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2017.05.17

鳴神響一『影の火盗犯科帳 3 伊豆国の牢獄』 「常世の国」に潜む悪を討て

 火付盗賊改役にして、甲賀忍び・影火盗組を配下とする山岡景之の活躍を描くシリーズ第3弾であります。江戸から消えた数多くの男女の行方を追う影火盗組が知った驚くべき陰謀。邪悪な企てを粉砕すべく死闘を繰り広げた影火盗組ですが、真の悪の正体は――

 年明け早々、江戸で流れる奇妙な噂を耳にした景之。出入りの豆腐屋、菓子屋の女将、うどん屋の娘……一見共通点の全くない人々が、同じ「常世の国」という言葉を残して姿を消したというのであります。
 探索に当たった影火盗組の面々が掴んだのは、様々な理由で人生に絶望した人々の前に謎の僧侶が現れ、何処かへ誘っていたという事実。早速、影火盗組の雄四郎と渚は、駆け落ち者を装って僧侶を誘き出し、「常世の国」に向かう船に乗り込むのですが、その先には恐るべき罠が。

 孤立無援の戦いを強いられることとなった雄四郎と渚を救うべく、後を追う光之進ら影火盗組。一方、江戸に残った景之は、側用人・大岡忠光から、大名や旗本に対し、法外に「安い」利息で金を貸す謎の商人の正体を追うことになるのですが、二つの事件は思わぬ形で交差して――


 火付盗賊改を主役に据えた作品は数多くある中で、独自の内容の魅力を持つ本シリーズ。それは、三つの要素から成り立っていると言えます。
 ほとんど伝奇的と言ってよいような大仕掛けの怪事件。忍び集団である影火盗組のメンバーのキャラ描写。そして法で裁けぬ悪に対し爆発する景之の怒り……本シリーズでなければお目にかかれないようなこれらの要素は、本作でも健在であります。

 まず第一の要素については、これはサブタイトルの時点である程度見えてしまうのですが、なかなか普通の火盗もの、奉行所ものでは登場しないような大掛かりな悪事に驚かされます。社会から身を隠すことを望む人間を食い物にする外道たち……という、それほど珍しくはないシチュエーションから、このような展開に持って行くとは、と感心しました。
 そしてその陰謀を粉砕するために影火盗組が繰り広げる戦いが、忍びならではのものでありつつも、しかし同時にきっちり派手な内容であるのも楽しいのです

 そして第二の要素として、本作で描かれるのは、影火盗組の若手・雄四郎のドラマであります。まだまだ術も心構えも他のメンバーに比べれば一枚劣る雄四郎が、光之進らへの劣等感を抱え、悩み苦しむ姿が、悪との戦いと平行して描かれていくことになります。
 まだまだ若いだけに弱さと悩みを抱えた雄四郎。彼の存在は、江戸の安寧のために活動する忍びといういかにもヒーロー然とした影火盗組が、決して超人ではなく、我々同様の人間であることを描き出す効果を挙げていると感じます。

 そして最後の要素ですが……火盗改役として現場に出張ることはあっても、配下に比べれば一歩引いた立場となる景之。しかし彼には、彼にしかできない戦いがあります。
 それは、将軍自ら声をかけられた火盗改役としての彼の立場を使っての戦い……それは時に政治的な腹の探り合いの場合もありますが、しかしラストではそんな配慮を抜きしての怒りを見せてくれるのがいい。

 もちろん、怒り任せに相手を叩き斬るような無法を行うわけではありませんが、しかし本作においては、景之の座右の銘と言うべき言葉が、思わぬ形で、しかしこの相手なればこそという形で相手の心を折るという展開で、思わず唸らされた次第です。


 と、そんな本作ならではの物語を楽しませていただいた一方で、いささか残念な点も二つほどあります。

 一つは、物語の派手さと入り組み具合に押されてか、雄四郎の物語が食い足りない印象であった点。もちろん彼の悩みが簡単に解決するものではないのは明らかですが、もう少し前に進ませてあげても良かったのでは……とは感じます。

 そしてもう一つは、シリーズ第三弾の本作が、「三部作完結編」とアナウンスされていること。いよいよ本シリーズならではのスタイルを確立してきたところで、ここで全体の完結ということであれば、それは大いに勿体ないと感じます。
 景之と影火盗組の更なる活躍を期待したい、まだまだ食い足りない……と言うほかありません。


『影の火盗犯科帳 3 伊豆国の牢獄』(鳴神響一 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
影の火盗犯科帳(三) (ハルキ文庫 な 13-5)


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