘裏に研究されてきた大蛇細胞。大蛇が倒されて以来、破却されたはずの研究が、今なお続けられている……人体実験の被験者と遭遇したことで、この忌まわしい事実を知ってしまった空丸と武田。
 兄・天火のような犠牲者を出さないため、実験施設の存在を探った二人は、そこで自分たちの上司であった「犲」の隊長・安倍蒼世をはじめとするメンバーが企てに関わっていたのを知ることになります。

 大蛇と戦うために存在してきた、そして誰よりも大蛇の脅威を知る蒼世たちの、裏切りにも等しい行為に衝撃を受ける二人。そんな二人と、同行する宙太郎と錦に襲いかかるのは、被験者の最後の生き残りである凶暴な男・虎。
 そして妃子とともに旅を続けていた天火も、(意外な人物から)一連の事件を聞かされ、空丸たちに合流すべく急ぐのですが――


 本編終了後に描かれる前日譚や後日譚という、文字通りの「外伝」としてスタートした本作。その後、中巻辺りから本作はその様相を変え、むしろもう一つの本編、「続編」とも言えるような内容で展開してきました。

 この大蛇細胞実験のエピソードに加え、さらに比良裏と三兄弟の前から姿を消した牡丹のエピソードまで並行して展開し、果たしてあと1巻で完結するのか……と中巻を読んだ時には感じたのですが、中巻よりも約100ページ増量となったものの、ここに大蛇細胞を巡る物語は完結することになります。。

 天火と蒼世との対決、空丸と蒼世との対決、空丸たちと黒幕の対決、空丸と虎の対決……バトルに次ぐバトルの果てに描き出されたのは、天火の跡を継ぎ、曇家の当主として、そして一人の剣士として空丸が立つ姿であります。

 この『曇天に笑う』という物語の本編において、曇家と大蛇の長きに渡る因縁には決着がつきました。その中で空丸の成長も描かれてはきたのですが――
 なるほど、空丸の天火超え、蒼世超えは明確には描かれなかったことを思えば、この外伝は「曇家と大蛇」の物語を踏まえたものでありつつも、「曇家の三兄弟」の物語、特に曇空丸の物語であったと言うべきなのでしょう。

 この巻に入ってからのバトルの釣瓶撃ちはまさにこれを描くためのものであった……そう感じます。

 もっとも、その中で描かれた空丸のある種異常な、危険なまでの捨身ぶり、さらにいえば宙太郎の強さへの想いについては、その先が描かれずに終わった感もあります。
 しかしそれは『曇天に笑う』とはまた別の――大蛇との戦いを描く物語とは離れた――三兄弟自身の物語ということになると思えばいいのでしょう。

 何はともあれ外伝も大団円。これまでの三兄弟の、周囲の人々の過去を振り返りつつ、その先の未来にも希望の光を感じさせる美しいエピローグとともに、本作は完結したのであります。
(以下、本作のある意味核心に踏み込みます)


 ――いや、比良裏と牡丹はどこへ行った?

 そう、本作において牡丹を探す比良裏は、この下巻冒頭でフェードアウト。物語が終盤に近づくにつれ、その不存在が気になって仕方がなかったのですが……まさかそのまま終わるとは。

 これは一体どういうことなのかしら……とさすがに考え込んでしまったのですが、どうやら二人の物語は、『泡沫に笑う』として完結する様子。
 外伝の外伝というのはちょっと驚かされましたが、大蛇に対する存在として、曇家に並んで比良裏と牡丹のカップルが存在することを思えば、この複線化はありえることなのかもしれません。
(この辺り、『煉獄に笑う』では両者の関係をうまくアレンジしていると思いますが)

 何はともあれ、ファンとしては最後までついていくしかありません。長きに渡る物語の最後の最後に何が描かれるのか……それが笑顔であることを疑わず、待ちたいと思います。

『曇天に笑う 外伝』下巻(唐々煙 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
曇天に笑う 外伝 下 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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2017.03.22

長谷川卓『嶽神伝 鬼哭』上巻 景虎出奔、山中の大乱戦

 戦国時代の関東甲信越から駿河までを舞台に、山の者・無坂の生き様を描く「嶽神伝」シリーズもこれで第三弾。時は流れ、老境に近づいた無坂たちは、またしても里の者――すなわち戦国大名たちの争いに巻き込まれ、強敵たちと死闘を繰り広げることとなります。

 家臣同士が領地を巡って争う状況に怒り、出奔した長尾景虎。彼がわずかな供を連れ、かつて縁のあった月草と真木備のもとに押し掛けたことから、たまたま彼らを訪ねていた無坂も行動を共にする羽目になります。
 やむを得ず景虎を案内することになった無坂たちですが……しかし景虎の出奔は、すぐに宿敵たる武田晴信の知るところに。

 景虎を暗殺する好機と見た武田家中では、透破の精鋭部隊である「かまきり」そして「かまり」を放ち、晴信の後を追跡。そして偶然彼らと遭遇した女ばかりの山の民・鳥谷衆は、真木備と無坂、そして長尾方に対する恨みから武田方に協力を申し出るのでした。
 さらに北条方も、この動きを察知した北条幻庵がやはり景虎を討たんと風魔小太郎ら風魔衆を連れて自ら出陣、その動きに巣雲衆の弥十たちが巻き込まれることに。

 そして長尾方も、山中から景虎を救い出すべく、「落とし」を生業とする山の者・南稜七ツ家に依頼、軒猿たちとともに景虎のもとに急行することになるのです。
 かくて、景虎と無坂たち、武田の透破・かまきり・かまり、北条の風魔衆、上杉の軒猿と七ツ家衆……実に四つの集団が、山中の聖地・龍穴を舞台に激しく激突することに――


 いやはや、これまでも幾度となく山の者と忍び、忍びと忍びの死闘を描いてきた本シリーズですが、今回ほどのスケールの戦いはこれが初めて。何しろここに登場するのは敵味方合わせて約60人、全員が戦うわけではないにせよ、ちょっとした合戦レベルであります。
 そしてその戦いの内容が凄まじい。誰が敵で誰が味方かもわからなくなるような状況の中、一対一、一対複数、複数対複数で繰り広げられるのは、本作ならではのリアルな手触りの、それでいて派手さも感じさせる見事なバトルであります。

 特に、今回登場する「かまり」の里の者たちは、「かまきり」の中でも危険すぎるために里に封じられていた遣い手たちというケレン味に溢れる設定が楽しい。
 その中でも四囲を血の海とする死人使いとして恐れられる四方津の技は、地に足の着いた設定ではありつつも(時代小説で用いられるのはかなり珍しいのですが)その二つ名の通りの内容で、本シリーズにしては珍しいほど凄惨な展開が強烈なインパクトを残します。

 その一方で、そもそもの発端である景虎のキャラクターも何とも楽しい。今回の騒動は、有名な景虎の高野山出奔をベースとしたものですが、戦国武将が領内不統一に起こって自分の家を捨てるという、何とも唖然とさせられるような事件も、ああこの人物なら……と感じさせられるものがあります。

 強引に月草たちのところに押しかけて居候し、山の自然の美しさに目を輝かせる彼の純粋といえば純粋、無神経といえば無神経、しかしそれでいて妙に魅力的な姿は、我々が知る景虎のイメージをさらに純化させ、そして独自性を与えていると言えるでしょう。
 本シリーズのもう一人の主人公たちとも言うべき戦国武将たちの見事な人物像は、本作でも健在なのです。


 さて、この上巻の後半で描かれるのは、武田家が狙う山の者の分断作戦であります。

 この物語の冒頭から、主に敵サイドとして登場することが多かった武田家。無坂をはじめとする山の者との長年の(ほぼ一方的な)確執を背景に、かまきりを束ねる春日弾正忠は、山の者を自らの手として使い、そして無坂への復讐のため、山の者の一部を味方につけるべく暗躍することになります。

 無坂を中心とした物語だけに、純粋な暮らしの姿がクローズアップされてきた山の者。しかし戦国の世にそれだけでは暮らしていけず、時に手を汚す者が出ることは、第一作の鳥谷衆を巡る事件でも明らかですが、それが山の者同士の戦いにまで繋がっていくとなれば別です。

 しかしこの局面を、意外な、いや、山の者クロニクルをこれまで読んできた人間にとっては納得の人間が収めることになるのですが……次の世代は既に育っているのだな、と思わされるこの展開は、頼もしくも、いささか寂しさも感じさせるところであります。
 無坂が自分の望む死に様について語る場面も含めて――


 しかしこの物語はまだ続きます。下巻においては戦国史に残る二つの合戦が描かれることになりますが……それはまた後ほど。


『嶽神伝 鬼哭』上巻(長谷川卓 講談社文庫) Amazon
嶽神伝 鬼哭 上 (講談社文庫)


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2017.03.21

北方謙三『岳飛伝 三 嘶鳴の章』 そして一人で歩み始めた者たち

 北方大水滸の第三部たる本作も、開幕したばかりのこの巻において早くも大戦が展開。梁山泊にとっては怨敵である金国の大軍に対し、梁山泊の精鋭たちが挑むことになります。しかしその戦いの先にあるのは意外な展開……そしてその先では南宋が、岳飛がそれぞれ独自の動きを見せることになります。

 数々の痛手から復活しつつも、楊令時代とは異なり、聚義庁の明確な方針なく、各人にその向かう先が委ねられた梁山泊。そんな新・新梁山泊に戸惑う間もなく、兀朮と撻懶率いる金軍二十万が梁山泊に迫ります。

 対する梁山泊軍は八万、数こそ倍以上の差がありますが、しかし兀朮といえば間接的とはいえ楊令の死の原因を作った相手。これこそ仇討ちの好機と、勇躍迎え撃つのは、呼延凌・秦容・蘇琪・山士奇そして史進と、現時点のベストメンバーであります。

 そして繰り広げられる戦いはまさしく一進一退。正面からの激突あり、奇襲あり、探り合いあり、突撃あり……多大な犠牲を払い、ありとあらゆる手を尽くした後に、梁山泊はほぼ勝ちに等しい引き分けを掴むことになります。
(ここで最後の一撃となった攻撃が、全盛期の梁山泊的というか、実に痛快極まりないもので実にイイ)

 しかしこの時点で本書はまだ四分の一程度、これだけ見れば随分とあっさり終わったようですが、しかしある意味真の戦いはここから始まることになります。

 この機を捉えて、金に講和を結ぶ決定を下した梁山泊。その全権を任せられたのは宣凱……聚義庁に入ってまだ日の浅い若き文官であり、そして同様に金との交渉の最中に、父・宣賛を殺された青年であります。
 いきなり呉用からの指名でこの重責を担わされた宣凱は、悩み、苦しみ、恐れながらも、金国に乗り込んでいくことに――


 第3巻のMVPを挙げるとすれば、間違いなくこの宣凱ということになるでしょう。かつて父が命を奪われた金国に乗り込み、父の命を奪った相手と交渉に挑む。それもほぼ自分一人のみで。
 それを超人的な活躍で見事に成し遂げた彼には驚かされるばかりですが、しかし無事に帰ってきてから呼延凌に飲めない酒を飲んで絡む姿など、実に人間的な顔を見せるのも、楽しいところであります。

 そして、好むと好まざるとにかかわらず、一人で歩み始めた者は彼一人ではありません。

 恋に燃えて韓世忠の造船所で笛を吹く王清も、西域貿易の最中で慢心から思わぬ深手を負うことになった王貴も、そして何よりも、軍を退役して遠く南方の開拓に向かった秦容も――
 皆、一人ひとり、自分自身の考えで、これまでの梁山泊であれば考えられなかったような行動を取っているのです。

 しかしこれは言うまでもなく、前巻で語られた「志」の在り方、梁山泊の在り方と密接に関係するものであり……そしてそれはまた、これまで『水滸伝』『楊令伝』で描かれてきた物語の先にあるものであります。

 国を倒し、国を造ったその先にあったもの……それが個人個人の心の中にある自由、自主自律というべきものであった、というのはもちろん結論を急ぎすぎではありますが、現代の我々には非常に納得できるところではあります。
(そしてそんな国の在り方を模索していたと思われる楊令は、やはりあまりにも早すぎる人物であったとも……)


 しかしそれでも、一人では生きられぬ人々、土地とともに生きる人々は存在します。そしてそのために戦う者も。
 それこそが本作の主人公である岳飛ですが、彼は本書においても、一見マイペースな生き方を貫いているように見えます。
(兀朮にどうせ「つまらないこと」に燃えているのだろうと予想されたら、全くその通りだったのには思わず噴き出しましたが)

 一大勢力の長でありつつもフットワークが軽く、そしてどこかいじられキャラ的な彼の人物像は実に魅力的なのですが、しかしそれが彼の一面に過ぎないこともまた事実。
 これまではいわば雌伏の時であったわけですが……しかしこの巻のラストではいよいよ兀朮との戦が始まります。

 歴史を揺るがす戦いの行方は、そしてその中で明らかになるであろう岳飛の姿とは……こちらも注目であります。


『岳飛伝 三 嘶鳴の章』(北方謙三 集英社文庫) Amazon
岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)


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2017.03.20

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』4月号の掲載作品の紹介の後編であります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『エイトドッグス 忍法発見伝』(山口譲司&山田風太郎)
 木は森に、の例えの如く、現八が用心棒を務める吉原西田屋に隠れることとなった村雨姫と信乃。しかし敵もさるもの、半蔵配下のくノ一のうち、椿と牡丹が遊女志願を装って西田屋に現れます。
 現八はこれを単身迎え撃つことに――

 といってもここで繰り広げられるのは閨の中での睦み合い。しかしそれが武器を取っての殺し合い以上に凄惨なものとなりえるのは、忍法帖読者であればよくご存知でしょう。
 かくて今回繰り広げられるのは、椿の「忍法天女貝」、現八の「忍法蔭武者」、牡丹の「忍法袈裟御前」と、いずれ劣らぬ忍法合戦。詳細は書くと色々とマズいので省きますが、この辺りの描写は、まさにこの作画者のためにあったかのように感じられます。

 そして壮絶な戦いの果てに倒れる現八。原作を読んだ時は男としてあまりに恐ろしすぎる運命に慄然とさせられたこのくだり、あまり真正面から描くと、ギャグになってしまう恐れもありますが……
 しかし本作においては、前回語られたように村雨姫にいいところを見せるために戦いながらも、決して彼女には見せられない姿で死んでいくという悲しさを漂わせた画となっているのに、何とも唸らされた次第です。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 時代と場所を次々と変えて描かれる本作ですが、今回のエピソードは前回から続き、本能寺の変の最中からスタート。蘭丸を失った悲しみから鬼と化した信長は、変を生き残り(と言ってよいものか?)自我を失うことなく、怨みと怒りを漲らせながら、光秀とその血族に襲いかかることになります。
 それを阻むべく信長の後を追う、鬼斬丸の少年ですが、さしもの彼も鬼と化した信長には苦戦を強いられて――

 これまではどんな人物であっても、一度鬼と化せば理性を失い、人間を襲ってその血肉を喰らうしかない姿が描かれてきた本作。そんな中で、言動はまさしく「鬼」のそれであっても、明確に己の意志で動く信長はさすがというべきでしょうか。
 そして生前の彼を、この世に鬼を呼び込む怪物と見て弑逆に走った光秀もまた、その本質を正しく見抜いていたと言えますが……しかしそんな彼であっても、信長に家族が襲われるという煩悶から鬼となりかけるというのが哀しい。

 人が鬼を生み、鬼が鬼を生む地獄絵図の中、人がどうなっても構わぬと明言しつつも、その行動が結果的に人を救うことになる少年の皮肉も、これまで以上に印象的に映ります。
 そして物語はさらに続くことに――


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 父・輝宗を殺され、怒りに逸るままに力押しを仕掛けて失敗した政宗。今回はそんな彼が己を取り戻すまでが描かれることとなります。

 悲しみのあまりとはいえ、景綱ですら止められぬほどに我を忘れて暴走する政宗。その怒りは、必死に彼を止めようとする愛姫にまで向けられ……と、姫に刀を向ける姿にはさすがに引きますが、しかし何となく「ああ、政宗だからなあ……」と納得してしまうのがちょっと可笑しい。

 もちろんこの辺りの描写にふんだんにギャグが散りばめられていることもあるのですが、変にフォローが入らない方が、かえって人物への好感を失わないものだな、と再確認しました。


 その他もう一つの新連載は『よりそうゴハン』(鈴木あつむ)。長屋に妻と暮らす絵師が料理をする姿を通じて描く人情もののようですが、展開はベタながら、今回の料理である焼き大根、確かにおいしそうでありました。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.19

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)

 今月もやってきました『コミック乱ツインズ』。今月号の表紙&新連載は、叶精作の『はんなり半次郎』であります。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 というわけで京は御所近くの古道具屋「求善賈堂」を舞台とする本作。タイトルロールの半次郎はその店主、男名前ですが代々継がれている名であり、当代の半次郎は三十路半ばの女性であります。

 その求善賈堂に半次郎を訪ねてきた盲目の少年・幸吉。同じ古道具屋であった親を押し込み強盗に殺され、自分も視力を奪われた彼は、店から奪われた品物が求善賈堂に出たと聞いて、江戸からはるばるやってきたのであります。
 残念ながらその品は既に売れた後だったものの、事情を聞いた半次郎は幸吉に対してある行動に出るのですが……

 古道具の目利きにしてしたたかな商売人、剣の達人にして腕利きの蘭方医、そしてもちろん美女、といささか盛りすぎにも見える半次郎。
 しかしこの第1話では、銘刀を売りに来た武士とのやりとり、そして幸吉の目の治療と、流れるようにその特徴の数々を示してみせ、終盤にちょっとしたどんでん返しも挟んでみせるのは、さすが、としか言いようがありません。

 が、このコンビだと……と思った通り、間に入るサービスシーンが強引すぎて、いやいやいや、いくらなんでも! とツッコミを入れざるを得ません。それも期待されているのだとは思いますが、いかがなものかなあ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治を舞台に日本の鉄道の曙を描く本作も、はや第3話。関西鉄道から官営鉄道に移籍することを決意した島安次郎は、同じ関西鉄道の凄腕機関手・雨宮にも移籍を持ちかけるのですが……もちろんというべきか、職人気質の雨宮が肯んじるわけがありません。
 そして時は流れ、いよいよ私鉄国有化の流れが決定的になった中、引退を目前とした雨宮の前に現れた島は――

 島と雨宮、管理運行側と現場という立場の違いはあれど、それぞれの立場から鉄道に深い愛情を注ぐ二人の交流を中心に描いてきた本作。
 島が雨宮を口説き落とせるかが今回の眼目ですが、ある意味お約束とも言える展開ながら、二人の真っ直ぐな想いが交錯し、そして合流する様はやはり胸を熱くさせるものがあります。

 雨宮の後継者たちの成長を示す描写も見事で、回を追うごとに楽しみになってきた作品です(そして今回もおまけページが愉快。確かにそれは難題だと思いますが……)。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 よく見たら表紙に「全10回」と記載されていた本作、今回は第8回ですので、ラスト3回ということになります。

 今回はまさしく決戦前夜といったところ、柳沢吉保・荻原重秀側からは絡め手の引き込みが、新井白石からは温かみの欠片もない命令と板挟みの状況を一挙に打開すべく、自ら虎口に飛び込むことを決意した聡四郎。
 しかしその聡四郎の役に立ちたいと無謀にも敵方の牢人の跡を付けた紅が――

 と、決戦に向けてどんどん盛り上がっていく……というより聡四郎が追い込まれていく状況。
 しかしこうして改めて見ると、紅の行動は今日日嫌われるヒロインのそれ以外のなにものではないのですが、不快感を感じないのは、これは画の力――有り体に言えば、紅が非常に可愛らしく描けているからに他ならないと感じます。

 改めて画の力というものを感じた次第です。


 以降、長くなりますので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
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2017.03.18

平谷美樹『江戸城 御掃除之者!』 物と場所、そして想いを綺麗に磨くプロの技

 2,4,5,6月と文庫化も含めた新刊が並び、四社合同企画でプッシュされている平谷美樹の時代小説。その第1弾が本作……タイトルのとおり、江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちの活躍をユーモアを交えて描く、作者らしい独創性に富んだな作品であります。

 御掃除之者とはまたあまりにストレートなネーミングですが、歴とした徳川幕府の役職。江戸城の御殿の清掃をメインに、その他物資の運搬なども行ったお役目であります。
 身分は御家人ですが、ランク的には黒鍬者と同じと言えば、失礼ながら下から数えた方が早いとわかるでしょう。

 身分は低く、もちろん薄給で、来る日も来る日も(しかも世襲で)掃除……というのはなかなか厳しいものですが、しかしどんな仕事もそうであるように、彼らの仕事にもまた、それぞれにやりがいと誇りがあります。
 そして本作で描かれるのは、そんな仕事に日々奮闘する男たちの姿なのです。

 本作の主人公は、御掃除之者組頭(例えれば係長クラス?)の山野小左衛門。全部で三つある江戸城御掃除之者の組の一つをまとめ、家に帰れば妻と二人の息子が待っている(でも色々と肩身が狭い)人物であります。

 その小左衛門が、ある日上司から命じられたのは、何と大奥の掃除。もちろん大奥は男子禁制、普段は内部の女性たちが掃除しているわけですが、何年も局に篭もり、ゴミを溜め込んでいるという御年寄の部屋を掃除して欲しいという依頼があったのであります。
 かくて腹心の六人の部下……いずれも一芸に秀でた膳兵衛・浩三朗・金吾とその弟子たち庄輔・新之介・謙助を連れ、大奥に乗り込んだ小左衛門。しかしそこで待ち受けていたのは、何としても部屋を掃除させまいとする女中たちの防衛戦で――


 そんな奇想天外な第1話「音羽殿の局御掃除の事」をはじめとして、本作は全3話で構成されています。
 採薬使からの依頼で、長崎からやってきた将軍の象……の糞を運ぶことになった小左衛門たちが思わぬ危機に巻き込まれる第2話「象道中御掃除の事」。
 そして第1話を受けて、今度はあの人物の亡魂が徘徊するという大奥の開かずの間の掃除をすることになった小左衛門たちの奮闘が描かれる第3話「御殿向 開かずの間御掃除の事 『亡魂あり』」。

 いずれも本作でなければお目にかかれないような、常に凡手を嫌う作者らしい個性的なエピソード揃いであります。

 そして、どんなシリアスな内容でも、どこかにユーモアが感じられる作者の作品らしく、小左衛門と仲間たちのやりとりに、ユルくすっとぼけた味わいがあるのが楽しい。
 特に何故か手製の水鉄砲を毎回持ってくる金吾、同じく手製の御掃除人形(いわば江戸時代版ルンバ)を持ってくる浩三朗とのやりとりは実におかしいのであります(特に第3話には思わず吹き出しました)


 しかしもちろん、本作で描かれるのは面白おかしい物語だけではありません。
 先に述べたとおり、幕府の役人の中では下の方の彼らは、それだけに世間の風の厳しさを知る身の上。特に小左衛門の息子たちは、御掃除之者を継ぐのを嫌い、そんな役目に汲々とする父に白い目を向けてくるのですから、何とも身につまされるものがあります。

 そして彼らが掃除しようとする相手・モノにも、それぞれの事情があります。
 溜め込まれたゴミ、そしてそのゴミが溜め込まれた場所……そこには単なるモノ、単なる場所があるだけではなく、簡単には捨てられない想いも篭もっているのですから。

 それを理解し、そしてその上できっちりと綺麗に磨いてみせるのがプロの矜持というもの。特に、自分たちも色々と溜め込んでいる身であればなおさらであります。
 だからこそ本作で描かれる小左衛門たちの掃除は、単に物理的だけでなく、精神的に周囲を美しく変えていくものとなります。そしてそんな実に小気味よい小左衛門の掃除は、読んでいる我々たちの心もまた、爽やかに元気付けてくれるのです。

 しかし残念ながらそんな小左衛門の掃除の素晴らしさを、まだまだ彼の息子たちはわかってくれないようではあります。
 それでもいつかはわかって欲しい、そしてもちろん、その日が訪れるまで小左衛門たちの活躍をもっともっと読んでみたい……そんな気持ちになる作品です。


 ちなみに第2話は作者の『採薬使佐平次 将軍の象』の外伝。本作にも顔を出す佐平次が、象を守って格好良く活躍している間に、こんな事件が……というファン必見の内容であります。


『江戸城 御掃除之者!』(平谷美樹 角川文庫) Amazon
江戸城 御掃除之者! (角川文庫)


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2017.03.17

重野なおき『信長の忍び』第11巻 泥沼の戦いと千鳥の覚悟、しかし……

 アニメも二期決定と好調の『信長の忍び』、朝倉義景・浅井長政を滅ぼし、包囲網をついに突破した信長ですが、しかし意外なところで越前の戦いは本願寺と結びつき、泥沼の戦いが始まることとなります。そしてその果てに信長が取った戦略に対し、千鳥は……

 武田信玄が志半ばに斃れ、そして信長により朝倉・浅井が滅ぼされたことにより瓦解した信長包囲網。ここに信長の生涯最大の危機の一つが去ったことになりますが、しかしもちろん、それで彼を取り巻く脅威の全てがなくなったわけではありません。

 信玄の跡を継いだ勝頼による高天神城攻めにおいては家康に援軍を出せず、ようやく獲ったはずの越前国では一向一揆が勃発し混乱は深まるばかり。そして一向一揆の中枢ともいうべき本願寺が、最大の敵として立ちふさがるのであります。

 そしてその背後には越前と本願寺を繋ぐ存在が。そう、朝倉義景の娘であり、本願寺顕如の教如の妻となった三位殿の暗躍が……

 と、思わぬ暗黒ヒロイン・三位殿の登場に引っ掻き回されることとなるこの第11巻。
 主人公はもちろんのこと、これまで様々なヒロインが登場した本作ですが、復讐のために明確な悪意を持って政治を動かし、周囲を引っ掻き回していくキャラクターは彼女が初めてでしょう。

 もちろんそれは本作のオリジナル、そもそも史実に残っている部分が少ない人物だけに自由に脚色したというところで、ちょっと引っかかるのですが……(この辺りは後述)

 そして本願寺との緊張が極限までに高まった末に始まるのは長島一向一揆との戦いであります。
 信長の自領である伊勢・尾張両国にまたがる長島で起きたこの一向一揆を率いるのが下間頼タン、いや頼旦――強大な武力と優れた戦略眼、そして右に出る者はいない隠し芸の数々で、信長軍は、そして千鳥は大いに苦しめられることになります。

 ん、隠し芸!? となりますが、本当なのだから仕方ない。本来であればドシリアスな局面に、こんなキャラを投入してくるのが本作の面白恐ろしいところであります。
 いやはやこの頼タン、今まで登場してこなかったのが勿体ないほどの面白キャラ。特に偵察のために潜入した千鳥との絡みなど、それほど多くないボリュームでも、このキャラの存在感・魅力をきっちりとアピールしてくれるのは、作者ならではの技でしょう。


 が……呑気に楽しんでいられなくなるのがこの巻の後半の展開。そう、長島一向一揆において信長が何をしたのか――それは歴史が示すとおりであります。
 鉄壁の防御を誇る長島城に篭り、信長軍を寄せ付けぬ下間頼旦らに対し、兵糧攻めを仕掛ける信長軍。それはいいとして、城の者たちの助命を条件に開城・降伏した頼旦に対して、彼をはじめとする無数の門徒の命を、信長は騙し討ちで奪ったのですから。

 この信長の行動に対しては、その他の戦におけるそれと同様、様々な評価があるでしょう。しかし本作の主人公である千鳥は、信長の判断を疑わず、その命ずるままに動くことを宣言いたします。
 いやはや、どう言葉を飾っても騙し討ち(しかも相手の多くは自分の領民)でしかないものを、取り繕おうともしないのはある意味天晴というべきかもしれませんが、しかしそれを天下布武のために必要な犠牲と切り捨てるのは、やはり居心地の悪いものがあります。

 特に本作の場合、先に述べた三位殿が本願寺サイドで陰険に暗躍する姿を示すことで、信長の側が(どちらかと言えば)正しい、やむを得ないという印象を与える作劇となっているのは違和感が残ります。

 いや、そこまでは仕方ないとしても、覚悟を固めている千鳥を結果的に殲滅戦に参加させず、ラストの美談めいたオチにのみ参加させるのはいかがなものでしょうか。
(その美談も、よりによって本作でもフォロー困難なあの人物絡みという……)


 既に比叡山の焼き討ちという地獄をくぐり抜けた千鳥。その彼女がこうした覚悟を決めるのはむしろ当然であるかもしれません。そしてある意味信長の分身的存在であることを考えればなおさら。
 しかし一人の人間として、それで良いのか。信長を絶賛するだけでよいのか……その違和感の答えは、あるいはこの巻のラストで暗示されるある戦いにおいて示されるのかもしれません。

 その時はまだ先ですが……さて。


『信長の忍び』第11巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 11 (ヤングアニマルコミックス)


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 『信長の忍び』第8巻 二つのクライマックス、二人の忍び
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2017.03.16

片山陽介『仁王 金色の侍』第2巻 彼が来る理由、彼が去る理由

 コーエーテクモの時代アクションゲームを原作とした漫画版『仁王』の第2巻であります。大事な「家族」を奪った男を追ってこの国にやってきた金色の侍ことウィリアム・アダムスの冒険は続き、ついに彼は徳川家康との対面を果たすことになるのですが――

 1600年、日本に漂着した異国船リーフデ号に乗っていた男、ウィリアム・アダムス。折しもこの国の各地に出没する魑魅魍魎を唯一倒す力を持つ彼は、服部半蔵正就に誘われて中津城を襲った魑魅魍魎と戦う中、自分の「家族」である精霊シアーシャを奪った男・ケリーの手がかりの一端を掴むことに……

 そんな第1巻を受けて物語も本題に入った印象もある本作ですが、ウィリアム――人呼んで「按針」――の戦いはまだまだ前途多難。石田方に助勢し、家康を狙うケリーと対峙する胃べく家康の元に向かうウィリアムですが、半蔵の口添えがあるとはいえ、家康に対面することは容易いことではありません。
 そしてここでウィリアムの人物を見極めるために現れたのは、家康に古くから仕える老将・鳥居元忠であります。

 1600年に鳥居元忠といえば、浮かぶのはただ一つの史実ですが、ウィリアムと元忠が出会ったのは6月の時点。しかし彼はこの先の運命を知るかのごとく、ウィリアムに対してビシビシと稽古をつけることになります。
 そしてその果てにようやく家康と対面したウィリアムですが、やがてついに開戦する東軍と西軍の決戦。そのいわば囮となった元忠を救うため、ウィリアムは伏見城へ急ぐのですが――


 というわけで、もっと史実に構わずガンガンいくのかな、と思いきや、意外と史実を押さえてきた展開の第2巻。
 そんなこの巻の陰の主役は、何と言っても鳥居元忠であるわけですが、家康との心の通じ合い方など、ベタではあるものの、味のあるキャラクターとなっている印象です。

 そしてここでのウィリアムとの交流が、彼を伏見城に向かわせる理由、そして彼を伏見城から退去させる理由として機能しているのも、堅実ながら好印象。
 そしてそれが、家康の側にいる必要はあるものの極端なことをいえば他人事、異国の戦である関ヶ原において、彼を戦わせる大きな理由付けとなっているのは巧みなところです。


 しかしこうした展開がしっかりしていると、逆に本作オリジナルの部分――というよりゲーム由来であろう部分が浮いてしまうのも事実。例えば物語の途中、信貴山城や本能寺といった地を舞台とした魑魅魍魎との戦いが入りますが、「ああ、ゲームのステージなんだなあ……」と感じてしまうところはあります。
 また、伏見城戦も人間との戦いがメインとなっているため、魑魅魍魎はもういらないんじゃないかな、という印象もなくはないのは痛し痒しですが……

 こうした点はゲームの漫画化としてプラスなのかマイナスなのかは悩ましいところですが、この辺りも含めて、いよいよ関ヶ原の決戦に突入する次の巻にも期待するとしましょう。


『仁王 金色の侍』第2巻(片山陽介&コーエーテクモゲームス 講談社週刊少年マガジンKC) Amazon
仁王 ~金色の侍~(2) (講談社コミックス)


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2017.03.15

『風雲ライオン丸』 第9話「蛇ヶ谷にライオン丸を見た」

 村の水車小屋に毒を仕掛け、毒水を流すガムジン。獅子丸は地虫忍者の一人を捕らえ、ガムジンに家族を殺されて連れ去られた赤ん坊の芳松を追う。その途中でロケットを破壊され変身ができず、太刀を折られて危機に陥る獅子丸。そこに天馬に乗って駆け付けたのは快傑ライオン丸だった!

 水車に毒薬の袋を仕掛け、人間どもは皆殺し云々と大笑するガムジン……の背後に現れて誰何する村の老人。当然老人は殺され、その直後に現れたその娘も殺され、その娘の子・芳松はガムジンに連れ去られることに――
 村にライオン丸姿で駆け付けた獅子丸は地虫忍者を一人を残して蹴散らしますが、そこに現れた村人たちは、地虫は俺たちが殺る! と引き渡しを求めます。しかし獅子丸は芳松救出のために地虫に案内させようと村人を制止。と、そこで真っ青な水を飲んだ村人が死亡、祟りじゃ! と村人たちはいきなり関わりを持つことを拒否するのでした。

 件の地虫を案内役に芳松救出に向かう獅子丸ですが、地虫に文字通り足を掬われて馬から転落、背中のロケットが破損、水筒を奪われ逃げられるという体たらく。ようやく追いついたと思ったら、水筒は空っぽ……地虫を殴打、ついには手裏剣まで抜いてギリギリで思い留まるほどの怒りを見せる獅子丸でした。
 フラフラになりながらも殺風景な谷を進む二人ですが、その前にガムジンと地虫が出現。しかしロケットが壊れていて変身できない獅子丸は追い詰められ、刀を折られてしまいます。一方、囚われていた地虫は喜んで駆け寄った仲間から銃を向けられることに。必死で地虫を守って逃げる獅子丸ですが、追い詰められて二人とも崖下に転落――

 意識を失って倒れた二人に迫る地虫の群れ。そこに白い天馬にまたがって駆け付けたのは……快傑ライオン丸! 地虫を一蹴したライオン丸は、未だに意識を失ったままの獅子丸を叱咤激励、彼の太刀が折れているのを知ると、自らの金砂地の太刀を与え、再び天に去っていくのでした。が、快傑の方も潮哲也の声なので、何だか自分で自分を励ます多重人格者めいた味わいが――

 なおも旅を続ける二人は、焚き火を囲んでようやく距離を縮めるのですが、その翌朝に地虫は背中に手裏剣を刺されて事切れているという容赦ない展開。しかも水に毒がという地虫のダイイングメッセージにも関わらず、獅子丸の叫びも虚しく、馬は毒水を飲んで迫真の悶絶をみせるのでした。
 それでも徒歩でやってきた獅子丸は、前夜修理しておいたロケットで今度こそ変身するのですが……しかし芳松を人質に取られて武装解除、芳松ともども館に閉じ込められ、火をつけられることになります。自らの館に火をつけてどうするんだ、という気もしますが、ガムジンは地虫とともに浮かれ踊る大騒ぎ。その間に獅子丸はロケット噴射で手を縛った縄を焼き切るという捨て身の行動で自由を取り戻すと、芳松を背負って脱出、その前に立ちふさがったガムジンと最後の対決に臨みます。

 そのガムジンとの斬り合いは、背中の芳松の顔の近くまで刃が近づいてハラハラさせられる展開。しかしガムジンがそんな芳松に気を取られた瞬間、獅子丸が手裏剣でその胸をえぐり、ガムジンは倒れるのでした。
 そして芳松を連れて村に帰ってきた獅子丸ですが、村人たちはなおも後難を恐れて物陰から陰気な目で窺うばかり。獅子丸は寺に芳松を置き、強い男になれと願いながら、一人去っていくことに――


 ヒーローが赤ん坊を置き去りにする回として名高い今回ですが、むしろ印象に残るのは獅子丸と地虫のハードな道中。戦闘員を人質にし、その戦闘員を守らざるをえないヒーローという物語は他の作品でも絶無ではないと思いますが、ここでは乾いたタッチと相まって、本作ならではの味わいが生まれています(背中のロケットを効果的に使った展開もいい)。
 繋がりが強いようでいて、しかしそれは自分たちを守る範囲に限るという村人たちの描写も厭になるくらいリアルで、赤ん坊の置き去りもその文脈で理解するべきでしょう。

 しかし弱ってしまうのは、突然現れる快傑ライオン丸。風雲と快傑で揃い踏みするわけでもなく、金砂地の太刀が逆転の切り札になるわけでもなく、なくても全く支障がない展開で……どうやら本当にギリギリに押し込まれた展開らしいのようなので納得といえば納得ではあります。


今回のマントル怪人
ガムジン

 巨大な青龍刀を手にした怪人。水に毒を投入し、村人を皆殺しする作戦を指揮する。獅子丸を何度も追い詰めるが、鍔迫り合いの最中、胸に手裏剣を刺されてあっさり死ぬ。


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 『風雲ライオン丸』 第5話「燃える水を奴らに渡すな」
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2017.03.14

柳広司『ザビエルの首』 その聖人が追い求めたもの

 この日本にキリスト教を伝えた者として、知らぬ者とていないであろうフランシスコ・ザビエル。本作は、そのザビエルの首に導かれて過去に意識を飛ばした現代人を探偵役とし、ザビエルがその生涯で出会った数々の事件の謎を解くという趣向の、奇想天外な連作時代ミステリであります。

 スペイン・バスク地方に生まれ、パリでイグナチウス・ロヨラとともにイエズス会を創設、インドのゴアでの布教を経て、戦国時代の我が国を訪れた聖人ザビエル。
 その後、中国で客死したザビエルの遺体は腐敗することがなかったと言われますが……そのザビエルの首が鹿児島で発見されたことから、この物語は始まることになります。

 オカルト雑誌からザビエルの首の取材を依頼され、九州まで出向くことになったフリーライターの片瀬修平。しかしミイラ化したその首と視線を合わせた時、如何なることか彼の意識は時を飛び越え、来日したばかりのザビエルの従者の体に宿ることに。
 そしてその彼とザビエルが宗論のために招かれた寺で、ザビエルのもう一人の従者がダイイングメッセージを残して殺害され、修平は探偵役としてその謎を解くことに……


 この第1話「顕現――1549」に始まる本作。過去の時代の有名人が、探偵役として自分が巻き込まれた事件を解決する、いわゆる有名人探偵ものは実は作者の最も得意とするところですが、本作はその系譜にあることは間違いありません。

 しかし本作の趣向はあまりにもトリッキーです。修平の意識が過去に飛び、その時代の人間に宿るというだけでも驚かされますが、全4話で構成される本作では、修平は毎回別々の人物に宿ることになるのですから。
 いや何よりも、本作はそれぞれのエピソードによって時代が異なり……それも過去へ過去へと向かっていくのです。

 インドはゴアの教会で、野心家の司教代理が奇怪な黄金の蛇に咬まれ、毒殺される「黄金のゴア――1542」
 パリでロヨラと理想を追うザビエルが学んでいた講師が殺され、その犯人と目されたザビエルの従者も彼の眼前で死を遂げる「パリの悪魔――1533」
 故郷のバスクはザビエル城で迫り来るスペイン軍を迎撃するための策が惨劇を招く「友の首と語る王――1514」

 いわばこの全4話で描かれるのは、我々が知るザビエルという人物の、ルーツを遡る旅なのであります。


 そんな本作ですが、正直なところ、短編連作ということもあってか、個々の謎は、いささか小粒という印象があります。

 確かに、日本と西洋の文化の違いが思わぬ形で事件を複雑化させる第1話、人間の心の動きを巧みに活かしたトリックの第2話、主人公が別人の視点で物語を俯瞰するという構造が思わぬ効果を上げる第3話と、それぞれにユニークな試みがあるのですが……一般的なミステリという点のみを期待すれば、いささかの不満は残るのではないか、という印象があるのです。

 しかし本作には、全編を貫く巨大な謎が存在します。
 それはもちろん、何故修平がザビエルに招かれるように過去の時代に飛び、探偵役を務めることとなったのか……その謎であります。

 これは少々内容の核心に触れるところですが、本作で描かれる事件には、いずれも共通点があることにはすぐに気が付きます。その共通点とは「神」の存在――神なかりせば、これらの事件は起きなかったと、そう言うことができるのではないか? と。

 しかし、本作はその終盤において、さらにその奥にある共通点を描き出します。そしてそれは、先に述べた巨大な謎の答えとも直結してくるものなのです。
 その内容をここで述べることはできませんが、本作において描かれてきた事件の見え方が大きく異なってくるものである、と述べることは許されるでしょう。そしてそれは、ザビエル自身の生そのものを描き出すものであることも。
(個人的には、修平がザビエルその人ではなく、周囲の人間に憑依しなければならなかった理由に唸らされた次第です)


 もちろん、この終盤の展開が、あまりにSF的あるいはオカルト的であると、拒否反応を示す方がいるであろうことは想像できます。
 確かに観念的に落としてきたという印象は否めませんがが――しかし、物語構造そのものが大きな仕掛けとして機能する本作は、歴史ミステリとしてやはり魅力的に感じられるのです。


『ザビエルの首』(柳広司 講談社文庫) Amazon
ザビエルの首 (講談社文庫)

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2017.03.13

大西実生子『僕僕先生』第3巻 世界の有り様、世界の広大さを描いて

 美少女仙人・僕僕とニート青年・王弁が広大な天地を旅する姿を描く漫画版『僕僕先生』もこれで第3巻。原作小説の方はラスト直前ですが、こちらの方も、のんびりと、しかし着実に物語の終わりに向かっています。

 僕僕に誘われるまま、当てどない(ように見える)旅へと出た王弁。長安の王宮での冒険を経て北方に向かった二人は、そこでどうみても駄馬にしか見えぬ天馬・吉良を手に入れ、なおも旅を続けます。
 そして二人が向かったのはなんとこの星から遠く離れた天の向こうの星星の世界。そこで僕僕とはぐれ、この世界の創造主たる帝江と出会った王弁ですが、吉良ともども、恐るべき「闇」である渾沌に飲み込まれることになります。

 悪意ある闇とも言うべき渾沌の中は、文目も分かぬという表現では生ぬるすぎるような真の暗闇、そこで正気を失ったものは渾沌に溶け込んでしまうという、恐るべき存在であります。
 どうにか吉良と出会った王弁ですが、しかし星星を渡るほどの吉良の脚力でも抜け出せぬほど、渾沌の中は果てがなく――

 というわけで文字通り神話クラスの存在に出会って大ピンチの王弁。それも中国の始原神話に登場するほどの存在ですから、凡人たる彼の手に余るというレベルではないのですが……しかしここで渾沌にまつわる過去の逸話を吉良から聞いた彼のリアクションが、実に彼らしくも微笑ましい。
 神話の中の神に対して、自分たち人間と同様のリアクションを想像してしまうのは、彼の凡人たる所以かもしれませんが、しかしそれは裏を返せば、彼が人間とそれ以外を分かたないということでもあります。

 そんな王弁の一種のおおらかさは、この先の物語に大きな意味を持つのですが……それはさておき。

 何とか元の世界に戻り、僕僕と再会した王弁(この辺りの何ともこそばゆい僕僕とのやりとりがまた実にイイ)ですが、次に彼らを待っていたのは、蝗害という大いなる災い。天を覆うほど大発生し山東地方を襲う蝗を、自らの力を貸して追い払おうとする僕僕ですが、しかしここで人間の側に意外な動きが起きることに――


 原作第1巻の漫画化である本作も、この第3巻で後半部分に入り、冒頭に述べたとおり王弁の旅も終盤にさしかかってきました。
 ここで描かれる物語は、基本的に原作のそれを大きく離れたものではなく、原作に忠実な漫画化ではあるのですが、しかしそこで示される絵が、これまで同様、これが本当に素晴らしいのであります。

 それは僕僕や王弁たちのキャラクター描写の妙にも表れていることは言うまでもないのですが、しかしこの第3巻で改めて感じ入ったのは、この物語の中で描かれる世界の広大さを見事に絵として表している点なのです。

 その広大さとは、渾沌に代表されるような中国の神仙世界の野放図とも言えるほどの壮大さに代表されるものですが、しかしそこにのみあるものではありません。
 それは、王弁が旅の途中で出会う様々な人々、各地の文化といったなどに示されるものであり、そして王弁の隣で謎めいた態度を見せる僕僕の心の中にもあるもの……一人の人間では到底全てを知ることがかなわないような一種の多様性であり、不可解さであります。

 思えば本作は、王弁から見た、世界の有り様というものを描く物語でした。引きこもりのニートであった彼が、僕僕という他者と出会い、その導きで外の世界を知る……その過程を描く物語であります。
 だとすれば、その彼が知ることになる世界を克明に絵として描くことが、その世界の広大さを、我々読者に示すことこそが、大げさに言えばこの漫画版の使命でしょう。そして本作は、それに見事に成功していると感じます。

 我々はこの漫画を通じて、僕僕が王弁に見せようとしているものを、同時に見ているのだと、そんな想いを抱かせるほどに――


 しかしその世界に存在するものは、決して我々に、彼らに好意的なものばかりではありません。
 この巻のラストで描かれたものは、そんな不穏なものの到来を予感させるものですが……さてそれが王弁と僕僕の旅の果てに何をもたらすのか。

 おそらくは次の巻で完結となるであろうこの漫画版がその果てに描くものを楽しみにしましょう。


『僕僕先生』第3巻(大西実生子&仁木英之 朝日新聞出版Nemuki+コミックス) Amazon
僕僕先生 3 (Nemuki+コミックス)


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 大西実生子『僕僕先生』第2巻 胸躍る異郷の旅の思い出と憧れ

 「僕僕先生」
 「薄妃の恋 僕僕先生」
 「胡蝶の失くし物 僕僕先生」
 「さびしい女神 僕僕先生」
 「先生の隠しごと 僕僕先生」 光と影の向こうの希望
 「鋼の魂 僕僕先生」 真の鋼人は何処に
 「童子の輪舞曲 僕僕先生」 短編で様々に切り取るシリーズの魅力
 『仙丹の契り 僕僕先生』 交わりよりも大きな意味を持つもの
 仁木英之『恋せよ魂魄 僕僕先生』 人を生かす者と殺す者の生の交わるところに
 仁木英之『神仙の告白 僕僕先生 旅路の果てに』 十年、十巻が積み上げてきたもの

 『僕僕先生 零』 逆サイドから見た人と神仙の物語
 仁木英之『王の厨房 僕僕先生 零』 飢えないこと、食べること、生きること

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

(その他おすすめ)
『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

(その他おすすめ)
『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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2017.03.11

4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 まだまだ寒い日が続きますが、それでも少しずつ暖かさの方が勝ってきて、いよいよ春までもう少し。4月ともなれば新生活をスタートされる方も多いと思いますが、こちらは相変わらず、時代伝奇のみが友の生活です。というわけで4月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。

 まず文庫小説で最も注目なのは、四社合同でプッシュ中の平谷美樹の新作『鉄の王 流星の小柄』。内容的にはまだ不明ですが、スケールの大きな伝奇ものとなる予感です。
 そしてシリーズものの新刊も、早くも続編登場の菊地秀行『宿場鬼』第2巻をはじめとして、上田秀人『禁裏付雅帳 4 暗闘』、鳴神響一『影の火盗犯科帳』第3巻、3月にも紹介した気がしますが友野詳『ジャバウォック 2 真田冥忍帖』と並びます。

 文庫化の方では何といっても木下昌輝『宇喜多の捨て嫁』に注目。そのほかにも神永学『浮雲心霊奇譚 赤眼の理』、北方謙三『岳飛伝 6 転遠の章』ときて、クラシックなところでは久生十蘭『魔都』も。
 また、大塚卓嗣『天衝 水野勝成伝』は、『天を裂く』の改題でしょうか。


 一方漫画の方では、にわのまことが石ノ森章太郎の名作に挑む『変身忍者嵐×』第1巻が見参。特撮ファンとしても知られる作者だけに(漫画版がベースとはいえ)、いかなるリメイクとなっているか期待です。

 また、続巻では梶川卓郎『信長のシェフ』第18巻、黒乃奈々絵『PEACEMAKER鐵』第12巻。碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第5巻、原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第10巻、墨佳遼『人馬』第2巻、川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第4巻)とかなりの数が並びます。

 また玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻と森秀樹『戦国自衛隊』第4巻、いずれも結末が楽しみな作品が完結することになります。


 3月に比べると少しだけ少な目ですが、これは4月も大いに期待できそうなラインナップであります。



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2017.03.10

松尾清貴『真田十勇士 6 大坂の陣・上』 決戦、自分が自分であるために

 これまで奇想天外な形で描かれてきた天下対真田の戦いも、ついに最終決戦に突入。守るべき土地を失い、全てを失ったかに見えた場から立ち上がった真田幸村と勇士たちの真の戦いが始まることになります。その決戦の場は、言うまでもなく大坂の陣……この巻で描かれるのはその冬の陣であります。

 上田城の戦を優位に進めながらも関ヶ原で西軍が敗れたことで上田の地を失い、そして荼枳尼天の力を手に完全復活した百地三太夫に敗れたことで白鳥明神の加護を失い……二重の意味で守るべきものを失った幸村。
 しかし、以来十数年にわたり九度山に逼塞を余儀なくされた彼に従う者たちも確かに存在します。

 佐助、才蔵、清海、伊佐、六郎、小助、十蔵、甚八、鎌之助……いずれもそれぞれの形で自分自身を奪われ、そして幸村の下でそれを再び見出してきた者たちであります。
 そして幸村もまた、自分に残された最後のものを抱いて、最後の戦いに臨むことになります。それは己の戦う理由、信念、矜持、縁等々……言い換えれば「自分が自分であること、そしてために必要なもの」であります。

 全てを喪い、それでも残ったもの……自分が自分であるために、確かな絆を持った者たち同士大坂城に入った幸村と九人の勇士。彼らが拠る場は、言うまでもなく彼ら自身の城、真田丸――


 というわけで始まった大坂冬の陣ですが、その内容としては、基本的に史実に沿ったものが描かれることになります。

 もちろん、織田有楽斎の子であり、父以上に不可解な行動を取った左門(頼長)や、大坂に入城しながらも徳川と内通して討たれた南条忠成(元忠)など、面白い人物ながらマイナーな人物にもスポットが当たるのはなかなかに面白いなところであります
 また、木村重成の颯爽としつつもどこか歪みを感じさせるキャラ造形の妙(そしてそこに絡む本シリーズならではの驚くべき伏線!)にも唸らされるところですが、「今のところは」戦いの流れそのものは、史実から大きく離れたものではありません。

 しかしそれが物語としての面白さや緊迫感をいささかも減じるものではないのは、これまで本作で描かれてきた合戦と変わるところではありません。
 たとえ経緯と結果は史実通りであれど、その中で暴れ回るのが、これまでに「人生」を積み重ねてきたキャラクターたちだからこその盛り上がりが、ここには確かにあるのです。

 しかし個人的にその中で最も印象に残ったのは、ある意味人生の積み重ねと最も遠いところにある二人のキャラクター――真田大助と由利鎌之助であります。

 九度山で生まれ、もちろんこれが初陣となる大助。記憶力や学習能力というものを持たず、常に今この時しかない鎌之助。前巻において不思議な、どこかもの悲しい絆で結ばれた主従であり、親友であり、兄弟であり……そしてそのどちらでもない二人。
 そんな二人が、真田丸攻防戦で繰り広げる戦いは、生涯「最初」の戦場となるだけに、他の登場人物とはまた異なる緊迫感と、ある種の初々しさに満ちています。

 そしてその戦いの果てに二人の間に生まれたもの、手にしたものは……それはここでは書けませんが、これまで本シリーズを、少なくとも前巻を読んだ人間は、必ずや天を仰いで「嗚呼!」と嘆じたくなる、そんな名場面であります。


 そしてこの巻ではあまり表に出なかったとはいえ、史実の背後で蠢く奇怪な魔の影は、戦いを静かに、そして確実に侵していくことになります。

 戦いの後に幸村の前に現れた南光坊天海が取った行動は、そして彼が残した言葉は何を意味するのか。
 そしてそれと繋がっていくであろう、冒頭で描かれたある人物の行動は何を意味するのか――

 ここに来て未だ全貌が見えず、しかしそれが顕わになった時、とてつもないものが描かれるのではないか……そんな期待を抱いてしまう松尾版『真田十勇士』。
 天下対真田、天下対人間の戦いの向かう先は……いよいよ次巻完結であります。


『真田十勇士 6 大坂の陣・上』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈6〉大坂の陣〈上〉


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 松尾清貴『真田十勇士 3 天下人の死』 開戦、天下vs真田!
 松尾清貴『真田十勇士 4 信州戦争』 激闘上田城、そしてもう一つの決戦
 松尾清貴『真田十勇士 5 九度山小景』 寄る辺なき者たちと小さな希望と

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2017.03.09

山田秋太郎『墓場の七人』第1巻 屍人に挑む男と少年の生きざま

 別に専門家になったわけではないのですが、結果的にゾンビ時代劇の大半を取り上げているのではないかという気もするこのブログ。それだけゾンビ時代劇が増えているということかと思いますが、その中に新たな作品が加わりました。ありそうでなかった、七人の侍vsゾンビという作品が……

 突如として甦った生ける死者・屍人の群れの襲撃を受けた墓場村から、助っ人を探すという使命を背負って脱出した子供の一人・七平太。しかし彼は、町でトラブルに巻き込まれ、悪旗本の屋敷の牢に捕らわれの身に。
 そこで出会ったのは、腕は立つものの、あまりの残忍さで恐れられる人斬り――斬った相手の肉体を百の肉片に挽くことから百挽と呼ばれる男。初めは七平太を相手にしていなかった百挽ですが、しかし七平太が探しているのが屍人相手の用心棒であることを知り、そして旗本を前に必死の気迫を示した彼を認めて用心棒となることを肯います。かくて旗本屋敷を脱出した七平太と百挽改め一色は、墓場村への道を急ぐのですが――


 というわけで、冒頭にも述べたとおり、一言で表せば「七人の侍vsゾンビ」というシチュエーションの本作。考えてみれば野武士をゾンビに入れ替えたわけですが、しかしこれはコロンブスの卵というべきでしょう。決して少なくないゾンビ時代劇、そして七人の侍をベースとした「○○の七人」もの(?)にも、この趣向はほとんど初ではないかと思います。

 しかし本作は、野武士をゾンビに単純に代えただけの作品ではありません。その本作ならではの要素の一つ……それは一色と屍人の因縁であります。

 子供の頃、七平太同様、村を屍人の群れに襲われた一色。両親に隠されて辛うじてその場は助かったものの、村は全滅、そして屍人を率いる謎の男の前に、彼も深手を負わされたのであります。
 以来、屍人を追って旅しながらもその行方もわからず、彼は己の無力さを味わう中で荒れ、堕ち、人斬り「百挽」として恐れられるようになって――

 と、「○○の七人」ものは、あくまでも雇われただけの七人が、弱き者を守るために命を張るのが良いのであって、敵との因縁があるのはいかがなものか……という向きはあるかと思いますが、ここはどん底まで堕ちた男の復活劇であると見るべきでしょう(そもそも七人ものの最新作からして……)。


 そしてもう一つ、本作は少年の成長物語としての要素を持っています。

 用心棒を呼ぶために村から送り出された七平太。それは裏を返せば、彼自身にその場に残って戦うだけの力がないことにほかなりません。
 そして旅に出た先でもあっさりと捕らえられ、生と死ギリギリの選択を迫られることになるのですが……それでも屈しない彼の心が、一色を動かし、そして屍人との戦いを大きく動かしていくことになるのです。

 この第1巻のラスト、ついに村を襲った屍人の群れに、一度は絶望しかけた彼が、折れた刀を手に叫ぶ言葉……それは「七人」の雇い主として、真に敵と戦う者としてまことに相応しく熱い言葉。
 そしてその言葉に応えて……! というラストシーンには、こちらもただただ燃えるほかないのであります。


 もっとも、このラストシーンには、えっいきなり!? という印象を持つ方もいるかもしれませんが、私としては、いや、ここまで来たらこれしかなかろう、と答えるほかありません。

 男の復活劇と少年の成長物語――いわば二人の生きざまの発露が交錯した時に生まれた奇跡が、如何にして死者との戦いに道を切り開いていくのか。
 実は連載の方は次回で完結という状況、おそらくは本作は全3巻程度になるのではないかと思いますが、最後まで一気呵成に駆け抜けて欲しいと思います。


 それにしても中盤で一色が見せたとんでもなくメタな技(?)、漫画的には最強ではないでしょうか……いやすげえ。


『墓場の七人』第1巻(山田秋太郎 集英社画楽コミックス) Amazon
墓場の七人 1 (画楽コミックス愛蔵版コミックス)

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2017.03.08

『風雲ライオン丸』 第8話「謎の新兵器 ローク車」

 新兵器ローク車に乗った三色仮面を率いて各地を襲撃するガズラー。獅子丸は次にガズラーが狙う日の出村で、村人に協力を呼びかける。しかし村人たちは獅子丸を置いて逃げ出し、残されたのは身重の妻を抱えた伊三だけだった。偶然村を訪れた志乃に伊三の妻を任せ、獅子丸は一人村のために戦う。

 地虫忍者の精鋭・三色仮面に与えられた新兵器ローク車――蒸気の力で動き、スピードとパワーを兼ね備えたその力で、彼らは村々を襲撃しては人々を追い詰め、短銃の連射で死体の山を積み上げていきます。
 偶然、三色仮面の凶行の後に村を訪れた獅子丸は、無残に殺された母子の死体を見つけ、怒りとともに子供が最期まで握っていた人形を手に取るのでした。

 さて、その三色仮面を預けられたガズラーの次のターゲットである日の出村を訪れた獅子丸ですが、村人たちは今にも村を捨てて逃げ出そうという様子。獅子丸は前回のように村人の協力を得て戦おうとしますが、今回の村人はやる気がない。ローク車を引っ掛けるためであろう綱の端を持っているだけでいいから、と頼み込んでようやく協力を得ることができたと思えば……あっさりと獅子丸を見捨てて逃げる村人。

 ある意味ピープロイズム溢れる展開に苦戦を強いられ、谷を転がり落ちた獅子丸。傷だらけで村に戻ってきた彼の前に現れたのは、村に残っていた男・伊三であります。
 臨月の妻・ハルを抱えて逃げられない彼は、獅子丸に協力を申し出るのですが、さしもの獅子丸も、今にも生まれそうなハルを前に困惑を隠せず……と思いきや、どこかで聴いたような馬車の音を耳にした獅子丸は、第1話以来ではないかというくらいの笑みを浮かべるのでした。

 というわけで巻き込まれた志乃は頼りない男たちを尻目にテキパキと出産の準備を進め、獅子丸は伊三が作っていた油を利用、三吉製のポンプであらかじめ油を村の周囲に巻いて迎撃の準備を整えます。そしてやってきた地虫忍者たちに対し、何気に得意技の手裏剣連打で着火! 第一陣を撃破しますが、しかしローク車に亀甲車まで連れたガズラーの本隊が攻撃開始。ハルたちを逃がし、獅子丸は単身これに立ち向かいます。

 地虫忍者たちがパッと消えたかと思うと顔だけになって迫ってくるという謎の攻撃を切り抜け、ライオン丸に変身した獅子丸ですが、三色仮面はローク車で彼の周囲を回りながら短銃を連射。このままでは前作のタイガージョーのようなことに……とハラハラさせられましたが、よほど腕が悪いのか傷を与えるのがやっとであります。
 よせばいいのに一列になって突っ込んできた三色仮面に対し、獅子丸は宙を舞うや次々と斬りつけて撃破。残るガズラーも、巨大な樹に変身して倒れ込んでくる攻撃(らしいのですが、単に樹が何度もアップになる謎演出にしか見えない)をかわされ、胸に刀を投げつけられて倒れるのでした。

 そして赤ん坊も無事に生まれ、ほっと一息の獅子丸。その前に現れたのは、戻ってきた村人たちですが……先程までの態度からコロッと変わり、しばらく村にいてくれないかという村人たちにはさすがの獅子丸も仏頂面。冒頭で拾った子供の人形を赤子に渡してほしいと三吉に託し(微妙に不吉)、さっさと去っていくのでした。


 村人たちとともに籠城戦を繰り広げて勝利した前回とはあたかも表裏一体のような今回。それでもたった二人のために戦う獅子丸が泣かせるのですが……やはりリアクションに困るのはローク車であります。
 これまたピープロ名物の、ガワを被せた乗り物(バイク)なのですが、ただでさえデザイン的にも微妙なところに話のムードからも浮きまくり、しかも荒れ地でアクションをすると転びそうで別の意味で手に汗握るという……少なくとも籠城戦の回に出す敵ではなかったなあ、と思います。


今回のマントル怪人
ガズラー

 三色仮面を率いて村々を襲う怪人。巨大なポールアックスを持ち、巨大な樹に化けて倒れ込むという奥の手を持つ(らしい)。三色仮面を撃破され、奥の手で戦うも及ばず、獅子丸の投じた刀に貫かれる。

三色仮面
 新兵器ローク車を与えられた赤・青・白の三人から成る地虫忍者の精鋭。その機動力で相手を追い詰めて短銃で射殺、凶行の後には自分の色の狼煙を上げる。ガズラーとともに獅子丸を苦しめたが、詰めが甘く、獅子丸の逆襲にあっさりと壊滅した。


『風雲ライオン丸 弾丸之函』(ショウゲート DVDソフト) Amazon
PREMIUM COLLECTOR’S EDITION 風雲ライオン丸 弾丸之函 [DVD]


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 『風雲ライオン丸』 第5話「燃える水を奴らに渡すな」
 『風雲ライオン丸』 第6話『黒豹よ三吉を助けろ!』
 『風雲ライオン丸』 第7話『最後の砦』

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2017.03.07

廣嶋玲子『狐霊の檻』 少女同士の絆、人と自然の絆

 私利私欲にまみれた人々に囚われた少女の姿をした狐の精霊・あぐりこと、彼女を世話することとなった少女・千代の絆を描く物語――2008年に第14回児童文学ファンタジー大賞奨励賞を受賞した作品『あぐりこ』をベースとした作品であります。

 過去のいつか、この国のどこか……身寄りをなくし、人買いに売られた少女・千代が迎えられたのは、富と権力をほしいままにする阿豪家の屋敷。そこで屋敷の離れに住まう幼い少女・あぐりこの世話を命じられた千代ですが、しかしあぐりこには思わぬ秘密がありました。

 実はあぐりこは狐の精霊……幼い外見にもかかわらず長き年月を生きてきた存在であり、そして90年前、この阿豪家の先祖に裏切られ、封印されてきたのです。
 幸を呼ぶあぐりこの持つ力により、以来富み栄えてきた阿豪家。しかし自由を奪われたあぐりこの怒りは激しく、その身から放つ瘴気により阿豪家の人々は病み衰え、子も生まれなくなっていく状態にありました。

 そんな中で、自分があぐりこを宥めるためにこの家に連れてこられたことを知った千代は、あぐりこに深く同情し、あぐりこも彼女にだけは心を開いていくことになります。
 やがてこの屋敷から脱出するために準備を始める二人。しかし千代の動きに不審を抱いた阿豪家の者は――


 作者は、人間と妖の関わりを描きつつ、時に妖以上に残酷で恐ろしい人間の陰の部分を浮かび上がらせる物語を得意としてきました。
 『鵺の家』『妖怪の子預かります』など、最近発表が続いている一般向け作品においても、本作のような児童文学においても、その方向性は変わることはありません。

 人間が、幸をもたらしてくれる人ならぬ存在と出会い、その恩恵を受けつつも、やがて欲を募らせ、そのために幸を逃す……そんな物語は、古今東西を問わず存在します。
 しかし本作で描かれるのは、その幸を永遠に享受するために相手を裏切り、自由を奪い続ける人間の醜い欲望の姿であります。

 もちろん、自らの幸を求めるのは人間にとって当然の性ではあります。そして一度得た幸を手放したくないと考えるのもまた。
 しかし、そのために他者を犠牲にすることは許されるのか……という『オメラスから歩み去る人々』的なジレンマに本作が向かわず、千代が一貫してあぐりこの味方であり続けるのは、物語を単純化しているように見えるかもしれません。

 しかし千代にあぐりこの世話を命じた阿豪家の次男・平八郎のように、このジレンマに揺れる存在も描かれていることを思えば、むしろそれは千代の、年端のいかぬ少女ならではの純粋な想い……子供だからこそ抱ける想いによる、純粋な理非の判断によるものと考えるべきでしょう。

 そう、本作で描かれるのは、少女同士の純粋な想いが生み出す絆……人と妖、いや人と自然が最も幸せな形で結びついた姿であり、それは私利私欲からは生まれない、人の心の善き部分から生まれるものであること、そしてその尊さを、本作は強く謳い上げているのです。


 人外の存在を利用して富み栄える一族と、呪いを避けるための道具として迎えられた少女というシチュエーションは、作者の『鵺の家』と重なる部分が非常に大きいようにも思えます。
 また、終盤の展開が、新事実の連続でいささか目まぐるしい点も、少々気になるところではあります。

 しかし人間の悍ましい負の心を容赦無くえぐり出してみせ、そしてその容赦無い描写を通じて、それにも負けぬ人間の美しさ、強さを描き出してみせた本作は、やはり作者ならではの魅力に満ちていることは間違いありません。
 残酷で美しいお伽話とも言うべき物語であります。


『狐霊の檻』(廣嶋玲子 小峰書店Sunnyside Books) Amazon
狐霊の檻 (Sunnyside Books)


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2017.03.06

横山仁『幕末ゾンビ』第3巻 死闘決着! 人のみが持つ力

 突如現れたゾンビにより大混乱となった戊辰戦争の最中、将軍・慶喜を守り北へ向かう永倉新八らの死闘もクライマックス。ゾンビの襲撃に、そして薩摩の追撃の前に次々と味方が倒れる中、なおも闘志を失わない新八は、真の敵の存在を知ることに……

 慶喜を守ってからくも大坂を脱出し、幕府逆転の秘策が眠る蝦夷地へ向かう永倉・原田・大石・市村ら新選組を中心とするメンバー。
 しかし無限に進化を続け、次々と仲間を増やすゾンビたちの前に原田は半ゾンビと化し、さらに薩摩が放った刺客・村田経芳により大石が討たれることに……


 と、地を駆け空を飛び、雨からも感染するゾンビのみならず、同じ人間をも敵に回すこととなった永倉。
 いや、元々敵は人間だったところにゾンビが乱入してきたのですがそれはさておき、こんな非常時でも追跡を諦めぬだけに、相手もただ者ではありません。

 村田経芳といえば、薩摩一の射撃の名手として知られ、後に日本初の国産小銃を開発した銃の申し子。鳥羽・伏見から東北まで、戊辰戦争で活躍した人物ですので、ここで登場するのは史実にも適っているのですが……

 しかし本作の村田は、不気味な能面に顔を隠し、超人的な射撃スキルによって永倉を追いつめるスナイパーとして登場。いや、たとえ距離を詰めたとしても、短銃でも恐るべき戦闘力を発揮する一種の怪物であります。
 そんな相手に刀一丁で挑む永倉も永倉ですが、ゾンビまでもが乱入する中で繰り広げる二人の死闘(日本刀と小銃でメキシカン・スタンドオフをやるとは!)は、この巻前半の名場面といえるでしょう。


 しかし、二人の戦いが激しければ激しいほど、そして名勝負というべきものに昇華されていくほど、一つの想いが強くなっていくことになります。ここまでゾンビ禍が広がる中で、人間同士がこんな戦いを続ける必要があるのか……と。

 その想いを受けるかのように、この巻の後半では、物語は大きな転換を迎えることとなります。
 村田との死闘の末、この戦いを終えるために、ある選択を決意する永倉、そして慶喜。そんな彼らに合流した勝海舟は、このゾンビ禍の真実を語ることになります。ゾンビの跳梁を終わらせる手段と、そして何より、ゾンビが出現した理由を――

 この辺り、どう考えても絶望しかない戦いを終わらせるには(物語的には)なるほどこの手しかないかと思いますし、真の敵の存在も、これまで伏線が張られていたことを考えれば納得なのですが……しかし前半までに比べれば、急激に物語が進みすぎた印象はあります。
(あの老人の文字通り決死の決意も有耶無耶になった感がありますし、そういえば沖田と土方はどこへ……)

 この辺り、予定よりも早く物語を完結させる必要が生じたのだろうなあ……と邪推してしまうのですが、もう本当に八方塞がりな状況が続いていただけに、そしてそれでもブチ抜いて見せるであろう面子が揃っていただけに、勿体ないという印象は否めません。


 しかしそれでも、限られた時間の中で、本作は描くべきは描いてみせた、というのもまた正直な印象であります。

 ついに正体を現した真の敵の猛攻に始まり、それに対して「人間として」挑む永倉たちの大反撃、そしてゾンビとは異なる形で死後の生を生きてきたあの男との決着ときて、そして! という感じのラストまで――
 個人的には「悪いのは全部○○」という展開は好みではありませんが、ええい、ここまで来たからにはやってしまえ! という勢いには、愛すべきものを感じます。

 ゾンビとの死闘を通じ、人の果てなき底力を描いてみせた『戦国ゾンビ』。それに対し、本作はその先の、人のみが持つ心が生む、一つの可能性を描いてみせた……と表すのは、綺麗すぎるでしょうか。


 それにしても……徳川幕府の影の守護者の活躍、見てみたかった。


『幕末ゾンビ』第3巻(横山仁 幻冬舎バーズコミックス) Amazon
幕末ゾンビ  (3) (バーズコミックス)


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2017.03.05

菊地秀行『人造剣鬼 隻眼流廻国奇譚』 もう一つの人間たちへのまなざし

 隻眼の剣豪・柳生十兵衛が、諸国を旅する中で様々な怪異と対決する「隻眼流廻国奇譚」の長編第2弾です。前作で十兵衛が対決したのは異国の吸血鬼でしたが、本作で彼の前に現れるのは、人間が造り出した人間――そう、あの「怪物」。それも恐るべき剣技を身につけた、まさしく剣鬼であります。

 とある田舎道場で容赦なく殺人剣を振るう魔剣士・蘭堂不乱、そしてその妹を名乗る謎の美女・富士枝と出会った十兵衛。
 それから数日後、刺客団に襲われた美女を助けた十兵衛は、彼女が遠丈寺藩の大目付の娘であることを知ります。藩主が進めるある計画を知った大目付は討たれ、彼女にも刺客が差し向けられたというのですが――

 その計画とは、死者の体を繋ぎ合わせた不死身の兵士を作り、幕府を転覆させるというもの。普通であれば到底信じられないようなとんでもない話ですが、しかしこの世ならぬ者の存在を知るのが十兵衛であります。
 一人遠丈寺藩に向かった十兵衛が見たものは、間近に迫った藩を挙げての武芸試合のため、全国から集まった腕自慢の群れ。

 しかも藩を訪れた中には、あの不乱が、その妹・富士枝が、そして二人を討つために追ってきた弟・賢祇の姿が――実は彼らもまた、人間によって作り出された者だったのであります。次々と襲い来る死人の剣に挑む十兵衛の運命は――


 冒頭に述べたとおり、前作の吸血鬼に続き、本作の題材となっているのは、かの「フランケンシュタインの怪物」――生命創造の妄執に取り憑かれたフランケンシュタイン博士が死体から生んだ怪物であります。
 あとがきによれば、本シリーズは作者がこよなく愛するハマー・フィルムの怪物たちのオマージュであるとのことですが、なるほど……とというチョイスであす。

 しかしこのある意味定番のホラーモンスターも、名手の筆に依れば、新たな命を得ることになります。
 本作で描かれる「怪物」は、それぞれに個性的かつ超人的な力を持つ三兄弟であり、そして奇怪な技によって生み出された死人武士団なのですから。そう、本作に登場するのは、まさしく人造の剣鬼の群れなのであります。

 実は宮本武蔵や益田四郎、柳生友矩が登場した前作に比べると、本作は十兵衛以外の歴史上の人物はほとんど登場しないのですが、しかしそれでも不足感がないのは、実にこの敵の陣容によるところが大きいでしょう。
 とにかく冒頭からラストまで、ほとんど絶えることなく剣戟また剣戟――十兵衛が、死人たちが、そして諸流派の達人たちが絶え間なく繰り広げる激突は、本作の大きな魅力であることは間違いありません。


 しかしそれと同時に、本作は実に作者らしいある問いを投げかけてくることになります。我々人間と「彼ら」と……一体両者のどこが異なるのか、と?

 確かに彼らは、人間の手により死体を繋ぎ合わせてこの世に生み出された醜い存在であり、そしてその多くは知性を持たないか、あるいは破綻したこころの持ち主ではあります。
 しかし――人間とそれ以外を分かつのは、生まれる手段なのか、外見の美醜なのか、正常なこころの有無なのか……?

 思えばフランケンシュタインの怪物の特異性は、吸血鬼のように人間とは別個の種族ではなく、人間が人間から、人間と同等の存在として生み出したという点にあるのではないでしょうか。
 だとすれば……そんな存在が人間らしく生きることを、扱われることを望むのを誰が咎められるでしょうか。

 デビュー以来、400冊という驚異的な作品を送り出してきた中で、そのほとんどで、人ならざるものを描いてきた作者。そしてまたその多くにおいて、作者はそうした存在に、優しいとも言える眼差しを向けてきました。
 その眼差しは、先に述べた問いかけとともに、本作においても健在であると感じます。

 もっとも、こうした要素はあくまでも味付けであり、過度に触れることは誤解を招くかもしれません。本作の基本はあくまでも時代伝奇小説であり、剣豪小説なのですから。
 その意味では本作はまず水準の作品という印象。前作よりもさらに人間味の増した十兵衛(囲碁シーンは実に可笑しい)のキャラクターも楽しく、肩の凝らない作品であることは間違いありません。。


 さて、隻眼流が次に挑む相手はいかなる怪物か……何しろ相手も多士済々、今から期待は膨らむのであります。
(しかし、何というか編集はもう少ししっかりチェックしていただきたいものではありますが――)

『人造剣鬼 隻眼流廻国奇譚』(菊地秀行 創土社) Amazon
人造剣鬼 (隻眼流廻国奇譚)


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2017.03.04

竹内清人『躍る六悪人』(その二) 本当の悪人は誰であったか?

 新進気鋭の作家による初時代小説『躍る六悪人』の紹介の後編であります。時代アクションとしてはなかなかに新鮮かつ豪快な内容で楽しめる本作なのですが……しかし、不満がないわけではありません。

 例えばすぐ上で触れたケイパーもの、クライムアクションとしての顔ですが、本作はかなりのところその定番に忠実な展開だけに、このキャラは実は○○で、このキャラも○○してないな……など、ある程度先の展開が読める部分が少なくないのが惜しいところではあります。

 また、最大の見せ場であるキャラクターたちがそれぞれの特技で活躍するシーンも、突貫斎が頑張りすぎて他の面々が霞んだという印象は否めません。
(特に直侍は、それだけで一本描けるほどの過去を持っているだけに、もっと前面に押し出しても良かったのではないかという印象もあります)

 しかし……個人的に一番もったいなかったと感じるのは、作中に登場する「悪人」たちの「悪人」たる所以を、もう少し突っ込んで描いて欲しかった、という点であります。


 実は本作のようなケイパーものをエンターテイメントとして成立させるためには、一つの鉄則があると言えます。
 それは、主人公たちのターゲットとなるのも悪人……それも主人公たち以上の巨大な悪人であることです。

 これは実は至極当たり前の話で、主人公たちが自分たちよりも格下の悪人を相手にしても仕方ありませんし、ましてや一般庶民の富を奪っても単なる弱い者いじめにしかなりません。
 悪人がより巨大な悪人に鉄槌を下す……トリックや仕掛けの楽しさもさることながら、このカタルシスがケイパーものの最大の魅力ではないでしょうか。

 そして本作にも、大悪人たちが幾人も登場します。中野碩翁、水野忠邦、鳥居耀蔵、そして忠邦と結ぶ悪徳商人にして宗俊とある因縁を持つ・森田屋清蔵、大塩の乱の残党にして貧民を使った爆弾テロを指揮する飯島玄斎――

 実は「六悪人」が誰を指すかを敢えて明記していない本作。彼らに河内山を加えた六人もまた「六悪人」ではないかとも思えるのは、なかなか面白い点ではあります。
 しかし宗俊を除いた彼ら大悪人のキャラクターを、もう少し掘り下げて欲しかった、もっと彼らの恐ろしさ・巨大さを、そして彼らならではの悪の在り方を見せて欲しかった、という印象が残るのです。

 それこそが、時代ものとしての本作の真の独自性にも繋がってくるのではないか、さらに言えば、なぜ「いま」河内山宗俊なのかという点をさらに明確にできたのではないか……そう感じられた次第です。


 と、長々と厳しいことを書いてしまいましたが、これも作者と本作への期待ゆえ……というのは言い訳かもしれませんが、それだけ語りたくなるだけのものを持っているのは間違いない作品なのであります。。


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躍る六悪人

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2017.03.03

竹内清人『躍る六悪人』(その一) 六花撰、強奪ミッションに挑む!?

 『戦国自衛隊1549』『キャプテンハーロック』の脚本家による初のオリジナル小説は、天保年間を舞台に六人の悪人たちが活躍するクライムアクション……河内山宗俊たちが、権力を嵩にやりたい放題の更なる悪人を向こうに回して大暴れする、痛快な大活劇であります。

 大飢饉と悪政で貧富の差が広がり、窮民が溢れた江戸。そこで強請りたかりを生業に暮らす茶坊主・河内山宗俊と仲間の片岡直次郎、暗闇の丑松は、ある日、首尾よく一仕事片づけた後、思わぬ罠にはめられて捕らえられることになります。
 そして彼らの前に現れたのは老中・水野忠邦とその腹心・鳥居耀蔵。宗俊は、忠邦からある取引を持ちかけられることになります。

 それは放免と引き替えに、大御所・家斉の側近として大名や老中もひれ伏す権力者・中野碩翁が屋敷に隠した不義の財宝十万両を奪うこと――
 逼迫した幕府の財政を救い、そして改革を阻む政敵である碩翁一派を追い落とすため、悪人には悪人をと、忠邦は宗俊たちに目を付けたのであります。

 自由のため、大金のため、そして権力者の鼻を明かすため……この大仕事を引き受けた宗俊。
 しかし碩翁の屋敷は厳重に警護されている上、十万両が収められた蔵は、天才からくり師・国友一貫斎による仕掛けの数々に守られた、難攻不落の要塞とも言うべき存在であります。

 一貫斎の息子・突貫斎を仲間に引っ張り込み、直次郎や丑松、謎の花魁・三千歳、密偵として屋敷に送り込まれた武家娘・波路らと綿密な強奪計画を練る宗俊。
 しかし仲間さえも油断できない状況に加え、漁夫の利を狙う連中も次々と現れて計画はアクシデントの連続。果たして最後に笑う者は――


 河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花』などで知られる河内山宗俊ら六人の悪人・天保六花撰。彼らの物語は、現代に至るまで様々な媒体で、その時々に相応しい装いで描かれてきました。
 本作が、その現代版のアップデートであることは言うまでもありません。そしてその装いは……なんとケイパー(強奪)ものなのであります。

 莫大な財宝や巨大な秘密を盗み出すため、いずれも一癖も二癖もあるプロフェッショナルたちがチームを組み、幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐって、見事逃れおおせてみせる――
 こうしたスタイルの物語は、『オーシャンズ11』や『グランド・イリュージョン』など現代を舞台とした作品ではお馴染みですが、それを時代小説で、それも天保六花撰でやってしまうとは……! コロンブスの卵と言うべきでしょうか、まず目の付け所に脱帽であります。

 しかもこの六人、本作ならではの一ひねりが加わっているのが面白い。
 宗俊・直侍・丑松・三千歳といったオリジナルメンバー(?)に加え、突貫斎や波路ら本作独自のメンバーが加わったことで、物語の展開に幅が広がっているのが、何とも楽しいのであります。
(そして、残りのオリジナル六花撰もまた、別の立ち位置で登場するのもまた意表を突いた展開)

 そして彼らが挑む「悪事」も、クライマックスのケイパーだけでなく、大仕掛けな詐欺にいかさま賭博、銃撃戦、さらには思わぬ乗り物を使っての逃走劇など、何でもありありで実にユニーク。
 この辺り、映像にした時のイメージから逆算したのかな、という印象もありますが、出し惜しみなし、ちょっとやりすぎ感すらある活劇は、まさにド派手なケイパー映画のクライマックスを見ているような楽しさがあります。


 しかし……というところで次回に続きます。


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躍る六悪人

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2017.03.02

『風雲ライオン丸』 第7話『最後の砦』

 不作と野盗の襲撃に苦しむ美濃国を手中に収めんとするマジンは、亀甲車を用いて周辺の村々を次々と襲撃。次の標的の真尾村には、村に残った五人の村人と、志乃と三吉の父の弟子・佐八がいた。獅子丸の指揮で奮戦し、一度は敵を撃退した村人たち。しかしなおも攻撃が続く中、三吉が囚われの身に……

 不作と野盗の襲撃というダブルパンチで滅亡寸前の機に乗じて美濃国を奪取しようという悪魔のようなことを企むアグダー。関東への前線基地にする目的のようですが、ちょっと遠くないか……と思いつつも、史実で美濃国を取った信長の躍進を考えれば、あながちおかしなことではないかもしれません。
 それはさておき、その命を受けた怪人マジンは、地虫忍者と亀甲車を率いてヒャッハーと村々を地道に焼き払っていきます。そして今回も運悪く志乃と三吉はそこに出くわすことに……

 駆けつけた獅子丸が足止めをしている間、次の襲撃予定地である真尾村に向かう志乃たち。しかし村では怖い物知らずの五人の村人が迎え撃とうとしていたのでした。が、敵の正体を全く理解していなかった模様……
 そしてそんな彼らに武器を(そしてさりげなく火薬まで)提供していた男・佐八は、実は志乃たちの父の愛弟子でありました。名のある刀鍛冶だった父は、いかなる理由か数年前に二人の子を捨てて佐八とともに旅立ち、そしてすぐに佐八とも別れてそれっきりだというのであります。

 その父が後にあんなことになるなんて……というのはさておき、獅子丸も村に到着、マントルハンターとして名を知られているらしい獅子丸の合流に村人も表情を明るくします(その一方でマントル側はいまいち彼の存在をわかっていないようなのが……)。
 そして獅子丸の指導の下、防御を固めた村についに襲い来る地虫と亀甲車。真っ正面から門をブチ抜いてきた地虫たちに、村人たちは微妙な投石器で迎え撃ちます。さらに巧みに亀甲車を小屋に誘導→仕掛けた火薬で爆破など、意外な村人たちの健闘、そしてもちろん獅子丸の活躍に地虫たちも一時撤退するのでした。

 が、勝利に沸いている油断をついて再び襲撃してきた地虫たちに素人の哀しさから浮き足立つ村人たち。さっきまでの勢いはどこへやら、負け犬モードに入りかけた彼らを叱咤して奮い立たせるのはもちろんマントル絶対殺すマンの獅子丸であります。
 その激に立ち上がった村人たちは、多勢を相手にしても力を合わせて果敢に反撃。その姿に自分も……と据わった目で考える三吉ですが、しかし活躍する間もなく、マジンによって人質とされてしまうのでした。

 しかしそこでも屈しない獅子丸は、ロケット変身の勢いで三吉を奪還。見かけ倒しのマジンを一騎打ちで粉砕すると、格好良い挿入歌「さすらいの誓い」をバックに新たな旅に出るのでした。


 本作、そして後番組の『鉄人タイガーセブン』でヘビーな展開を連発、視聴者に多大なトラウマを与えたことで知られる脚本家・高際和雄の初登板回である今回。
 しかし今回は本作らしい西部劇的な「砦」に立て籠もっての攻防戦を描きつつも、アラモのように全員玉砕ということはなく、晴れて全員揃っての大勝利という爽やかな回でありました。これまで違和感が目立った西部劇タッチを、巧みに時代劇に落とし込んでいたのも見事と言うべきでしょう。
(本当に砦が登場するわけではなく、村が自分たちにとっての「最後の砦」という村人の台詞から来たタイトルもうまい)

 その一方でこれまでの物語で少しずつ語られてきた志乃と三吉の父の存在がクローズアップされるなど、連続ストーリーの要素もきっちりと拾っているのもいいのです。
 ラストには獅子丸がバックパックをメンテする(燃料のカートリッジを入れ替える)珍しいシーンもあり、色々な意味で楽しめるエピソードでした。

 ちなみに今回のマジンは、武装は西洋の中世的なのに顔は隈取り的と妙な取り合わせながら、なかなか精悍なスタイルが印象的な怪人。しかし特殊能力があるわけでなく、あっさりと倒されたのが残念であります。


今回のマントル怪人
マジン

 青銅のマジンと呼ばれる鎧姿の怪人。ハルバードと大盾、剣を武器とする。美濃国奪取のために村々を襲撃するが獅子丸らの抵抗を受け、三吉を人質に取るも失敗。ライオン丸に奪われたハルバードで胸を刺され、すれ違いざまに斬られて絶命した。


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2017.03.01

戸土野正内郎『どらくま』第5巻 乱世を求める者と新たな道を求めるものの対決

 凄いのか凄くないのか謎の守銭奴・真田源四郎と、伝説の忍びの秘術を受け継ぐ凄腕・九喪、犬猿の仲と言うも生ぬるい迷コンビが大坂の陣直後の世界で大暴れする物語も、もう第5巻。奥州で忍びたちの暗闘の渦中に巻き込まれた二人を待つものは……

 心ならずも徳川家に手を貸すことになった二人が向かった先、それは軒猿十王の一人・天雄が暗躍するという奥州。
 伊達家の隠し財産を狙い、外道の医学薬学で人間を改造して操る天雄に対し、二人は天雄を仇と狙う大獄丸、九喪の元同僚の天才忍者・シカキン、そして伊達家の忍び・黒脛巾組と共に挑むことになります。

 狡猾な罠をかいくぐり、連携プレーの末についに天雄を仕留めたかに見えた源四郎たちですが、しかしその天雄は替え玉。そして二人は味方であったはずのシカキンと黒脛巾組に刃を向けられ、捕らえられることとなります。
 徳川家に深い恨みを抱くシカキン。そして彼が守る少女・木毎が狙う仇とは、彼女の父・幸村を手に掛けた源四郎……!


 というわけで、収録されたほとんど全話に、冒頭で過去の回想エピソードが入ることからもわかるように、各人が隠してきた過去が次々と明らかになり、絡み合っていくこの巻。
 そんなキャラクターたちの中心の一つは、もちろんというべきか源四郎であります。

 真田家当主・信之の甥――すなわち幸村の子である源四郎。しかし彼は信之の命で大坂城に入り、幸村を討ったという過去がありました。
 その真意が奈辺にあるかはいまだにわかりませんが、しかし幸村に身を寄せた者にとって、彼は不倶戴天の仇であることはまちがいありません。……彼の妹である木毎を含めて。

 そしてもう一つの中心となるのが天雄であります。
 かつて上杉家に仕え、今は徳川の下に付いた軒猿最強の十王の中でも、最悪の存在として知られる天雄――彼の所業の全てが明かされたわけではありませんが、静かなる巨人・大獄丸が憤怒を以て臨むという点だけで、それはある程度想像がつくというものでしょう。

 そしてさらに天雄を狙って現れるのは十王最強、言葉だけで人を殺せるという超絶の忍び・髑髏――そして今回、髑髏と大獄丸の過去の関わり、そして髑髏の意外すぎる正体の一端(よく見たら前巻にもその姿が……)がほのめかされるのであります。

 源四郎と天雄、二人を中心とした人間関係はこじれまくり、そもそもそれぞれはどこの陣営で、誰の味方であったのか、そもそも皆何のために戦っていたのか……と混乱してくるのですが、しかし後半、この戦いの背後にある巨大な陰謀と、そしてその原動力となる一つの想いが露わになることになります。

 かつてこの国で、百年以上続いた戦国乱世。本作は源四郎以外の登場人物はほとんど全員忍者という印象ですが、その忍者こそは、乱世においてその真価を発揮する、乱世の申し子であります。
 そしてその申し子たちから、乱世が……戦いが奪われようとする時、彼らは何を思うのか。それは言うまでもないでしょう。

 どれだけ矛盾と狂気に満ちたものに見えたとしても、自分が自分らしくあろうとすること、そうあることができる場所を求めるのは人の性であります。
 そうだとすれば、それを止めることができる者は、自分も同じ存在であると知りつつも、それでもその世界を捨て、新たな道を求めることができる者ではないでしょうか。

 そして前者の代表が天雄であり、後者の代表が源四郎であることは言うまでもありません。両者の対決は、乱世の終わりにいかなる道を選ぶのか、その選択に繋がる戦いでもあるのです。


 そしてその対決の先に何が見えるのか。たとえ天雄を倒したとしても源四郎に赦しの日は来るのか? シカキンの悲しみは、大嶽丸の怒りは癒える時が来るのか?

 忍者同士の秘術合戦の面白さもさることながら、それを支える登場人物の物語が、人生がどこに向かうのか……それを想像するだけでワクワクが止まらなくなってくる作品であります。


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