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2017.04.30

『風雲ライオン丸』 第14話「父のかたきライオン丸!」

 毒バエによって人々を地虫忍者に変えていくキツネバ。知らずに地虫を斬った獅子丸は、犠牲となった村人の子・一太郎から仇と呼ばれ、躱すことなくその刃を受ける。傷ついた体で戦う獅子丸を見て心を動したものの、キツネバに捕らえられてしまう一太郎。彼を救うため、刀を捨てた獅子丸だが……

 左目から巨大なハエを周囲に放ち、刺された人間を地虫忍者(人間地虫)に変えていくキツネバ。苦しみもがき、地虫に変わった村人たちにタイトルが被る時点で、もう猛烈に嫌な予感しかしません。
 果たして、地虫に襲われ、屋内から派手に屋根を突き破ってライオン丸に変身し、地虫をいつも通りなぎ倒した獅子丸ですが、現れた錠之助が指摘するとおり、目の前でその死体が村人に変わって愕然。しかも犠牲者の一人の子、何故か三吉と瓜二つの一太郎が彼を仇と呼び、刀を向けてくるではありませんか。

 躱しもせずにその刃を受け、殺すならこの場所を刺せと告げる獅子丸に流石にドン引きした一太郎は、本当の仇は別にいるという錠之助の言葉(一太郎を落ち着かせるためだと思いますが、早く言うべきだと思う)に、錠之助から剣を学ぶことになります。
 一方、馬に乗ってその場を離れた獅子丸は、通りかかった志乃と三吉の前で豪快に力尽き、手当を受けます。あっさり錠之助にあらましを聞いた二人に慰められる獅子丸ですが、三吉を見て一太郎を思いだし、罪の意識に苛まれるなどかなり重症であります。

 しかしそれでも現れたキツネバに挑む獅子丸。あっさり地虫を斬り捨てるのでまた同じ悲劇が……ということはありませんでしたが、しかし傷を負った身でキツネバには敵いません。気を利かせたつもりの三吉が、置きざりのロケットを獅子丸に投げるも、キツネバに迎撃されて破壊され、いよいよ窮地に――
 と、その有様を一太郎と共に見ていた錠之助は、一太郎に獅子丸を助けるか問います。獅子丸を助けて欲しいという一太郎の言葉に満を持して変身した錠之助は地虫を一蹴、毒ハエが尽きたキツネバも退却するのでした。

 しかしアグダーからリターンマッチを命じられたキツネバは、無謀にも戦いを挑んできた一太郎を人質に、獅子丸と錠之助を誘き出そうとします。しかし錠之助にはその手の策は通じない一方で、弱みもあって獅子丸にはクリーンヒット。あっさり刀を捨てた獅子丸は、オシシ仮面チックに木に吊され、最期を待つばかりに……
 ここに引き据えられてきた一太郎は、一瞬の隙をついて逃げようとするものの、敢えなく地虫の刃を受けてしまいます。それでも最期の力で縄を切って獅子丸を救った一太郎は、獅子丸に詫びながら力尽きるのでした。

 ……と、眼前であまりの悲劇が繰り広げられた獅子丸は、絶対に許さん! と怒り大爆発。殺陣もへったくれもない無茶苦茶な攻撃でキツネバに襲いかかり、斜面を転がり落ちながらの大乱闘。ついにキツネバを追いつめた獅子丸は、死ね死ねとザックザックと刀を突き刺した上、崖から蹴り落とすという前代未聞のフィニッシュ!
 赤く巨大な夕陽が荒野に沈む中、一人獅子丸は馬を走らせて消えていくのでした。


 視聴者を曇らせることでは定評のある高際和雄の持ち味が大爆発した今回。一般人が怪物に変えられてしまうというのはヒーローものでは定番の展開ですが、普通は怪人が倒され、元の姿に戻ってめでたしめでたしとなるところを、ヒーローがそれを倒してしまうという前代未聞の展開。しかもその子供に仇と狙われるとは!(さらに三吉を見る度に一太郎を思い出すという鬼展開)
 実際には仇呼ばわりされる時間はかなり少ないのですが、獅子丸の眼前で一太郎が殺されてしまうという容赦ない展開も含め、ある意味ヒーローものの極北というべき展開であります。それだけに、ラストの獅子丸の怒り爆発には思い切りシンクロできのですが……

 しかし冷静に考えると、今回かなりタチが悪いのは錠之助。人間が地虫に変えられているのに気付いていたらしいのに獅子丸に教えず、キツネバのことも最初は一太郎に教えず、彼に懇願されるまでは獅子丸を助けようとせず、捕らえられた一太郎を助けようとせず――
 これまでの言動を見るに、獅子丸を見守り、厳しく鍛えようとしているようにも思えるのですが、今回はほとんどヤンデレ感すら漂うタチの悪さでありました。


今回のマントル怪人
キツネバ

 左目のシャッターの中から毒バエを放ち、人々を地虫忍者に変えていく怪人。巨大な刀を得物とする。戦力を増やし、さらに獅子丸を苦しめるという一石二鳥の作戦を展開したが、一太郎を殺されて怒りを爆発させた獅子丸にボコボコにされた末、崖から蹴り落とされた。


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 『風雲ライオン丸』 放映リストと登場人物

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2017.04.29

『風雲ライオン丸』 放映リストと登場人物

 『風雲ライオン丸」の放映リストとキャラクター紹介であります。 放映リストから、各話レビューに飛べます

<放映リスト>

話数放映日サブタイトル監督脚本マントル怪人
0173/04/14飛び出せ弾丸変身!石黒光一まつしまとしあきネズマ
0273/04/21荒野を走る黒豹石黒光一しのだとみおバラチ
0373/04/28火を吹く亀甲車石黒光一まつしまとしあきドカゲ
0473/05/05シトシト爆弾を守れ!手銭弘喜しのだとみおシャゴン
0573/05/12燃える水を奴らに渡すな手銭弘喜まつしまとしあきガー
0673/05/19黒豹よ三吉を助けろ!大塚莞爾山崎晴哉ケカビー
0773/05/26最後の砦大塚莞爾高際和雄マジン
0873/06/02謎の新兵器 ローク車石黒光一山崎晴哉ガズラー、三色仮面
0973/06/09蛇ケ谷にライオン丸を見た大塚莞爾高際和雄ガムジン
1073/06/16うなる大砲 怪人ズク石黒光一山崎晴哉ズク
1173/06/23生きていたタイガージョー!石黒光一しのだとみおザグロ
1273/06/30地獄谷に恨みをはらせ!大塚莞爾山崎晴哉ガン
1373/07/07たてがみかがやくライオン丸石黒光一高際和雄ペルソナ
1473/07/14父のかたきライオン丸!大塚莞爾高際和雄キツネバ
1573/07/21脱獄囚を追跡しろ!大塚莞爾まつしまとしあきゾリラ
1673/07/28忍者の掟に明日はない!!大塚莞爾高際和雄ヤゴ
1773/08/04西から来た男石黒光一まつしまとしあきヤリコウモリ
1873/08/11マントルゴッド悪魔の要塞石黒光一まつしまとしあきズカング
1973/08/18よみがえれ弾丸変身!!大塚莞爾高際和雄オニグモ
2073/08/25敗れたり! ライオン丸石黒光一山崎晴哉ゲジム
2173/09/01危うし! 伊賀の三兄弟石黒光一松本守正ザソリ
2273/09/08南蛮寺の秘密監督まつしまとしあきヒトデロ
2373/09/15ライオン丸アグダーを斬る!!大塚莞爾高際和雄トビゲラ
2473/09/22悲運!! 父との再会!石黒光一高際和雄アブ
2573/09/29マントル地下帝国最後の日!!石黒光一高際和雄マントルテロス


<登場キャラクター>(カッコ内はキャスト) 情報は徐々に追加していきます。

弾獅子丸(潮哲也)
 21歳。兄・影之進をマントル一族に殺され、最期の言葉を胸にマントル一族と戦い続ける。マントル打倒を目的としているため、滅多に厳しい表情を崩さないが、心根は優しく、それゆえに苦しむことも多い。

ライオン丸
 獅子丸が忍法ロケット変身で変身した黄金の剣士。倒した敵を「ライオン風返し」で爆破する。前半は兜をかぶっていたが、途中で兜を脱ぎ、黄金のたてがみを露わにした。

志乃(宮野涼子)
 行方不明の父を探し、弟の三吉とともに幌馬車ビックリ号で旅する少女。ギターのような楽器を奏で、数え歌を歌うのが得意。

三吉(新井つねひろ)
 姉の志乃とともに旅する少年。発明に天才的な才能を示し、好奇心が旺盛。カタツムリが苦手。

黒影兵馬(早崎正樹)
 秘法豹変でブラックジャガーに変身する青年剣士。悪人ではないが金に汚く、生きがいである強いものと戦うため、獅子丸につきまとう。

虎錠之助(福島資剛)
タイガージョージュニアに変身する謎の男。正体は不明だが、悩める獅子丸の前に現れては彼に助言する。錠之進・錠之介等クレジットの名前がしばしば変わる。

マントルゴッド(声:小林清志)
 西日本の地底深くに潜みマントル一族を支配する長。地底に直径1000mにも及ぶ巨大な顔のみを出し、アグターを通じて日本征服を命じる。

アグダー(声:依田英助)
 マントル一族の東部戦線総指揮官。足が不自由なため空飛ぶ六能陣車で移動し、怪人たちに作戦を命じる。


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2017.04.28

碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第5巻 史実通りの悲劇の先に

 源九郎義経の身にその魂を宿すこととなった鬼一法眼の娘・皆鶴の愛と戦いの物語もいよいよ佳境。自らの体を取り戻すため、平家打倒を目指す彼女の戦いは、ついに屋島、そして壇ノ浦に平家を追いつめるのですが……その代償は、あまりにも大きかったのであります。

 父の術の失敗により、義経と二人で一人の状態となってしまった皆鶴。彼女と義経が分離するためには、義経が大望を果たすか、諦めなければならないというのですが……その大望とは言うまでもなく平氏打倒。
 体の主導権をほとんど失った義経に代わり、皆鶴は弁慶、佐藤継信・忠信、伊勢三郎らの頼もしい仲間たちとともに、平氏を追いつめていくことになります。

 しかし「義経」が快進撃を続けるほど、冷たくなっていく兄・頼朝の目。それでもこの戦いが終われば、と突き進む皆鶴たちですが、しかし屋島の戦いにおいて、愛し愛される間柄となった継信が平教経の矢に斃れてしまい――


 義経と鬼一法眼、皆鶴の伝説を踏まえ、中心に義経=皆鶴という巨大なフィクションを抱えつつも、しかし基本的に史実に忠実に展開していく本作(「弓流し」のエピソードの使い方など、思わずニヤリ)。それは、歴史上に名を残した人物の生死においても変わることはありません。
 そのある意味避けられぬ悲劇が、継信の死であったわけですが……しかし、我々はこの先、さらなる悲劇が「義経」を襲うことを知っています。

 ついに壇ノ浦で打倒平氏を果たしたものの、頼朝との距離は広がり、ついには鎌倉に入ることすら禁じられた義経主従。密かにただ一人鎌倉に忍び入り、頼朝対面した皆鶴は、頼朝が心の中に隠していたものを知ることになります(このシーンの兄貴、かなり最低)。
 頼朝の心底を知り、生き延びるために西国に落ち延びんとする主従。既に全員が義経と皆鶴の関係を知った彼らの心は一つなのですが――

 しかし結果としてこの展開もまた史実通りであるとすれば、その先もまた……と思うべきなのでしょう。それを裏付けるかのように、この巻のラストではまた一人の男が命を賭けることになります。

 この悲劇を避ける道があるとすれば、それは歴史のイレギュラーと言うべき皆鶴の存在にかかっているのかもしれません。
 ある意味、ここからが彼女にとって本当の、自分自身のための戦い。その先に何が待っているのか、そして彼女にとってその戦いに本当に意味があるのか、それはわかりませんが……しかしそれが彼女にとって、義経にとって、二人を慕う郎党たちにとって、より幸多き道であることを祈るしかありません。


 作者のブログを見れば、本作もあと1巻で完結する様子。皆鶴は、果たして厳然たる史実に穴を穿つことができるのか……たとえ何が待ち受けていたとしても、彼女の最後の戦いを見届けたいと思います。


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2017.04.27

『変身忍者嵐』 第10話「死をよぶ! 吸血ムカデ!!」

 血を吸った相手を操る能力で藤沢を我がものにした吸血ムカデ。血を吸われた飛脚と出会ったハヤテたちは、ムカデの企みを調べるためタツマキを江戸に走らせるが、藤枝で罠にはまり、住人たちの襲撃を受けてしまう。捕らえられ絶体絶命のカスミとタツマキを救うため、ハヤテは駆ける。

 旅を続けるハヤテ一行と街道ですれ違った一人の飛脚。お堂の傍らで休憩を取る際、土産の独楽を取り出して、自分を待つ子供に思いを馳せるのですが……
 その独楽が独りでに宙を飛び、お堂の中へ。追いかけて入り込んでみれば、堂の天井の隅にへばりついているというかなりイヤな感じで待ち受けていたのは化身忍者・吸血ムカデであります。名前のとおり血を吸われた飛脚は、青い隈に赤い唇、デカい牙と、今となっては非常に懐かしい吸血鬼メイクに――

 さて、再び自分たちの前を通ったと思えば独楽を落としたので、呼び止めて渡そうとしたカスミに襲いかかる飛脚。もちろんハヤテたちに取り押さえられるのですが、わかりやすく怪しい姿に不審を抱いて調べてみれば、首筋にこれまた怪しい噛み跡があります。
 青く変質しているらしいその血を調べるため、江戸のバンブツ(万物?)先生に聞いてみるというタツマキを見送り、ハヤテたちは飛脚を連れて藤沢で宿を取るのでした。

 と、飛脚の姿を見て、近くの村に住んでいることを教えてくれる宿の主人。しかし主人にも、ツムジとカスミを残してハヤテが向かった先の飛脚の家族も、皆首筋には噛み跡が……。既に藤沢を押さえていた血車党、今回は手強い!
 何とか飛脚の妻と子供の攻撃をかわして宿に戻った嵐ですが、その頃カスミとツムジは吸血ムカデ、そして操られた町の住人に取り囲まれて大ピンチ。大八車まで出してくる下忍相手に豪快な立ち回りを見せる嵐ですが、吸血ムカデが吐いた炎に巻かれる間に見失い、駆けつけた彼が見たものは、倒れ伏した町の住人たちとツムジの姿。カスミは吸血ムカデに襲われ、さらわれてしまったのであります。そして江戸でバンブツ先生に分析してもらった結果、特効薬を持って帰ってきたタツマキも、骸骨丸の待ち伏せを受け、今回も捕らわれの身に――

 タツマキとカスミの目の前で、特効薬の竹筒を海に投げ捨てようとする吸血ムカデ。素直にその場で中身を流してしまえばいいのに……と思っていたら、最後の力でカスミが笛を吹いたことで、嵐が見参、投げられた竹筒をがっちりキャッチ! ツムジによって二人も助け出され、逆光も美しい浜辺の対決で、吸血ムカデも粉砕されるのでした。
 そして特効薬の力か、元に戻った飛脚一家に見送られて、新たな旅に出るハヤテたちでありました。


 悪事を企んでいる or 実験しているところで偶然ハヤテたちに見つかるという毎度毎度のパターンながら、今回は既に一つの宿場町を押さえ、その力で江戸に攻め上ろうとしていた血車党。もうちょっと操った町人をうまく使えば、その物量と、ヘタに攻撃できないことで、ハヤテは相当苦しんだかと思いますが……伝染性はなさそうだし、一人一人吸血ムカデが噛んでいたとしたら仕方ないところでしょうか。
 その吸血ムカデ、微妙に声が強そうではないのですが、思ったよりもスマートな姿も格好良く、この辺りの化身忍者としては良い造形でありました。


今回の化身忍者
吸血ムカデ

 その名のとおり相手の血を吸い、操る力を持つムカデの化身忍者。口から炎も吹く。藤沢の町で仲間を増やして江戸に攻め上ろうとしていたが、一騎打ちでは嵐に勝てなかった。


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 「変身忍者嵐」 放映リストほか

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2017.04.26

梶川卓郎『信長のシェフ』第18巻 歴史になかった危機に挑め!

 信長の天下布武もいよいよ佳境、ついに始まった宿敵・本願寺との天王寺合戦。しかしその背後では、三人の現代人たちの思惑が絡み合っています。打倒信長のため、毛利を動かして歴史を変えようとする果心居士=松田に対し、その毛利対策を信長からただ一人任されたケンの策とは――

 自分を認めなかった信長を滅ぼすため、松永久秀と手を組んだ松田。自分が歴史を動かすと豪語する彼は、明智光秀に接近し、本願寺攻めの中で彼に信長を討たせんと暗躍します。
 それも全ては本願寺顕如と久秀の手の上で踊らされているだけだと知り、同じ現代人、いやかつての同僚を見殺しにはできないと、ケンにメッセージを送るようこ。しかし既に本願寺と毛利は手を組み、そして光秀も天王寺砦に追いつめられることに――


 これまで信長を襲った数々の危機を、料理の腕と知識、そして機転で乗り越え、信長を支えてきたケン。しかしそれらの危機は、いずれも史実の上のものであり、あるいは彼の存在がなくとも、信長はその危機を乗り越えることができたのかもしれません。
 しかし今回信長を襲うのは、その歴史にはなかった危機なのであります。

 この巻で描かれる天王寺砦の合戦は、確かに信長が敵よりも劣る戦力で、しかも自らが陣頭に立った数少ない戦いですが、この戦いの相手は本願寺のみでありました。
 しかしこの戦いに毛利が――この後の木津川口の合戦で一度は織田軍に大勝を収めたほどの毛利が参戦していれば、大きく歴史は変わったことでしょう。

 松田が狙うのは、大げさに言えばまさにこの毛利参戦による歴史改変。
 なるほど、タイムスリップした現代人が歴史改変を目論むというのは、タイムスリップ時代劇ではある意味定番ですが、本作においてはこれまでケンがある意味歴史そのものに興味がなかったために、この展開はかなり新鮮に感じられます。

 さて、イレギュラーにはイレギュラーと言うべきか、その毛利にはケンが当たることになるのですが……しかし信長を待ち受けるのは、松田によって巧妙に暗示にかけられた光秀が籠もる天王寺砦に仕掛けた罠。
 史実では自ら砦を囲む敵軍を突破した信長が光秀と合流、すぐさまとって返したことで大勝利を収めるのですが、上に述べたとおり、これも信長にとっては異例の、薄氷を踏む勝利であることは間違いありません。そこで何か一つ歯車が狂えば――

 そんなわけで、この巻で描かれるのは、ケンと信長それぞれが立ち向かう戦いであります。その結果がどうなるか……それをここで述べるのは野暮というものですが、しかし、その過程と結果は、本作をこれまで読んできた者にとっては納得の、そして当然のものであると言うことはできるでしょう。

 物語がある意味二分化されることもあり、これまで以上にケンの料理の出番は少ないこの巻。しかしそれでもここで描かれたものは、『信長のシェフ』という物語が紡ぎ、築いてきたものを踏まえたものであり、例え料理シーンが少なくとも、その味は変わらない……そう再確認させられた次第です。


 しかし一つの戦いが終わり、また浮かぶのはケンと歴史の関係に対する疑問であります。
 果たしてケンの存在は、本当に歴史を変えていないのか。今は結果として歴史は変わっていないだけで、やがては大きく歴史は変わるのではないか。そしてもう一つ、この先、ケンが自らの意志で歴史を変えようとすることはないのか……と。

 しかし信長にとって大きな危機が去った今、その答えが示されるのは、まだまだ先のことかと思いきや……この後ケンを待ち受けているのは、おそらくは小さくとも歴史を変えかねない決断であります。
 そこでまず何が示されるのか。思わぬところで描かれたケンの過去の記憶も含めて、まだまだ気になることは尽きない作品であります。


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2017.04.25

劇団ヘロヘロQカムパニー『犬神家の一族』 関智一の金田一だからこそできたもの

 先週末、劇団ヘロヘロQカムパニーの『犬神家の一族』を観劇してきました。言うまでもなく横溝正史の金田一耕助もの、かつて市川崑の映画版が大ヒットした、あるいは最も有名な金田一耕助もの……その原作を見事に舞台化した作品であります。

 これまで座長の関智一を金田一耕助役として、『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『獄門島』と上演してきた劇団ヘロヘロQカムパニー(以下、「ヘロQ」)。残念ながら私はこれらの作品は観ていない……というよりヘロQ自体これが二度目の観劇なのですが、以前観た『魔界転生』がかなりの完成度だっただけに、期待を寄せていました。

 そしてまず結論を申し上げれば、これがかなりの完成度。決して短くはない原作を、3時間弱という上演時間の中でテンポよく消化し、過不足なく再現して見せてくれた快作であります。

 犬神佐兵衛翁の臨終の場面と、金田一のもとに依頼が届く場面を同じ舞台上で見せるという、いかにも演劇的な演出で始まる本作。
 その後のヒロイン珠世受難に代表されるような映像の投影を多用したケレン味たっぷりの演出も楽しいのですが、金田一役の関智一をはじめとする出演陣の演技もいい。

 私でも知っているようなメジャー声優の方々がメインを固めている舞台でしたが、声の演技とはまた異なる演技というものを、堪能させていただきました。
(特に三石琴乃は、登場してもしばらく気付かず驚かされました)

 その中でも関智一の金田一は、飄々とした浮き世離れした面と、明るい人懐っこさを感じさせる面がうまく同居しており、はまり役という印象。
 基本的にラストまで謎に振り回される(舞台の構造としては謎の整理役というべき)役どころながら、いるだけで不思議な安心感と好感を感じさせるのは、さすがは座長と言うべきでしょうか。


 それ以上に感心させられたのは、市川崑の映画版では省略された原作の要素の多くを、きっちりと再現している点です。
 その最たるものは、犬神家での第二の殺人のトリック(経緯)を省略せずに描いている点と、第三の殺人の犯行手段と見立ての説明でしょう。その他にも、クライマックスのある人物の逃走劇や、その人物が正体を隠していた理由なども、丹念に拾って再現しているのには、大いに好感が持てます。

 その一方で面白いのは、本作が映画版を思わせる演出を随所に取り込んでいる点でしょう。
 音楽や、特に佐清のマスクと喋りに代表されるキャラクターのビジュアルや芝居、さらにはとにかく走り回る金田一(目の前の通路を使うというのでそんな場面があったかな、と思いきや……)など、原作の展開と併存させる形で、使用しているのであります。

 原作への拘りからすると、この辺りは一見奇妙に見えるかもしれません。しかし『犬神家の一族』という物語のパブリックイメージの大半を形作っている映画版のそれに寄せることで、それしか知らない、あるいはパロディ等でしか本作を知らない方も入り込みやすい舞台を目指しているのではないか……という印象を私は受けました。
(この辺りは、『魔界転生』でも感じたところです)


 そして何よりも印象に残るのが、ラストシーンであります。本作のラストにおいては、やはり映画版を踏まえつつも、金田一と珠世の会話を通じ、物語の構造を――物語の中心となるある人物の想いを浮かび上がらせつつも、そこからの解放と未来への希望を明確に描き出すのです。

 金田一が、固陋な因習の、閉鎖的な共同体の破壊者であるというのは、しばしば言われるところではあります。

 本作はその構造を踏まえつつも、ラストシーンにおいてそれらを生み出したものの存在を浮き彫りにし、そしてそこからの解放を支える者としての金田一を描き出すことで、原作の描いていたものを、より明確に描いてみせたと言えるでしょう。
 そしてそれは、関智一の金田一だからこそできたもの……というように感じられます。


 さすがにラストの推理シーンは(事件の構造のためでもあるのですが)そこまでの快調なテンポが落ちる点、章立てながら休憩なしという点など、引っかかる部分が皆無ではないのですが――
 しかしそれを補ってあまりある舞台であった本作。これまでの作品も、そしてこれからの金田一ものも観てみたいと感じさせられた作品であります。


関連サイト
 公式ブログ

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2017.04.24

霜月かいり『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 乙女幻遊奇』 丹翡の目から見た懐かしき好漢・悪党たち

 本編第二期に外伝の映像化と、この先の展開も楽しみな『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』。本作にはそれらの映像作品だけでなく、周辺作品にも気になるものが幾つも存在します。その一つがこの『乙女幻遊奇』……霜月かいりの美麗な絵により、「乙女」の視点から描かれた物語です。

 大悪人・蔑天骸により兄を討たれ、先祖代々守護してきた天刑劍を奪われた少女・丹翡。彼女が謎多き美青年・朱鳥こと凜雪鴉、そして西の果てから来た風来坊・殤不患と出会ったことから、この東離劍遊紀という物語は始まります。
 そして本作はその丹翡……すなわち乙女の視点から再構成された物語なのです。

 本来であれば、聖地から外の世界に出ることなく、天刑劍を守って暮らしたであろう丹翡。その彼女のお人好しぶり、世間知らずぶりは、本編でもしばしば描写されていました。
 そんな彼女の目に、海千山千の好漢・悪党が、彼らと共に繰り広げてきた冒険の数々がどのように映るものか……それはなかなか興味深いものであります。

 もちろん、こうした構造ゆえ、基本的な内容は本編のそれをなぞる以上のものはないわけですが(尤も、後半にはオリジナル妖魔も登場する本作独自のエピソードもあるのですが)、それはファンにとってはむしろ望むところでしょう。
 凜雪鴉が、殤不患が、捲殘雲が、あるいは殺無生や刑亥が、丹翡の目から見ることによって、おなじみの、それでいてこれまでとは少しだけ違う姿で見えてくるのですから――
(狩雲霄のみほとんど登場しないのは、凜雪鴉を除けば彼のみ真の顔を隠していたからでしょうか)

 そしてそれを描くのが霜月かいりとくれば、これはもう言うことなし。いや、個人的な趣味を言えば、殤不患はもう少しむさく……いや男臭く描いて欲しかったところですが、それはさておき、原作の賑やかですらある美形キャラの群舞を描くのに、これほど適任はおりますまい。
 そして、決して強くはない者が、傷つきながらも強くあろうとする姿、そしてその傍らに在る者が不器用に手をさしのべる姿は、実に作者の作品らしいと感じるのです。

 ただし、原作に強烈に漂っていた武侠ものの香り――己の腕と剣のみを頼りに江湖を渡り、冒険に命を燃やす連中の心意気とでも言うべきものが、やはりほとんど感じられないのは、これもまた本作の構造上全く仕方ないところですが、やはり少々残念ではあります。


 こうした点を踏まえて考えれば、やはり一種のファンアイテムであることは否めませんが……しかし本編終了から半年が過ぎ、少々寂しくなってきた頃に、またあの連中に会えるというのはやはり嬉しいもの。
 新作までの飢えを和らげる作品として、気軽に楽しめる一冊ではあります。

 そしてこの世界のビジュアルとは相性抜群の作者とは、新作の時にも何らかの形で関わって欲しいとも、強く感じた次第です。


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 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第11話「誇り高き命」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第12話「切れざる刃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その一)
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その二) と全編を通じて

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2017.04.23

斉藤洋『くのいち小桜忍法帖 3 風さそう弥生の夜桜』 公儀隠密の任と彼女の小さな反抗と

 公儀隠密の総帥の娘である少女・小桜を主人公とした『くのいち小桜忍法帖』……つい先日、完結巻の第4巻が刊行されたシリーズの第3巻であります。江戸の町で起きる小さな事件を追うことになった小桜。しかしその果てに彼女は、自分の家も関わった、思いも寄らぬからくりの存在を知ることになるのです。

 あと数ヶ月で桜が咲こうという中、その次の季節の花をあしらった着物を求めて江戸の町を行く小桜。その途中に出会った顔なじみの岡っ引き・雷蔵親分から彼女が聞かされたのは、またもや怪事件の噂であります。

 江戸の町から姿を消した幾人もの職人。周囲に気付かれないように巧妙に消え、そしていつの間にか戻っている彼らに共通するのは、いずれも金座で小判づくりに携わる職人であることでした。
 なるほど、周囲から隔離された金座であれば、一時期職人が消えていたとしてもすぐに気付かれることはありません。しかしそうだとしても、誰が、何のために……

 探索を始めた小桜たちが掴んだのは、事件の背後にとある外様藩の存在があること。だとすればこれはまさに彼女の、いや彼女の家である外様大名の探索担当の公儀隠密・橘北家の役目であります。
 遠国に出ていた彼女の二番目の兄も加わり、事件の背後で密かに進行していた陰謀を押さえるべく動く橘北家の面々なのですが――


 江戸で次々と起きる怪事件に、小桜が挑むというスタイルで展開してきた本シリーズ。本作も基本的にはそのフォーマットを踏まえたものですが、しかしそこからいささか踏み出した形を見せることになります。

 実は本作においては、事件の謎は比較的早い段階で判明し、その後はその陰謀を明るみに出さんとする橘北家の作戦が描かれることとなります。
 しかし物語の中心となるのは、むしろその作戦が終わってから。中心となるのは、作戦の(小桜にとっては)思いもよらぬ結末であり、そしてそれを目の当たりにした彼女の心の動きなのです。

 思えば、開幕当初より、事件とそれに対する小桜の活躍と同じかそれ以上に、彼女の内面を描いてきた本シリーズ。
 それはまだ未熟ながらも公儀隠密の一員としての彼女の姿を描くと同時に、一人の年頃の少女としての彼女の内面を描くものでもありました。

 これまで彼女の持つこの二つの側面は、矛盾することなく存在してきました。自分は公儀隠密の家に生まれ、当然公儀隠密になる。そしてその任は常に正しい(と言わないまでも道理に叶ったものである)という思いの下に。

 しかし本作の事件の結末において、そしてそれと同時に進行していたある任務の結果(それが史上に残るあの大事件に繋がることに……!)を知ることによって、彼女の中に一つの疑問が生じることになります。
 自分たちのしていることは本当に正しいのか。公儀隠密の任とは何なのか、というような。

 それは大人の目から見れば――そして一般の時代小説は基本的にそのスタンスなのですが――青臭い感傷に過ぎないと断じられるものなのでしょう。
 しかし、そんな感傷を抱くことができるのも、大人の世の中の「当然」に対して異議申し立てするのも、子供の特権でしょう。そしてそんな子供たちが読む物語においてそれが描かれることも、また必要なことであります。

 もちろん、そんな異議申し立ては容易いことではありません。公儀隠密のような立場であればなおさら。
 そんな小桜の小さな反抗が、本作の、いや本シリーズの冒頭から描かれてきた彼女のキャラクターの一端を通じて描かれるのは、これはもうベテランの技だと、大いに感嘆させられた次第です。


 果たして小桜が抱いた想いはどこに向かうのか。本作で描かれた大きな大きな事件に、彼女は今後どのように関わっていくことになるのか。シリーズ最終巻も近日中に紹介いたします。

 ちなみにこの最終巻では、驚くべき(予想はしていましたが……)クロスオーバーの存在が明らかになるのですが、よく読んでみればその痕跡はこの巻から既に存在していたことに驚かされます。
 知っていて読まなければわからない部分ではありますが――


『くのいち小桜忍法帖 3 風さそう弥生の夜桜』(斉藤洋 あすなろ書房) Amazon
3風さそう弥生の夜桜 (くのいち小桜忍法帖)


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2017.04.22

細谷正充『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』 

 他のジャンルに比べると意外なほど少ない印象がありますが、それでもコンスタントに発売されている時代小説の紹介本。しかしその中でも本書ほど個性的な本はないでしょう。時代小説を中心に八面六臂の活躍を続ける著者による本書は、類書ではまずお目にかかれないような切り口の一冊なのですから――

 そのマニアックなまでの知識の深さと、リーダビリティの高い語り口で、文庫解説の点数が減少する中でも、一人気を吐いている著者。私も、面白そうだと思って手に取った文庫の解説が、かなりの確率で著者のものであったりするのですが……それはさておき。
 そんな著者が時代小説の解説本を書くとすれば、通り一遍のものにはなるまいと思いきや、その予感は的中。何しろそのチョイスが、実にユニークなものなのです。

 タイトルのとおり、歴史・時代小説を100作品紹介している本書。その中で本書は11のサブジャンルに分けて作品を取り上げるのですが……そのチョイスは以下の通りです。

 歴史・時代小説名作選
 剣豪・忍者時代小説
 伝奇
 捕物帖・ミステリー
 SF・ホラー
 エロ
 大陸
 海外
 ライトノベル
 短篇
 偏愛

 最初の4つはわかります。というより当然です。SF・ホラーも。しかしエロとは!? いや、あまり表立って取り上げられることはありませんが、確かに今でも時代小説の中で、隠然たる勢力を誇っている(?)サブジャンルではありますが……
 そして続くサブジャンルも、やはり解説本の類では、なかなか見かけないものばかり。あるとしても、ジャンルで数作品分まとめての記載で、作品が一つ一つ取り上げられることは滅多にない、という印象があります。

 そうした作品もきっちり一つ一つ取り上げていくのですから、それだけで本書のユニークさが、そして価値がわかろうというものではありませんか。


 さて、ここで恥を忍んで打ち上げれば、本書で紹介されている100作品中、私が存在すら知らなかった作品が20ありました(その約半数がエロでしたが)。
 そんな人間が言っても説得力がないかもしれませんが、本書において「こんな作品があったとは!?」と驚かされることがあっても、「こんな作品が載っているなんて……」と思わされるものはほぼなかった、というのが正直な印象であります。

 それは紛れもなく、著者の目の確かさと、それと同時に、カバーする範囲の広さによるものでしょう。
 ある意味その広さ故に、人によっては合わない作品があるかもしれませんが……しかしここで紹介されている作品は確実に面白い(のだろう)と感じます。

 まずは本書を助けに、存在を知らなかった作品を探しにいくとしましょう。


『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』(細谷正充 河出書房新社) Amazon
歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド

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2017.04.21

久保田香里『緑瑠璃の鞠』 鬼と人を分かつもの、人が人として生きる意味

 児童向けの歴史小説で活躍している作者が、闇深い平安時代を舞台に描く、一風変わった物語であります。没落貴族の姫君のもとに現れた見目麗しき青年貴族。しかし彼にはある目的が……
(以下、物語の内容にかなり踏み込むことをご容赦下さい)

 前の大宰権帥の娘でありながら、父が亡くなって以来寄り付く者もなく、次々と仕える者も消え、今は女房と女童、下男の三人と荒れ果てた屋敷に暮らす夏姫。そんな中、母の代から姫に仕える女童のわかぎは、自分が屋敷を支えねばと奮闘の毎日であります。
 一方、都では神出鬼没の盗賊「闇の疾風」が跳梁。しかし取るものとてない屋敷とは無縁に思われたのですが……

 そんなある日、屋敷に現れた美しい青年貴族。右近の少将の大江高藤と名乗る彼は、かつて夏姫の父に世話になった恩を返したいと、様々な形で援助を申し出るのでした。
 高藤によって屋敷は美しい姿を取り戻し、何よりも夏姫が高藤に惹かれている様子なのを見たわかぎは、大いに喜ぶのですが……しかし、やがて彼女は高藤にもう一つの顔があることを知ることになるのです。


 正直な印象を申し上げれば、一本の物語としてはかなり大人しめで、平安時代の説話集の一挿話といった趣もなきにしもあらずの本作。
 冒頭で描かれる、夜の都で出会った「小鬼」と「少女」が、誰と誰なのかもすぐに予想がつくため、物語の展開もそのまま予想できるところではあります。

 しかしそれでも本作にはどこか得難い魅力が漂っていると感じられるのは、これは本作の中心となるアイテムであり、本作の題名でもある「緑瑠璃の鞠」によるものであることは間違いないでしょう。
 鬼の宝と言われ、闇の中でも朧な光を放つ鞠。上で述べた小鬼が、かつて少女に与えたこの鞠は、手にした者から恐れや悲しみといった感情を消し去る力を持つアイテムであります。

 夜の闇の恐ろしさや、大事な人間を失う悲しみも、この鞠があればもう感じることはないと小鬼は告げるのですが……しかしそれが真に正しいこと、幸せなことであるかを、本作は問いかけます。
 そしてこの鞠の輝きは、鬼と人を分かつものを、言い換えれば人を人たらしめるものを浮かび上がらせる存在でもあります。さらに言えば、人が人として生きる意味をも――

 恐れを感じないことが、悲しみを感じないことが、人として真に在るべき姿なのか。そこから得られるものも、人の生を豊かにするものもあるのではないか? 
 ストレートに描けばいささか気恥ずかしいこの問いかけを、本作は不思議な鞠の存在を通じて、ごく自然に浮かび上がらせるのです。
 そしてこの鞠にまつわる物語を、夏姫と高藤の姿を見届けるのが、しっかり者のようでまだまだ幼いわかぎというのが、またよくできていると感心させられます。

 紛れもなく夏姫と高藤がこの物語の中心にいるものの、二人の目からでは、本作の物語の景色は、どこか偏ったものとなってしまうでしょう。
 ある意味第三者であり、そしてまだ真っ直ぐにものを見つめることができるわかぎの視点こそが、本作に必要なのだと、本作を最後まで読めば理解できます。


 先に述べたように、本作の物語としての起伏はさほど大きなものではなく、意外極まりない展開が用意されているというわけもありません。
 しかしそれでも、本作で描かれているものは、静かに、そして深く心に染み入るものがあります。それはあるいは、人生のあれこれを経験してしまった大人の方が、より深く頷けるものではないか……そんな気がいたします。


『緑瑠璃の鞠』(久保田香里 岩崎書店) Amazon
緑瑠璃の鞠 (物語の王国 7 )

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2017.04.20

『変身忍者嵐』 第9話「まぼろし怪人! カマキリガラン!!」

 川の下流に流す毒薬を作るため、人々を攫うカマキリガラン。その魔手に旅の巡礼とその妻が囚われ、カスミも行方不明となってしまう。攫われた人々を追うハヤテは髑髏館に潜入するが、カスミを人質にされて囚われの身に。完成した毒薬が流されようとする中、タツマキに助けられたハヤテは決戦を挑む。

 妻子とはぐれてしまった巡礼の男に襲いかかるカマキリガランと下忍たち。彼らの目的は川の下流に流す毒薬を製造するための労働力集めであります。そのくらいは体力ありそうな下忍にやらせればいいのに、と思いますが、かき混ぜているだけで中毒死するほどの毒のようなので、まあ他所の人間を使おうというのはわかりますが……しかし当然ながらそれが元で足がつくことになるのです。
 そのきっかけとなったのは意外にもツムジ。一行と別行動をとって茶店で団子を食っていた彼は、店の老婆が、嘘の道を巡礼の女性と子供(もちろん先の巡礼の家族)に教えているのを耳にして不審を抱いたのです。ハヤテとタツマキを連れて戻ってきたツムジですが……しかし茶店はほとんど廃墟のような有様になっていたのでした。(ここでツムジも攫おうとしないのが血車党の血車党たるゆえん)

 一方、嘘の道を教えられた母子は、森の中に分け入っていくことになりますが、その様子を窺っているのは、髑髏や巨大な眼球と、プロップは今ひとつながらなかなかシチュエーション的には不気味な存在(しかし追ってきたハヤテにあっさり破壊される)。そして母子も夫同様にカマキリガランに襲われて母は捕らわれ、子供は崖から落ちかけるのですが……そこに嵐見参!
 しかし子供を庇いながらのファイトは分が悪い。カマキリガランの鎌の先から四方八方に放たれる弾丸などに辟易したハヤテは、ひとまず忍法岩通し(岩を掘って通り抜ける?)で脱出するのでした。結局、巡礼夫妻は髑髏館の中で再会する羽目になるのですが……しかし、そこには下忍に化けて潜入したタツマキの姿が。

 さて、結局姿が見えなかったカスミはといえば、これがいつの間にか牢に入れられている始末。何とか笛を取り戻して吹くことで、ハヤテに場所を教えたものの牢から脱出できたわけではなく、追ってきたハヤテ相手の人質にされ、二人の命は風前の灯火に……が、ここで「いたぶって殺そうとする」「殺すのは後回しにして作戦遂行を優先する」という二大失敗フラグを立てる骸骨丸とカマキリガラン。毒薬が完成したというので流しにいこうとするのですが……そこで潜入していたタツマキが二人を解放、さらに火薬庫に火をつけて髑髏館は大爆発!
 そして今まさに毒薬が流されようとした瞬間、駆けつけた嵐。毒薬の瓶の蓋が開きっぱなしなのが気になりますが(その後、瓶はフェードアウト)、バッタバッタと下忍をなぎ倒し、カマキリガランと最後の一騎打ちであります。

 ここで毒々しい巨大な物体(卵?)の中に隠れ、ふよふよと下に降りていくカマキリガラン。と、物体が割れた中から現れたカマキリガランは大ジャンプして嵐の前に(降りていった意味なし)。そして最後の剣戟の末、嵐の「見抜いたり!」という言葉と共に放たれた秘剣影うつしに真っ向唐竹割りとなるのでした。(別に消えたわけでもないのに見抜いたりもないものだ、と思ったら、どうも卵から分身して現れるという案だった模様……)
 そして三人ようやく再会し、笑顔で旅立っていく巡礼一家。髑髏館を問答無用で爆破したので、囚われの人たちのことが気になってたんですが……よかったよかった。


 悪事の準備のためにさらに悪事を働いたおかげで露見する、といういつもの血車党のパターンがまたもや繰り返された今回。どこがまぼろしだったのかわかりにくい(ボロボロの茶店や髑髏・眼球はそれっぽかったのですが)カマキリガランは、よく見ると細部の質感などなかなかよいのですが、目と口が間抜けに見えるのと、胴体のデザインがぞんざいというこれまた残念な怪人でした。
(初期の、顔だけ怪人で体は人間の装束というデザインが好きだっただけに……)


今回の化身忍者
カマキリガラン

 右手の巨大な鎌を武器とするカマキリの化身忍者。鎌の先からは弾丸を連射し、卵(?)の中に隠れて攻撃を避けることも可能。川に毒薬を流す作戦のため人々を攫っていたが、それがもとでハヤテに気付かれ、倒される。


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2017.04.19

『コミック乱ツインズ』2017年5月号

 今月も『コミック乱ツインズ』の時期となりました。今月号は、『そば屋幻庵』と『小平太の刃』が掲載されているほかは、レギュラー陣が並びますが、しかしそれが相変わらず粒ぞろい。今回も印象に残った作品を紹介いたします。

『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治時代、鉄道の黎明期に命を賭ける男たちを描く本作は今回から新エピソードに突入。島安次郎の懸命の説得に、国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が、島の依頼で碓氷峠の視察に向かうことになります。

 碓氷峠といえば、その急勾配でつい最近まで知られた難所。現代ですらそうなのですから、蒸気機関車が運行されていたこの時代、その苦労はどれほどほどのものだったか……
 と、事故が相次ぐこの峠で奮闘する人々が登場する今回。雨宮が見せるプロの技が実にいいのですが、むしろ今回の主役はそんな現地の人々と感じさせられます。

 時代が明治、題材が鉄道と、本誌では異色の作品と感じてきましたが、一種の職人ものとして読めば全く違和感がないと、今更ながらに気付かされました。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安晦日蕎麦」の後編。彦次郎が、恩のある田中屋に依頼され、仕掛けることとなった容貌魁偉な武士・石川。その彼を尾行した梅安は、真の事情を知ることになって――
 と、腕利きの武士相手のの仕掛けを頼まれてみれば、その実、彼こそは……という展開は、この前に描かれたエピソード「後は知らない」と重なる点が大きくてどうかなあと思うのですが、これは原作もこうなので仕方がありません。

 しかしその点に目を瞑れば、魁偉な容貌を持つ者が必ずしも凶悪ではなく、優しげな容貌を持つ者が必ずしも善良ではないという物語は、梅安たち仕掛人という裏の「顔」を持つ者たちと重なるのはやはり面白い。
 そしてこの点で、男たちの顔を過剰なほどの迫力で描く作画者の作風とは、今回のエピソードはなかなかマッチしていたと感じます。
(その一方で、一件落着してから呑気に年越し蕎麦をすする二人の表情も微笑ましくていい)


『鬼切丸伝』(楠桂)
 まだまだ続く信長鬼編。今回のエピソードは明智光秀の娘・珠(細川ガラシャ)を主役とした前編であります。
 本能寺の変で鬼と化し、自らを討った光秀とその血族に祟る信長。血肉のある鬼というより、ほとんど悪霊と化した感のある信長は、最後に残された珠に執拗につきまとい、苦しめることに――

 というわけで、冷静に考えれば前々回のラストで鬼になったばかりなのに、何だかえらいしつこい印象のある信長ですが、さすがに魔王と呼ばれただけあって、鬼切丸の少年も、久々登場の鈴鹿御前も、なかなか決定打を繰り出せないのがもどかしい。
 そんな中、口では否定しても少しずつ珠を、人間を守る方向に心を動かしつつある少年の「人間にしかできぬ御技で呪いに打ち勝て!!」という至極真っ当な言葉に感心してみれば、それが事態を悪化させるとは――

 この国の魔はこの国の神仏にしか滅せぬという概念には「えっ!?」という気分になりましたが(『神の名は』『神GAKARI』は……<それは別の作品)、そろそろ信長とも決着をつけていただきたいところです。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 ついに残すところあと2回となった本作ですが、今回はラス前にふさわしい大殺陣というべき展開の連続。敵の本拠とも言うべき金吹き替え所に乗り込んだ聡四郎を待つのは、紀伊国屋文左衛門が雇った11人の殺し屋……というわけで、ケレン味溢れる殺陣が連続するのが実にいい。

 同じ号に掲載された『そば屋幻庵』が静とすればこちらは激しい動、これくらい方向性が異なれば気持ちがいいほどですが、さてその戦いも思わぬ形で妨害を受けて、さあどうなる次号! というところで終わるのは、お約束とはいえ、やはり盛り上がるところであります。


『コミック乱ツインズ』2017年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 05 月号 [雑誌]


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2017.04.18

風野真知雄『密室 本能寺の変』 探偵光秀、信長の死の謎を追う

 戦国史最大の事件たる本能寺の変の謎に挑んだ作品は数多くありますが、本作はその中でもかなりユニークな部類に入るでしょう。何しろ探偵役となるのが、本来であれば犯人であるはずの明智光秀。そして彼が挑む謎とは、自分が攻め込んだ時、既に密室で殺されていた信長の死なのですから――

 天下統一を目前として、ごくごく僅かの手勢のみで、公家、僧侶、商人と、彼に恨みを持つ者たちばかりが集う本能寺に入った信長。愛する信長を守るために警備を固めようとする森蘭丸ですが、しかし信長に一笑に付されることになります。
 なるほど、防備は城塞並み、特に寝所は完全に密室となっている本能寺ですが、しかし刺客の影がちらつく中、危機感を募らせていく蘭丸。

 そしてこの状況に危機感を募らせていた男がもう一人。自分こそが信長に最も信頼されていると自負し、そして蘭丸の存在に嫉妬を燃やす明智光秀であります。
 信長の過信が現在の危険極まりない状況を招いたと憂える光秀は、煩悶の末、ほかの人間に殺されるくらいならばと信長弑逆を決断、本能寺に攻め入ることになります。

 そして始まった明智軍の猛攻の中、信長が寝所から姿を見せないことに不審を抱いた蘭丸。閉め切られた寝所の扉をこじあけてみれば、中にあったのは何と信長の無惨な遺体ではありませんか!

 その事実を知った光秀は、自分が手を下すよりも先に信長が殺されたことに怒りを燃やし、犯人を見つけだそうとするのですが……彼の前に次々登場する、犯人を自称する者たち。
 しかし信長の最期の姿は、彼らの主張する犯行方法ではいずれも成し得ないものであったことから、事態は混迷を極めることになるのであります。


 その作品のかなりの割合でミステリ的趣向を用いたものが含まれている作者。本作もその一つということになりますが、題材といい探偵役といい展開といい、それらの作品の中でも群を抜いてユニークな作品であることは間違いありません。

 とは言うものの、終盤で解き明かされる信長殺害のトリックは、ビジュアル的には面白いものの、実現するにはあまりに無理があり、これはミステリファンの方は激怒するのでは……というのが正直な感想であります。

 しかし、真犯人の犯行理由は――こちらはむしろ普通の歴史小説ファンが怒り出しそうなのですが――作者のファンとしては、なるほど、と感じさせられました。
 本作に登場する(光秀を含めた)容疑者の誰に比べても、遙かに「つまらない」ものである彼の動機。しかしその動機は、まさしく信長がこれまでの覇道で踏みにじり、一顧だにしなかったものの象徴と感じられるものなのですから。

 思えば作者は、デビュー作以来、常に強者より弱者、勝者よりも敗者、高所よりも低所からの視点を好んで描いてきた作家。だとすればこの真犯人像も、(小説として盛り上がるかは別として)大いに頷けるものがあるのです。
 そしてさらに言えば、光秀と容疑者たちの対話の中から、言い換えれば容疑者たちの犯行動機から浮かび上がるのは、英雄と称されてきた信長の負の側面……と言うのがキツい表現であれば、信長の英雄らしからぬ側面であります。

 本作はユニークなミステリとしての形式を取りながらも、むしろその中で信長の姿を、通常とは異なる角度から描き出そうとしていたのではないか――
 と牽強付会気味に感じたのは、これは作者がこれまで、『魔王信長』『死霊大名』といった作品の中で、これまた特異な形で信長を扱ってきたからなのですが。


 とはいえ、このような内容であれば、その信長の正の側面……光秀と蘭丸が愛する信長の魅力も、より掘り下げて描かれる必要があるように思うのですが、それが今ひとつ見えないのもまた事実。やはりアイディアと趣向は非常に面白いものの、色々と勿体ない作品と言うべきでしょうか。


『密室 本能寺の変』(風野真知雄 祥伝社) Amazon
密室 本能寺の変

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2017.04.17

『風雲ライオン丸』 第13話「たてがみ輝くライオン丸」

 恐るべき威力の連発銃を完成させた伊賀の小太郎。その危険性を説く獅子丸に耳を貸そうとしない小太郎だが、果たして連発銃は怪人ペルソナに奪われ、彼の父・白雲斉が殺されてしまう。父の最期の言葉を胸に、伊賀城を狙うペルソナを追う小太郎。獅子丸とタイガージョーもその後を追うが……

 路傍のお地蔵さんを木っ端微塵に破壊し、空を飛ぶ鳩をみな撃ち落とす威力を見せるガトリング的な連発銃。その開発者・小太郎は得意顔ですが、その試験の様を見守っていた獅子丸は、あれがマントル一族に奪われたら……と憂い顔であります。説得しようとする獅子丸、そしてちょっかいを出しているようにしか見えない自称「名無しの権兵衛」(以降、面倒なので錠之助)の声には耳を貸そうとしない小太郎ですが……果たして怪人ペルソナが銃を狙っていたのであります。
 その頃、伊賀の里を訪れた志乃と三吉は、かつて父とともに鍛冶をしていたという小太郎の父・白雲斉と対面、父の行方を尋ねるのですが捗捗しい返事は得られません。と、そこに入ってきたのは、銃がペルソナたちに奪われたという報。白雲斉は二人を置いて飛び出していきます。

 片足が悪いにもかかわらず、単身ペルソナたちに立ち向かうも、しかし敵うはずもなく地虫たちに斬られて無残に倒れ伏す白雲斉。駆け付けた小太郎は、銃を破壊しろと告げて逝った父の末期の言葉に熱くなって突っ走るのですが……しかし彼をペルソナの腹の目から放たれる赤いペルソナ光線が直撃! 命を取り留めたものの、諌める獅子丸の言葉に耳を貸そうともせず、ひたすらペルソナを追う小太郎。そして獅子丸もペルソナを追い、錠之助はペルソナが伊賀城を狙うことを予想し先回りし……と、三人三様で連発銃を追います。

 そしてペルソナを前に変身して挑む錠之助ですが、連発銃の前にはさすがの彼も手出しはできない状態。そこに駆け付けた獅子丸は、走る馬から飛び降り、そのまま走りながらロケット変身(これが本当に格好いい)! 今回も兜をかぶった状態で登場したライオン丸は、タイガージョーJrとダブルヒーロー状態で地虫を蹴散らすと、ペルソナを追い詰めますが……光線連発にたじろいだところに、さらに放たれた光線が、彼らを閉じ込めてしまいます。
 そこに現れて連発銃に迫る小太郎。しかし敵うはずもなくあっさりと斬られるのですが……しかし彼が最期の力で放った松明が火薬箱の上に落ち、連発銃もろとも大爆発!

 一方ライオン丸は、タイガージョーの助言で兜を脱ぎ、たてがみの力で光線を突破。怒りの一撃がペルソナを倒すのでした。そして余韻もなく今日も去っていく獅子丸――


 ある意味ヒーローもの定番の、超兵器を開発してしまった技術者話。しかし現代を舞台とした物語ではたいがい技術者は自分の行動に苦悩し、後悔するのに対して、戦国時代という戦がすぐ隣にあった時代らしく、自分が使う気満々なのが実に本作らしい。それを断念するのが(そしてそれが自分の死を招くのが)父の死というのがまた本作らしい苦さなのですが……
 そんな中、すんごい唐突に(再)登場した感のある兜を脱いだライオン丸。たてがみの力でバリアー突破とはいったいどういう理屈なのか……そしてそれを知っていた錠之助も謎ですが、彼の場合、氏素性から行動原理まで謎に満ちているのでそれどころではありません。それでも、前作ではごくわずかしか観られなかったライオン&タイガーの活躍を観ることができるのは嬉しいといえば嬉しい。

 そしてもう一つ印象に残るのは、今回の怪人ペルソナ。仮面の名にふさわしく、ミイラ男めいた包帯の下から、もう一つ黄色の仮面が覗くという不気味なデザインですが、腹の包帯の間から見える巨大な目がおぞましく、相変わらず造形は微妙ながら、デザイン的には出色と言えるでしょう。
 そしてペルソナ配下のみなのか、大量のまつぼっくりに変身して転がり落ちてくる地虫忍者も妙に印象に残るのでした。


今回のマントル怪人
ペルソナ

 先端に三日月刃がついた西洋剣を持つ包帯姿の怪人。腹の第三の目から赤いペルソナ光線を放ち、光線の中に相手を閉じ込めることも可能。小太郎が開発した連発銃を強奪し、伊賀の人々を殺すが、光線バリアーから脱出したライオン丸には敵わなかった。


『風雲ライオン丸 弾丸之函』(ショウゲート DVDソフト) Amazon
PREMIUM COLLECTOR’S EDITION 風雲ライオン丸 弾丸之函 [DVD]


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2017.04.16

5月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 新年度に入ってはや数週間、もう少し頑張ればゴールデンウイークです。とはいえ、そのお休みのおかげで出版物の点数が少なくなるのよねえ……というのは書痴の繰り言ですが、それでも意外と充実したアイテムが並ぶ5月であります。というわけで5月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。

 というわけで、数こそ多いわけではありませんが、気になる作品が多い5月。特に文庫小説にその傾向が強く出ています。

 そんな文庫小説の新作でまず気になるのは、四社合同フェアが続く平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末』の第2巻。シリーズものの続巻としては、上田秀人『日雇い浪人生活録』第3巻、風野真知雄『女が、さむらい』第4巻も楽しみなところです。
 そしてもう一作、新シリーズとして気になるのが牧秀彦『月華の神剣 1 壬生狼慕情』。タイトルにあるように幕末もののようですが……

 そして文庫化では乾緑郎『機巧のイヴ』、輪渡颯介『祟り婿 古道具屋皆塵堂』、矢野隆『将門(仮)』と、フレッシュな作品が並びます(『機巧のイヴ』はパラレルワールドものではありますが、そこに描かれる世界と物語の見事さに、あえて取り上げる次第)。

そして復刊の方では、何と言っても瀬川貴次『暗夜奇譚 遊行天女』。『暗夜鬼譚』シリーズの第2弾ですが、第1弾の解説を担当した身としては、復刊が続いてホッとした次第です。
 その他、絶版となっていたのが信じられない高橋克彦のチャンバラアクション『舫鬼九郎』、先月の新刊情報で何故か作者名が横文字になっていた石山透『新八犬伝 転』『新八犬伝 結』も要チェック。


 一方漫画の方は吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第6巻、片山陽介『仁王 金色の侍』第3巻、樹なつみ『一の食卓』第5巻、北森サイ『ホカヒビト』第2巻、岡田屋鉄蔵『MUJIN 無尽』第4巻とユニークな作品が並びますが、少々点数的に寂しさは否めません。

 そんな中で新登場は、田中芳樹の原作を伊藤勢が漫画化した『天竺熱風録』第1巻。『岳飛伝』(いま文庫化されているのとはもちろん別作品)でも名コンビぶりを見せた二人だけに楽しみです。

 また、新刊情報に何度か掲載されながらも延び延びになっていた大羽快『殿といっしょ』第11巻がついに登場。楽しかった作品もこれが最終巻なのが寂しいところですが、最後まで賑やかに暴れて欲しいものです。



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2017.04.15

フカキショウコ『鬼与力あやかし控』 内与力、裁けぬ悪を斬る

 古今東西、いつの世も尽きないのは法では裁けない悪人の存在。しかし悪人がいればそれを倒すヒーローもいる……というわけで、表で裁けぬ悪を、妖怪になぞらえて始末する町奉行所の内与力を主人公とした連作シリーズであります。

 江戸南町奉行として江戸の治安を守る根岸鎮衛。その彼が、様々な怪異譚を含む珍談奇談を記した随筆『耳袋』の著者であることをご存じの方も多いでしょう。
 本作の主人公は、その根岸の内与力・鬼山……役人とは思えぬような傾いたなりの優男で、市井で怪事件があれば全て妖怪の仕業にしてほったらかしにしてしまうことで、奉行所内で悪名を轟かせている人物であります。

 しかし昼行灯は仮の姿、真の彼は奉行の指示の下、表だって裁けぬ悪を得意の二階堂平法で始末し、妖怪の仕業として収めていたのです。江戸を騒がす猟奇事件の数々……いずれも美女が無惨に犠牲になった事件の陰に潜む悪に、鬼山の秘剣・心の一方が唸ることに――


 というわけで、タイトルを見れば与力が妖怪退治をする伝奇もののようですが、その実は仕事人ものの本作。
 奉行所の役人が実は……というのは、これは中村主水からの定番ではありますが(ちなみに本作を読みながら森田信吾の『必殺!! 闇千家死末帖』を思い出したのですが、原作者が同じでした)、本作のユニークな点は、主人公が内与力という点でしょう。

 内与力とは、奉行所付きではなく、町奉行個人に仕える与力のこと。奉行所付きの与力がほとんど世襲であり、一応任期のある町奉行にとって必ずしも扱いやすい存在ではなかったことから、いわば秘書官的な立場で任命されたものであります。
 つまり根っからの奉行所の役人としては少々毛色の違う存在であることが、設定上ある程度許され、そして奉行に近しいところにいる存在が内与力。なるほど、本作の鬼山に相応しい立場でしょう。

 尤も、内与力という立場にしては、月代も剃らぬ鬼山はいかがなものか、という印象はあるのですが、この辺りは主人公の記号というべきでしょうか――
 と、この点に限らず、時代ものとしては少々乱暴な描写も散見される本作なのですが、その辺りは無知から来るものではなく、ある程度割り切ったものとなっていることが、作中の描写からは伺えるのもなかなか楽しい。

 例えば終盤、鬼山が井戸の水を浴びて独り言ちるシーンなどは、当時の井戸を踏まえての内容にニヤリとさせられますし、そのほかにも、無茶をやっているようで、舞台設定を踏まえたガジェットが使われているのが、なかなか面白いのです。

 この辺りはおそらく原作者の白川晶の功績ではないかと思いますが、画を担当するフカキショウコの方の功績は、まず毎回登場する美しいゲストヒロインの存在でしょう。
 尤も、本作においては彼女たちはかなりの確率で大変に非道い目に遭うのですが、その美麗な絵柄は、陰惨なイメージを和らげるのに一役買っていたと感じます。


 というわけで、基本的に一話完結ということもあり、エピソード的にはそれほど膨らみはないものの、まずは肩の凝らずに楽しめる痛快時代劇と言うべき本作なのですが……

 しかしいただけないのは、本作の特色である、悪人たちを妖怪になぞらえるという趣向が、ほとんど機能していないように思える点であります。
 この辺り、ベースとなるのが、必ずしも妖怪談集ではない「耳袋」なだけに苦しいところもあったのだろうと思いますが、しかし結局は普通の仕事人ものになってしまっていたのは、何とも残念ではあります。


 ちなみに本作の作者コンビには、『戦国武将列伝』にシリーズ連載されていた『戦女 バテレンお彩』という作品もあるのですが、こちらは未だに単行本化されていない作品。こちらもいつかまとめて読めるようになることをと願う次第です。


『鬼与力あやかし控』(フカキショウコ&白川晶 朝日新聞出版朝日コミックス) Amazon
鬼与力あやかし控 (朝日コミックス)

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2017.04.14

崗田屋愉一『大江戸国芳よしづくし』 豪傑絵師が描いた英雄

 今なお人気を誇る浮世絵師・歌川国芳。その国芳の若き日の姿を、国芳の壮年期を舞台とした『ひらひら 国芳一門浮世譚』の崗田屋愉一(岡田屋鉄蔵)が描いた連作漫画であります。なかなか芽が出ずに苦しむ国芳が、裕福な商人・遠州屋佐吉ら、刎頸の友との交わりの中で見たものとは……

 時に豪快で奇抜な、時に滑稽で可愛さすら感じさせる画風で、この数年、幾度も展覧会が開かれている国芳。武者絵や妖怪、猫など、題材も実に好みのものばかりで、私も大好きな浮世絵師であります。
 冒頭に述べた作者の『ひらひら』は、人気絵師となった国芳と弟子たちの姿を描いた作品ですが、本作は国芳の駆け出し時代を描いた作品。『ひらひら』が完成度の高い作品だっただけに、本作も期待してしまったのですが、果たして期待を上回る作品なのでした。

 豊国一門という名門の絵師でありながら、豪快な画風と奔放な性格から一門のはぐれ者となり、兄弟子の国貞に水を開けられっぱなしの若き国芳。そんな彼が、全くの偶然から裕福な商人・佐吉と出会ったことをきっかけに、運命が動き始めることになります。
 国芳の絵に惚れ込み、何かと援助するようになった佐吉。佐吉の伝手で今をときめく七世市川團十郎と対面した国芳は、ある使いを頼まれることになるのですが……

 大きく分けて二つのエピソードから成る本作の前半は、この團十郎の秘めたる過去にまつわる物語であります。
 幼くして團十郎の名を継ぎ、色悪として名を挙げ、後に「歌舞伎十八番」を撰した團十郎。思わぬ悲劇がきっかけで、この役者の中の役者ともいうべき彼の過去に触れてしまった国芳は、一芸を貫く者の矜持と悲しみに触れることになるのです。

 物語的には比較的ストレートな内容ではあるのですが、作者ならではの端正で、それでいて勢いと色気のある絵柄で描かれる團十郎は実に格好良く、それだけでも満足できそうなこのエピソード。
 しかしそれ以上に、あくまでも「團十郎」であることを貫く彼の「素顔」を描いてみせた国芳の画が、これもストレートながら泣かせるのであります。


 と言いつつ、個人的に大いに興奮し、そして泣かされたのは、後半部であります。
 佐吉よりも前から国芳とつるんでいた親友の一人・次郎吉の姿を描くこのエピソード、次郎吉という名から察せられるとおり、彼こそがあの……なのですが、ここからこれまた思わぬ形で国芳の絵の世界に繋がっていくのです。
(ここから先、内容に踏み込むことをお許し下さい)

 かつて二世を契った遊女・吉野を病で亡くした次郎吉。彼女の父に借金を背負わせ、苦界に身を沈めたきっかけを作った悪徳役人が、今度はその妹・梅を狙っていると知った次郎吉は、自ら借金を肩代わりしてすっぱり返してみせるのですが……その後から、江戸の夜を騒がせるあの義賊。
 ふとしたことから次郎吉がその正体ではないかと考えた梅に相談され、国芳と佐吉、そして国芳と次郎吉といつもつるんでいた悪友の金さん(!)は、次郎吉を救うために奔走するのですが――

 フィクションの世界では大の人気者だけに、様々な形で描かれてきた「次郎吉」。その彼が「金さん」とともに登場するのも、実はそれほど珍しいことではないのですが……そこに国芳が絡むのは、これが始めてではないでしょうか。

 しかしそんな伝奇ファン垂涎の取り合わせは、あくまでも本作を形作る枠。本作の魅力は、そんな彼らを繋ぐ厚い熱い友情と反骨心、そして希望の姿なのですから。
 その象徴としてラストに登場するのが、反骨の英雄たちの物語、国芳の名を一気に高めた物語の英雄を描いたあの作品なのですから……国芳ファン、そしてあの物語のファンとして、感涙にむせぶほかないではありませんか!

 冷静に考えれば、芸道もので、主人公の代表作の成立秘話が描かれるというのは定番中の定番なのですが、しかしそんなことも頭からすっ飛ぶほどの、見事な物語を見せていただきました、と心から感謝であります(史実の彼は……などと野暮なことは言わない)。


 というわけで期待以上の感動を与えてくれた本作なのですが、一つだけ残念なのは、本作がこの一冊で完結という扱いなことであります。
 まだまだ国芳の絵師人生は始まったばかり、この先の彼の姿ももっともっと見てみたい……読み終えたいま、そんな想いに駆られているのです。


『大江戸国芳よしづくし』(崗田屋愉一 日本文芸社ニチブンコミックス) Amazon
大江戸国芳よしづくし (ニチブンコミックス)


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2017.04.13

霜島けい『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』 ユニークな怪異と、普遍的な人情と

 まだ時代小説の作品数は少ないものの、そのどれもが極めて独創的かつ面白い霜島けいの新作は、やっぱり極めつけにユニークなシリーズの第2弾。「ぬりかべ」の娘のヒロインが、今日も曰く付きの品が引き起こす奇っ怪な騒動の中に飛び込んでいくことになります。

 父一人娘一人で暮らしながらも、ある日突然、父・作蔵がぽっくりと逝ってしまった少女・るい。ある理由から奉公先を次々と追い出され、途方に暮れた彼女は、この世のものならざる曰く付きの品と出来事を扱うという九十九字屋なる店に出会うことになります。

 実は生まれつき幽霊が視えてしまう体質であり、何よりも死んだはずの作蔵が壁の中に自在に出入りできる妖怪「ぬりかべ」になってしまっていたるいにとって、九十九字屋は願ってもない奉公先。
 かくて紆余曲折の末に店に雇われることになったるいは、店の主で隠れイケメンながら無愛想(でツンデレ気質)な冬吾の下、店に持ち込まれる品物に振り回されることに――


 という「塗りかべの娘」シリーズ第2弾の本作では、いよいよ本格的に店で働くことになったるいが、曰く付きの品が絡んだ事件解決に奔走する二つの中編から構成されています。

 第一話「泣き枕」で九十九字屋に持ち込まれるのは、夜な夜な赤子のように大声で泣き喚く枕。古道具屋で売られていたというその枕の元の持ち主を探し出してみれば、それは意外な境遇の人物でありました。
 そして九十九字屋に、枕とその人物に曰くありげな男の幽霊が出現したことから、泣く枕の正体と、そこに込められた複雑な想いの存在が描かれることになるのです。

 一方、第二話「祭礼之図」に登場するのは、才能に溢れながらも夭逝した絵師が遺した、深川八幡宮の祭りの絵。見事な筆致で賑やかな祭りに繰り出した人々の様子を写し取ったその絵は、しかしいつの間にか人間の数が増えていたのであります。
 絵に増えた人物にはある共通点があることを知った冬吾とるいは、現実に現れているであろう彼らに会い、事件を解決するために、八幡宮に向かうのですが、しかし祭りの当日はとんでもない人手で――


 既に飽和状態なのではないか、と感じさせられるほど、多様な作品が刊行されてきた妖怪時代小説。しかしその中でも、本作に(そして作者のこれまでの作品に)描かれているのは、他の作品ではおよそお目にかかれないような怪異であります。

 確かに、啜り泣く(本作の場合はギャン泣きですが)器物、あるいは独りでに変化が生じる絵画というのは、怪異談ではまま見かける題材であるかもしれません。しかし本作におけるそれらは、怪異のディテール、そしてそこから生まれる物語展開など、唯一無二としか言いようがない存在であります。
 そしてそこにるいと冬吾、そしてぬりかべの作蔵というおかしなトリオが絡むのですから、面白くならないわけがないのです。

 しかし本作で感心させられるのは、そうした怪異の設定・描写の存在だけではありません。何よりも魅力的なのは、それらの怪異の背後に存在する、人の情念……すなわち「人情」なのです。

 怪異を引き起こす人情、あるいは怪異の中に浮かび上がる人情……本作で描かれるそれらの人情は、実を言えば、怪異のユニークさに比べれば遙かにストレートであり、少々厳しい言い方をすればありふれたものであります。
 しかし、我々読者が物語の中の人情に触れる時、より大きく心を動かすのは、そうした普遍的な人情であることは、間違いないことでしょう。何よりも我々の感情は、物語の中に自分と同じ想いを見いだす時、大きく動かされるのですから。

 そして本作は、そうした普遍的な人情を、怪異という器に盛ることにより、よりビビッドに、そして味わい豊かなものとして描き出すことに成功しているのです。
 それはもちろん、その怪異自体の、そしてそれに巻き込まれる人間たちの描写が優れていればこそ、初めて成立するものであることは言うまでもありません。


 極め付きにユニークな怪異を描くと同時に、我々誰もの想いを動かす人情を描く。そんな離れ業を能く成し得るのは、長年に渡り活躍してきた作者ならではでしょう。
 一冊に収録されているのが二話というのが物足りないほどなのですが、嬉しいことにシリーズ第三弾も既に決定しているとのこと。この物語をこの先も味わうことができるのは嬉しい限りであります。


『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
憑きものさがし: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)


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2017.04.12

會川昇『洛陽幻夢』 もう一つの可能性と土方歳三の選択

 「歴史街道」 2017年5月号の第一特集は「新選組副長 土方歳三 なぜ戦い続けたのか」。『新選組!』の時代考証や、『新選組刃義抄 アサギ』の原作者である山村竜也を中心とした特集ですが、この中に會川昇の短編小説が掲載されているとくれば、見逃すわけにはいきません。

 會川昇で土方歳三とくれば、思い出すのは『天保異聞妖奇士』に登場した少年時代の土方ですが、実は同作の時代考証が山村竜也。ということでファンとしては思わぬ嬉しい取り合わせであります。

 さて、今回掲載された小説のタイトルは『洛陽幻夢』。洛陽といえば中国の都、ではなく、この場合は平安京の東側の意であります。近藤勇は池田屋事件のことを「洛陽動乱」と呼んでいたそうですが……そう、本作の題材となっているのは池田屋事件なのです。

 長州浪士を中心とした蜂起の企てを知り、浪士たちの本拠を探るべく二手に分かれた新選組。
 その結果、近藤を長とする隊が池田屋にて浪士を発見、激しい戦闘となっていたところに土方隊が到着し……という事件のあらましをここで語るまでもありませんが、本作はこの土方が池田屋に突入する寸前の物語であります。

 既に池田屋で戦闘が始まっていることを知り、突入を決意しつつも、実は人を斬った経験の乏しさから一瞬のためらいを見せる土方。
 と、その瞬間に周囲の風景は揺らぎ、次々と姿を変えていくと、彼がいるのは全く見覚えのない土地。そしてそこに彼で待っていたのは、一人の青年でありました。

 かつてこの地で起きた事件の名と、それがこの国の歴史に大きな影響を与えたことを語る青年。あるいは戦い以外の道があるのではないかと語る青年を前に、土方の選択は……


 というわけで、一種の○○○○○○○ものである本作。新選組や土方とそのアイディアの組み合わせ自体は実は比較的数はあるのですが、しかし本作は池田屋突入直前というタイミングが何とも面白い。
 そしてそこで一つの可能性を示されつつも、ある想いからそれを振り切る土方の姿は、その先に待っていたものを思えば物悲しくも、しかし「それでこそ!」と思わされるものがあるのです。

 そして、歴史を巨視的に考えればあるいはそちらの方が正しかったかもしれない道を前にしつつも、ごくパーソナルな、人間としては当然の感情から選択を行う土方の姿は、実に作者らしい人間描写であると、個人的には嬉しくなってしまったところであります。
(もちろん、考証への拘りや小ネタのチョイスなどもまた、実に作者らしい)


 実は本作は雑誌のページで言えば4ページ弱、史実の解説的な部分を除けばさらに分量は少なくなります。しかしその中で作者らしさをきっちり見せ、そして魅力的な土方像を……そしてこの特集のタイトルへの回答を示してみせた作者の腕の冴えに、改めて感心した次第です。


 ちなみに特集本体の方は、山村竜也の総論が実にわかりやすく(これは本当に重要と改めて感心)丹念に書かれており、こちらももちろん一読をおすすめします。


『洛陽幻夢』(會川昇 PHP研究所「歴史街道」2017年5月号所収) Amazon
歴史街道 2017年 05 月号

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2017.04.11

松尾清貴『真田十勇士 7 大坂の陣・下』 そして英雄の物語から人間の歴史へ

 ついに決着の時がやってきました。真田幸村と彼に仕える勇士たちの戦いを、真田対「天下」という切り口で描いてきたこのシリーズも、いよいよ本書で完結。大坂夏の陣を舞台に、次々と猛将・勇将たちが散ってく中、明らかとなる驚愕の真実とは――

 天下との、そして百地三太夫との戦いの末に全てを喪い、最後に残された武士としての意地を胸に、大坂城に入った幸村。
 豊臣家の存続を最優先にして勝つ気のない大坂城の首脳陣を尻目に、幸村とその子・大助、そして勇士たちは、あの真田丸で徳川軍相手に大活躍を繰り広げることになります。

 しかしその一方で勇士の一人が大坂城を捨て蓄電、そしてまた一人が大助を守って命を落とすことに。
 その下手人である怪僧・天海は討ったものの、彼の自らの死を覚悟していたような態度と、そして百地三太夫の依代でありながらも、彼の野望――現世と曼荼羅世界(神仏の存在する異界)の合一を否定するような天海の末期の言葉に、幸村たちは釈然としない想いを抱くことになります。

 しかしそんな出来事を経ても、そして豊臣方と徳川方の不本意な休戦を経ても、なおも彼らの戦いは続きます。ある者は豊臣家存続を勝ち取るために、ある者は死に場所を求めるために、そしてまたある者は、武士としての最後の意地を示すために。
 そして始まった大坂夏の陣。後藤又兵衛が、薄田隼人が、木村重成が、それぞれの命を散らす中、幸村と勇士たちも、それぞれの最後の戦いに踏み出すことになるのですが――


 前編に当たる第6巻同様、基本的に史実をベースに展開していくこの最終巻。
 そこで描かれる物語は、我々のよく知る歴史をなぞったものではありますが、しかしこれまでのシリーズがそうであったように、平明な表現で、しかしフッと歴史の「真実」を掘り下げてくる、本作の魅力は変わることがありません。
 特に、後藤又兵衛が最期を迎えた道明寺での戦において、彼が突出した(あるいは幸村たちが遅れた)理由について、これまでになくシンプルでありながら、しかし説得力十分の回答を示しているのは印象に残ります。

 しかしもちろん、その中で最も強く印象に残るのは、最後の戦いに赴く勇士たちの姿であります。

 これまでの巻の紹介で繰り返し述べてきたように、それぞれその理由と背景は異なるものの、それぞれの形で「人間」であること、「自分」であることを否定され、奪われてきた勇士たち。
 本作は、そのまさに人間性を否定する「天下」と人間の対決を描いてきた物語でした。そしてここで示される彼らの戦う理由は、彼らがそれぞれに自分自身が失ったものを(人生の最後の最後において)取り戻したことを示すが故に、感動的なのであります。

 そしてそれは、彼らの主である幸村にとっても変わることはないのですが――


 しかし、しかし物語を読み進める中、一つの疑問が頭の中で大きくなっていくことになります。この作品における最大の敵、天下の名の下に人間を、個人を否定する存在の象徴である百地三太夫は、この戦いのどこに潜んでいるのか……と。

 物語の核心中の核心となるため、ここでそれをはっきりと述べることはできません。しかし全ての結末において、その理由は明確に、そして意外な形で明らかになるとだけは述べることができます。
 そしてそれは、一つの物語の、英雄たちが超常の敵に立ち向かう戦いの否定であるとも――

 それはこの物語をここまで読んできた者にとって、必ずしも望ましい結末ではないかもしれません。
 しかし、物語を、そしてその中で生まれるここではないどこかを否定することで、初めて歴史が、生きた人間が織りなすそれが生まれるのだとすれば、それはこの上ない人間の勝利だということができるでしょう、

 物語を否定することを以て物語を終え、そしてそれによって作品のテーマを完結してみせる……一種メタフィクション的な、人を食った仕掛けではあります。
 そしてそれは単なる否定にのみ終わるものではありません。そこにあるのは、幸村と勇士たちが求めたもの、取り返そうとしてきたものの先にある、一つの希望の姿でもあるのですから。


 しかしこの物語を愛するからこそ、結末において呼びかけたくなるのもまた事実。お前は本当にそれでよかったのか……と。その答えはもちろんわかってはいるのですが――


『真田十勇士 7 大坂の陣・下』(松尾清貴 理論社) Amazon
真田十勇士〈7〉大坂の陣〈下〉


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 松尾清貴『真田十勇士 5 九度山小景』 寄る辺なき者たちと小さな希望と
 松尾清貴『真田十勇士 6 大坂の陣・上』 決戦、自分が自分であるために

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2017.04.10

吉川永青『裏関ヶ原』 それぞれの「関ヶ原」を戦った男たち

 関ヶ原の戦を題材とした短編集である本書は、「裏」のタイトルにふさわしく、関ヶ原に参戦しなかった者たちを描いたユニークな一冊。しかし実際に関ヶ原という場所に赴かずとも、彼らはそれぞれの「関ヶ原」を戦っていた……という視点で貫かれた、中身の濃い作品揃いであります。

 戦国時代の実質的な終わりを告げる最後の大戦というべき関ヶ原の戦。これまで無数の作品の題材とされてきたこの戦は、当然ながら、基本的には徳川家康と石田三成を中心に、「関ヶ原」という合戦場に集った者たちの戦いを描かれてきました。

 もちろん、作者も参加しているアンソロジー『決戦! 関ヶ原』のように、あれだけの大戦であれば参加する武将も多士済々、そこに集った者だけでいわばオールスターキャストであるわけですが、しかしそこに集わなかった者にもまた、それぞれのドラマがあります。
 本作はそんな6人の武将を主人公にした短編集。収録作と主人公は以下のとおりであります。

 かつて秀吉が理想としていた国を真に作り出すため、黒田如水が九州統一を目指す『幻の都』
 石田三成の隠れた苦悩を知り、彼に恩を受けた佐竹義宣が、三成と家康の間で義理を貫く『義理義理右京』
 昼行灯を装って生き延びてきた細川幽斎が大勝負に打って出る『細き川とて流れ途絶えず』
 これがラストチャンスと、己の命を懸けて成り上がりを賭ける化け札・真田昌幸の最後の勝負『背いてこその誠なれ』
 秀吉によって愛娘を惨殺された最上義光が、豊臣打倒のために謀将としての全力を発揮する『謀将の義』
 英雄の孫という立場に苦しみながらも三成に支えられてきた織田秀信が、己の義に殉じて岐阜城を守る『鷹の目』

 関ヶ原に参陣せずも「らしい」戦いを繰り広げた武将としては、九州切り取り放題を狙った如水と、上田城で徳川本隊を釘付けにして見せた昌幸が有名であり、二人は本書でも活躍しています。
 しかしそれだけではない、ある意味マイナーな人物にまで光を当て、多面的な視点で描いてみせたのが本書の魅力であります。
(ちなみに昌幸のエピソードは、同じ作者の長編『化け札』の完結編に位置づけられているのも面白いところ)


 そんな中で個人的に特に印象に残ったのは、『謀将の義』と『鷹の目』であります。

 前者の主人公・最上義光は、伊達政宗のライバルとして謀略を駆使した男、「狐」にも例えられてあまりイメージがよくない武将ですが、本作は彼を豊臣への怒りに燃える復讐鬼として描くのが実に面白い。
 秀吉により死を命じられた秀次の巻き添えを食い、無惨に処刑された上、畜生塚に葬られた愛娘の駒姫の復讐のため、己の培ってきた謀の技を以て家康を支え、動かす義光……という本作の視点には驚かされるとともに、義光はこれほど格好良い人物であったか! と驚かされた次第です。
(ちなみにしっかり本作でも鮭を食べる……だけでなく鮭も謀に活用するのが楽しい)

 そして後者は、かつて三法師として清洲会議に担ぎ出された信長の孫・信忠の子である織田秀信が主人公の物語ですが……正直に申し上げて、全く印象に残っていなかったこの人物の秘めたる想いと、三成の交誼を哀切に描く筆調に圧倒されました。
 その特異すぎる生まれと育ち故に、常に周囲の顔色を窺ってきた秀信。そんな彼のことを理解し慮ってきた三成と、さらにそんな身の上だからこそ三成の苦闘を理解することができた秀信と――

 三成への義から、祖父と父の城であった岐阜城に依り、死闘を繰り広げた彼が辿った孤独な末路は胸を突くものがありますが、それ以上に、彼が関ヶ原で破れ、そして静かに消えていくことの意味が語られることが、本書そのものの結末となっているのには、ただ唸らされるほかありません。
(本作のみ書き下ろしというのも納得)


 これまでなかなか紹介する機会のなかった作者の作品ですが、本書で示された視点と構成の妙、何よりも物語としての豊かさに、もっともっと取り上げていかねば……と思わされた一冊であります。


『裏関ヶ原』(吉川永青 講談社) Amazon
裏関ヶ原


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2017.04.09

『変身忍者嵐』 第7話「妖怪! トゲナマズ!!」

 タツマキたちが逗留した村で怖れられる存在・血車様。禁を破ってその姿を見たツムジはその正体がトゲナマズによる武器輸送だと知るが、報復に旅籠の一家が襲われ、主人の娘が攫われてしまう。さらにタツマキたちも囚われる中、ハヤテは単身髑髏館に潜入、トゲナマズと最後の戦いに挑む。

 いつもと少々趣を変え、いきなり旅籠の主人とその孫・およしが「血車様」なる存在に恐れおののく姿から始まる今回。血車様が表を往く時には、人々は家の中で息を潜めていなければならないというのは、西国に伝わる「片輪車」の伝承に通じるものがありますが――その禁を何も考えずに破ったのがツムジ。表に出てみれば、宿の前の道を行くのは、血車党の荷車……そしてそれを宰領するのは化身忍者トゲナマズであります。
 慌てて戸を閉めたツムジですが、正体を知ったからには許しておけぬと、油まみれの体によって隙間からすり抜けて入ってきたトゲナマズ。さらにその油まみれの体で刀も手裏剣も効かないトゲナマズに、タツマキたちは大苦戦であります。

 そこに駆けつけたのは、旅籠に向かう途中、主人の娘(つまりおよしの母)と出会って血車様の存在を知ったハヤテ。ツムジの巻き添えを思い切り食って下忍たちに攫われた旅籠の一家をタツマキたちに任せて嵐に変身、トゲナマズと対決するのですが、やはりぬるぬるの体には苦戦することになります。が、油まみれだったら……と閃いた嵐が火をつけてみれば、過剰に炎に巻かれて苦しむトゲナマズ。トゲナマズが這々の体で逃れた隙に、嵐は囚われの一家を救い出すのでした。

 さて、騒動の隙に荷車の荷をかすめ取っていたツムジですが、その中身は液体の入った瓶。酒の匂いだと喜んでいきなり口をつけるタツマキですが、しかしそれはいかがなものかとツッコミを受けて慌てて離せば、液体は大爆発。実は中身は液体火薬……血車様の正体は、武器弾薬の輸送だったのです。
 と、そんな中、およしの母が自分のことを嵐と知っていたことに不審を抱いたハヤテは、「これは血車忍法人形あやつり!?」と看破。なるほど、催眠術か何かで操られていたのかな? と思いきや、いきなり彼女を捕まえて吊り橋から下に投げ落とすハヤテ! 彼女は落下するや爆発し、本当に人形だったことがわかったものの、しかし実は本人だったらどうする気だったのか……(いや、古巣の術はよく知っているのだと思いますが)

 しかしツムジの短慮によって血車党に目をつけられ、娘が投げ落とされる衝撃映像まで見る羽目になった旅籠の主人は怒り心頭。およしも一緒になってツムジを責め立てるのですが、これは全く以て尤も、というかライバル会社だったらこの程度では済まないはず……というのはさておき、落ち込むツムジを励ますハヤテは、タツマキたちに血車様の目撃情報を集めることを依頼します。集まった情報から髑髏館の位置を割り出し、およしの母の救出に向かうハヤテですが、しかしツムジが先に突っ走って囚われる羽目に。そしてハヤテ不在の隙に、タツマキたちと旅籠の一家を襲う強烈な地震……見ればトゲナマズが地面でのたうちまわっている。じゃなくてこれぞ血車忍法地震起こしであります。そしてタツマキたちは地割れに飲み込まれて……

 とうとう全員捕まって牢に入れられてしまった一行。まずはウザいツムジからだ! と下忍に処刑を命じる骸骨丸ですが、応じた声はどこかで聴いたような……ともちろんこれは下忍に化けたハヤテ。一行を逃がしたハヤテは、いつも通り嵐に変身していつも通り下忍を蹴散らし、いつも通り秘剣影うつしでトゲナマズを下すのでした(ここであっさりトゲナマズが斬られたのは、火を警戒して油を抜いていたのか……)
 旅籠の一家もすっかり機嫌を直し、まずはめでたしめでたしであります。


 ツムジが色々と腹立たしいのを除けば、ある意味タイトルに偽りない血車様の企み等、なかなか面白いエピソードだった今回。やたら「ハフハフー」鳴くのが鬱陶しすぎるトゲナマズも、ぬるぬる・電気・地震と、ナマズのイメージ全部乗せで暴れ回るのがなかなか楽しい怪人でありました。ただ、あからさまに今回辺りから造形が甘くなるのが……


今回の化身忍者
トゲナマズ

 血車様の名で武器弾薬の輸送を行うナマズの化身忍者。大地震を起こす地震起こし、電気鞭(を投げつける)などの忍法を使い、油まみれの体は隙間から自在に侵入し、刀を逸らす効果を持つ。しかし弱点の火で嵐に撃退され、再戦でも影うつしに敗れた。


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2017.04.08

『風雲ライオン丸』 第12話「地獄谷に恨みをはらせ!」

 とある村を襲撃する怪人ガンと戦う忍者集団・地獄党。兄とは知人の頭領・雷之介と対面する獅子丸だが、雷之介たちはガンに手傷を負わされた獅子丸を嘲るのだった。さらに雷之介たちが村人を囮にしてガンを地獄谷に誘き寄せ、地雷で吹き飛ばそうとしているのを知った獅子丸は彼らと決別するが――

 いかなる次第かわかりませんが、とある村を襲撃する怪人ガンに立ち向かう、地獄党を名乗る忍者たち。どう考えても善い者の名前ではありませんが、地獄谷周辺を本拠とするための名なのでしょう。彼らが今日もガン相手にゲリラ戦を繰り広げる中通りかかった獅子丸は、乱戦の中で落ちてきた密書をキャッチ、格好良く地虫と立ち回りを演じますが(ちなみにこの後、密書はフェードアウト)ガンのライフルに手をやられ、窮地に陥ります。

 そこに駆け付けたのは、頭領の雷之介率いる地獄党。もんのすごい時代劇画顔の雷之介は、第1話で死んだ獅子丸の兄・影之進の知人らしく、獅子丸にも初めは親しげに話しかけますが、いきなりマントル一族を何人殺したかと聞いてくるのにはマントル殺すマンの獅子丸も当惑です。それを勝手に怖気づいたと受け取ったか、大きな態度を取る雷之介と地獄組ですが、何しろ体育会系の先輩に逆らうとうるさそうな上に、ガンにやられたところを見られて気まずい獅子丸は黙り込みます。

 そんな中、ガンが守りも手薄な状態で現れると聞きつけた雷之介は、自分たちだけで十分とガンを討ちに向かいますが、六連発銃を八連発に改造していたガンに不意を突かれて手傷を追う羽目に。さらに手薄になった村を地虫の群れが襲撃しますが、こちらはライオン丸に変身した獅子丸が撃退するのでした。
 しかしそれを知らず、這々の体で帰ってきた雷之介は、獅子丸が臆病風に吹かれたと非難(自分たちが獅子丸は不要と言ったくせに……)。面倒な先輩に口答えしてもと、またも獅子丸は口を噤むのでした。

 そんなところにやってきたのは村人たち。かねてから地獄党に守られてきた彼らは、その手助けをしようというのであります。そんな彼らに、雷之介は囮となってガンをおびき出して欲しいと頼むのですが、わざわざ何の危険もないと強調するのが逆に怪しい……と思いきや、やっぱり裏がありました。
 農民たちを囮にガンを地獄谷におびき寄せようという雷之介。しかし地獄組は谷には無数の地雷を埋め、ガンを吹き飛ばそうとしていたのであります。そんなことをすれば村人も巻き添えを食うと反論する獅子丸ですが、雷之介はそんな彼を腰抜けと非難、人間同士戦いたくないと獅子丸が反撃しないのをいいことに、地獄組の面々で彼をリンチにかけるのでした。

 そして意識を失っていた獅子丸が志乃と三吉に助けられていた間に決行される作戦。意識を取り戻した獅子丸は谷に急行、農民たちとガンたちの間に割って入り、すんでのところで農民たちを逃がすことに成功します。
 しかしそれで頭に血が上った地獄党は、一斉に谷に殺到するものの、彼らの罠を逆手に取ったガンが地雷を爆破! 間抜けにも地獄党は壊滅、雷之介も深手を負うのでした。
 そして始まるライオン丸に変身した獅子丸とガンの戦い。やはりガンの銃を六連発と思い込んでいた獅子丸は、隠し玉に追い詰められるのですが、そこを救ったのは雷之介が最後の力で放った手裏剣。一刀の下にガンを倒した獅子丸に、雷之介はよくやったと言葉をかけて逝くのでした。


 放送順が変わったらしく、ライオン丸が割られたはずの兜を被っているのがすっきりしないのですが、内容自体はなかなか充実していた今回。第1話の獅子丸の兄のように(そして実際に彼とは知り合いの)マントルと戦う忍者集団という設定自体非常に面白いのですが、その彼らと獅子丸が協力できず、それどころか敵対することになる展開に唸らされます。
 放映された時期を考えれば、目的のために(雷之介にも家族を殺された復讐という理由はあるものの)他者を犠牲にして恥じず、仲間をリンチにかける地獄党が、何をモチーフにしているかは明確ですが、それを抜きにしても本作らしいハードな展開が印象に残りました。

 しかしマントル怪人一モチーフがわからないのが今回のガン。日野日出志のキャラみたいな不気味な目をひん剥いた顔と、異常に長い首が印象に残ります。あと、お腹の引き金を引くと頭から飛び出す隠し玉。


今回のマントル怪人
ガン

 手裏剣を打ち出す六連発銃(後に改造して八連発銃)の使い手。腹の引き金を引き、頭から巨大な弾を撃つことも可能。とある村を巡って地獄組と対決、相手の罠を逆手に取って全滅させるも、獅子丸に討たれた。


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2017.04.07

唐々煙『煉獄に笑う』第6巻 誕生、曇三兄弟!?

 舞台化も決定し、『曇天に笑う』にも負けず盛り上がる本作。巻数も本編と並びつつも、まだ先のわからぬ物語が展開していきますが……しかし今回、ついに佐吉と曇の双子が結びつき、そして佐吉が信長と対面と、物語を左右する数々の出来事が描かれることになります。そして最後には大きな爆弾が……

 ついに明らかになった大蛇の器候補者たちの顔ぶれ。その一人であった佐吉は、大蛇の力を求める百地一党と結んだ安倍清鳴の罠で、故郷の石田村襲撃の濡れ衣を着せられることになります。
 最高のタイミングで登場した曇の双子によって辛くも佐吉たちと石田村は救われたものの、人々の目は佐吉に厳しいまま。しかしそこで佐吉はある行動を……

 ということで、曇の双子の満を持しての復活という前巻のラストを経ても、なおも重い展開が続くこの第6巻。
 何もそこまでしなくとも……と佐吉の行動には思わされますが、しかしそれでもなお、自分の無力さを嘆きながらも、時代の不幸を不幸として受け入れることを拒否して立ち向かおうとする佐吉の姿は、清々しく映ります。

 そしてその佐吉の不器用な真っ直ぐさは、ついにあの二人を動かすこととなります。一人では無理でも、二人なら、いや三人ならば……主と部下ではなく、兄弟として、佐吉と曇芭恋、曇阿国は、義兄弟の契りを交わすのであります。
 ここに曇の三兄弟が誕生、さらに佐吉は「三人ならば成せる」と、三成の名乗りを――

 そうきたか! と唸り、そしてニンマリしてしまうようなこの展開。ここに至るまで本当に長かった……としみじみ思いますが、正直に言って予想だにしなかった展開であるものの、しかし同時にこれこそが見たかったものだと心から思わされる内容に、ただただ脱帽であります。


 しかしここで三兄弟はいきなり難敵にぶつかることになります。大蛇を求め、そして自らも器の一人である信長――安土城に潜む魔王が、佐吉の持つ髑髏鬼灯の巻物を求め、出頭を命じたのですから。
 というより信長による佐吉召喚は、この騒動以前からのもの。ある意味ようやく本筋に戻ったわけですが……しかし本作の信長は一筋縄でいく存在ではありません。

 何しろ、そのビジュアルはどうみても(安倍)比良裏……大蛇との戦いのために転生を続け、『泡沫に笑う』『曇天に笑う』とシリーズ皆勤(?)を果たしている人物なのですから。
 あるいは他人の空似ということもあるかと思いましたが、しかしこの巻でのある描写を見るに、やはりこの信長は比良裏の転生と思うべきなのでしょう。

 しかし少なくとも現時点では、大蛇打倒を志しているとは到底思えぬ信長。その信長に対して、佐吉の、「三成」の選択は……もちろん、期待に決して違わぬものなのですが、しかしそれに巻き込まれる者もおります。
 この巻の後半では、佐吉の数少ない友であり、巻物を託された大谷紀之介と、百地八它烏の一人・海臣が激突が描かれることになるのであります。

 ……正直に申し上げて、八它烏が登場すると話が長くなるので個人的には好きになれない(しかも今回は、紀之介には申し訳ないのですが主役級不在のバトル)のですが、曇の双子に仕える伊賀者・鬼平太という助っ人を絡めてのバトルはそれなりに面白い。
 しかも実は紀之介もまた大蛇を……? という捻った展開もあり、これ以上話が広がるのはどうかなあ、と思いつつも、やはり楽しんでしまうのもまた事実であります。
(しかし紀之介の後の名を考えれば、彼のアレはアレなのでしょう……)


 などと思っている間にも歴史は動き続け、迫るは信長による伊賀攻め。これに抗する急先鋒である百地丹波は、何故か芭恋の前に現れ、ある言葉を告げるのですが――
 いやはや、ここに来て、とんでもない爆弾が大爆発。果たしてこれが真実かはわかりませんが、一歩間違えれば、がらりと物語の勢力分布が変わりかねない内容ではあります。

 さて、これを受けての芭恋の選択は……全くもって気になるところで次の巻に続くのであります。


『煉獄に笑う』第6巻(唐々煙 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
煉獄に笑う 6 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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2017.04.06

久保田香里『青き竜の伝説』 絶対的な存在などない世界で

 2001年に創設されて以来、「小学校高学年から読め、冒険心に満ち溢れた長編小説」を輩出してきた岩崎書店のジュニア冒険小説大賞。その第3回大賞を受賞した本作は、一人の少年を通じて、古代を舞台に、人と人、人と精霊の関わりを描くファンタジーであります。

 遙かな昔、山と谷に囲まれた遠見の村で暮らす少年・あかるは、西国からやって来た倭国の皇子・一鷹の一行と出会います。
 一行を村に迎え入れたあかるですが、倭の将軍であり一鷹の祖父・大彦は、兵を率いて村を占拠。あかるは、幼なじみの新米巫女・更羽とともに、一つの伝説を頼りに辛くも村から逃がれることになります。

 その伝説とは、偉大な力を持つ湖の巫女と、湖の精霊である青き竜・みずちの物語。強大な力で悪しきものを押し流すというみずちの力を求め、巫女がいるという那見の国を目指す二人ですが、しかしようやく辿り着いたその国は姿を変えていて――


 東征を続ける倭の軍勢と、精霊を崇める土着の人々という題材を見れば、その両者の対立を描く物語だと想像できる本作。その想像は全くの外れではありませんが、しかし本作は決してそれのみに終わる物語ではありません。

 倭を撃退するためにあかると更羽が頼った那見の国。しかし二人の見たその国は(倭が単純な悪ではないのと同様)決して聖なる国というわけではなく、むしろある側面においては倭と全く変わらないものであることが描かれることとなります。

 そしてまた、あかるが出会った初めての倭国人である一鷹もまた、単純な侵略者としては決して描かれません。
 東征軍に皇子として戴かれながらも、その実、お飾りでしかない自分の立場に屈託を抱えた一人の少年であった一鷹。そして彼は、その想いを抱えつつ、あかると少年同士共鳴する姿が描かれるのです。

 そして本作に登場するその他の国も、その他の登場人物も、また同様に様々な側面を持つ存在として描かれることとなります。
 完全に善の国もなければ、完全に悪の国もない。完全な善人もいなければ、完全な悪人もいない。現実世界を見回せばごく当たり前の真実ではありますが、本作はその真実を、様々な角度から浮き彫りにしてみせるのです。

 そんな物語の中で、偉大な精霊であるみずちは、ある意味最もニュートラルな存在と言えるかもしれません。しかしクライマックスで描かれるそのみずちの存在もまた、決して万能の神などではないことが浮き彫りとなるのです。
(その点からすれば、作中でみずちが無人格的存在として描かれるのは正しい、と感じます)


 みずちを含め、絶対的な存在などない世界。それはこの物語に単純な価値判断の基準などなく、そして単純に敵を倒せば、味方を救えばめでたしめでたしとなるわけではない、ということを意味します。
 戦って勝てば良しというのであればどれだけ楽であったか……あかるは、そんな困難に直面しつつも、自らにできることを模索していくこととなります。

 そしてその模索の先に、彼がたどり着いたもの――それは決して百点満点のものではなく、一抹の苦みを伴うものあるといえるでしょう。
 しかしその結末以上に、そこに至るまでの過程にこそ、大きな意味と価値がある……本作のラストで描かれる人々の姿は、それを何よりも雄弁に物語るものなのです。
(そしてそこに、少年の成長と、人間の発展を重ね合わせて見ることは容易いでしょう)


 遙かな古代を舞台とした冒険ファンタジーを展開しつつ、その中に陰影に富んだ世界の、人々の姿を……そしてその中から生まれる希望の姿を描いてみせる。
 大賞もむべなるかな、と言うべき佳品です。


『青き竜の伝説』(久保田香里 岩崎書店) Amazon
青き竜の伝説

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2017.04.05

霜月かいり『BRAVE10 戯』 新感覚十勇士伝、これにて完結

 本編が大団円を迎えた後も、舞台化など、人気は衰えない『BRAVE10』。本書はその番外編――十勇士+αを主人公に、本編で描かれることのなかった物語を描く、前日譚&後日譚を集めた短編集であります。

 殺戮の女神・イザナミと化した伊佐那海との死闘の末、ある者は散り、またある者は残った十勇士。本書はそんな十勇士たちが真田幸村の下に集うまでの物語、そして集った後の物語を描く全8話+エピローグから構成されています。

 百の下で修行を行う鎌之介の才蔵への(面倒臭い)想いを描く「男か女か」
 真田家に仕官した海野六郎が見た主君・幸村の姿「主君の資質」
 決戦の後、成人した大助(弁丸)が、師匠である十蔵と清海を想い出す「字の師匠」
 伊賀で修行を積む幼い才蔵とアナ、そして半蔵の物語「伊賀の里」
 佐助の出生と幸村との出会いが明かされる「森」
 政宗と小十郎、壱と弐の日常風景を食事を通じて描く「握り飯」
 甚八と十蔵が、今愛する、かつて愛した女性を語る「惚れた女」
 かつて上田で共に日々を送った伊佐那海の姿を思い浮かべる才蔵「約束」
 そして決戦の後、斃れたアナを巡る幸村と甚八の姿を描くエピローグ

 一話当たりのページ数は多くないことから、それぞれのエピソードは比較的シンプルなものがほとんどで、各話にEXTRA-ACTと冠されている通り、まさに外伝以外の何物でもありません。
 しかし今となっては、キャラクター一人一人が本編同様生き生きと活躍する姿を見ることができるのが何とも嬉しいのであります。
(もっとも、ちょっとだけトゥルーエンドを期待したりもしたのですが……)

 そんなわけで本書には読者の数だけ印象に残ったエピソードがあるのではないかと思いますが、私にとっては「男か女か」と「伊賀の里」が特に印象に残りました。

 巻頭を飾る「男か女か」は、本作きっての個性派であった鎌之介を主人公とした物語ですが、注目すべきは、本編でも謎のままであったその性別に対して答えが提示されること。
 その答えに納得がいくかは人それぞれかもしれませんが、それに対する才蔵の反応が、そのまま鎌之介の彼に対する想いに繋がっていくのが、何とも微笑ましいのであります。

 そして「伊賀の里」は子供時代の伊賀組が描かれることになりますが、何といっても印象に残るのは幼いアナの想い。
 「くノ一」ではなく「戦忍」を選ぼうとする彼女の強い決意に暗示される彼女の辿ってきた道程、そしてその後本編で描かれた彼女の姿を見れば、何とも複雑な想いに駆られずにはおれません。

 実は本書においては三つのエピソードでそれぞれ重要な役割を果たし、トップクラスの存在感を見せているアナですが、彼女の背負ってきたものを思えば、それもむべなるかな、と言うべきでしょうか。


 しかしこうしてキャラ一人一人の背負ってきた物語と共に積み上げられてきた『BRAVE10』という物語は、ここで完全に終わりを告げることとなります。決して本編で描かれたものが覆されることなく、失われた者、去っていった者が戻ることもなく。
 それを想えば、ただ切ないのですが――しかしこうして最後の最後まで描ききられたことに感謝するべきでしょう。

 『BRAVE10』、これにて本当の完結であります。たぶん。


 ちなみに単行本のお楽しみであった大場快の『殿といっしょ』番外編は今回ももちろん健在。
 最後の最後で、キャラなどがブレにブレまくるという『ぶれぶれてんてん』という危険な香りのするパロディを繰り出してくるのはさすがと言うしか……


『BRAVE10 戯』(霜月かいり MFコミックスジーンシリーズ) Amazon
BRAVE10 ~戯~ (MFコミックス ジーンシリーズ)


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2017.04.04

木村忠啓『慶応三年の水練侍』 幕末武士が特訓の果てに見たもの

 毎回ユニークな題材の作品が登場する朝日時代小説大賞の第八回大賞受賞作は、タイトルのとおり水練・水術――水泳を題材とした物語。幕末の動乱に揺れる津・藤堂家を舞台に、藩の行方を左右する水泳勝負に挑む羽目になった一人の侍の奮闘が描かれます。

 佐幕か勤王かで、日本中が割れることとなった動乱の慶応三年。それまで中道を行っていた藤堂家にもその動きが波及してきた頃――砲術師範・市川清之助は、突如、水術試合への参加を命じられます。
 試合の相手は、江戸で水術を修め、そして勤王思想に傾倒した江戸帰りの俊英・谷口善幸。彼は、かつて清之助が敬愛していた先輩・善之丞の息子であります。

 しかし17年前、藩の火薬工場の爆発事故で父が死に、清之助が生き延びたことを逆恨みして、次々と嫌がらせを仕掛けてくる善幸。
 さらに藩内の勤王派のリーダー的存在となっていた彼が勝てば、藩内で勤王派が力を増し、藩を二分しかねない……それを恐れた佐幕派によって、清之助は佐幕派の代表選手扱いをされることになります。

 高慢な善幸に一泡吹かせるため、そして藩内の争いを防ぐため、決して負けられない戦いに挑む清之助。しかし問題が一つ――実は彼は水術は苦手だったのであります。


 という本作の基本設定が描かれるのは、冒頭から1/4程度の辺りまで。本作は、そこから終盤まで、ひたすら清之助の水術訓練が描かれることとなります。

 今の実力では到底かなわない相手に勝つため、主人公が個性的な師匠の下、奇想天外な特訓を繰り広げる……それは、スポーツものや格闘技ものの一つのパターンと言えます。
 本作もそうした物語なのですが、さて、どのような特訓が……と思えば、本作の舞台は津・藤堂家。藤堂家といえば伊賀上野、伊賀といえば――そう、忍者!

 かくて清之助は、伊賀者から特訓を受ける
ことになるのですが、彼のコーチ役を務めるのは、訓練の指示以外はほとんど全く語らぬ無愛想な伊賀者・伊八。清之助は、この伊八から次々と理不尽としか思えぬ特訓を課せられることになります。
 延々と薪を割らされる、地面に落ちた豆を素早く拾って棚の上に置く、尺八を演奏する……清之助は、到底水泳と関係あるとは思えぬ特訓を強いられる上に、食事は粥や豆腐ばかりという過酷な暮らしを数ヶ月に渡り強いられるのです。

 もちろん、実はこれらの特訓に意味があるのは言うまでもありません。その特訓をクリアしていくことで、以前とは比べものにならぬほど水術の腕を上げる清之助ですが……しかしそれでも善幸の壁は高い。
 最後の策として、清之助と伊八は伊賀の秘術を元に新たなる泳法を編み出さんとするのですが、その姿はなんと――


 先に述べたように、本作の大半を割いて描かれるこの特訓シーン。しかしそれが全く飽きることなく一気に読めてしまうのは、一つにはデビュー作とは思えぬ作者の筆力があることは間違いありません。
 しかしそれに加えて本作の魅力は、そのある意味ストレートな勝負に、幕末という時代、藤堂家という舞台を組み合わせ、さらに清之助の成長物語に重ね合わせることで、物語に深みを与えていることでしょう。

 佐幕か勤王か、旗幟を鮮明にすることなく渡ってきた藤堂家(もっともこの後、藤堂家は幕末史に残る大転回を見せるのですが)。その主家において清之助もまた、日々を静かに送ってきました。そこに現れた善幸という存在……それは清之助を大きな嵐に巻き込むこととなります。

 その清之助が挑む特訓で彼を突き動かすのは、初めは善幸への怒り、そして善幸に勝ちたいという思いでしたが……しかしその中で彼は、自分が勝つべき相手は、それまでの環境に安住してきた自分自身であったことに気づくのです。
 そしてその特訓のコーチである伊八に代表される伊賀者も、忍びには思想はない、と超然とした態度を見せつつも、やはり時代のうねりの中に巻き込まれていくことになるのを、清之助は目撃することになります。

 そんな清之助の想いの変化と水術勝負が重なり、その果てに彼が選ぶ道は、そこで見たものは……その結末に、あるいはすっきりとしないものを感じる方もいるかもしれません。しかしこれは物語で提示されてきた一つの価値観を体現した、見事な結末と言うべきではないかと私は思います。


 作者は今後もスポーツ時代小説にチャレンジすることを宣言している由、これは楽しみな作家が登場したものです。


『慶応三年の水練侍』(木村忠啓 朝日新聞出版) Amazon
慶応三年の水練侍

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2017.04.03

『変身忍者嵐』 第5話「恐怖! ネコマンダラ!!」

 空飛ぶロケット爆弾・飛竜星の開発を目論む血車党は、設計者・留吉を脅すため、息子・小太郎を誘拐せんとする。それを一度は阻止したハヤテ一行だが、ネコマンダラの襲撃の前に小太郎を奪われ、ついに小太郎と留吉を乗せた飛竜星が打ち上げられてしまう。ハヤテは二人を救い出すことができるか?

 ロケット爆弾……というより有人誘導(人間がしがみついてコントロールする)ミサイルという頭のおかしい兵器を開発する血車党。そんなものが当然うまくいくはずもなく、試作機は墜落、それを通りかかったハヤテ一行に目撃されてしまうという体たらく。しかも、設計者の留吉を脅すために彼の息子・小太郎を誘拐してきた下忍たちが、ハヤテたちの目の前を通りかかるのでした。
 ……というわけでまたもや血車党安定の泥縄ぶりで始まる今回。もちろん悪事を止めようとするハヤテたちと、やたらニャーニャー声を上げる(のでだんだんノラネコぐんだんのように見えてくる)下忍の乱闘が始まり、ハヤテが小太郎を取り返す一方で、タツマキとカスミは逃げた下忍を追います。

 と、そこに現れる自称・残酷忍者ネコマンダラ。猫のフェイスに女物っぽい着物をまとった怪人ですが、後に月ノ輪はおろか主人公の声を当てる市川治がその美声でニャーニャーいう凄い奴であります。そして今回もあっさり捕まるタツマキ父娘。
 一方、タツマキたちを追ってきたハヤテたちも、怪しげな霧の中で下忍たちに襲われた末、声をかけてきた留吉――実はネコマンダラに小太郎とツムジが捕まってしまいます。鎖鎌の分銅の代わりの爪を相手に巻き付け、引き寄せる「爪返し」、爪を投げつけてくる「投げ爪」、忽然と二本の槍を取り出して投げつけてくる「隠し槍」と、多彩な血車忍法を使うネコマンダラに押され気味のハヤテは一度撤退、まずはツムジを取り返すのでした。

 なおも執拗に迫る(タツマキ父娘に似せた人形で誘き寄せてしょぼい爆発を起こすなど)ネコマンダラと下忍と攻防を繰り返しながら小太郎を追うハヤテとツムジ。その一方で縛られていた鎖をあっさり焼き切るというベテランの技を見せたタツマキとカスミは飛竜星の実験場に潜入。留吉を救い出したものの、小太郎は取り戻せず、乱闘している間にまた留吉は囚われる羽目になります。
 そして小太郎を飛竜星に縛り付け、この砂時計の砂が落ちきるまでに完成させろと無茶苦茶をいう骸骨丸。焦らせるもんだからもちろん完成するはずもなく飛竜星は発射、子供だけを行かせまいと留吉もしがみつき、飛竜星は空へ――(開発者を殺してどうするというのか)

 ここでカスミが笛で急を告げたのに応え、ハヤブサオーで駆けつけた嵐は大ジャンプで飛竜星の上から留吉と小太郎を助けて着地。飛竜星は狙ったようにピンポイントで血車党の秘密基地に落下、大爆発……! そして下忍を蹴散らした嵐はネコマンダラを秘剣影写しで崖から叩き落として勝利宣言。留吉たちの感謝の声を背中に去って行くのでした。


 秘密兵器開発を強要される科学者という定番のパターンであった今回、しかしそれが何だかおかしな方向に転がっていくのが序盤の嵐テイストと言うべきでしょうか。明らかに失策の連続の血車党ですが、今回は怪人も下忍もニャーニャーというかけ声なのが、絶妙に脱力させてくれます。
 しかしその一方でネコマンダラはなかなか芸達者で、嵐との戦いではきっちりとしたチャンバラを見せてくれるのが(そしてもう一つ、怪人の造形が結構良いのが)、本作のユニークさというか何というかを感じさせてくれるところであります。


今回の化身忍者
ネコマンダラ

 残酷忍者を自称する猫の化身忍者。刀と鎖鎌を武器とし、鎖鎌の爪を相手に投げつける投げ爪など多彩な血車忍法を操る。ヒゲは手裏剣として使用可能。飛竜星開発のために暗躍したが、全て嵐に阻止された上、秘剣影うつしに敗れる。


『変身忍者嵐』第1巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.1 [DVD]


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2017.04.02

入門者向け時代伝奇小説百選 怪奇・妖怪(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回はある意味この百選のキモである怪奇・妖怪ものの紹介(その一)であります。

26.『おそろし 三島屋変調百物語事始』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)

26.『おそろし 三島屋変調百物語事始』(宮部みゆき)【江戸】 Amazon
 数多くのジャンルで活躍する作者が得意とする時代怪談の名品、数年前に波瑠主演でNHKドラマ化された作品です。
 ある事件が原因で心を閉ざし、叔父夫婦の営む三島屋に預けられた少女・おちか。彼女はふとしたことから、様々な人々が持ち込む不思議な話の聞き役を務めることに――

 というユニークな設定で描かれる全5話構成の本作は、題名のとおり真剣に恐ろしい物語揃いの怪談集。しかしそんな恐ろしい物語に聞き手として、時には当事者として向き合うことにより、おちかの心が少しずつ癒され、前に向かって歩き出す姿には、作者の作品に通底する人間という存在の強さが感じられます。
 副題通りの百話目指し、今なお書き継がれているシリーズであります。

(その他おすすめ)
『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』(宮部みゆき) Amazon
『あやし』(宮部みゆき) Amazon


27.『しゃばけ』(畠中恵)【江戸】【ミステリ】 Amazon
 大店・長崎屋の若だんな・一太郎は生まれついての虚弱体質で、過保護な兄やの佐助と仁吉に口うるさく構われる毎日。しかし若だんなは妖を見る力の持ち主、実は大妖の佐助と仁吉とともに、次々と奇怪な事件に巻き込まれて――という妖怪時代小説の代名詞と言うべきシリーズの第1弾です。

 人間と妖のユーモラスで賑やかな騒動を描くいわゆる妖怪時代小説のスタイルを作ったとも言える本作は、しかし同時に、ミステリ性も濃厚な物語。
 続発する奇怪な殺人事件に巻き込まれた若だんなが解き明かすのは、この世界観だからこそ成立する奇怪なロジック。そしてその先には、苦い人間社会の現実が――

 連作スタイルで今なお続くシリーズを貫く魅力は、この第1弾の時点から健在なのです。

(その他おすすめ)
『ゆめつげ』(畠中恵) Amazon
『つくもがみ貸します』(畠中恵) Amazon


28.『巷説百物語』(京極夏彦)【江戸】【ミステリ】 Amazon
 妖怪といえばこの人、な作者の代表作の一つであり、幾度も映像化・漫画化されてきた本作。しかし作者の作品らしく一筋縄ではいかない妖怪時代小説であります。

 戯作者志望の青年・百介が旅先で出会った謎めいた男・御行の又市。一癖も二癖もある面々と組む彼の稼業は、表沙汰にできない面倒事の解決や悪党への復讐を請け負うことでありました。
 妖怪の仕業にしか見えない不可解な事件を引き起こし、その陰に隠れて仕掛けを行う本作は、作者が愛してやまない必殺シリーズmeets妖怪的味わいの連作集です。

 百鬼夜行シリーズ(京極堂もの)とは表裏一体とも言える本作は、その後も後日譚・前日譚と数多く書き継がれ、更なる続編が待たれるシリーズです。

(その他おすすめ)
『続巷説百物語』(京極夏彦) Amazon


29.『一鬼夜行』(小松エメル)【幕末・明治】 Amazon
 妖怪時代小説の旗手の一人である作者のデビュー作にして代表作、明治の東京を舞台にした賑やかでほろ苦い妖怪活劇です。

 ある晩、空から古道具屋を営む青年・喜蔵の前に落ちてきた自称大妖怪の少年・小春。百鬼夜行からこぼれ落ちたという小春が居候を決め込んで以来、様々な妖怪沙汰に巻き込まれる喜蔵ですが――

 小生意気な小春と、妖怪も恐れる閻魔顔の喜蔵の凸凹コンビが活躍する本作、人間と妖怪のバディものは定番ですが、ここまで二人のやり取りが楽しい作品は他にはありません。
 その一方で、それぞれ孤独を抱えた人と妖が寄り添い、絆を深める人情ものとしても魅力的な本作。今なおシリーズが書き継がれているのも納得です。

(その他おすすめ)
『夢追い月 蘭学塾幻幽堂青春記』(小松エメル) Amazon


30.『のっぺら あやかし同心捕物控』(霜島ケイ)【江戸】 Amazon
 『封殺鬼』シリーズなど伝奇アクションで90年代から活躍してきた作者の初時代小説は、とんでもなくユニークな妖怪ものであります。
 主人公の千太郎は江戸町奉行所の敏腕同心。腕が立ち、正義感に溢れて情に厚い、江戸っ子の人気者なのですが……何と彼はのっぺらぼう。あやかしを退治する同心ではなく、あやかしが同心なのです。

 しかし本作はパラレルワールドものではありません。江戸にのっぺらぼうがいたらどうなるか……本作は丹念に描写を積み重ねることでその難題(?)をクリアするのです。
 そしてもちろん、千太郎が挑む事件も奇っ怪極まりないものばかり。人間が、妖が引き起こす怪事件に挑む千太郎の姿は、「男は顔じゃない」と思わせてくれるのであります。


今回紹介した本
おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)しゃばけ (新潮文庫)巷説百物語 (角川文庫)(P[こ]3-1)一鬼夜行 (ポプラ文庫ピュアフル)のっぺら あやかし同心捕物控え (モノノケ文庫)


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2017.04.01

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻 彼らの「一所」を巡る戦い

 気がつけばだいぶ間を置いてしまいましたが、『アンゴルモア』単行本第5巻から第7巻の紹介であります。元軍の猛攻に追い立てられる対馬の人々は、長きに渡りこの地に潜んできた「刀伊祓」と合流。この3巻では、彼らと蒙古の将・ウリヤンエデイの軍との死闘が描かれることになります。

 流刑となった対馬で、蒙古軍の襲来に巻き込まれることとなった義経流の遣い手の元御家人・朽井迅三郎。成り行きから流人仲間とともに対馬の宗家の姫君・輝日姫を支えて戦う迅三郎ですが、衆寡敵せず、犠牲を最小限にして撤退を続けるのがやっとの状況であります。
 そんな中、迅三郎が輝日に伴われて対面したのは、彼女の曾祖父でもある、生きていた安徳帝で――

 と、伝奇ファン的に大いに盛り上がる展開で始まった第5巻ですが、ここで帝が刀伊祓に勅を下し、宗家の残党と刀伊祓が手を組む、という展開がまたたまりません。
 はるか以前に九州を襲った刀伊の再来に備えるため、密かにこの地に潜んで生きてきた刀伊祓。その彼らが、いま海の向こうから襲来した元軍に挑むというのですから――

 そして第5巻の後半で刀伊祓のリーダー・長嶺判官の出迎えを受けた迅三郎たちは、彼らの山城である金田城に依るのですが……しかしそこに来襲するは、一見温厚な外見の中に得体の知れぬものを感じさせる蒙古の王族にして千戸将軍・ウリヤンエデイ。

 金田城に依る兵は百数十名、対する蒙古軍は一千強……古くからの地の利を持つ者が勝つか、はたまた十倍近い兵力を持つ者が勝つか? ここから描かれる一進一退の攻防には、まさしく本作の醍醐味に溢れているのですが――
 しかしここから第6巻、そして第7巻にかけて、その合戦の面白さと平行して描かれるのは、本作のもう一つの魅力……鎌倉時代という時代、そして戦という極限状況の中で浮き彫りとなる人間の姿であります。


 迅三郎と同じ元武士の流人であり、馬上打物を得意とする武人・白石和久。一癖も二癖もある流人たちの中で、数少ない常識人に見えた彼ですが、しかし彼は蒙古軍と内通し、金田城に敵を導き入れることになります。

 自国が侵略される中、敵国に通じ、自分は生き延びようとする……最も唾棄すべき裏切りを見せる白石。
 しかし本作で描かれるのは、その彼が何故裏切りを選んだのか、選ばなければならなかったのかの過程であり、そしてそもそも彼が何故流人となったのかという過去であります。そしてそれは言い換えれば、彼が何故戦うかの理由にほかなりません。

 正直なところ、本作の蒙古軍については、ほとんど単純に侵略者としての姿が描かれている(それは全く正しくはあるのですが)のに食い足りない部分はありました。襲ってくるのが、感情移入できない憎むべき敵としてのみ描かれているという点で。
 その点を、この白石の物語は大いに補ってくれたという印象があります。

 しかし、ここで白石の背負ってきたものを見れば、一つの疑問が浮かびます。それでは、迅三郎の戦う理由は何なのだろう……と。

 もちろんそれは、自分が生き延びるためのそれであることは間違いありません。しかし、比較的似たような境遇にあった白石と彼と、大きく道を違えることとなった原因は何だったのか?
 その答えの一端と思われるものが、第7巻において描かれることとなります。

 義経流を会得するため、厳しい修行を続けていた幼い日の迅三郎。その命がけの修行の中で彼が知ったのは、人間のみならず、おそらくはあらゆる生き物に備わる想い――「一所懸命」でありました。
 そしてその言葉は、奇しくも第5巻の冒頭で、安徳帝が口にした言葉でもあります。

 既に家族を、帰るべき場所を失った迅三郎。その彼が、縁もゆかりもない対馬のために戦うとすれば、それはおそらくは今この時いる場所こそが、彼にとっての「一所」ということなのでしょう。
 かつて存在した場所、ここではないどこかではなく――


 以前から登場した元側の義経流の使い手も再び登場し、まだまだ波乱が続きそうなこの物語。蒙古が対馬を去るまであと四日……しかし金田城に迫るのはこれまでとは比べ物にならぬほどの大軍であります。
 迅三郎の、対馬の人々の一所を巡る戦いはまだまだ続くのであります。


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