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2017.03.07

廣嶋玲子『狐霊の檻』 少女同士の絆、人と自然の絆

 私利私欲にまみれた人々に囚われた少女の姿をした狐の精霊・あぐりこと、彼女を世話することとなった少女・千代の絆を描く物語――2008年に第14回児童文学ファンタジー大賞奨励賞を受賞した作品『あぐりこ』をベースとした作品であります。

 過去のいつか、この国のどこか……身寄りをなくし、人買いに売られた少女・千代が迎えられたのは、富と権力をほしいままにする阿豪家の屋敷。そこで屋敷の離れに住まう幼い少女・あぐりこの世話を命じられた千代ですが、しかしあぐりこには思わぬ秘密がありました。

 実はあぐりこは狐の精霊……幼い外見にもかかわらず長き年月を生きてきた存在であり、そして90年前、この阿豪家の先祖に裏切られ、封印されてきたのです。
 幸を呼ぶあぐりこの持つ力により、以来富み栄えてきた阿豪家。しかし自由を奪われたあぐりこの怒りは激しく、その身から放つ瘴気により阿豪家の人々は病み衰え、子も生まれなくなっていく状態にありました。

 そんな中で、自分があぐりこを宥めるためにこの家に連れてこられたことを知った千代は、あぐりこに深く同情し、あぐりこも彼女にだけは心を開いていくことになります。
 やがてこの屋敷から脱出するために準備を始める二人。しかし千代の動きに不審を抱いた阿豪家の者は――


 作者は、人間と妖の関わりを描きつつ、時に妖以上に残酷で恐ろしい人間の陰の部分を浮かび上がらせる物語を得意としてきました。
 『鵺の家』『妖怪の子預かります』など、最近発表が続いている一般向け作品においても、本作のような児童文学においても、その方向性は変わることはありません。

 人間が、幸をもたらしてくれる人ならぬ存在と出会い、その恩恵を受けつつも、やがて欲を募らせ、そのために幸を逃す……そんな物語は、古今東西を問わず存在します。
 しかし本作で描かれるのは、その幸を永遠に享受するために相手を裏切り、自由を奪い続ける人間の醜い欲望の姿であります。

 もちろん、自らの幸を求めるのは人間にとって当然の性ではあります。そして一度得た幸を手放したくないと考えるのもまた。
 しかし、そのために他者を犠牲にすることは許されるのか……という『オメラスから歩み去る人々』的なジレンマに本作が向かわず、千代が一貫してあぐりこの味方であり続けるのは、物語を単純化しているように見えるかもしれません。

 しかし千代にあぐりこの世話を命じた阿豪家の次男・平八郎のように、このジレンマに揺れる存在も描かれていることを思えば、むしろそれは千代の、年端のいかぬ少女ならではの純粋な想い……子供だからこそ抱ける想いによる、純粋な理非の判断によるものと考えるべきでしょう。

 そう、本作で描かれるのは、少女同士の純粋な想いが生み出す絆……人と妖、いや人と自然が最も幸せな形で結びついた姿であり、それは私利私欲からは生まれない、人の心の善き部分から生まれるものであること、そしてその尊さを、本作は強く謳い上げているのです。


 人外の存在を利用して富み栄える一族と、呪いを避けるための道具として迎えられた少女というシチュエーションは、作者の『鵺の家』と重なる部分が非常に大きいようにも思えます。
 また、終盤の展開が、新事実の連続でいささか目まぐるしい点も、少々気になるところではあります。

 しかし人間の悍ましい負の心を容赦無くえぐり出してみせ、そしてその容赦無い描写を通じて、それにも負けぬ人間の美しさ、強さを描き出してみせた本作は、やはり作者ならではの魅力に満ちていることは間違いありません。
 残酷で美しいお伽話とも言うべき物語であります。


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