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2017.04.12

會川昇『洛陽幻夢』 もう一つの可能性と土方歳三の選択

 「歴史街道」 2017年5月号の第一特集は「新選組副長 土方歳三 なぜ戦い続けたのか」。『新選組!』の時代考証や、『新選組刃義抄 アサギ』の原作者である山村竜也を中心とした特集ですが、この中に會川昇の短編小説が掲載されているとくれば、見逃すわけにはいきません。

 會川昇で土方歳三とくれば、思い出すのは『天保異聞妖奇士』に登場した少年時代の土方ですが、実は同作の時代考証が山村竜也。ということでファンとしては思わぬ嬉しい取り合わせであります。

 さて、今回掲載された小説のタイトルは『洛陽幻夢』。洛陽といえば中国の都、ではなく、この場合は平安京の東側の意であります。近藤勇は池田屋事件のことを「洛陽動乱」と呼んでいたそうですが……そう、本作の題材となっているのは池田屋事件なのです。

 長州浪士を中心とした蜂起の企てを知り、浪士たちの本拠を探るべく二手に分かれた新選組。
 その結果、近藤を長とする隊が池田屋にて浪士を発見、激しい戦闘となっていたところに土方隊が到着し……という事件のあらましをここで語るまでもありませんが、本作はこの土方が池田屋に突入する寸前の物語であります。

 既に池田屋で戦闘が始まっていることを知り、突入を決意しつつも、実は人を斬った経験の乏しさから一瞬のためらいを見せる土方。
 と、その瞬間に周囲の風景は揺らぎ、次々と姿を変えていくと、彼がいるのは全く見覚えのない土地。そしてそこに彼で待っていたのは、一人の青年でありました。

 かつてこの地で起きた事件の名と、それがこの国の歴史に大きな影響を与えたことを語る青年。あるいは戦い以外の道があるのではないかと語る青年を前に、土方の選択は……


 というわけで、一種の○○○○○○○ものである本作。新選組や土方とそのアイディアの組み合わせ自体は実は比較的数はあるのですが、しかし本作は池田屋突入直前というタイミングが何とも面白い。
 そしてそこで一つの可能性を示されつつも、ある想いからそれを振り切る土方の姿は、その先に待っていたものを思えば物悲しくも、しかし「それでこそ!」と思わされるものがあるのです。

 そして、歴史を巨視的に考えればあるいはそちらの方が正しかったかもしれない道を前にしつつも、ごくパーソナルな、人間としては当然の感情から選択を行う土方の姿は、実に作者らしい人間描写であると、個人的には嬉しくなってしまったところであります。
(もちろん、考証への拘りや小ネタのチョイスなどもまた、実に作者らしい)


 実は本作は雑誌のページで言えば4ページ弱、史実の解説的な部分を除けばさらに分量は少なくなります。しかしその中で作者らしさをきっちり見せ、そして魅力的な土方像を……そしてこの特集のタイトルへの回答を示してみせた作者の腕の冴えに、改めて感心した次第です。


 ちなみに特集本体の方は、山村竜也の総論が実にわかりやすく(これは本当に重要と改めて感心)丹念に書かれており、こちらももちろん一読をおすすめします。


『洛陽幻夢』(會川昇 PHP研究所「歴史街道」2017年5月号所収) Amazon
歴史街道 2017年 05 月号

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