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2017.04.13

霜島けい『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』 ユニークな怪異と、普遍的な人情と

 まだ時代小説の作品数は少ないものの、そのどれもが極めて独創的かつ面白い霜島けいの新作は、やっぱり極めつけにユニークなシリーズの第2弾。「ぬりかべ」の娘のヒロインが、今日も曰く付きの品が引き起こす奇っ怪な騒動の中に飛び込んでいくことになります。

 父一人娘一人で暮らしながらも、ある日突然、父・作蔵がぽっくりと逝ってしまった少女・るい。ある理由から奉公先を次々と追い出され、途方に暮れた彼女は、この世のものならざる曰く付きの品と出来事を扱うという九十九字屋なる店に出会うことになります。

 実は生まれつき幽霊が視えてしまう体質であり、何よりも死んだはずの作蔵が壁の中に自在に出入りできる妖怪「ぬりかべ」になってしまっていたるいにとって、九十九字屋は願ってもない奉公先。
 かくて紆余曲折の末に店に雇われることになったるいは、店の主で隠れイケメンながら無愛想(でツンデレ気質)な冬吾の下、店に持ち込まれる品物に振り回されることに――


 という「塗りかべの娘」シリーズ第2弾の本作では、いよいよ本格的に店で働くことになったるいが、曰く付きの品が絡んだ事件解決に奔走する二つの中編から構成されています。

 第一話「泣き枕」で九十九字屋に持ち込まれるのは、夜な夜な赤子のように大声で泣き喚く枕。古道具屋で売られていたというその枕の元の持ち主を探し出してみれば、それは意外な境遇の人物でありました。
 そして九十九字屋に、枕とその人物に曰くありげな男の幽霊が出現したことから、泣く枕の正体と、そこに込められた複雑な想いの存在が描かれることになるのです。

 一方、第二話「祭礼之図」に登場するのは、才能に溢れながらも夭逝した絵師が遺した、深川八幡宮の祭りの絵。見事な筆致で賑やかな祭りに繰り出した人々の様子を写し取ったその絵は、しかしいつの間にか人間の数が増えていたのであります。
 絵に増えた人物にはある共通点があることを知った冬吾とるいは、現実に現れているであろう彼らに会い、事件を解決するために、八幡宮に向かうのですが、しかし祭りの当日はとんでもない人手で――


 既に飽和状態なのではないか、と感じさせられるほど、多様な作品が刊行されてきた妖怪時代小説。しかしその中でも、本作に(そして作者のこれまでの作品に)描かれているのは、他の作品ではおよそお目にかかれないような怪異であります。

 確かに、啜り泣く(本作の場合はギャン泣きですが)器物、あるいは独りでに変化が生じる絵画というのは、怪異談ではまま見かける題材であるかもしれません。しかし本作におけるそれらは、怪異のディテール、そしてそこから生まれる物語展開など、唯一無二としか言いようがない存在であります。
 そしてそこにるいと冬吾、そしてぬりかべの作蔵というおかしなトリオが絡むのですから、面白くならないわけがないのです。

 しかし本作で感心させられるのは、そうした怪異の設定・描写の存在だけではありません。何よりも魅力的なのは、それらの怪異の背後に存在する、人の情念……すなわち「人情」なのです。

 怪異を引き起こす人情、あるいは怪異の中に浮かび上がる人情……本作で描かれるそれらの人情は、実を言えば、怪異のユニークさに比べれば遙かにストレートであり、少々厳しい言い方をすればありふれたものであります。
 しかし、我々読者が物語の中の人情に触れる時、より大きく心を動かすのは、そうした普遍的な人情であることは、間違いないことでしょう。何よりも我々の感情は、物語の中に自分と同じ想いを見いだす時、大きく動かされるのですから。

 そして本作は、そうした普遍的な人情を、怪異という器に盛ることにより、よりビビッドに、そして味わい豊かなものとして描き出すことに成功しているのです。
 それはもちろん、その怪異自体の、そしてそれに巻き込まれる人間たちの描写が優れていればこそ、初めて成立するものであることは言うまでもありません。


 極め付きにユニークな怪異を描くと同時に、我々誰もの想いを動かす人情を描く。そんな離れ業を能く成し得るのは、長年に渡り活躍してきた作者ならではでしょう。
 一冊に収録されているのが二話というのが物足りないほどなのですが、嬉しいことにシリーズ第三弾も既に決定しているとのこと。この物語をこの先も味わうことができるのは嬉しい限りであります。


『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
憑きものさがし: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)


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