« 入門者向け時代伝奇小説百選 怪奇・妖怪(その二) | トップページ | 『変身忍者嵐』 第11話「血どくろ谷のドクモリバチ!!」 »

2017.05.05

平谷美樹『鉄の王 流星の小柄』 星鉄伝説! 鉄を造る者とその歴史を巡る戦い

 四社合同企画で連続刊行中の平谷美樹作品、第2弾は徳間文庫から刊行の本作であります。星鉄……いわゆる隕鉄の小柄をきっかけに、鉄を巡る巨大な因縁と陰謀に巻き込まれた男が繰り広げる大活劇、「星鉄伝説」とも呼びたくなるような一大伝奇小説であります。

 主家が無嗣断絶したことから侍を捨て、江戸で鉄屑買いをして暮らす元・鉄山奉行の鉄澤重兵衛。その彼に、ある日、顔なじみの子供・留松が持ち込んできたのは、長屋で見つけたという不思議な輝きを放つ小柄であります。
 その小柄が星鉄製と見抜き、留松から買い取った重兵衛ですが、その晩、留松と両親は何者かに惨殺されてしまうのでした。

 一つには留松の仇討ちのため、一つには探し求めていた星鉄の謎を追って、共に江戸に出てきた仲間たちとともに下手人を追う重兵衛。やがて事件の背後に上総兼地藩での鉄山開発を巡る争いがあったことを知る重兵衛たちですが、彼らに何者かの魔手が迫ることとなります。
 襲撃を切り抜けた重兵衛たちは、大量の鉄の生産が行われていると思しき兼地藩に潜入。そこで出会ったのは、流浪の製鉄技術者である流れ蹈鞴衆で――


 ふとしたことから怪事件に遭遇し、様々な勢力が入り乱れる暗闘に巻き込まれる……というのは、時代伝奇ものの王道パターンですが、本作はまさにそれに当てはまる作品ではあります。
 しかしそこから大きく踏み出す本作の個性が、「鉄」の存在。主人公の名前から事件の発端、繰り広げられる陰謀まで、本作はとにかく鉄尽くし。しかもその要素のほとんどが実は有機的に結びつき、一つの巨大な物語を生み出すのであります。

 思えば作品の全てではないにせよ、作者の作品においてかなりの割合で登場するのは、一種のサイエンス・テクノロジー志向/嗜好ともいうべき要素。
 『蘭学探偵 岩永淳庵』『採薬使佐平次』のように物語の中核を成す作品から、物語の一要素として使われる作品まで、作者の時代小説には、他の作家と比べれば相当多い割合で、こうした要素が登場するのです。

 本作の「鉄」もその系譜に属するものですが、そこに製鉄の歴史――特殊技能民たる蹈鞴衆と、彼らの文化が関わることで、物語に時代伝奇ものとしての深みが加わるのがまた面白い。
 そしてこうした要素がさらに、クライマックスに明らかになるとんでもないガジェット、とんでもない大陰謀に繋がっていくのですから、これはもう、作者でなければ描けない時代伝奇小説と呼ぶべきなのであります。
(似たようなアイディアの作品がないでもありませんが、クライマックスの盛り上がりぶりでは本作は屈指と言えます)


 しかし、この一作では物語の全貌がまだまだ見えないのがまた凄まじいところでしょう。
 もちろん、本作で描かれる事件は、本作できっちり決着が付くのですが、その背後で語られる、この国の隠れた歴史、歴史に隠れた存在には幾多の謎の存在が仄めかされますそして何よりも、主人公が追い求める、自分自身の存在に関する謎もまだ明らかになっていないのですから――

 果たして「鉄」を巡る戦いの先に何が待つのか。そしてそこで主人公のオリジンが如何なる意味を持つのか。何よりも、本作のタイトルの意味とは――
 始まったばかりの壮大な物語のその先の物語、作者にしか描けない時代伝奇小説の続編の登場を、今から心待ちにしている次第です。


『鉄の王 流星の小柄』(平谷美樹 徳間文庫) Amazon
鉄の王: 流星の小柄 (徳間時代小説文庫)


関連記事
 『蘭学探偵 岩永淳庵 海坊主と河童』 科学探偵、江戸の怪事に挑む
 「採薬使佐平次」 江戸のバイオテロと、災厄に挑む者たちの願い

|

« 入門者向け時代伝奇小説百選 怪奇・妖怪(その二) | トップページ | 『変身忍者嵐』 第11話「血どくろ谷のドクモリバチ!!」 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/65240351

この記事へのトラックバック一覧です: 平谷美樹『鉄の王 流星の小柄』 星鉄伝説! 鉄を造る者とその歴史を巡る戦い:

« 入門者向け時代伝奇小説百選 怪奇・妖怪(その二) | トップページ | 『変身忍者嵐』 第11話「血どくろ谷のドクモリバチ!!」 »