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2017.06.14

渡辺仙州『封魔鬼譚 2 太歳』 怪奇の事件と彼自身の存在の揺らぎと

 人の血を吸収し、その相手の記憶を含めた全てを複製する怪物・封魔。その封魔に殺され、そして複製された少年・李斗を主人公とした中華時代伝奇SFホラーの第2弾であります。犠牲者たちが脳を抜き取られて死ぬという奇怪な連続殺人を調査することとなった李斗が出会ったのは……

 封印されていた封魔を用いた邪悪な計画に巻き込まれて命を失い、封魔として甦った李斗。その際に出会った妖魔封じを生業とする道士集団・白鶴観――実は宋国政府の裏の事件処理機関――の一員に迎えられた彼は、その初仕事として福州に向かうこととなります。

 福州の大富豪の邸宅で起きている連続怪死事件。それは、それまで何の変わりもなかった者が突然脳を失って死に、そしてその死体を発見した者が、七日後に同じ死に方をするという奇怪極まりないものでした。
 その事件の調査のために派遣された李斗と先輩の少女道士・花蘭ですが、李斗は街で事件が太歳の呪いであると唱える女占星術師・碧紫仙子と出会うことになります。

 伝説の妖魔「太歳」――地中を太歳(木星)と軌を一にして動くという無数の目のついた肉塊――が敷地内で見つかり、その呪いだと断じる碧紫仙子。
 自分の訪れを正確に当てて見せたこと、そして何よりも、素顔は自分と大して変わらぬ年齢の美少女であった碧紫仙子にすっかり参ってしまった李斗ですが、花蘭は彼女に懐疑的な態度を取ります。

 碧紫仙子と、彼女の占いそのものを含めて彼女の言葉を否定する花蘭と――果たしてどちらが正しいのか。そして祟りではないとして、脳を失う怪死の真相は何なのか。
 やがて李斗がたどり着いた真相は……


 封魔をはじめとした妖魔の存在とそれが引き起こす怪奇の事件を描きつつも、しかし極めて理詰めの物語を描くのが一つの特徴である本シリーズ。
 その封魔が超常的な能力を持ちながらも、決して超自然の怪物ではない――人間が生み出した、特殊ながらあくまでも自然法則に従った存在である――ことを見れば、それは明らかでしょう。

 その意味で本シリーズは一種ロジカルなSFミステリ的性格を濃厚に持つのですが、それが物語の面白さを、幾重にも増しているのは間違いありません。
 特殊であっても自然法則に従う存在であれば、それを防ぎ、倒すこともまた、自然法則に則って――神ならぬ人間にも――可能である。その一種のの知恵比べが、実に興趣に富んでいるのであります。

 しかし本作の面白さはそれだけにとどまりません。本作の、本シリーズの最大の特徴、それは何よりも、主人公自身が封魔であることにあります。

 冒頭に述べたように、記憶レベルまで犠牲者を複製する存在である封魔。李斗の「オリジナル」はその封魔に殺され、そして今の李斗はオリジナルの記憶を持った封魔の「コピー」なのですが――それでは今の李斗は真の李斗と同一人であると言えるのでしょうか?
 人間の心に魔物の肉体(能力)というのは、ヒーローものでしばしば見られる設定ですが、しかし本作はそこにオリジナルとコピー、そしてそれを繋ぐ記憶の問題が絡んでいるのが、何とも刺激的なのであります。

 あるいはこれが大人のことであれば、それまでの人生経験でもって封魔という境遇に折り合いをつけていけたかもしれません。しかし李斗はまだ十代、それも自分の将来になんの展望も持てないでいた少年だったのであります。
 ここに物語は、児童文学である意味普遍的な「自分とは何か」「自分の人生とは何か」「自分は如何に生きるべきか」というテーマに、これ以上はなく深く切り込むことになります。何しろ李斗は「自分」そのものの存在が揺るがされているのですから!

 そしてまたそこに、本作のヒロインである碧紫仙子――李斗とはほぼ同年代の少女でありつつも、占い師の分厚い化粧に素顔を隠した彼女の存在が対置されるのも、また巧みな構造と言うべきでしょう。


 現在3部作とされている本シリーズ。本作に続く第3弾は、李斗と対峙すべき立場のもう一人の封魔の少年を主人公とする、一種外伝的な位置づけの作品となっています。
 そちらもまた近日中にご紹介いたしますが――それはさておき、中華伝奇、伝奇SF、伝奇ホラーファンとしても、李斗自身を主人公とした本編も続編を刊行して欲しい、彼が彼自身を見出すまでを描いて欲しいとも、心から願っているところなのです。


『封魔鬼譚 2 太歳』(渡辺仙州 偕成社) Amazon
封魔鬼譚(2)太歳


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