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2017.03.31

天野行人『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』 前代未聞、平安相撲伝奇活劇!

 毎回個性的な作品を輩出している朝日時代小説大賞の第8回の最終選考候補作である本作は、安倍晴明や渡辺綱が活躍する平安ものですが……しかし中心となる題材はなんと相撲。内裏で行われる相撲節会を舞台に、異能の力士たちが激突するユニークな伝奇活劇であります。

 藤原道長が栄華の階段を登り始めた頃――彼と激しく対立する藤原顕光は、毎年七夕に行われる相撲節会において、自分と道長がそれぞれ選んだ最強の相撲人による決闘を提案、道長もそれに乗せられたことから、物語は始まります。

 顕光側の力士は、樹木を壊死させ、空を飛ぶ鳥を落とす怪しげな呪術を操る巨漢・獲麟。この怪人に対抗する力士探しを命じられた安倍晴明は、渡辺綱と二人、寧楽(奈良)は秋篠の里に向かいます。
 その秋篠の里こそは、遥か千年前、垂仁天皇の御前で行われた七夕相撲で勝利した野見宿禰の子孫が暮らす里。そこで地祇と会話する力を持ち、邪を祓う四股を踏む少年・出雲と出会った晴明は、出雲の陰守役である美少女・鹿毛葉らとともに、都に戻るのですが――


 相撲といえばどうしても江戸時代という印象が浮かびますが、その歴史は遥か過去にまで遡ることができるのは言うまでもない話。
 そしてその起源と言われ、そして伝奇ものでしばしば題材となっているのは、本作の中核ともなっている、野見宿禰と当麻蹴速の御前相撲であります。。

 『日本紀』の垂仁天皇7年の項に記されたこの試合は、激しい蹴りの応酬の末に、宿禰が蹴速の腰を踏み折るという、現代のイメージとは程遠い、凄惨な結末を迎えたと言われる一戦。
 本作はこの一戦を題材に、平安に至るまでの千年の因縁を巡る伝奇活劇として物語を構築しているのがユニークなところであります(ちなみに計算するとこの試合は紀元前の出来事なので、本作の時点から遡れば確かに千年前ではあります)。

 安倍晴明や渡辺綱らが妖魔や術者と戦う平安ものは枚挙に暇がありませんが、そこに相撲が絡んでくる物語は、ほとんど記憶にありません。この点は見事な題材選びと言えるでしょう。

 題材と言えば、個人的には、本作の悪役が藤原顕光であることにも感心させられました。
 芦屋道満による道長への呪詛を晴明が見破ったという有名な伝説は、この人物の依頼という話があるこの人物。死後にも数々の祟りを起こし、「悪霊左府」と呼ばれたというのですから穏やかではありません。

 さまで有名ではないものの、こうした逸話から考えれば本作でのキャラクターはまさにはまり役。先の野見宿禰と当麻蹴速の一戦やこの顕光の存在など、本作は既存の伝説を巧みに絡め合うことで、全く新たな物語を生み出しているのに感心させられます。


 とはいえ、残念な点がないわけではありません。晴明や綱、出雲をはじめとして様々なキャラクターが登場する本作ですが、その人物像はさまで掘り下げがなされているとは言い難いように思えます。
 好奇心旺盛な食えない性格の晴明、実直な武人の綱、天真爛漫な出雲、ツンデレの鹿毛葉……わかりやすいキャラクター設定は親しみが持てるのですが、そこから先に広がりが欲しかった、という印象はあります。

 悪役サイドが、わかりやすい悪役で終わってしまったことも含めて――

(これは全く別の話ですが、過去話としてさらっと邪馬台国と神武東征を絡めて物語を設定しているのにも疑問符が)


 とはいえ、達者な物語運びもあり、ラストまで一気に読むことができた本作。おそらくは本作が作者のデビュー作であることを考えれば、今後の活躍に期待してもよいのではないかと思います。
 本作の登場人物たちのその後の姿も描いて欲しい、という気持ちも確かに感じられるところであります。


『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』(天野行人 朝日新聞出版) Amazon
花天の力士 天下分け目の相撲合戦

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