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2017.04.14

崗田屋愉一『大江戸国芳よしづくし』 豪傑絵師が描いた英雄

 今なお人気を誇る浮世絵師・歌川国芳。その国芳の若き日の姿を、国芳の壮年期を舞台とした『ひらひら 国芳一門浮世譚』の崗田屋愉一(岡田屋鉄蔵)が描いた連作漫画であります。なかなか芽が出ずに苦しむ国芳が、裕福な商人・遠州屋佐吉ら、刎頸の友との交わりの中で見たものとは……

 時に豪快で奇抜な、時に滑稽で可愛さすら感じさせる画風で、この数年、幾度も展覧会が開かれている国芳。武者絵や妖怪、猫など、題材も実に好みのものばかりで、私も大好きな浮世絵師であります。
 冒頭に述べた作者の『ひらひら』は、人気絵師となった国芳と弟子たちの姿を描いた作品ですが、本作は国芳の駆け出し時代を描いた作品。『ひらひら』が完成度の高い作品だっただけに、本作も期待してしまったのですが、果たして期待を上回る作品なのでした。

 豊国一門という名門の絵師でありながら、豪快な画風と奔放な性格から一門のはぐれ者となり、兄弟子の国貞に水を開けられっぱなしの若き国芳。そんな彼が、全くの偶然から裕福な商人・佐吉と出会ったことをきっかけに、運命が動き始めることになります。
 国芳の絵に惚れ込み、何かと援助するようになった佐吉。佐吉の伝手で今をときめく七世市川團十郎と対面した国芳は、ある使いを頼まれることになるのですが……

 大きく分けて二つのエピソードから成る本作の前半は、この團十郎の秘めたる過去にまつわる物語であります。
 幼くして團十郎の名を継ぎ、色悪として名を挙げ、後に「歌舞伎十八番」を撰した團十郎。思わぬ悲劇がきっかけで、この役者の中の役者ともいうべき彼の過去に触れてしまった国芳は、一芸を貫く者の矜持と悲しみに触れることになるのです。

 物語的には比較的ストレートな内容ではあるのですが、作者ならではの端正で、それでいて勢いと色気のある絵柄で描かれる團十郎は実に格好良く、それだけでも満足できそうなこのエピソード。
 しかしそれ以上に、あくまでも「團十郎」であることを貫く彼の「素顔」を描いてみせた国芳の画が、これもストレートながら泣かせるのであります。


 と言いつつ、個人的に大いに興奮し、そして泣かされたのは、後半部であります。
 佐吉よりも前から国芳とつるんでいた親友の一人・次郎吉の姿を描くこのエピソード、次郎吉という名から察せられるとおり、彼こそがあの……なのですが、ここからこれまた思わぬ形で国芳の絵の世界に繋がっていくのです。
(ここから先、内容に踏み込むことをお許し下さい)

 かつて二世を契った遊女・吉野を病で亡くした次郎吉。彼女の父に借金を背負わせ、苦界に身を沈めたきっかけを作った悪徳役人が、今度はその妹・梅を狙っていると知った次郎吉は、自ら借金を肩代わりしてすっぱり返してみせるのですが……その後から、江戸の夜を騒がせるあの義賊。
 ふとしたことから次郎吉がその正体ではないかと考えた梅に相談され、国芳と佐吉、そして国芳と次郎吉といつもつるんでいた悪友の金さん(!)は、次郎吉を救うために奔走するのですが――

 フィクションの世界では大の人気者だけに、様々な形で描かれてきた「次郎吉」。その彼が「金さん」とともに登場するのも、実はそれほど珍しいことではないのですが……そこに国芳が絡むのは、これが始めてではないでしょうか。

 しかしそんな伝奇ファン垂涎の取り合わせは、あくまでも本作を形作る枠。本作の魅力は、そんな彼らを繋ぐ厚い熱い友情と反骨心、そして希望の姿なのですから。
 その象徴としてラストに登場するのが、反骨の英雄たちの物語、国芳の名を一気に高めた物語の英雄を描いたあの作品なのですから……国芳ファン、そしてあの物語のファンとして、感涙にむせぶほかないではありませんか!

 冷静に考えれば、芸道もので、主人公の代表作の成立秘話が描かれるというのは定番中の定番なのですが、しかしそんなことも頭からすっ飛ぶほどの、見事な物語を見せていただきました、と心から感謝であります(史実の彼は……などと野暮なことは言わない)。


 というわけで期待以上の感動を与えてくれた本作なのですが、一つだけ残念なのは、本作がこの一冊で完結という扱いなことであります。
 まだまだ国芳の絵師人生は始まったばかり、この先の彼の姿ももっともっと見てみたい……読み終えたいま、そんな想いに駆られているのです。


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