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2017.04.15

フカキショウコ『鬼与力あやかし控』 内与力、裁けぬ悪を斬る

 古今東西、いつの世も尽きないのは法では裁けない悪人の存在。しかし悪人がいればそれを倒すヒーローもいる……というわけで、表で裁けぬ悪を、妖怪になぞらえて始末する町奉行所の内与力を主人公とした連作シリーズであります。

 江戸南町奉行として江戸の治安を守る根岸鎮衛。その彼が、様々な怪異譚を含む珍談奇談を記した随筆『耳袋』の著者であることをご存じの方も多いでしょう。
 本作の主人公は、その根岸の内与力・鬼山……役人とは思えぬような傾いたなりの優男で、市井で怪事件があれば全て妖怪の仕業にしてほったらかしにしてしまうことで、奉行所内で悪名を轟かせている人物であります。

 しかし昼行灯は仮の姿、真の彼は奉行の指示の下、表だって裁けぬ悪を得意の二階堂平法で始末し、妖怪の仕業として収めていたのです。江戸を騒がす猟奇事件の数々……いずれも美女が無惨に犠牲になった事件の陰に潜む悪に、鬼山の秘剣・心の一方が唸ることに――


 というわけで、タイトルを見れば与力が妖怪退治をする伝奇もののようですが、その実は仕事人ものの本作。
 奉行所の役人が実は……というのは、これは中村主水からの定番ではありますが(ちなみに本作を読みながら森田信吾の『必殺!! 闇千家死末帖』を思い出したのですが、原作者が同じでした)、本作のユニークな点は、主人公が内与力という点でしょう。

 内与力とは、奉行所付きではなく、町奉行個人に仕える与力のこと。奉行所付きの与力がほとんど世襲であり、一応任期のある町奉行にとって必ずしも扱いやすい存在ではなかったことから、いわば秘書官的な立場で任命されたものであります。
 つまり根っからの奉行所の役人としては少々毛色の違う存在であることが、設定上ある程度許され、そして奉行に近しいところにいる存在が内与力。なるほど、本作の鬼山に相応しい立場でしょう。

 尤も、内与力という立場にしては、月代も剃らぬ鬼山はいかがなものか、という印象はあるのですが、この辺りは主人公の記号というべきでしょうか――
 と、この点に限らず、時代ものとしては少々乱暴な描写も散見される本作なのですが、その辺りは無知から来るものではなく、ある程度割り切ったものとなっていることが、作中の描写からは伺えるのもなかなか楽しい。

 例えば終盤、鬼山が井戸の水を浴びて独り言ちるシーンなどは、当時の井戸を踏まえての内容にニヤリとさせられますし、そのほかにも、無茶をやっているようで、舞台設定を踏まえたガジェットが使われているのが、なかなか面白いのです。

 この辺りはおそらく原作者の白川晶の功績ではないかと思いますが、画を担当するフカキショウコの方の功績は、まず毎回登場する美しいゲストヒロインの存在でしょう。
 尤も、本作においては彼女たちはかなりの確率で大変に非道い目に遭うのですが、その美麗な絵柄は、陰惨なイメージを和らげるのに一役買っていたと感じます。


 というわけで、基本的に一話完結ということもあり、エピソード的にはそれほど膨らみはないものの、まずは肩の凝らずに楽しめる痛快時代劇と言うべき本作なのですが……

 しかしいただけないのは、本作の特色である、悪人たちを妖怪になぞらえるという趣向が、ほとんど機能していないように思える点であります。
 この辺り、ベースとなるのが、必ずしも妖怪談集ではない「耳袋」なだけに苦しいところもあったのだろうと思いますが、しかし結局は普通の仕事人ものになってしまっていたのは、何とも残念ではあります。


 ちなみに本作の作者コンビには、『戦国武将列伝』にシリーズ連載されていた『戦女 バテレンお彩』という作品もあるのですが、こちらは未だに単行本化されていない作品。こちらもいつかまとめて読めるようになることをと願う次第です。


『鬼与力あやかし控』(フカキショウコ&白川晶 朝日新聞出版朝日コミックス) Amazon
鬼与力あやかし控 (朝日コミックス)

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