松尾清貴『真田十勇士 7 大坂の陣・下』 そして英雄の物語から人間の歴史へ
ついに決着の時がやってきました。真田幸村と彼に仕える勇士たちの戦いを、真田対「天下」という切り口で描いてきたこのシリーズも、いよいよ本書で完結。大坂夏の陣を舞台に、次々と猛将・勇将たちが散ってく中、明らかとなる驚愕の真実とは――
天下との、そして百地三太夫との戦いの末に全てを喪い、最後に残された武士としての意地を胸に、大坂城に入った幸村。
豊臣家の存続を最優先にして勝つ気のない大坂城の首脳陣を尻目に、幸村とその子・大助、そして勇士たちは、あの真田丸で徳川軍相手に大活躍を繰り広げることになります。
しかしその一方で勇士の一人が大坂城を捨て蓄電、そしてまた一人が大助を守って命を落とすことに。
その下手人である怪僧・天海は討ったものの、彼の自らの死を覚悟していたような態度と、そして百地三太夫の依代でありながらも、彼の野望――現世と曼荼羅世界(神仏の存在する異界)の合一を否定するような天海の末期の言葉に、幸村たちは釈然としない想いを抱くことになります。
しかしそんな出来事を経ても、そして豊臣方と徳川方の不本意な休戦を経ても、なおも彼らの戦いは続きます。ある者は豊臣家存続を勝ち取るために、ある者は死に場所を求めるために、そしてまたある者は、武士としての最後の意地を示すために。
そして始まった大坂夏の陣。後藤又兵衛が、薄田隼人が、木村重成が、それぞれの命を散らす中、幸村と勇士たちも、それぞれの最後の戦いに踏み出すことになるのですが――
前編に当たる第6巻同様、基本的に史実をベースに展開していくこの最終巻。
そこで描かれる物語は、我々のよく知る歴史をなぞったものではありますが、しかしこれまでのシリーズがそうであったように、平明な表現で、しかしフッと歴史の「真実」を掘り下げてくる、本作の魅力は変わることがありません。
特に、後藤又兵衛が最期を迎えた道明寺での戦において、彼が突出した(あるいは幸村たちが遅れた)理由について、これまでになくシンプルでありながら、しかし説得力十分の回答を示しているのは印象に残ります。
しかしもちろん、その中で最も強く印象に残るのは、最後の戦いに赴く勇士たちの姿であります。
これまでの巻の紹介で繰り返し述べてきたように、それぞれその理由と背景は異なるものの、それぞれの形で「人間」であること、「自分」であることを否定され、奪われてきた勇士たち。
本作は、そのまさに人間性を否定する「天下」と人間の対決を描いてきた物語でした。そしてここで示される彼らの戦う理由は、彼らがそれぞれに自分自身が失ったものを(人生の最後の最後において)取り戻したことを示すが故に、感動的なのであります。
そしてそれは、彼らの主である幸村にとっても変わることはないのですが――
しかし、しかし物語を読み進める中、一つの疑問が頭の中で大きくなっていくことになります。この作品における最大の敵、天下の名の下に人間を、個人を否定する存在の象徴である百地三太夫は、この戦いのどこに潜んでいるのか……と。
物語の核心中の核心となるため、ここでそれをはっきりと述べることはできません。しかし全ての結末において、その理由は明確に、そして意外な形で明らかになるとだけは述べることができます。
そしてそれは、一つの物語の、英雄たちが超常の敵に立ち向かう戦いの否定であるとも――
それはこの物語をここまで読んできた者にとって、必ずしも望ましい結末ではないかもしれません。
しかし、物語を、そしてその中で生まれるここではないどこかを否定することで、初めて歴史が、生きた人間が織りなすそれが生まれるのだとすれば、それはこの上ない人間の勝利だということができるでしょう、
物語を否定することを以て物語を終え、そしてそれによって作品のテーマを完結してみせる……一種メタフィクション的な、人を食った仕掛けではあります。
そしてそれは単なる否定にのみ終わるものではありません。そこにあるのは、幸村と勇士たちが求めたもの、取り返そうとしてきたものの先にある、一つの希望の姿でもあるのですから。
しかしこの物語を愛するからこそ、結末において呼びかけたくなるのもまた事実。お前は本当にそれでよかったのか……と。その答えはもちろんわかってはいるのですが――
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