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2017.06.26

北森サイ『ホカヒビト』第2巻 人に寄り添い、人を力付ける者

 この世ならざるものを見る目を持つ少年・エンジュと、彼を連れて旅することになった女薬師・コタカの道行きを描く、不思議でもの悲しく、そして温かい物語の続巻であります。

 行き倒れた母の胎内から、山に暮らす老婆・オバゴによって取り出され、二人で暮らしてきたエンジュ。しかしある年その地方を飢饉が襲ったことから、土地の人々に忌避されてきた二人は災いの源扱いされた末に、理不尽な襲撃を受けることになります。
 オバゴの犠牲とコタカの助けによって救われたものの、天涯孤独となったエンジュ。コタカとともに旅に出た彼は、往く先々で様々な人と、そして不思議な現象と出会うのですが……


 そんな二人の旅路を描くこの2巻の冒頭で描かれるのは、前巻から続く、エンジュの目にしか見えない妖虫・ツツガムシが跳梁する村の物語であります。
 江戸から明治に変わり、新しい時代となっても重税と病に苦しむ村の人々の中で、病気の祖父を支えて健気に暮らす美少女・ユキと仲良くなったエンジュ。しかしエンジュたちが村を離れている間に、ユキに目を付けた徴税吏によって、彼女は惨たらしい暴力に晒されて……

 というあまりにも救いのないエピソードに続いて描かれるのは、コタカとは幼なじみの青年・リュウジが監督として働く鉱山に現れた、奇怪な幽霊の物語。
 坑道の中に現れ、おれは誰だと訪ねる、体中に包帯を巻いた男という、本作には珍しいストレートな怪物めいた存在の意外な正体とその過去に、コタカとエンジュは触れることになります。

 そしてそこから続いてリュウジがエンジュに語るのは、コタカが「コタカ」となった物語であります。
 不作の年に村から生贄に出された末、狼に育てられて人の言葉を無くし、犬神の使いと呼ばれることとなった少女・ハナ。彼女と、彼女を救おうとするリュウジの前に現れた隻眼の男、旅の薬師「コタカ」は、ハナを捕らえると厳しい態度で接するのですが……


 この巻に収められた三つのエピソードは、それぞれ全く異なる物語ではありますが、そこに共通するものは確かに存在します。
 それは人間の見せる弱さ、悲しさ、醜さ――自分自身の力ではどうにもならぬ理不尽な状況の中で、苦しむ人々の姿であります。

 そんな苦しみの中で、ある者はなす術なく流され、ある者は他者を犠牲にしようとし、またある者は深く傷つき――時には命を、人の身を捨てるしかなかった人々の前に、エンジュとコタカは立つことになります。
 いや、ここまで描かれてきたように、エンジュとコタカ自身が、そんな人々の一人であったのです。

 それでは人間は――そしてエンジュとコタカは――そんな理不尽な苦しみに対して、本当に無力な存在でしかないのでしょうか。
 その答えは、半分は是、半分は否なのでしょう。
 神ならぬ人の力ではどうにもならないことはある。しかし、それでも、人が人として命を全うしようとする限り、それに寄り添い、力づけることはできる――そしてそれこそが、「コタカ」と呼ばれる者の持つ力なのです。

 「コタカ」にできることは、苦しむ者に、命の流れの向かう先を示してやることでしかありません。
 しかし、人が自分一人で生きてるわけではないと知ることが、どれだけの力を生み、救いをもたらすか。本作で描かれるコタカとエンジュの旅路は、その一つの証であると言えます。そしてそれこそが、彼らから世に生きる人々への祝福なのでしょう。


 もっとも、身も蓋もないことを言ってしまえば、そこから生まれるカタルシスは、そこまでに描かれる人間と世界の悲惨さを上回るものではなかった――より厳しい言い方をすれば、そこから予想できる物語の範囲から出るものではなかった、という印象はあります。
 それを考えれば、本作がこの巻で終了というのも、やむなしとも感じますが……

 しかし新たな「コタカ」の誕生を予感させる結末は、人一人のそれを超えて――血の繋がりを超える、心の繋がりを持って――遙かに受け継がれていく(受け継がれてきた)命の流れを感じさせるものであります。
 そしてそれを以て、本作として描かれるべきは描かれたと、そう言ってもよいのではないでしょうか。


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