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2017.05.03

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第10巻 内憂外患に豪快に挑め!

 ついに単行本も二桁の大台に乗った本作。しかしまだまだ信長の目指すところは遠いどころか、内憂外患で尾張の命運は風前の灯火であります。迫る今川軍をいかに退けるか、そして乱れに乱れた織田家をいかに治めるか……そしてこの巻では、あの有名な逸話が本作らしい豪快さで描かれることになります。

 大洋での大冒険を終え、尾張に帰ってきた信長を待っていたもの。それはいよいよ尾張侵攻に乗り出さんとする今川義元と、父・信秀亡き後の家督を狙って動き出した弟・信勝と土田御前……すなわち尾張を巡る内憂外患であります。
 こんな状況にも動じぬ信長は、尾張の情勢視察に美濃の斎藤道三から送り込まれた明智光秀とともに、迫る今川軍に挑むのですが――


 その底抜けのカリスマと行動力で次々と不可能を可能にしていく信長ですが、絶対的な戦力差を、物量の違いをひっくり返すのはさすがに難しい。
 しかも国境を任せられた山口教継・教吉父子は、密かに今川家と内通を……と、これまた大変な状況ですが、しかしそれでもどうにかしてしまうのが、本作の信長の信長たる所以であります。

 光秀からあるものを借り受けた信長は、それを用いて一世一代の大芝居。山口父子に対しても、お前の心底はわかっていると言わんばかりに、しかし人を食った形で一睨み効かせるという、何とも豪快かつ爽快な形でこの危機を切り抜けるのであります。
 この辺り、冷静に考えると意外と小技を効かせた対応なのですが、それをそれと感じさせないのが作者の画の力。そしてもう一つ、敵方の見届け人として思わぬ男が登場したことが、かなりのアクセントとなっていることもあるでしょう。

 その男、義元の懐刀と呼ばれるその男の名は……岡部元信!
 なるほど、義元が今川家を継ぐ時から彼を支え、そして(ある意味ネタバレになりますが)その彼が討たれた後も、味方が総崩れになる中でただ一人織田軍に立ち向かい、痛撃を与えたこの人物ほど、懐刀と呼ぶに相応しい人物はいないでしょう。

 しかし本作の元信は、これがまた何とも人を食った男。飄々とした態度を崩さず、美しい娘を供に連れ、そして彼女といちゃつきながらも(本作に珍しいエロシーン)、不敵な眼差しを隠さない、これはこれで男の中の男というべきキャラクターなのであります。


 そんな将来の好敵手に見つめられつつも、意気揚々と引き上げてきた信長の次の相手は、家督を狙って暗躍を続ける織田家の魑魅魍魎ども。
 父・信秀の(影武者の)死に乗じて動き出した連中に、父の理想を汚されてなるものか! と決意を固めた信長のいわば宣戦布告が、葬儀の場で繰り広げられるのです。
(ちなみにここで語られる信秀の理想は、現代人の目から見た理想像過ぎてちょっと……)

 信長が父の葬儀で如何なる行動をとったか……これを知らない方は少ないでしょう。葬儀の場に相応しくない傾いた形で現れるや、祭壇に抹香を投げつけたというアレであります。
 ある意味、いかにも信長らしい逸話ですが、それを本作は如何に描いたか? 傾いた形は当然のこと、抹香も投げつけるのですが、その相手は、そして投げ方は……

 いやはや、これは是非実際にビジュアルで見ていただきたいのですが、なるほど本作であればこれくらいはやるだろう、というほかないビジュアルインパクト。
 凄すぎて笑ってしまうというのは、作者の作品にはままあることですが、今回ほどそれが当てはまる展開はない、としか言いようがありません。
(ビジュアルといえば、デカすぎる柴田勝家のインパクトも凄まじい)

 そして絵に描いたようなドヤ顔を見せる信長がその直後に向かうのは、もう一つの葬儀。その相手が誰かは伏せますが、こういう泣かせるシーンをさらりと入れてくるから、本作は好きなのであります。


 決戦の時まであと10年、まだまだ長い時間ではありますが、さてその間にどれだけ信長の豪快な大暴れが見られるのか。
 そしてそのエピソードをどう本作流に料理してくれるのか……ある意味油断のならない作品であります。

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