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2017.04.18

風野真知雄『密室 本能寺の変』 探偵光秀、信長の死の謎を追う

 戦国史最大の事件たる本能寺の変の謎に挑んだ作品は数多くありますが、本作はその中でもかなりユニークな部類に入るでしょう。何しろ探偵役となるのが、本来であれば犯人であるはずの明智光秀。そして彼が挑む謎とは、自分が攻め込んだ時、既に密室で殺されていた信長の死なのですから――

 天下統一を目前として、ごくごく僅かの手勢のみで、公家、僧侶、商人と、彼に恨みを持つ者たちばかりが集う本能寺に入った信長。愛する信長を守るために警備を固めようとする森蘭丸ですが、しかし信長に一笑に付されることになります。
 なるほど、防備は城塞並み、特に寝所は完全に密室となっている本能寺ですが、しかし刺客の影がちらつく中、危機感を募らせていく蘭丸。

 そしてこの状況に危機感を募らせていた男がもう一人。自分こそが信長に最も信頼されていると自負し、そして蘭丸の存在に嫉妬を燃やす明智光秀であります。
 信長の過信が現在の危険極まりない状況を招いたと憂える光秀は、煩悶の末、ほかの人間に殺されるくらいならばと信長弑逆を決断、本能寺に攻め入ることになります。

 そして始まった明智軍の猛攻の中、信長が寝所から姿を見せないことに不審を抱いた蘭丸。閉め切られた寝所の扉をこじあけてみれば、中にあったのは何と信長の無惨な遺体ではありませんか!

 その事実を知った光秀は、自分が手を下すよりも先に信長が殺されたことに怒りを燃やし、犯人を見つけだそうとするのですが……彼の前に次々登場する、犯人を自称する者たち。
 しかし信長の最期の姿は、彼らの主張する犯行方法ではいずれも成し得ないものであったことから、事態は混迷を極めることになるのであります。


 その作品のかなりの割合でミステリ的趣向を用いたものが含まれている作者。本作もその一つということになりますが、題材といい探偵役といい展開といい、それらの作品の中でも群を抜いてユニークな作品であることは間違いありません。

 とは言うものの、終盤で解き明かされる信長殺害のトリックは、ビジュアル的には面白いものの、実現するにはあまりに無理があり、これはミステリファンの方は激怒するのでは……というのが正直な感想であります。

 しかし、真犯人の犯行理由は――こちらはむしろ普通の歴史小説ファンが怒り出しそうなのですが――作者のファンとしては、なるほど、と感じさせられました。
 本作に登場する(光秀を含めた)容疑者の誰に比べても、遙かに「つまらない」ものである彼の動機。しかしその動機は、まさしく信長がこれまでの覇道で踏みにじり、一顧だにしなかったものの象徴と感じられるものなのですから。

 思えば作者は、デビュー作以来、常に強者より弱者、勝者よりも敗者、高所よりも低所からの視点を好んで描いてきた作家。だとすればこの真犯人像も、(小説として盛り上がるかは別として)大いに頷けるものがあるのです。
 そしてさらに言えば、光秀と容疑者たちの対話の中から、言い換えれば容疑者たちの犯行動機から浮かび上がるのは、英雄と称されてきた信長の負の側面……と言うのがキツい表現であれば、信長の英雄らしからぬ側面であります。

 本作はユニークなミステリとしての形式を取りながらも、むしろその中で信長の姿を、通常とは異なる角度から描き出そうとしていたのではないか――
 と牽強付会気味に感じたのは、これは作者がこれまで、『魔王信長』『死霊大名』といった作品の中で、これまた特異な形で信長を扱ってきたからなのですが。


 とはいえ、このような内容であれば、その信長の正の側面……光秀と蘭丸が愛する信長の魅力も、より掘り下げて描かれる必要があるように思うのですが、それが今ひとつ見えないのもまた事実。やはりアイディアと趣向は非常に面白いものの、色々と勿体ない作品と言うべきでしょうか。


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密室 本能寺の変

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