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2017.06.22

渡辺仙州『封魔鬼譚 3 渾沌』 もう一人の封魔の少年と閉ざされた村

 犠牲者の姿はおろか、記憶までも完全に模倣する怪生物・封魔によって生まれ変わった少年の冒険を描く『封魔鬼譚』の第3弾は、もう一人の封魔の少年・楊月を主人公とした一種の外伝。乗合馬車に同乗した客たちと共に、閉鎖空間と化した奇怪な村に閉じこめられた楊月の姿が描かれることになります。

 かつて貧しさ故に売られ、宋国による封魔開発の実験台とされた楊月。その経験故に国に恨みを抱き、福州で封魔を密かに育ててばらまくことで多大な混乱を招こうとした彼は、その犠牲者である李斗との出会いをきっかけに、ひとまずは矛を収めることとして……

 というのが彼の側から見た第1巻の物語ですが、本作はその後の物語。福州を離れるために乗合馬車に乗った楊月ですが、事故で御者が深手を負い、馬車を離れた楊月と乗客たちは、とある村に足を踏み入れることになります。
 無人となって久しいと思われるその村で一行に襲いかかったのは、伝説の妖魔・渾沌を思わせる毛むくじゃらの怪物。人を砂に変えるその怪物に乗客の一人が犠牲となり、慌てて村から脱出しようとした一行は、しかし行けども行けども村の外に出れないことに気付くことになります。

 何者かが村の中の空間をねじ曲げ、自分たちを閉じこめたことに気付き、一癖ありげな数学者や旅の画家を中心に、迷宮と化した空間の法則性を見つけよう試行錯誤を重ねる一行。
 そしてそんな彼らと距離を置く楊月の心に語りかける謎の声が……


 奇妙かつ奇怪な怪物の跳梁と、それが引き起こす一種不可能犯罪めいた怪事件を描いてきた本シリーズですが、本作はその基本を踏まえつつも、何と閉鎖空間ものとして展開。
 謎の空間に閉じこめられ、命の危険に晒された人々が、時に協力し、時に反目しながら脱出を試みるも――というのはホラー映画などでしばしば見る趣向ですが、このシリーズでお目にかかれるとは思ってもみませんでした。

 こうした物語では、利己的な者、冷静な者、狂信的な者、得体の知れぬ者などが入り乱れて様々な人間模様を描き出すのが常ですが、本作においても、それは同様。様々なキャラクターたちが織りなす人間模様は、あっさり目ではあるものの、その様を冷たく見据える楊月の存在もあって、なかなか面白い内容となっております。

 しかしその一方で、楊月の意外な人間性もまた、本作では同時に描かれることになります。物語の途中、楊月が微睡むたびに彼が夢見る過去の風景――それは彼が封魔になる直前の出来事の記憶なのです。
 それは言い換えれば彼が人間であった時代の最後の記憶……文字通り彼が人間の心を持っていた時の姿を描くこのエピソードは、同時に彼の失ったものの大きさを、そして本シリーズにおいて真の悪とは何であるかを考えさせます。

 そしてまた、本作において記憶と人格が同義であるのであれば、その記憶を持ち続ける彼は、たとえ体は封魔に変わろうともやはり以前の彼と変わらぬままの存在ではないのだろうか、とも感じさせるのですが……


 しかしそんなドラマ面と同時に見逃せないのは、超自然的な現象が発生し、超自然的な存在が跳梁する世界であろうとも、その中に一つの法則が――言い換えれば一種の科学的視点が存在することであります。

 本作における超自然現象の最たるものは、閉鎖空間と化した村の存在でしょう。
 閉鎖区間――正確に言えば、村内の道を歩いているうちにいつの間にか別の場所に転移させられているという状況から、どのようにして脱出するのか? そもそも現在位置すらわからぬ状況で……

 と、そこから繰り広げられる脱出劇が、本作の最大の見どころ。観察と分析という、まさに「科学的」というべき思考と方法論に貫かれた行為によって超自然現象を解明し、打破してみせるのは、相手が超自然的なものであるからこそ一層、痛快ですらあります。

 そしてそれは、これまでのシリーズで描かれたアプローチをより推し進めた本シリーズならでの魅力と言うべきでしょう。
 さらにこの視点が、人間の記憶と人格を巡る物語に一定の説得力を与えていることも見逃せません。


 外伝と言いつつも、思わぬところで李斗の物語と絡めるなど(そういえば……! と感心)の趣向も心憎い本作。シリーズは今のところ三部作と表記されていますが、まだまだ李斗の物語も楊月の物語も道半ば、続編を心から希望するところであります。


『封魔鬼譚 3 渾沌』(渡辺仙州 偕成社) Amazon
封魔鬼譚(3)渾沌


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